第十一章
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「灰汁取りなら俺がやっとくから、お前座って休んでたら? また腹が張ったらよくねーし、色々あって疲れてるだろ」
「え、平気ですよ? 普段からこんな感じですし・・・あ、銀さん。お味噌出してもらっていいですか?」
「え、味噌?」
話の内容が突然変わったことに少々驚きつつも、銀時は冷蔵庫へと向かい扉を開ける。
「はいはい味噌な・・・んで、ほんとに大丈夫なのか? お前は大事な客なんだから、無理させらんねーんだけど」
冷蔵庫の棚の奥から味噌を取り出すと、それを手に紗己の元へと行き、作業台の上にトンと置いた。
「ありがとうございます」
紗己は礼を言って鍋の火を止め、灰汁取りに使っていた器を持って流し台へと向かい、器の汚れをさっと洗い流してからまたコンロの前に戻ってきた。
「気を遣わせちゃって、ごめんなさい」
そう言いながら、綺麗になった器に味噌を適量掬い入れると、鍋から掬った出し汁をそこに入れて味噌を溶き始める。
半透明だった液体が、黄みがかった淡い茶色に変わっていく。
「本当に大丈夫です。それに、こうして普段通りにしているほうが、気が紛れるから・・・・・・」
器の中の溶いた味噌を鍋に移し入れ、紗己は伏し目がちに言った。
当たり前のように日々の食卓にある、まるで日常を具現化したような味噌汁の匂いが、台所に立ち込める。
だがここは、屯所の台所ではない。
彼女の言う『普段通り』が、結果的に非日常を炙り出しているようで、銀時は何とも居た堪れない気持ちになってしまう。
それでも、少しでも紗己の気持ちが落ち着くのなら好きにさせてやろう――そう思い直すと、静かに吐息してから一歩紗己の元へと近付き、鍋の中を覗き込んだ。
「お、美味そー。有り合わせの食材にしちゃァ、なかなか豪勢だな」
「屯所でもよく作るんです、具沢山味噌汁。栄養もあるし、残り食材も全部捌けて一石二鳥ですよ」
物憂げだった紗己の表情が、いつもの柔らかな笑顔に戻った。
にこやかに答える紗己に安堵した銀時は、使い終わった味噌を冷蔵庫に戻そうと作業台に手を伸ばす。
「これだけでも立派なおかずだな。味噌、もう戻していい?」
「あ、はい。お願いします。ところで銀さん、もうひと足ししたい調味料があるんですけど」
「なに、これで完成じゃねーの?」
味噌を冷蔵庫の元の位置に戻して扉を閉めた銀時が、振り向きざまに相変わらずの気怠げな表情を見せる。
すると紗己は、クスクスと楽しそうに笑ってから、少しいたずらっぽい笑みを浮かべて「もっと美味しくなる隠し味です」と言った。
――――――
「えっ、これすごく美味しいです紗己さん!」
「ほんとアル! これならめちゃくちゃご飯が進むネ!」
味噌汁を口にした途端、新八と神楽が驚きと喜びの表情で感想を述べた。
「ああ、ほんとこれ飯が進むわー。ちょっとラーメンの汁っぽくていいよな」
口いっぱいに白米を頬張る銀時が、ズズッと音を立てて味噌汁を口内へと運び入れる。
程なくして全てを飲み込むと、プハッと満足気な息を吐いて、空になった椀を差し出した。
「おかわり」
「はい」
三人の食べっぷりに紗己は頬を緩め、小さく笑いながら空の椀に味噌汁を注ぐ。
「紗己さん、これって出汁と味噌だけじゃないですよね?」
「ええ。料理酒と、仕上げににんにくのすりおろしを入れてるんです」
「へえー! そんなアレンジの仕方があるんだ。確かに味噌ラーメンっぽいですもんね」
紗己の告げた隠し味の正体を知り、新八は驚いた顔を見せた。
「紗己、この肉も美味しいアル! これもご飯が進んで止まらないヨ」
取皿に盛られた肉料理――豚の生姜焼きを白米の上に乗せ、肉で白米を包むようにしながら神楽は箸を進め続ける。
先程買い出しを終えて帰宅した新八と神楽。
彼らが紗己用の布団と共に買ってきたのは、生姜焼き用の豚肉だった。
これから調理するとなると、肉の塊では火を通すだけでも時間が掛かりすぎてしまう。
そう考えた新八は、軽く炒めればすぐに火が通る薄切り肉を購入したのだ。
新八と神楽が帰宅した時点で、既に夕飯の仕度は整っており、すぐに出来る献立をと考えた紗己は、買い物袋に入っていた豚肉を見て早速調理に取り掛かった。
肉を漬け込む時間は無かったので、タレの味を少し濃い目にした、紗己特製の豚の生姜焼きは、万事屋の三人にも好評のようだ。
「いやほんと、マジでうめェわこの生姜焼きも・・・っておい、紗己? お前ちゃんと食ってる?」
またしても口いっぱいに米と肉を頬張り、紗己の調理した夕飯の感想を述べていた銀時だったが、茶碗を持ったまま箸の動きが止まっている紗己に気付くと、自身の茶碗と箸を一旦置いて訊ねた。
銀時の動きに合わせるように、新八も神楽も少し心配そうに紗己を見やる。
すると紗己は、フフッと可愛らしく笑ってから、手にしていた茶碗と箸をそっと天板に戻した。
「ちゃんと食べてますよ。ただちょっと、面白いなって思ってたら、手が止まっちゃって」
「面白いって、何が?」
紗己の発言に銀時が首を傾げて問い掛けると、紗己はいつもと変わらぬ穏やかな表情で話す。
「いつも屯所の食堂で見てる光景と、みなさんの食べっぷりが重なって見えちゃって。それがちょっと面白かったんです」
自分を見つめる三人を視界に取り込み、紗己は優しく微笑んだ。
だがその柔らかな笑みの奥には、仄かな陰りが見える。
屯所での見慣れた日常の光景と、今、万事屋で皆と夕飯を共にしているという非日常。
それらが混在する紗己の心境は、決して穏やかなものとは言えないだろう。
それでも心配を掛けまいと笑顔を見せる紗己の気持ちを慮った銀時は、なんてことはないといったあっさりとした口調で紗己に言葉を返す。
「あのむさ苦しい連中が、お上品に食べるわけねーか」
「銀さん、それブーメランですよ。同じ食べっぷりだって言われてるんですから」
銀時の意を汲んで、新八も話を合わせて普段通りに突っ込みを入れる。
そこへ神楽が、白米と肉を掻き込みながら会話に加わった。
「私たちはこれでいいネ。誰も万事屋に上品さなんて求めてないアル・・・おかわり!」
口の中に詰め込んでいたものをごくんと飲み込んだ神楽が、ニカッと笑って空になった茶碗を差し出した。
神楽の食べっぷりに一瞬驚いた顔を見せた紗己だったが、すぐにクスクスと笑いながら受け取った茶碗に白米をよそった。
「え、平気ですよ? 普段からこんな感じですし・・・あ、銀さん。お味噌出してもらっていいですか?」
「え、味噌?」
話の内容が突然変わったことに少々驚きつつも、銀時は冷蔵庫へと向かい扉を開ける。
「はいはい味噌な・・・んで、ほんとに大丈夫なのか? お前は大事な客なんだから、無理させらんねーんだけど」
冷蔵庫の棚の奥から味噌を取り出すと、それを手に紗己の元へと行き、作業台の上にトンと置いた。
「ありがとうございます」
紗己は礼を言って鍋の火を止め、灰汁取りに使っていた器を持って流し台へと向かい、器の汚れをさっと洗い流してからまたコンロの前に戻ってきた。
「気を遣わせちゃって、ごめんなさい」
そう言いながら、綺麗になった器に味噌を適量掬い入れると、鍋から掬った出し汁をそこに入れて味噌を溶き始める。
半透明だった液体が、黄みがかった淡い茶色に変わっていく。
「本当に大丈夫です。それに、こうして普段通りにしているほうが、気が紛れるから・・・・・・」
器の中の溶いた味噌を鍋に移し入れ、紗己は伏し目がちに言った。
当たり前のように日々の食卓にある、まるで日常を具現化したような味噌汁の匂いが、台所に立ち込める。
だがここは、屯所の台所ではない。
彼女の言う『普段通り』が、結果的に非日常を炙り出しているようで、銀時は何とも居た堪れない気持ちになってしまう。
それでも、少しでも紗己の気持ちが落ち着くのなら好きにさせてやろう――そう思い直すと、静かに吐息してから一歩紗己の元へと近付き、鍋の中を覗き込んだ。
「お、美味そー。有り合わせの食材にしちゃァ、なかなか豪勢だな」
「屯所でもよく作るんです、具沢山味噌汁。栄養もあるし、残り食材も全部捌けて一石二鳥ですよ」
物憂げだった紗己の表情が、いつもの柔らかな笑顔に戻った。
にこやかに答える紗己に安堵した銀時は、使い終わった味噌を冷蔵庫に戻そうと作業台に手を伸ばす。
「これだけでも立派なおかずだな。味噌、もう戻していい?」
「あ、はい。お願いします。ところで銀さん、もうひと足ししたい調味料があるんですけど」
「なに、これで完成じゃねーの?」
味噌を冷蔵庫の元の位置に戻して扉を閉めた銀時が、振り向きざまに相変わらずの気怠げな表情を見せる。
すると紗己は、クスクスと楽しそうに笑ってから、少しいたずらっぽい笑みを浮かべて「もっと美味しくなる隠し味です」と言った。
――――――
「えっ、これすごく美味しいです紗己さん!」
「ほんとアル! これならめちゃくちゃご飯が進むネ!」
味噌汁を口にした途端、新八と神楽が驚きと喜びの表情で感想を述べた。
「ああ、ほんとこれ飯が進むわー。ちょっとラーメンの汁っぽくていいよな」
口いっぱいに白米を頬張る銀時が、ズズッと音を立てて味噌汁を口内へと運び入れる。
程なくして全てを飲み込むと、プハッと満足気な息を吐いて、空になった椀を差し出した。
「おかわり」
「はい」
三人の食べっぷりに紗己は頬を緩め、小さく笑いながら空の椀に味噌汁を注ぐ。
「紗己さん、これって出汁と味噌だけじゃないですよね?」
「ええ。料理酒と、仕上げににんにくのすりおろしを入れてるんです」
「へえー! そんなアレンジの仕方があるんだ。確かに味噌ラーメンっぽいですもんね」
紗己の告げた隠し味の正体を知り、新八は驚いた顔を見せた。
「紗己、この肉も美味しいアル! これもご飯が進んで止まらないヨ」
取皿に盛られた肉料理――豚の生姜焼きを白米の上に乗せ、肉で白米を包むようにしながら神楽は箸を進め続ける。
先程買い出しを終えて帰宅した新八と神楽。
彼らが紗己用の布団と共に買ってきたのは、生姜焼き用の豚肉だった。
これから調理するとなると、肉の塊では火を通すだけでも時間が掛かりすぎてしまう。
そう考えた新八は、軽く炒めればすぐに火が通る薄切り肉を購入したのだ。
新八と神楽が帰宅した時点で、既に夕飯の仕度は整っており、すぐに出来る献立をと考えた紗己は、買い物袋に入っていた豚肉を見て早速調理に取り掛かった。
肉を漬け込む時間は無かったので、タレの味を少し濃い目にした、紗己特製の豚の生姜焼きは、万事屋の三人にも好評のようだ。
「いやほんと、マジでうめェわこの生姜焼きも・・・っておい、紗己? お前ちゃんと食ってる?」
またしても口いっぱいに米と肉を頬張り、紗己の調理した夕飯の感想を述べていた銀時だったが、茶碗を持ったまま箸の動きが止まっている紗己に気付くと、自身の茶碗と箸を一旦置いて訊ねた。
銀時の動きに合わせるように、新八も神楽も少し心配そうに紗己を見やる。
すると紗己は、フフッと可愛らしく笑ってから、手にしていた茶碗と箸をそっと天板に戻した。
「ちゃんと食べてますよ。ただちょっと、面白いなって思ってたら、手が止まっちゃって」
「面白いって、何が?」
紗己の発言に銀時が首を傾げて問い掛けると、紗己はいつもと変わらぬ穏やかな表情で話す。
「いつも屯所の食堂で見てる光景と、みなさんの食べっぷりが重なって見えちゃって。それがちょっと面白かったんです」
自分を見つめる三人を視界に取り込み、紗己は優しく微笑んだ。
だがその柔らかな笑みの奥には、仄かな陰りが見える。
屯所での見慣れた日常の光景と、今、万事屋で皆と夕飯を共にしているという非日常。
それらが混在する紗己の心境は、決して穏やかなものとは言えないだろう。
それでも心配を掛けまいと笑顔を見せる紗己の気持ちを慮った銀時は、なんてことはないといったあっさりとした口調で紗己に言葉を返す。
「あのむさ苦しい連中が、お上品に食べるわけねーか」
「銀さん、それブーメランですよ。同じ食べっぷりだって言われてるんですから」
銀時の意を汲んで、新八も話を合わせて普段通りに突っ込みを入れる。
そこへ神楽が、白米と肉を掻き込みながら会話に加わった。
「私たちはこれでいいネ。誰も万事屋に上品さなんて求めてないアル・・・おかわり!」
口の中に詰め込んでいたものをごくんと飲み込んだ神楽が、ニカッと笑って空になった茶碗を差し出した。
神楽の食べっぷりに一瞬驚いた顔を見せた紗己だったが、すぐにクスクスと笑いながら受け取った茶碗に白米をよそった。