序章③
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――――――
「遅くなって悪かったな」
気まずさを胸に隠した銀時が声を掛けながら近寄ると、窓際の席でミルクティーらしきものを飲んでいた紗己が、突然現れた人物に驚き、目を丸くした。
「銀さん! どうしたんですか?」
沖田の言う通りに行動するのは少々癪だったが、自分を待っているという紗己のことも気に掛かり、銀時は仕方無く指定のファミレスへと出向いてきたのだった。
だが、紗己の心底驚いた様子を見て、事の流れに疑問が沸き起こる。
テーブルの横に立ったまま、困惑に満ちた表情で紗己を見下ろす。
「・・・俺は、お前が俺のこと待ってるって聞いて来たんだけど・・・・・・」
「そうなんですか? 私は沖田さんに、ここで待ってるように言われたんです」
「・・・あんのガキ、嵌めやがったな・・・ったく」
紗己に聞こえないように小さな声で呟くと、銀時は吐息しながら彼女の向かい側に腰を下ろした。
「まあいーや、仕方ねえから銀さんがお前の相談に乗ってやるよ。ほら、何でも言ってみな?」
沖田はともかく、紗己には何の責任も無い。このままじゃあと帰るのも気が引け、せっかくだから話くらいは聞こうと銀時は思った。
だが事の経緯も何も知らない紗己は、悪気なく彼の気持ちを、いとも簡単に裏切る。
「え、悩みですか? これといって無いですけど・・・・・・」
「・・・そう」
何となく切ない気分になってしまった銀時は、いちごパフェを3つ注文した。勿論、一人で食べる気だ。
――――――
一方の土方は、朝からずっと事務処理に追われていた。
こちらはいろいろと公私共に悩みを抱えているのだが、その気持ちを大量に積み重ねられた書類にぶつけている。
だがあまりにも根を詰めすぎたので、さすがに疲れが溜まってきた。少し息を抜こうかと筆を机に置いた時――。
障子戸の向こう側に微かな人の気配を感じた。
土方はそちらに顔を向けることなく、文机の端に置いていた煙草の箱を手に取りながら言い放つ。
「誰だ、そこにいるのは」
「さすがですねィ、土方さん」
「なんだ、総悟か・・・・・・」
声の主を振り返りつつ、見るからに残念そうな顔をする。そんな土方を探るような目付きで一瞥すると、沖田はズカズカと遠慮なく部屋へと入って来た。
「なんだとは失礼ですね。他に、誰だったら良かったんで?」
「・・・っ」
無意識のうちに紗己を待っている自分に気付かされ、その気持ちを誤魔化すように数度咳払いをする。
「べ、別に誰とかそんなん何もねーしっ」
土方は平静を装うと、文机の側に置いていた灰皿へと手を伸ばした。
今日はまだ中身を捨てていなかったため、吸い殻で溢れそうになっているそれを眺め、ふと動きを止める。
こうして書類整理なんかしてると、頃合いを見計らって茶淹れてきてくれたよな。ついでに吸い殻捨ててってくれたり・・・・・・。
別に遠く離れてしまったわけでもなく、長く会っていないわけでもないのに、まるで懐かしい思い出のように紗己の笑顔が脳裏に過る。
やけに感傷的な気分になっている土方を、沖田はいとも容易く現実に引き戻す。
「なに遠い目してんでェ、土方さん」
「あ、ああいや何でもねーよ。それより何か用か?」
自分の背後に腰を下ろして寛ぎだした沖田に眉をひそめつつ、土方は手にしている煙草の箱から一本取り出しながら、振り向きざまに訊ねた。
「人手を借りに来たんでさァ」
「ああ? なんだ、何かあったのか?」
「手配書の配布に人手が割けねェんで、ちょっと手伝ってもらえませんか」
沖田の発言に土方ははぁっと溜息をつくと、少し苛立ちを滲ませた鋭い双眸で沖田を一瞥する。
「手配書だァ? 何で俺がそんなことのために出向かなきゃなんねーんだ。こっちはこっちで仕事があんだよ、そんなの他の隊から適当に連れて行け」
不満たっぷりに沖田の要望を一蹴すると、摘んだままの一本を右手の人差し指と中指の間に挟んで、再び文机へと向き直った。
その姿に、沖田は沖田で分かりやすく溜息を落とすと、わざと土方を試すような言葉を投げる。
「へェー、手配書の配布は『そんなの』扱いですかィ。真選組の副長は、犯罪を未然に防ぐって気が無いらしいや」
「なんだとっ・・・」
まるで挑発するような言い草が気に障り、腹立たしそうに土方は後ろを振り返る。沸点の低い男だ。
すると沖田は、そんな土方を尻目にすくっと立ち上がり、
「副長自らが手伝ってくれりゃァ、隊の士気も上がると思ったんですがね。いいです分かりました、皆には俺から伝えときます。『そんな小せェ仕事に付き合ってられるか』って言ってたって」
無表情のまま一方的に言い切ると、土方の反応も気にせずすたすたと歩き出した。
そうなると当然土方は慌てる。今しがた火を点けようと、出番待ちをしていたライターを片手に腰を浮かせて、去ろうとする沖田を焦り気味に呼び止めた。
「ちょっ・・・待て総悟! 勝手に人の発言歪曲すんじゃねえっ」
「忙しいアンタに来てもらおうと思った俺が間違ってました。土方さん、どうぞ気にせずに仕事続けてくだせェ」
「っ・・・」
(そんな言い方されて続けられるかっ!)
土方は指に挟んだままの煙草を咥えると、スッと立ち上がり素早く火を点け嘆息した。
「はあ・・・分かった。行くぞ、おい」
仕事はまだ山のように残っているのだが、ここで行かないわけにもいかない。土方は脱いでいた上着を手に取ると、沖田よりも先に障子戸に手を掛けた。
自分の意思で行くのだと、是が非でもアピールしたいらしい。
「遅くなって悪かったな」
気まずさを胸に隠した銀時が声を掛けながら近寄ると、窓際の席でミルクティーらしきものを飲んでいた紗己が、突然現れた人物に驚き、目を丸くした。
「銀さん! どうしたんですか?」
沖田の言う通りに行動するのは少々癪だったが、自分を待っているという紗己のことも気に掛かり、銀時は仕方無く指定のファミレスへと出向いてきたのだった。
だが、紗己の心底驚いた様子を見て、事の流れに疑問が沸き起こる。
テーブルの横に立ったまま、困惑に満ちた表情で紗己を見下ろす。
「・・・俺は、お前が俺のこと待ってるって聞いて来たんだけど・・・・・・」
「そうなんですか? 私は沖田さんに、ここで待ってるように言われたんです」
「・・・あんのガキ、嵌めやがったな・・・ったく」
紗己に聞こえないように小さな声で呟くと、銀時は吐息しながら彼女の向かい側に腰を下ろした。
「まあいーや、仕方ねえから銀さんがお前の相談に乗ってやるよ。ほら、何でも言ってみな?」
沖田はともかく、紗己には何の責任も無い。このままじゃあと帰るのも気が引け、せっかくだから話くらいは聞こうと銀時は思った。
だが事の経緯も何も知らない紗己は、悪気なく彼の気持ちを、いとも簡単に裏切る。
「え、悩みですか? これといって無いですけど・・・・・・」
「・・・そう」
何となく切ない気分になってしまった銀時は、いちごパフェを3つ注文した。勿論、一人で食べる気だ。
――――――
一方の土方は、朝からずっと事務処理に追われていた。
こちらはいろいろと公私共に悩みを抱えているのだが、その気持ちを大量に積み重ねられた書類にぶつけている。
だがあまりにも根を詰めすぎたので、さすがに疲れが溜まってきた。少し息を抜こうかと筆を机に置いた時――。
障子戸の向こう側に微かな人の気配を感じた。
土方はそちらに顔を向けることなく、文机の端に置いていた煙草の箱を手に取りながら言い放つ。
「誰だ、そこにいるのは」
「さすがですねィ、土方さん」
「なんだ、総悟か・・・・・・」
声の主を振り返りつつ、見るからに残念そうな顔をする。そんな土方を探るような目付きで一瞥すると、沖田はズカズカと遠慮なく部屋へと入って来た。
「なんだとは失礼ですね。他に、誰だったら良かったんで?」
「・・・っ」
無意識のうちに紗己を待っている自分に気付かされ、その気持ちを誤魔化すように数度咳払いをする。
「べ、別に誰とかそんなん何もねーしっ」
土方は平静を装うと、文机の側に置いていた灰皿へと手を伸ばした。
今日はまだ中身を捨てていなかったため、吸い殻で溢れそうになっているそれを眺め、ふと動きを止める。
こうして書類整理なんかしてると、頃合いを見計らって茶淹れてきてくれたよな。ついでに吸い殻捨ててってくれたり・・・・・・。
別に遠く離れてしまったわけでもなく、長く会っていないわけでもないのに、まるで懐かしい思い出のように紗己の笑顔が脳裏に過る。
やけに感傷的な気分になっている土方を、沖田はいとも容易く現実に引き戻す。
「なに遠い目してんでェ、土方さん」
「あ、ああいや何でもねーよ。それより何か用か?」
自分の背後に腰を下ろして寛ぎだした沖田に眉をひそめつつ、土方は手にしている煙草の箱から一本取り出しながら、振り向きざまに訊ねた。
「人手を借りに来たんでさァ」
「ああ? なんだ、何かあったのか?」
「手配書の配布に人手が割けねェんで、ちょっと手伝ってもらえませんか」
沖田の発言に土方ははぁっと溜息をつくと、少し苛立ちを滲ませた鋭い双眸で沖田を一瞥する。
「手配書だァ? 何で俺がそんなことのために出向かなきゃなんねーんだ。こっちはこっちで仕事があんだよ、そんなの他の隊から適当に連れて行け」
不満たっぷりに沖田の要望を一蹴すると、摘んだままの一本を右手の人差し指と中指の間に挟んで、再び文机へと向き直った。
その姿に、沖田は沖田で分かりやすく溜息を落とすと、わざと土方を試すような言葉を投げる。
「へェー、手配書の配布は『そんなの』扱いですかィ。真選組の副長は、犯罪を未然に防ぐって気が無いらしいや」
「なんだとっ・・・」
まるで挑発するような言い草が気に障り、腹立たしそうに土方は後ろを振り返る。沸点の低い男だ。
すると沖田は、そんな土方を尻目にすくっと立ち上がり、
「副長自らが手伝ってくれりゃァ、隊の士気も上がると思ったんですがね。いいです分かりました、皆には俺から伝えときます。『そんな小せェ仕事に付き合ってられるか』って言ってたって」
無表情のまま一方的に言い切ると、土方の反応も気にせずすたすたと歩き出した。
そうなると当然土方は慌てる。今しがた火を点けようと、出番待ちをしていたライターを片手に腰を浮かせて、去ろうとする沖田を焦り気味に呼び止めた。
「ちょっ・・・待て総悟! 勝手に人の発言歪曲すんじゃねえっ」
「忙しいアンタに来てもらおうと思った俺が間違ってました。土方さん、どうぞ気にせずに仕事続けてくだせェ」
「っ・・・」
(そんな言い方されて続けられるかっ!)
土方は指に挟んだままの煙草を咥えると、スッと立ち上がり素早く火を点け嘆息した。
「はあ・・・分かった。行くぞ、おい」
仕事はまだ山のように残っているのだが、ここで行かないわけにもいかない。土方は脱いでいた上着を手に取ると、沖田よりも先に障子戸に手を掛けた。
自分の意思で行くのだと、是が非でもアピールしたいらしい。