第十一章
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――――――
紗己から聞いた土方の彼女への気遣いは、銀時らの想像の斜め上をはるかに超えていた。
そのことがあまりにおかしくて、すっかり笑いのるつぼに嵌ってしまっていた万事屋三人だったが、ひとしきり笑い倒してようやく落ち着きを取り戻した。
「あー笑った笑った・・・・・・しっかしアイツ、振り幅すげーな」
「ほんとアル、普段のアイツからは想像も出来ないネ」
「いやぁ、ほんとビックリですよ! あの土方さんが・・・ププッ、いやあのほんと良いお父さんになりそうですね」
堪らず吹き出しながら言った新八の言葉に、銀時がニヤつきながら話を繋げる。
「そういや今日も、なんだかんだ言いつつ腹の子に話し掛けたんだもんな。なあ紗己」
「ええ」
銀時の言葉に紗己は、柔らかな曲線を帯びた下腹にそっと両手を当てて微笑み、頷いた。
「え! ひょっとして、もう赤ちゃん動いたりしてるんですか?」
先程まで土方の知られざる一面を笑い倒していた新八が、驚きの表情を浮かべている。
それとほぼ同時に、紗己の隣に座っていた神楽が、大きな瞳を輝かせて紗己の腹を覗き込んだ。
「すごいネ! まだ赤ちゃんちっちゃいんでショ? それでもう動くアルか?」
「今日初めて、動いたのが分かったの。神楽ちゃん、触ってみる?」
興味津々といった様子の神楽を可愛らしく思った紗己がそう提案してみると、
「いいの!? 触ってみたい!」
神楽は嬉しそうに大きく頷いた。
だがそこで、焦った様子の銀時が間髪入れずに言葉を投げる。
「おい神楽! お前分かってる? 絶っっっ対にそっと触れよ!」
「大丈夫ネ、銀ちゃん! それくらいのことは心得てるアル」
やけに自信満々に言葉を返すと、神楽は逸る気持ちを抑えきれずに、紗己の下腹へと手を伸ばした。
神楽の白い手が腹に届く。
既に紗己がおはしょりを捲って触れる場所を示してくれていたので、神楽は迷わずそこに優しく手を当てた。
「・・・何も感じないネ」
「うーん、もしかしたら寝ちゃってるのかも・・・・・・あ!」
話の途中で急に黙り込んだ紗己が、突然声を上げた。
嬉しそうな表情で、自身の腹に手を当てている神楽を見つめる。
「神楽ちゃん、今の・・・分かった?」
「おおー! 何かピクッて感覚が届いたアル! ほんとにここに赤ちゃん、いるんだァ・・・・・・」
「すごいですね! 生命の神秘だよ、良かったね神楽ちゃん」
「うん! ありがとネ紗己、私感動したヨ!」
「どういたしまして」
喜ぶ神楽に優しく微笑みかける紗己。
姉妹のようにも見える二人の様子を眺めていた銀時は、穏やかな表情で静かに吐息した。
と、そこへ新八が、銀時を見やって楽しげに話し掛けてきた。
「銀さんは土方さんがお腹の赤ちゃんに話し掛けてるところ、見てたんですか?」
「いや、俺は玄関で待ってたから見てねーよ」
「そっか、どんな感じだったんだろ土方さん。ひょっとして、赤ちゃん言葉で話し掛けたりとか・・・ね、紗己さん!」
また込み上げてきた笑いに頬を緩ませながら、向かい側に座る紗己に視線を合わせる。
すると紗己は、一瞬驚いたように眉を上げて、だがすぐにクスクスと笑って首を横に振った。
「まさか! そんな、赤ちゃん言葉で話し掛けたりはしないですよ」
「じゃあ、あのマヨラーどんなふうに話し掛けてたアルか?」
神楽にも楽しそうな表情を向けられ、紗己は捲っていたおはしょりを下ろしてそこに両手を添えると、胎内に感じる小さな命に読み聞かせでもするように、ゆっくりと話し出した。
「ここに、ね。顔を寄せて唇を当てて、この子に話してくれたんです。必ずお前達を迎えに来るから、良い子で待ってろって・・・・・・」
言い終えた途端――下腹に添えていた紗己の両手に、ポタポタと涙の粒が落ちて散った。
愛する夫がくれた言葉を思い出し、自分でも気付かない心の深い部分が、切ない痛みを訴えてきたのだろう。
「紗己さん・・・・・・」
「紗己・・・」
新八と銀時が複雑な面持ちで、静かに涙を流し続ける紗己の名を呟いた。
あまりにも自然に、意図せず流れ落ちる涙をどうにか止めねばと、紗己は両手指を濡れた瞳に押し付けて、困ったように作り笑いをしてみせる。
「あっ・・・ご、ごめんなさい! 大丈、夫・・・ですから、ほんとにもう・・・あの、平気ですから」
トクトクと動きを速める鼓動を落ち着かせるため、艷やかな唇を微かに震わせながら、ふぅっとゆっくり息を吐き出す。
紗己は胸元からハンカチを取り出すと、涙に濡れた長い睫毛にそれを当てて、もう一度、気持ちを整えるために吐息した。
ようやく涙は止まり、僅かに湿り気を帯びたハンカチを畳みながら、自分を心配そうに見つめている三人に向けて紗己は、いつも通りの穏やかな笑みを見せた。
「あの、急にごめんなさい。わ、私もびっくり・・・・・・しちゃいました」
濡れた頬に張り付いた後れ毛を耳に掛けながら、気まずそうに苦笑いを浮かべる。
そんな紗己の隣に座っていた神楽が、先程まで彼女の腹に触れていた自身の白い手を、濃藍色の着物を纏った儚げな背中にそっと当てた。
「大丈夫ネ、紗己。アイツは大事な人間と交わした約束、絶対破ったりしないアル」
「神楽、ちゃん・・・」
「そ、そうですよ! 土方さんは律儀なタイプだから、必ず紗己さんとお腹の赤ちゃんを迎えに来ますよ!」
神楽に続いて新八も、テーブルに手を付き身を乗り出して、励ましの言葉を口にする。
「新八君、神楽ちゃん、ありがとう・・・・・・」
二人の励ましに応えるように笑顔を作った紗己に、
「紗己」
その様子を静観していた銀時が声を掛けた。
「大丈夫だ、アイツは出来ねェ約束はする男じゃねーだろ。アイツがそう約束したんなら、何があろうと必ず迎えに来るよ」
「銀さん・・・・・・」
「俺達が知ってる土方十四郎はそういう男だ。だろ?」
普段はやる気のない双眸が、優しく紗己を見つめる。
銀時の言葉に合わせて、新八と神楽も自信に満ちた笑顔を紗己に向けて、しっかりと頷いた。
「みんな、ありがとう・・・・・・。そうですね、私もそう信じてます」
三人に励まされ、紗己はようやく控え目ながらも本物の笑顔を見せた。
すると先程までずっと神楽の背後で大人しくしていた定春が、ゆっくりとした足取りで紗己の元へと近付き、神楽と紗己の間に大きな身体を割り込ませて座った。
一連の定春の行動に驚きながらも、にこやかな表情を浮かべる紗己の右頬を、定春の舌がペロッと舐める。
「きゃっ、ふふ・・・くすぐったい、定春くんったら」
「定春も大丈夫って言いにきたアル! ね、定春っ」
神楽の言葉に答えるように、定春が尻尾を振りながらまた紗己の右頬をひと舐めする。
すると、くすぐったさに首を仰け反らせて愉しげな声を上げていた紗己の軟らかな髪を、ふんわりと纏めていた簪がぽとりと畳に落ちた。
右耳の下辺りで纏めていた髪が、はらりと広がり落ちる。
少し癖がついた紗己の髪は肩の辺りで軽く弾み、右の首筋が露わになった。
「あれ、紗己。首に何か出来てるヨ、虫刺されアルか?」
「え・・・・・・あっ」
「腫れてはないけど、赤くて痒そうアルな。大丈夫?」
神楽の指摘に、一瞬の間を置いてからそれが何であるのか理解した紗己は、慌てて紅い痕を隠すように首筋を右手で押さえると、上擦った声で下手な言い訳を並べた。
「だっ、大丈夫! そそ、そうなの虫に刺されちゃったみたいっ」
みるみるうちに真っ赤に染まっていく紗己の顔。
それが羞恥によるものとは思いもしない神楽は、心配そうな声音で銀時に問い掛けた。
「ねえ銀ちゃん、紗己顔まで赤くなってるヨ。首刺されたら顔まで赤くなったりするアルか?」
「あー・・・まあ、うん。あるにはあるよね、そんなトコ刺されちゃったら、そりゃァ顔も赤くなっちゃうよね」
神楽からの純粋過ぎる問い掛けに、ニヤニヤとした笑みを浮かべた銀時が、あくまでも虫刺されの体を装い返答する。
そのままちらりと前方の新八に一瞥をくれると、紗己の首筋の紅い痕がどういう意味を持っているのか理解しているらしく、こちらも頬を赤らめ恥ずかしそうに紗己から視線を逸している。
「ふーん、顔が赤いのはしばらくしたら治まるアルか?」
「この話題から離れてやればな。まあ、虫 の方が治まってるかは知らねーけど」
わざと含みを持たせて言ってみると、紗己はますます恥ずかしそうに顔を赤らめて、身を小さくして俯いた。
紗己から聞いた土方の彼女への気遣いは、銀時らの想像の斜め上をはるかに超えていた。
そのことがあまりにおかしくて、すっかり笑いのるつぼに嵌ってしまっていた万事屋三人だったが、ひとしきり笑い倒してようやく落ち着きを取り戻した。
「あー笑った笑った・・・・・・しっかしアイツ、振り幅すげーな」
「ほんとアル、普段のアイツからは想像も出来ないネ」
「いやぁ、ほんとビックリですよ! あの土方さんが・・・ププッ、いやあのほんと良いお父さんになりそうですね」
堪らず吹き出しながら言った新八の言葉に、銀時がニヤつきながら話を繋げる。
「そういや今日も、なんだかんだ言いつつ腹の子に話し掛けたんだもんな。なあ紗己」
「ええ」
銀時の言葉に紗己は、柔らかな曲線を帯びた下腹にそっと両手を当てて微笑み、頷いた。
「え! ひょっとして、もう赤ちゃん動いたりしてるんですか?」
先程まで土方の知られざる一面を笑い倒していた新八が、驚きの表情を浮かべている。
それとほぼ同時に、紗己の隣に座っていた神楽が、大きな瞳を輝かせて紗己の腹を覗き込んだ。
「すごいネ! まだ赤ちゃんちっちゃいんでショ? それでもう動くアルか?」
「今日初めて、動いたのが分かったの。神楽ちゃん、触ってみる?」
興味津々といった様子の神楽を可愛らしく思った紗己がそう提案してみると、
「いいの!? 触ってみたい!」
神楽は嬉しそうに大きく頷いた。
だがそこで、焦った様子の銀時が間髪入れずに言葉を投げる。
「おい神楽! お前分かってる? 絶っっっ対にそっと触れよ!」
「大丈夫ネ、銀ちゃん! それくらいのことは心得てるアル」
やけに自信満々に言葉を返すと、神楽は逸る気持ちを抑えきれずに、紗己の下腹へと手を伸ばした。
神楽の白い手が腹に届く。
既に紗己がおはしょりを捲って触れる場所を示してくれていたので、神楽は迷わずそこに優しく手を当てた。
「・・・何も感じないネ」
「うーん、もしかしたら寝ちゃってるのかも・・・・・・あ!」
話の途中で急に黙り込んだ紗己が、突然声を上げた。
嬉しそうな表情で、自身の腹に手を当てている神楽を見つめる。
「神楽ちゃん、今の・・・分かった?」
「おおー! 何かピクッて感覚が届いたアル! ほんとにここに赤ちゃん、いるんだァ・・・・・・」
「すごいですね! 生命の神秘だよ、良かったね神楽ちゃん」
「うん! ありがとネ紗己、私感動したヨ!」
「どういたしまして」
喜ぶ神楽に優しく微笑みかける紗己。
姉妹のようにも見える二人の様子を眺めていた銀時は、穏やかな表情で静かに吐息した。
と、そこへ新八が、銀時を見やって楽しげに話し掛けてきた。
「銀さんは土方さんがお腹の赤ちゃんに話し掛けてるところ、見てたんですか?」
「いや、俺は玄関で待ってたから見てねーよ」
「そっか、どんな感じだったんだろ土方さん。ひょっとして、赤ちゃん言葉で話し掛けたりとか・・・ね、紗己さん!」
また込み上げてきた笑いに頬を緩ませながら、向かい側に座る紗己に視線を合わせる。
すると紗己は、一瞬驚いたように眉を上げて、だがすぐにクスクスと笑って首を横に振った。
「まさか! そんな、赤ちゃん言葉で話し掛けたりはしないですよ」
「じゃあ、あのマヨラーどんなふうに話し掛けてたアルか?」
神楽にも楽しそうな表情を向けられ、紗己は捲っていたおはしょりを下ろしてそこに両手を添えると、胎内に感じる小さな命に読み聞かせでもするように、ゆっくりと話し出した。
「ここに、ね。顔を寄せて唇を当てて、この子に話してくれたんです。必ずお前達を迎えに来るから、良い子で待ってろって・・・・・・」
言い終えた途端――下腹に添えていた紗己の両手に、ポタポタと涙の粒が落ちて散った。
愛する夫がくれた言葉を思い出し、自分でも気付かない心の深い部分が、切ない痛みを訴えてきたのだろう。
「紗己さん・・・・・・」
「紗己・・・」
新八と銀時が複雑な面持ちで、静かに涙を流し続ける紗己の名を呟いた。
あまりにも自然に、意図せず流れ落ちる涙をどうにか止めねばと、紗己は両手指を濡れた瞳に押し付けて、困ったように作り笑いをしてみせる。
「あっ・・・ご、ごめんなさい! 大丈、夫・・・ですから、ほんとにもう・・・あの、平気ですから」
トクトクと動きを速める鼓動を落ち着かせるため、艷やかな唇を微かに震わせながら、ふぅっとゆっくり息を吐き出す。
紗己は胸元からハンカチを取り出すと、涙に濡れた長い睫毛にそれを当てて、もう一度、気持ちを整えるために吐息した。
ようやく涙は止まり、僅かに湿り気を帯びたハンカチを畳みながら、自分を心配そうに見つめている三人に向けて紗己は、いつも通りの穏やかな笑みを見せた。
「あの、急にごめんなさい。わ、私もびっくり・・・・・・しちゃいました」
濡れた頬に張り付いた後れ毛を耳に掛けながら、気まずそうに苦笑いを浮かべる。
そんな紗己の隣に座っていた神楽が、先程まで彼女の腹に触れていた自身の白い手を、濃藍色の着物を纏った儚げな背中にそっと当てた。
「大丈夫ネ、紗己。アイツは大事な人間と交わした約束、絶対破ったりしないアル」
「神楽、ちゃん・・・」
「そ、そうですよ! 土方さんは律儀なタイプだから、必ず紗己さんとお腹の赤ちゃんを迎えに来ますよ!」
神楽に続いて新八も、テーブルに手を付き身を乗り出して、励ましの言葉を口にする。
「新八君、神楽ちゃん、ありがとう・・・・・・」
二人の励ましに応えるように笑顔を作った紗己に、
「紗己」
その様子を静観していた銀時が声を掛けた。
「大丈夫だ、アイツは出来ねェ約束はする男じゃねーだろ。アイツがそう約束したんなら、何があろうと必ず迎えに来るよ」
「銀さん・・・・・・」
「俺達が知ってる土方十四郎はそういう男だ。だろ?」
普段はやる気のない双眸が、優しく紗己を見つめる。
銀時の言葉に合わせて、新八と神楽も自信に満ちた笑顔を紗己に向けて、しっかりと頷いた。
「みんな、ありがとう・・・・・・。そうですね、私もそう信じてます」
三人に励まされ、紗己はようやく控え目ながらも本物の笑顔を見せた。
すると先程までずっと神楽の背後で大人しくしていた定春が、ゆっくりとした足取りで紗己の元へと近付き、神楽と紗己の間に大きな身体を割り込ませて座った。
一連の定春の行動に驚きながらも、にこやかな表情を浮かべる紗己の右頬を、定春の舌がペロッと舐める。
「きゃっ、ふふ・・・くすぐったい、定春くんったら」
「定春も大丈夫って言いにきたアル! ね、定春っ」
神楽の言葉に答えるように、定春が尻尾を振りながらまた紗己の右頬をひと舐めする。
すると、くすぐったさに首を仰け反らせて愉しげな声を上げていた紗己の軟らかな髪を、ふんわりと纏めていた簪がぽとりと畳に落ちた。
右耳の下辺りで纏めていた髪が、はらりと広がり落ちる。
少し癖がついた紗己の髪は肩の辺りで軽く弾み、右の首筋が露わになった。
「あれ、紗己。首に何か出来てるヨ、虫刺されアルか?」
「え・・・・・・あっ」
「腫れてはないけど、赤くて痒そうアルな。大丈夫?」
神楽の指摘に、一瞬の間を置いてからそれが何であるのか理解した紗己は、慌てて紅い痕を隠すように首筋を右手で押さえると、上擦った声で下手な言い訳を並べた。
「だっ、大丈夫! そそ、そうなの虫に刺されちゃったみたいっ」
みるみるうちに真っ赤に染まっていく紗己の顔。
それが羞恥によるものとは思いもしない神楽は、心配そうな声音で銀時に問い掛けた。
「ねえ銀ちゃん、紗己顔まで赤くなってるヨ。首刺されたら顔まで赤くなったりするアルか?」
「あー・・・まあ、うん。あるにはあるよね、そんなトコ刺されちゃったら、そりゃァ顔も赤くなっちゃうよね」
神楽からの純粋過ぎる問い掛けに、ニヤニヤとした笑みを浮かべた銀時が、あくまでも虫刺されの体を装い返答する。
そのままちらりと前方の新八に一瞥をくれると、紗己の首筋の紅い痕がどういう意味を持っているのか理解しているらしく、こちらも頬を赤らめ恥ずかしそうに紗己から視線を逸している。
「ふーん、顔が赤いのはしばらくしたら治まるアルか?」
「この話題から離れてやればな。まあ、
わざと含みを持たせて言ってみると、紗己はますます恥ずかしそうに顔を赤らめて、身を小さくして俯いた。