第九章
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――――――
ピンポーン――と、玄関チャイムの音が部屋に響いた。特にこれと言って何をしているでもない万事屋の三人は、それぞれと顔を見合わせたと同時に口を開く。
「新八、鳴ってるぞー」
「新八、誰か来たアルよ」
「誰か来たみたいですね・・・って、ほんと動く気ねーなアンタら・・・」
二人に同時指名された新八は、嘆息しながら玄関へと向かった。
「はーい、今開けます」
言いながら玄関引戸をガラガラと開けると、そこには一人の若い娘が立っていた。
赤みがかった紫の地に菊が散りばめられた小紋に、黒と白の縞模様の帯を締め、灰紫色の半纏を羽織っている。白く華奢な手には、紙袋が提げられていた。
「あの・・・」
「あ、す、すいません!」
思わずじいっと見つめてしまっていたことに気付き、慌てた素振りで新八が謝ると、引戸の向こうに立っている娘が、滑らかな弧を描いた半月型の瞳を細め、遠慮がちに微笑んだ。
「私、土方紗己と申します。あの、銀さんはいらっしゃいますか?」
「え・・・土方・・・って、あ、 銀さんですか?」
目の前の娘の名前に何か引っ掛かるものを感じつつも、彼女が銀時の知人であろうということに驚きを隠せない。
どこからどう見ても育ちの良さそうなお嬢さんといった雰囲気のこの人と、あのちゃらんぽらんがどこでどうやって知り合ったんだ?
瞬時に疑問が浮かんだが、来客を玄関先でずっと待たせる訳にはいかない。
「あ、えっと銀さんなら中に・・・」
そう言って後ろを振り返り、事務所兼居間を指差したその時。
「おい新八、誰が来てんだ・・・って、え、紗己?」
居間と玄関前の廊下を仕切る引戸を開けながら、のそっと気怠げに姿を見せた銀時だったが、玄関先に立つ人物を目にした途端驚きの声を上げた。
「銀さん、こんにちは」
「いや、うん・・・ってどうしたんだよ、何かあったのか?」
いつもと変わらぬ穏やかな笑みを見せられ、だが何故彼女が今ここにいるのかと困惑していると、
「どうしたネ、お客さんアルか?」
銀時の背後から、神楽がひょっこりと顔を出した。
万事屋一家が揃って自分を見つめていることが何だか可笑しくて、紗己はフフッと笑いながら手にしていた紙袋を軽く掲げて見せた。
「今日は、お渡ししたい物がありまして」
「ねえねえ銀ちゃん! 高そうなお菓子の気配がするヨ!」
紗己が持っている紙袋に菓子の匂いを嗅ぎ付けた神楽が、隣に立つ銀時の着物をツンツンと引っ張りながら言う。すると銀時は、呆れた表情で神楽の頭を軽く小突いた。
「アホか、お前は。まずは紹介が先だろうが」
そう言いながら神楽と共に新八の側まで行くと、楽しげに自分達を見つめる紗己に視線を向けて口を開いた。
「あー、こいつが新八。で、こっちが神楽。こいつらと一緒に万事屋やってんだ」
「初めまして」
「よろしくアル」
新八と神楽からの挨拶を受け、紗己も二人に視線を合わせて会釈をする。
「初めまして。新八君、神楽ちゃん」
優しく微笑む紗己につられるように、笑顔を見せる仲間達の様子に心を和ませつつ、銀時は軽く咳払いをしてから紗己を見やった。
「んで、こっちが紗己な。こないだお前らにも話しただろ、真選組のマヨネーズ馬鹿が結婚するって。その結婚相手ってのがコイツだ」
銀時が言い終えたあと、その場が静寂に包まれた。だがそれはほんの一瞬だけで、万事屋の玄関先にはすぐさま新八と神楽の驚きの声が響き渡る。
「「ええェェェッ!!」」
想定内の反応だったとはいえ、すぐ側で二人に大声を出され眉をひそめる銀時に、驚き目を見開いた新八が興奮した様子で問い掛けてきた。
「ちょっ、ちょっとそれほんとですか銀さん!」
「ああ、マジマジ。つーか、俺が嘘つく理由がねーだろ」
少し呆れたように言えば、今度は神楽がやけに楽しそうな表情で紗己に疑問をぶつける。
「それじゃあ紗己もマヨネーズが好きアルか?」
「マヨネーズ? うーん・・・おそらく人並み程度だと思いますけど」
神楽、新八、そして銀時の順にそれぞれと視線を合わせると、紗己は軽く眉を寄せて笑った。
それなりに和やかな空気ではあるが、ここは玄関であり、いつまでも長居する場所ではない。
銀時はいつも通りのやる気の無さそうな双眸で、玄関先に立ったままの紗己を一瞥してから左手の親指をクイッと立て、それを居間へと向けて言った。
「まあ立ち話はこれくらいにして、続きは中でしようぜ」
「あっ、すみません! お客様をずっと立たせたままにしちゃって」
銀時に続いて新八も慌てて入室を促す。だが紗己はその場を動こうとはせず、少し困ったような表情で肩を竦めた。
「あの、実は下に籠屋を待たせてるんです。だから、もうそろそろ行かないと・・・」
「え? なに、すぐに戻らなきゃなんねー用事でもあったのか?」
紗己の発言に引っ掛かりを覚えた銀時が、訝しげな面持ちで問い掛ける。すると彼女は、とてもあっさりとした口調で答えた。
「いえ、何もないですよ」
「じゃあ、なんで籠屋待たせて・・・」
言いながら、途中で言葉を切った。とある考えが頭の中に浮かんできたからだ。
普段は死んだ魚のような目だと言われることの多いその瞳の奥に、愉しげな色が宿る。
「籠屋で行ってすぐに帰ってこいって、あのマヨネーズ馬鹿に言われたか」
「えっ、どうして分かったんですか?」
事実を言い当てた銀時を驚いた表情で見つめ、紗己はそのまま言葉を続ける。
「そうなんです、仕事の邪魔しちゃ悪いから、玄関先で渡してすぐに帰って来いって言われてて。これ・・・昨日のシュークリームの御返しです。菓子折り買って渡して来るよう、今朝土方さんに言われまして」
手にしていた紙袋を笑顔でスッと差し出すと、手前にいた新八が困惑気味にそれを受け取った。
「あ、えっとありがとうございます・・・でもあの、シュークリームって何の話ですか?」
「昨日ね、町で偶然銀さんに会って、それでシュークリームご馳走してもらったんです」
柔らかな笑みを湛えて言うと、それを聞いた新八と神楽が、自分達の間に立つ銀時をジトッとした目付きで見つめた。
「な、なんだよその目はっ」
「いや、お金無い割には・・・ね」
「ズルいヨ銀ちゃん、私もシュークリーム食べたかったアル!」
「い、いやいや違うんだって、アレは祝儀の代わりに・・・な、紗己!」
仲間達に詰め寄られ、助けを求めるように紗己に声を掛けると、彼女はクスクスと可愛らしい笑い声を漏らしながら話し出した。
「私がシュークリーム屋さんの前で立ち止まってたら、たまたま通り掛かった銀さんが、祝儀みたいなもんだからって買ってくださったんです」
「ほらな! これまで色々相談に乗ってきてんだから、結婚ってなりゃァ祝儀くらいは出すだろ」
そう言って新八と神楽からの視線を振り払うように、腕を組んで壁にドンと背中を預ける。すると新八が、紗己から渡された紙袋の重みを確かめてから、銀時を一瞥した。
「シュークリームって言っても、その場で食べた分だけでしょ。祝儀って言うには安すぎやしませんか? それでお返しがコレじゃ、土方さん割が合わないですよ」
「いーんだよ、向こうはうちと違って金に困ってねーんだから」
少し不貞腐れたように言ってから壁に凭れていた身体を起こすと、銀時は新八の手から紙袋を取り上げて言葉を放った。
「おい新八、下に降りて籠屋帰してこい」
「えっ、でもいいんですか?」
そうは言われても、当の紗己の許可を得ないことには・・・と、焦った様子で新八は紗己に向き直った。
「紗己さん、籠屋帰してきてもいいですか?」
「え、でもお仕事の邪魔しちゃいけないんで・・・」
遠慮がちに言いながら、足袋に包まれた爪先をもじもじと動かす紗己を見て、銀時はフッと笑みをこぼした。
「いいよ、どうせ今日は仕事ねーし。暇だから寄ってけよ」
「今日はじゃなくて、今日も アル」
呆れ顔で神楽が突っ込みを入れると、紗己は小さく肩を揺らして楽しそうに笑った。
「じゃあ、お邪魔させてもらってもいいですか」
「ああ、入れよ」
銀時に促され、玄関へと上がろうとした紗己だったが、「あっ・・・」と声を出して動きを止めた。
「そうだ、籠屋! 私、降りてお金払ってきますね」
そう言って懐から財布を取り出し外に出ようとした紗己を、銀時が慌てた様子で引き止める。
「おい紗己! お前はいいから中で待ってろって。妊婦なんだし、こないだも倒れたって言ってただろ」
「え? 普段からこれくらいは動いてますよ?」
「いやいや、慣れねー階段で足踏み外して怪我でもされたら困るから!」
思わず本音が出てしまった。紗己の体調を気にしているのも嘘ではないが、それよりもここで怪我をされてはたまらないという気持ちの方がはるかに大きい。
大丈夫ですよ、と答える紗己に一瞥をくれながら嘆息すると、銀時は力加減をしつつ彼女の細い腕を引っ張り、半ば強引に中へと上がらせた。
ピンポーン――と、玄関チャイムの音が部屋に響いた。特にこれと言って何をしているでもない万事屋の三人は、それぞれと顔を見合わせたと同時に口を開く。
「新八、鳴ってるぞー」
「新八、誰か来たアルよ」
「誰か来たみたいですね・・・って、ほんと動く気ねーなアンタら・・・」
二人に同時指名された新八は、嘆息しながら玄関へと向かった。
「はーい、今開けます」
言いながら玄関引戸をガラガラと開けると、そこには一人の若い娘が立っていた。
赤みがかった紫の地に菊が散りばめられた小紋に、黒と白の縞模様の帯を締め、灰紫色の半纏を羽織っている。白く華奢な手には、紙袋が提げられていた。
「あの・・・」
「あ、す、すいません!」
思わずじいっと見つめてしまっていたことに気付き、慌てた素振りで新八が謝ると、引戸の向こうに立っている娘が、滑らかな弧を描いた半月型の瞳を細め、遠慮がちに微笑んだ。
「私、土方紗己と申します。あの、銀さんはいらっしゃいますか?」
「え・・・土方・・・って、あ、 銀さんですか?」
目の前の娘の名前に何か引っ掛かるものを感じつつも、彼女が銀時の知人であろうということに驚きを隠せない。
どこからどう見ても育ちの良さそうなお嬢さんといった雰囲気のこの人と、あのちゃらんぽらんがどこでどうやって知り合ったんだ?
瞬時に疑問が浮かんだが、来客を玄関先でずっと待たせる訳にはいかない。
「あ、えっと銀さんなら中に・・・」
そう言って後ろを振り返り、事務所兼居間を指差したその時。
「おい新八、誰が来てんだ・・・って、え、紗己?」
居間と玄関前の廊下を仕切る引戸を開けながら、のそっと気怠げに姿を見せた銀時だったが、玄関先に立つ人物を目にした途端驚きの声を上げた。
「銀さん、こんにちは」
「いや、うん・・・ってどうしたんだよ、何かあったのか?」
いつもと変わらぬ穏やかな笑みを見せられ、だが何故彼女が今ここにいるのかと困惑していると、
「どうしたネ、お客さんアルか?」
銀時の背後から、神楽がひょっこりと顔を出した。
万事屋一家が揃って自分を見つめていることが何だか可笑しくて、紗己はフフッと笑いながら手にしていた紙袋を軽く掲げて見せた。
「今日は、お渡ししたい物がありまして」
「ねえねえ銀ちゃん! 高そうなお菓子の気配がするヨ!」
紗己が持っている紙袋に菓子の匂いを嗅ぎ付けた神楽が、隣に立つ銀時の着物をツンツンと引っ張りながら言う。すると銀時は、呆れた表情で神楽の頭を軽く小突いた。
「アホか、お前は。まずは紹介が先だろうが」
そう言いながら神楽と共に新八の側まで行くと、楽しげに自分達を見つめる紗己に視線を向けて口を開いた。
「あー、こいつが新八。で、こっちが神楽。こいつらと一緒に万事屋やってんだ」
「初めまして」
「よろしくアル」
新八と神楽からの挨拶を受け、紗己も二人に視線を合わせて会釈をする。
「初めまして。新八君、神楽ちゃん」
優しく微笑む紗己につられるように、笑顔を見せる仲間達の様子に心を和ませつつ、銀時は軽く咳払いをしてから紗己を見やった。
「んで、こっちが紗己な。こないだお前らにも話しただろ、真選組のマヨネーズ馬鹿が結婚するって。その結婚相手ってのがコイツだ」
銀時が言い終えたあと、その場が静寂に包まれた。だがそれはほんの一瞬だけで、万事屋の玄関先にはすぐさま新八と神楽の驚きの声が響き渡る。
「「ええェェェッ!!」」
想定内の反応だったとはいえ、すぐ側で二人に大声を出され眉をひそめる銀時に、驚き目を見開いた新八が興奮した様子で問い掛けてきた。
「ちょっ、ちょっとそれほんとですか銀さん!」
「ああ、マジマジ。つーか、俺が嘘つく理由がねーだろ」
少し呆れたように言えば、今度は神楽がやけに楽しそうな表情で紗己に疑問をぶつける。
「それじゃあ紗己もマヨネーズが好きアルか?」
「マヨネーズ? うーん・・・おそらく人並み程度だと思いますけど」
神楽、新八、そして銀時の順にそれぞれと視線を合わせると、紗己は軽く眉を寄せて笑った。
それなりに和やかな空気ではあるが、ここは玄関であり、いつまでも長居する場所ではない。
銀時はいつも通りのやる気の無さそうな双眸で、玄関先に立ったままの紗己を一瞥してから左手の親指をクイッと立て、それを居間へと向けて言った。
「まあ立ち話はこれくらいにして、続きは中でしようぜ」
「あっ、すみません! お客様をずっと立たせたままにしちゃって」
銀時に続いて新八も慌てて入室を促す。だが紗己はその場を動こうとはせず、少し困ったような表情で肩を竦めた。
「あの、実は下に籠屋を待たせてるんです。だから、もうそろそろ行かないと・・・」
「え? なに、すぐに戻らなきゃなんねー用事でもあったのか?」
紗己の発言に引っ掛かりを覚えた銀時が、訝しげな面持ちで問い掛ける。すると彼女は、とてもあっさりとした口調で答えた。
「いえ、何もないですよ」
「じゃあ、なんで籠屋待たせて・・・」
言いながら、途中で言葉を切った。とある考えが頭の中に浮かんできたからだ。
普段は死んだ魚のような目だと言われることの多いその瞳の奥に、愉しげな色が宿る。
「籠屋で行ってすぐに帰ってこいって、あのマヨネーズ馬鹿に言われたか」
「えっ、どうして分かったんですか?」
事実を言い当てた銀時を驚いた表情で見つめ、紗己はそのまま言葉を続ける。
「そうなんです、仕事の邪魔しちゃ悪いから、玄関先で渡してすぐに帰って来いって言われてて。これ・・・昨日のシュークリームの御返しです。菓子折り買って渡して来るよう、今朝土方さんに言われまして」
手にしていた紙袋を笑顔でスッと差し出すと、手前にいた新八が困惑気味にそれを受け取った。
「あ、えっとありがとうございます・・・でもあの、シュークリームって何の話ですか?」
「昨日ね、町で偶然銀さんに会って、それでシュークリームご馳走してもらったんです」
柔らかな笑みを湛えて言うと、それを聞いた新八と神楽が、自分達の間に立つ銀時をジトッとした目付きで見つめた。
「な、なんだよその目はっ」
「いや、お金無い割には・・・ね」
「ズルいヨ銀ちゃん、私もシュークリーム食べたかったアル!」
「い、いやいや違うんだって、アレは祝儀の代わりに・・・な、紗己!」
仲間達に詰め寄られ、助けを求めるように紗己に声を掛けると、彼女はクスクスと可愛らしい笑い声を漏らしながら話し出した。
「私がシュークリーム屋さんの前で立ち止まってたら、たまたま通り掛かった銀さんが、祝儀みたいなもんだからって買ってくださったんです」
「ほらな! これまで色々相談に乗ってきてんだから、結婚ってなりゃァ祝儀くらいは出すだろ」
そう言って新八と神楽からの視線を振り払うように、腕を組んで壁にドンと背中を預ける。すると新八が、紗己から渡された紙袋の重みを確かめてから、銀時を一瞥した。
「シュークリームって言っても、その場で食べた分だけでしょ。祝儀って言うには安すぎやしませんか? それでお返しがコレじゃ、土方さん割が合わないですよ」
「いーんだよ、向こうはうちと違って金に困ってねーんだから」
少し不貞腐れたように言ってから壁に凭れていた身体を起こすと、銀時は新八の手から紙袋を取り上げて言葉を放った。
「おい新八、下に降りて籠屋帰してこい」
「えっ、でもいいんですか?」
そうは言われても、当の紗己の許可を得ないことには・・・と、焦った様子で新八は紗己に向き直った。
「紗己さん、籠屋帰してきてもいいですか?」
「え、でもお仕事の邪魔しちゃいけないんで・・・」
遠慮がちに言いながら、足袋に包まれた爪先をもじもじと動かす紗己を見て、銀時はフッと笑みをこぼした。
「いいよ、どうせ今日は仕事ねーし。暇だから寄ってけよ」
「今日はじゃなくて、今日
呆れ顔で神楽が突っ込みを入れると、紗己は小さく肩を揺らして楽しそうに笑った。
「じゃあ、お邪魔させてもらってもいいですか」
「ああ、入れよ」
銀時に促され、玄関へと上がろうとした紗己だったが、「あっ・・・」と声を出して動きを止めた。
「そうだ、籠屋! 私、降りてお金払ってきますね」
そう言って懐から財布を取り出し外に出ようとした紗己を、銀時が慌てた様子で引き止める。
「おい紗己! お前はいいから中で待ってろって。妊婦なんだし、こないだも倒れたって言ってただろ」
「え? 普段からこれくらいは動いてますよ?」
「いやいや、慣れねー階段で足踏み外して怪我でもされたら困るから!」
思わず本音が出てしまった。紗己の体調を気にしているのも嘘ではないが、それよりもここで怪我をされてはたまらないという気持ちの方がはるかに大きい。
大丈夫ですよ、と答える紗己に一瞥をくれながら嘆息すると、銀時は力加減をしつつ彼女の細い腕を引っ張り、半ば強引に中へと上がらせた。