第十一章
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――――――
「紗己、大丈夫か」
万事屋の玄関先で、激しく泣き崩れた紗己を見守ること二十分程。まだ肩をしゃくり上げながらも、ようやく落ち着きを取り戻しつつあるように見える紗己の右肩にそっと触れて銀時は言った。
紗己は一瞬ビクッと肩を強張らせたが、すぐに深呼吸をして息を整えると、胸元からハンカチを取り出して目元を押さえた。
「ご、ごめ・・・なさい、も・・・大、丈夫ですから・・・」
到底大丈夫には思えない、上擦った声で答える。
こんな状況であっても気を遣いすぎる紗己に、銀時は呆れ混じりの吐息を漏らす。
「いや、別に謝んなくていーから。それより身体冷えただろ、そろそろ中に戻ろうぜ」
「いえ・・・・・・。もう少し、このまま・・・ここに居ても、いいですか」
鼻声ではあるものの、落ち着いた口調で紗己は言うと、目元を押さえていたハンカチを下ろして、膝の上でキュッと握り締めた。
泣きすぎて浮腫んだ瞼と、真っ赤に充血した瞳があまりにも痛々しくて、銀時には今の彼女の要望を拒否するなんて、とてもじゃないが出来そうにない。
「俺は別に構わねーけど。お前が居たいってんなら、好きなだけ居ればいいんじゃね?」
紗己の方を見ずに壁に視線を向けると、軽い口調で言葉を返した。
「ありがとう、銀さん。心配掛けてごめんなさい・・・・・・」
「いーよ、謝んなくて。礼だけで十分だ」
紗己の斜め後ろに座ったままの銀時が、その場で軽く伸びをしながら答えると、玄関引き戸を見つめたままの紗己が、フフっと小さく笑った。
「何だよ、どうかしたか?」
突然聞こえた控え目な笑い声。だが、今の会話のどこに笑うところがあったのだろうかと、銀時が怪訝な面持ちで紗己を見やる。
すると紗己は、座ったまま床に手を突き、身体の向きを九十度変えて壁側へと向き直り、反対側の壁に身体を向けている銀時と目を合わせ、柔らかく微笑んだ。
「いつも・・・同じこと言われてて。悪くもないのに、簡単に謝るなって」
首に巻かれたままの襟巻きに触れながら、記憶を辿るようにゆっくりと言葉を続ける。
「私・・・しょっちゅう迷惑掛けたり、心配させちゃって。それで謝るんですけど、土方さんは・・・お前は悪くないって、いつもそう言ってくれて・・・・・・」
幸せなひと時を思い出したのだろうか。
紗己はまた瞳を潤ませ俯くと、膝の上で拳を作った。
「いいんじゃねーの」
寒い玄関に銀時のやる気の無さ気な声が響き、驚いたように紗己が俯かせていた顔を上げた。
「銀、さん?」
「いいんじゃねーの、好きなだけ謝れば。それでお前がスッキリするなら、いくらでも聞いてやるよ」
そう言うと銀時は、ふっと穏やかに笑って見せた。
紗己は握り締めていたハンカチで、流れ落ちそうになっていた涙を拭き取りながら、いつも通りの柔らかな笑顔を見せる。
「銀さんは、懐が深いですね」
「そうかー? まあ深いかどうかは知らねーが、基本寒くて風邪引きそうなのは確かだな」
にやりと笑って自身の懐を指差せば、その言葉の意味を理解した紗己が、クスクスと可愛らしく笑う。
泣き腫らした目元さえ見なければ、普段とそう変わらないように見える紗己の姿に、銀時はほっと胸を撫で下ろした。
日も完全に落ちて、夜の始まりを玄関引き戸にはめられた硝子越しに感じる。
時折強く吹く風がガタガタと引き戸を揺らす中、今しがた銀時の軽口に笑っていた紗己が、突然神妙な面持ちになり、静かに吐息してから、ぽつぽつと話し出した。
「どうして、怖いのかな・・・」
胸元に掛かる襟巻きの先にそっと触れ、伏し目がちに言葉を続ける。
「なんで私、こんなに・・・怖いんだろう・・・・・・」
身体の向きはそのままに、風に揺れる引き戸を見やる。
ギシギシと硝子が軋む音が寒い玄関に響いて、それに急かされるように紗己は、黙って自分を見つめる銀時に話し掛ける。
「今までもね、危険な任務はあったんです。怪我をして帰って来ることだって・・・・・・。それでも、信じて待っていられた・・・きっと大丈夫って、無事に帰って来るって、ちゃんと信じていられたんです・・・・・・」
苦しげに眉を寄せ、きつく目を閉じて思いを吐き出す。
「なのに・・・今日に限って、何でこんなに怖いの・・・何でこんなに不安になるんだろ・・・・・・。自分でも分からないけど、怖くて堪らないんです・・・・・・」
膝の上でハンカチを握り締める紗己の両手が、微かに震えている。
その姿に銀時は吐息すると、胡座をかいて背中を少し丸め、俯く紗己の横顔を眺めながら話し出した。
「アイツの戦う目的が、これまでとは違うからだろ」
静けさに包まれた玄関先に、低く響いた銀時の真剣な声。
紗己は顔を上げて、その言葉の意味を知ろうと銀時を見つめ返す。
「目的・・・・・・?」
「ああ。今まで奴は大義のために戦ってきた。まあ、アイツに幕府への忠誠心があるとも思えねーが、真選組を護るという大義のために戦ってきたのは確かだ。奴にとっちゃ、それが侍としてのあるべき姿なんだろうな」
黙って聞いている紗己と目を合わせ、真剣な面持ちで話を続ける。
「けど、今回は違う。アイツはお前のために、お前を護るために刀を振るおうとしてる。そのことがお前は怖いんだろ、紗己」
「っ・・・」
「自分のせいでアイツに何かあったらって、それがお前は怖いんだよ」
言い終えると銀時は、紗己から視線を逸らして嘆息した。
今にも泣き出しそうな顔をしている紗己を、これ以上見ているのが辛かったからだ。
(ここまではっきり言うべきじゃなかったか)
後悔の念に駆られるも、言ってしまった事実は変えられないと、複雑な表情のまま銀時は紗己へとまた視線を戻した。
「紗己、大丈夫か」
万事屋の玄関先で、激しく泣き崩れた紗己を見守ること二十分程。まだ肩をしゃくり上げながらも、ようやく落ち着きを取り戻しつつあるように見える紗己の右肩にそっと触れて銀時は言った。
紗己は一瞬ビクッと肩を強張らせたが、すぐに深呼吸をして息を整えると、胸元からハンカチを取り出して目元を押さえた。
「ご、ごめ・・・なさい、も・・・大、丈夫ですから・・・」
到底大丈夫には思えない、上擦った声で答える。
こんな状況であっても気を遣いすぎる紗己に、銀時は呆れ混じりの吐息を漏らす。
「いや、別に謝んなくていーから。それより身体冷えただろ、そろそろ中に戻ろうぜ」
「いえ・・・・・・。もう少し、このまま・・・ここに居ても、いいですか」
鼻声ではあるものの、落ち着いた口調で紗己は言うと、目元を押さえていたハンカチを下ろして、膝の上でキュッと握り締めた。
泣きすぎて浮腫んだ瞼と、真っ赤に充血した瞳があまりにも痛々しくて、銀時には今の彼女の要望を拒否するなんて、とてもじゃないが出来そうにない。
「俺は別に構わねーけど。お前が居たいってんなら、好きなだけ居ればいいんじゃね?」
紗己の方を見ずに壁に視線を向けると、軽い口調で言葉を返した。
「ありがとう、銀さん。心配掛けてごめんなさい・・・・・・」
「いーよ、謝んなくて。礼だけで十分だ」
紗己の斜め後ろに座ったままの銀時が、その場で軽く伸びをしながら答えると、玄関引き戸を見つめたままの紗己が、フフっと小さく笑った。
「何だよ、どうかしたか?」
突然聞こえた控え目な笑い声。だが、今の会話のどこに笑うところがあったのだろうかと、銀時が怪訝な面持ちで紗己を見やる。
すると紗己は、座ったまま床に手を突き、身体の向きを九十度変えて壁側へと向き直り、反対側の壁に身体を向けている銀時と目を合わせ、柔らかく微笑んだ。
「いつも・・・同じこと言われてて。悪くもないのに、簡単に謝るなって」
首に巻かれたままの襟巻きに触れながら、記憶を辿るようにゆっくりと言葉を続ける。
「私・・・しょっちゅう迷惑掛けたり、心配させちゃって。それで謝るんですけど、土方さんは・・・お前は悪くないって、いつもそう言ってくれて・・・・・・」
幸せなひと時を思い出したのだろうか。
紗己はまた瞳を潤ませ俯くと、膝の上で拳を作った。
「いいんじゃねーの」
寒い玄関に銀時のやる気の無さ気な声が響き、驚いたように紗己が俯かせていた顔を上げた。
「銀、さん?」
「いいんじゃねーの、好きなだけ謝れば。それでお前がスッキリするなら、いくらでも聞いてやるよ」
そう言うと銀時は、ふっと穏やかに笑って見せた。
紗己は握り締めていたハンカチで、流れ落ちそうになっていた涙を拭き取りながら、いつも通りの柔らかな笑顔を見せる。
「銀さんは、懐が深いですね」
「そうかー? まあ深いかどうかは知らねーが、基本寒くて風邪引きそうなのは確かだな」
にやりと笑って自身の懐を指差せば、その言葉の意味を理解した紗己が、クスクスと可愛らしく笑う。
泣き腫らした目元さえ見なければ、普段とそう変わらないように見える紗己の姿に、銀時はほっと胸を撫で下ろした。
日も完全に落ちて、夜の始まりを玄関引き戸にはめられた硝子越しに感じる。
時折強く吹く風がガタガタと引き戸を揺らす中、今しがた銀時の軽口に笑っていた紗己が、突然神妙な面持ちになり、静かに吐息してから、ぽつぽつと話し出した。
「どうして、怖いのかな・・・」
胸元に掛かる襟巻きの先にそっと触れ、伏し目がちに言葉を続ける。
「なんで私、こんなに・・・怖いんだろう・・・・・・」
身体の向きはそのままに、風に揺れる引き戸を見やる。
ギシギシと硝子が軋む音が寒い玄関に響いて、それに急かされるように紗己は、黙って自分を見つめる銀時に話し掛ける。
「今までもね、危険な任務はあったんです。怪我をして帰って来ることだって・・・・・・。それでも、信じて待っていられた・・・きっと大丈夫って、無事に帰って来るって、ちゃんと信じていられたんです・・・・・・」
苦しげに眉を寄せ、きつく目を閉じて思いを吐き出す。
「なのに・・・今日に限って、何でこんなに怖いの・・・何でこんなに不安になるんだろ・・・・・・。自分でも分からないけど、怖くて堪らないんです・・・・・・」
膝の上でハンカチを握り締める紗己の両手が、微かに震えている。
その姿に銀時は吐息すると、胡座をかいて背中を少し丸め、俯く紗己の横顔を眺めながら話し出した。
「アイツの戦う目的が、これまでとは違うからだろ」
静けさに包まれた玄関先に、低く響いた銀時の真剣な声。
紗己は顔を上げて、その言葉の意味を知ろうと銀時を見つめ返す。
「目的・・・・・・?」
「ああ。今まで奴は大義のために戦ってきた。まあ、アイツに幕府への忠誠心があるとも思えねーが、真選組を護るという大義のために戦ってきたのは確かだ。奴にとっちゃ、それが侍としてのあるべき姿なんだろうな」
黙って聞いている紗己と目を合わせ、真剣な面持ちで話を続ける。
「けど、今回は違う。アイツはお前のために、お前を護るために刀を振るおうとしてる。そのことがお前は怖いんだろ、紗己」
「っ・・・」
「自分のせいでアイツに何かあったらって、それがお前は怖いんだよ」
言い終えると銀時は、紗己から視線を逸らして嘆息した。
今にも泣き出しそうな顔をしている紗己を、これ以上見ているのが辛かったからだ。
(ここまではっきり言うべきじゃなかったか)
後悔の念に駆られるも、言ってしまった事実は変えられないと、複雑な表情のまま銀時は紗己へとまた視線を戻した。