第十章
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「なっ、テメーいつから聞いて・・・」
「ああー? 聞き耳立ててたみてーに言うんじゃねーよ、人聞き悪ィな」
壁に凭せ掛けていた身体を起こすと、銀時は相変わらずの気怠げな表情のまま言葉を続ける。
「部屋から出てきたと思ったら、腹がいてーだ何だ聞こえたからさ。何かあったんじゃねえかって、心配してやったんだろーが」
「くっ・・・」
照れを滲ませながらも、土方は悔しそうに言葉を飲み込む。
確かに銀時の言う通りなのだ。
紗己の異変に慌てて襖を開けっ放しにしていたのも土方自身なので、見るなと言うにも無理があるし、そもそもここは土方の家ではない。
おまけに見られていることにも気付かなかったのだから、反論のしようがない。
これ以上は墓穴を掘るだけだと自らに言い聞かせると、土方は盛大に溜息を落として、外していた刀を取りに行くためソファの前へと回り込んだ。
立て掛けていた愛刀を手に取り、帯にしっかりと差し込む。左腰の重みに何となく落ち着きを感じていると、ふと銀時の隣に佇む人物に目がいった。
「副長! 準備出来ましたよ」
「お、おう・・・」
いつもと変わらぬ部下の声に、思わず口籠ってしまった。
それもそのはず、監察方・山崎退は一見すると女にしか見えなかったからだ。
愛しい妻である紗己の着物に身を包み、その妻と同じ髪の長さのカツラをつけ、肌の粗さを隠す化粧を施している部下は、遠目に見れば男とは気付かれないだろう。
「山崎、お前すげーな・・・・・・」
もはや武器とも言える突出した地味さに感心しながら言えば、山崎は嬉しそうに笑っている。
「いやほんと、なかなか良く仕上がってるじゃねーか。近くで見たら違和感あるけど、遠くからなら確かに紗己っぽいわ。なあ、紗己?」
隣にいる山崎の女装に銀時も感心しつつ、和室の入口付近で自分と土方との言い合いをハラハラしながら見ていた紗己に声を掛ける。
すると紗己は、自身に扮している山崎の姿をまじまじと見つめてから。
「ええ、ほんとに。すごいですね、山崎さん」
驚きを含んだ笑顔を見せた。
上司を筆頭に珍しく称賛を浴びた山崎は、誇らしげに胸を張って紗己を一瞥する。
「これで対策はバッチリだから、安心してていいからね、紗己ちゃん!」
「え、あ・・・はい」
紗己は瞬時に顔を曇らせた。
山崎の女装が意味するところを思い出し、自分が危険に巻き込まれていること、そんな自分を護るために夫は戦いに赴くのだということを再認識したからだ。
不安に駆られて、けれどそれを押し隠そうとおはしょりを強く掴んでいる妻の姿に吐息すると、土方は彼女の側まで行きそっと肩に触れた。
「胎動、落ち着いたか」
「えっ・・・あ、いえ、さっきよりは間隔長いですけど、まだ動いてますよ」
「そうか」
全く別の話題を振ることで、紗己の意識を不安から切り離そうとした土方の作戦は成功した。
二人にとって喜ばしい話題である胎動についてを訊ねられ、紗己はいつも通りの穏やかな表情を見せる。
そこへ、二人の様子を見ていた銀時が、ポキポキと首を回しながらソファの背もたれに腰を掛けて、まるで独り言のように呟いた。
「声、掛けてやれば? 胎教にいいらしいし。ほら、パパ頑張ってくるよーってさ」
淡々と言ってから、からかうような表情で土方を一瞥する。
「ばっ・・・な、何言ってんだテメーはっ」
「心配しなくても、お前がパパしてるところは見ないでやっから」
焦り声で反論する土方に生暖かい目を向けると、銀時は玄関前の廊下とを仕切る引き戸へと歩きながら言った。
それに合わせるように山崎も、ニヤニヤと笑いながら銀時のあとに続く。
「それじゃあ先に玄関行ってますね、お父さん!」
「テメーはうっせーんだよっ!」
土方が部下に向かって怒鳴り声を上げるも、二人はそのまま引き戸を閉めて玄関へと行ってしまった。
「っとに、ふざけやがってあの野郎共・・・」
吐き捨てるように言うと、土方は嘆息しながら近い方のソファにドサッと腰を下ろした。
「・・・紗己」
しんと静まり返った室内に土方の声が響き、名を呼ばれた紗己が少し慌てて返事をする。
「は、はい」
「こっち来い」
言いながら自身の開いた足の間を指差すと、紗己は僅かに首を傾げつつ、土方の目の前で立ち止まった。
「あの、土方さん?」
隣に座れではなく、目の前に来るよう指示してきた夫の顔を不思議そうに見つめると、土方は軽く咳払いをしてからスッと手を伸ばし、紗己のおはしょりを捲って、彼女の下腹にそっと右手を当てた。
「え、あ、あのっ」
思いもよらない土方の行動に、驚きを露わにした紗己。
少し頬を赤らめてソファに座っている土方を見下ろすと、その視線を感じ取った土方もまた、少し恥ずかしそうに左手で頬を掻いた。
「あー・・・まあ、こういうのは個人差があるだろうからな」
「え?」
「その、聞き分けられるかは知らねェが、声は・・・聴こえてるかも知んねェだろ」
そう言うと土方は、もう一度咳払いをしてから、左手を紗己の腰に回し、右手で捲ったおはしょりを押さえて、彼女の下腹にそっと顔を近付けた。
高い鼻の先を着物に押し付け、そこに唇をそっと触れさせる。
土方はすぅっと息を吸い込むと、愛しい妻の腹の中に向けて声を掛けた。
「聴こえてるか」
緊張混じりの、けれど優しい声音で言葉を続ける。
「必ずお前達を迎えに来るから、良い子で待ってろ」
強い決意を秘めた約束の言葉が腹に響いた、その時――
内側から臍の下辺りをトン! と刺激され、思わず紗己が「あっ」と声を漏らした。
土方もその胎動に気付いたようで、勢いよく顔を上げると、はにかみながら頭上の紗己に問い掛ける。
「今、動いた・・・いや、蹴ったよな?」
「はい! 土方さんも気付きました?」
「ああ・・・」
感嘆の声を漏らし、紗己の腹へと視線を落として、そこをじっと見つめる。週数的にはまだ早いだろうと理解していても、聴こえているのではないかと期待してしまう。
その気持ちは紗己も同じなのだろう。
自分の腰に回されている、土方の逞しい腕にそっと触れると、
「きっと聴こえてるんですよ、土方さんの声」
そう言って嬉しそうに微笑んだ。
「ああー? 聞き耳立ててたみてーに言うんじゃねーよ、人聞き悪ィな」
壁に凭せ掛けていた身体を起こすと、銀時は相変わらずの気怠げな表情のまま言葉を続ける。
「部屋から出てきたと思ったら、腹がいてーだ何だ聞こえたからさ。何かあったんじゃねえかって、心配してやったんだろーが」
「くっ・・・」
照れを滲ませながらも、土方は悔しそうに言葉を飲み込む。
確かに銀時の言う通りなのだ。
紗己の異変に慌てて襖を開けっ放しにしていたのも土方自身なので、見るなと言うにも無理があるし、そもそもここは土方の家ではない。
おまけに見られていることにも気付かなかったのだから、反論のしようがない。
これ以上は墓穴を掘るだけだと自らに言い聞かせると、土方は盛大に溜息を落として、外していた刀を取りに行くためソファの前へと回り込んだ。
立て掛けていた愛刀を手に取り、帯にしっかりと差し込む。左腰の重みに何となく落ち着きを感じていると、ふと銀時の隣に佇む人物に目がいった。
「副長! 準備出来ましたよ」
「お、おう・・・」
いつもと変わらぬ部下の声に、思わず口籠ってしまった。
それもそのはず、監察方・山崎退は一見すると女にしか見えなかったからだ。
愛しい妻である紗己の着物に身を包み、その妻と同じ髪の長さのカツラをつけ、肌の粗さを隠す化粧を施している部下は、遠目に見れば男とは気付かれないだろう。
「山崎、お前すげーな・・・・・・」
もはや武器とも言える突出した地味さに感心しながら言えば、山崎は嬉しそうに笑っている。
「いやほんと、なかなか良く仕上がってるじゃねーか。近くで見たら違和感あるけど、遠くからなら確かに紗己っぽいわ。なあ、紗己?」
隣にいる山崎の女装に銀時も感心しつつ、和室の入口付近で自分と土方との言い合いをハラハラしながら見ていた紗己に声を掛ける。
すると紗己は、自身に扮している山崎の姿をまじまじと見つめてから。
「ええ、ほんとに。すごいですね、山崎さん」
驚きを含んだ笑顔を見せた。
上司を筆頭に珍しく称賛を浴びた山崎は、誇らしげに胸を張って紗己を一瞥する。
「これで対策はバッチリだから、安心してていいからね、紗己ちゃん!」
「え、あ・・・はい」
紗己は瞬時に顔を曇らせた。
山崎の女装が意味するところを思い出し、自分が危険に巻き込まれていること、そんな自分を護るために夫は戦いに赴くのだということを再認識したからだ。
不安に駆られて、けれどそれを押し隠そうとおはしょりを強く掴んでいる妻の姿に吐息すると、土方は彼女の側まで行きそっと肩に触れた。
「胎動、落ち着いたか」
「えっ・・・あ、いえ、さっきよりは間隔長いですけど、まだ動いてますよ」
「そうか」
全く別の話題を振ることで、紗己の意識を不安から切り離そうとした土方の作戦は成功した。
二人にとって喜ばしい話題である胎動についてを訊ねられ、紗己はいつも通りの穏やかな表情を見せる。
そこへ、二人の様子を見ていた銀時が、ポキポキと首を回しながらソファの背もたれに腰を掛けて、まるで独り言のように呟いた。
「声、掛けてやれば? 胎教にいいらしいし。ほら、パパ頑張ってくるよーってさ」
淡々と言ってから、からかうような表情で土方を一瞥する。
「ばっ・・・な、何言ってんだテメーはっ」
「心配しなくても、お前がパパしてるところは見ないでやっから」
焦り声で反論する土方に生暖かい目を向けると、銀時は玄関前の廊下とを仕切る引き戸へと歩きながら言った。
それに合わせるように山崎も、ニヤニヤと笑いながら銀時のあとに続く。
「それじゃあ先に玄関行ってますね、お父さん!」
「テメーはうっせーんだよっ!」
土方が部下に向かって怒鳴り声を上げるも、二人はそのまま引き戸を閉めて玄関へと行ってしまった。
「っとに、ふざけやがってあの野郎共・・・」
吐き捨てるように言うと、土方は嘆息しながら近い方のソファにドサッと腰を下ろした。
「・・・紗己」
しんと静まり返った室内に土方の声が響き、名を呼ばれた紗己が少し慌てて返事をする。
「は、はい」
「こっち来い」
言いながら自身の開いた足の間を指差すと、紗己は僅かに首を傾げつつ、土方の目の前で立ち止まった。
「あの、土方さん?」
隣に座れではなく、目の前に来るよう指示してきた夫の顔を不思議そうに見つめると、土方は軽く咳払いをしてからスッと手を伸ばし、紗己のおはしょりを捲って、彼女の下腹にそっと右手を当てた。
「え、あ、あのっ」
思いもよらない土方の行動に、驚きを露わにした紗己。
少し頬を赤らめてソファに座っている土方を見下ろすと、その視線を感じ取った土方もまた、少し恥ずかしそうに左手で頬を掻いた。
「あー・・・まあ、こういうのは個人差があるだろうからな」
「え?」
「その、聞き分けられるかは知らねェが、声は・・・聴こえてるかも知んねェだろ」
そう言うと土方は、もう一度咳払いをしてから、左手を紗己の腰に回し、右手で捲ったおはしょりを押さえて、彼女の下腹にそっと顔を近付けた。
高い鼻の先を着物に押し付け、そこに唇をそっと触れさせる。
土方はすぅっと息を吸い込むと、愛しい妻の腹の中に向けて声を掛けた。
「聴こえてるか」
緊張混じりの、けれど優しい声音で言葉を続ける。
「必ずお前達を迎えに来るから、良い子で待ってろ」
強い決意を秘めた約束の言葉が腹に響いた、その時――
内側から臍の下辺りをトン! と刺激され、思わず紗己が「あっ」と声を漏らした。
土方もその胎動に気付いたようで、勢いよく顔を上げると、はにかみながら頭上の紗己に問い掛ける。
「今、動いた・・・いや、蹴ったよな?」
「はい! 土方さんも気付きました?」
「ああ・・・」
感嘆の声を漏らし、紗己の腹へと視線を落として、そこをじっと見つめる。週数的にはまだ早いだろうと理解していても、聴こえているのではないかと期待してしまう。
その気持ちは紗己も同じなのだろう。
自分の腰に回されている、土方の逞しい腕にそっと触れると、
「きっと聴こえてるんですよ、土方さんの声」
そう言って嬉しそうに微笑んだ。