第十章
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突然金を出してきて、迎えに来るまで紗己を預かってくれと言う。想定外の依頼に銀時は眉を上げて土方を見やった。本格的に厄介事の匂いがする。
「おいおい、どういうことだ? 紗己をここで預かれなんて、ややこしい問題持ち込んできてんじゃねーだろうなァ?」
「フッ・・・残念ながらテメーの言うとおり、ややこしい問題だよ」
嫌そうに顔をしかめる銀時を一瞥して、自嘲気味に笑ったのは一瞬のこと。すぐさま土方は険しい表情で、おもむろに腕を組んで話し始めた。
「昨夜の接待で厄介な連中に目を付けられてな、勘定所の高官が犯そうとしてる公金横領に巻き込まれちまった。奴は子飼いの武器商人と結託して、水増し請求で荒稼ぎするつもりだ」
「巻き込まれたってのは、テメー個人がか?」
「ああ。奴等は紗己を脅しのネタにして、俺に真選組への武器の卸をその武器問屋に替えろと迫ってきた」
話しながら自然と袂に差し入れた右手を、言い終えてからそっと引き抜いた。恐らく無意識に煙草を吸おうとしたのだろう。土方は再びソファに腰を下ろすと、自身の右手に視線を落として嘆息する。
「・・・迂闊だったよ。何の想定もせずに、近藤さんの代わりにのこのことあの場へ出向いちまったんだからな」
「敵は端から、決定的な弱みを持つテメーに狙いを定めてたってわけか」
普段のやる気の無さ気な表情とは違い真剣な面持ちの銀時の発言に、土方は僅かに驚いたような表情を見せた。存外頭のキレる野郎だ。胸中で呟く。
気の重い話題だけに、せめて気持ちを落ち着かせたいと煙草への欲求が募る土方だが、襖一枚隔てた向こうに紗己が居るため、ぐっとそれを抑え込む。愛しい妻を思いながら吐息すると、ソファの背もたれに身体を預け渋面を浮かべて天井を見上げた。
「・・・奴等は、俺が話を飲まなければ紗己に手を掛けるつもりだ」
天井の木目から視線を外した土方は、ゆっくりと背中を起こし鋭い双眸で銀時を見据えて言葉を続ける。
「だから、事が決着するまでテメーに紗己を預けたい。金さえ払えば何でもやるのがテメーらの仕事だろ、万事屋」
雑な言い方ではあるものの、真剣な表情には僅かに笑みが滲んでいるように見えた。それを自分への信頼の表れだと受け取った銀時は、仕方がないと言った表情で吐息しながらガリガリと頭を掻いた。
「そりゃァまあ、仕事ならな。けど預かるって言ってもよー、どれくらい預かりゃいいんだ?」
「そんなに長くはかからねーさ。うまく事が運べば、明日のうちには迎えに来れる」
「明日って・・・そりゃまた随分性急だな。よほど見込みのある作戦でも立ててんのか?」
土方の発言に、銀時は眉を寄せて首を傾げる。
厄介な連中に目を付けられ、紗己まで命を狙われるかも知れないという。だからこそ彼女の身の安全のために、万事屋 に依頼までしてきたのだ。それなのに、昨日から始まった問題がたった一日でどう解決出来るというのか。
得心がいかない様子の銀時を見やると、土方は腕を組んで淡々と種明かしをし始めた。
「件の武器商人が、今日の深夜に攘夷浪士共と武器の取引をするって情報を掴んだ。この現場を押さえて連中とっ捕まえて、朝になったら例の高官の屋敷に乗り込むって算段だ」
話しながら再びソファの背もたれに身体を預け、顎を引いて銀時を一瞥する。
一方の銀時は、今しがた聞いたばかりの話を脳内で整理して、なるほどなと小さく呟いた。そんなうまい状況が揃えば、一気にカタを付けようと動き出すのは当然だ。
だが、土方が敵と接触を持ったのは昨夜の話だという。何故そんな情報をたかだか半日程度で掴むことが出来たのだろうか――眉間に皺を寄せて、これまでに沖田や紗己から聞いた話と、今聞いたばかりの土方の話を重ね合わせてみる。するとそこに一つの可能性が浮かんできた。
「昨日の今日で、よくそんな情報が手に入ったな。情報源は、夫婦喧嘩の原因の芸者ってとこか」
椅子ごと身体を土方の方に向け、冷静な口調で訊ねる。すると土方は僅かに目を見開いたが、すぐに落ち着いた様子で「ああ」と短く返事をした。
やっぱりそうか。土方の肯定で点と点が線で繋がり、紗己を傷付け苦しめていた問題も、実際は浮気では無いのだと確信を得る。そのことに銀時は不思議な安堵を覚えた。
一方の土方も、銀時の発言を受けて彼が全ての事柄を理解したのだと知る。
きっと沖田から今朝の騒動についても聞いているのだろう。屯所の門周りに潜んでいた敵の見張りであろう気配にも、あの沖田が気付かないはずがない。であれば、その情報も含めて沖田は銀時に伝えているはずだ。
どうやら総悟もコイツも、俺が浮気してるとは思ってねーようだな。土方もまた安堵の息をつく。
そこへ銀時が、机に左肘を乗せて頬杖をつきながら話し掛けてきた。
「そう簡単に信用しちまって大丈夫なのか、その芸者。女はアレだよ、怖い生き物だからねー」
普段と変わらぬ気怠げな表情を見せる銀時の放った言葉に、土方は些かムッとした表情を見せる。
「俺は女に騙されるようなヘマはしねェ」
「じゃあその芸者、信じるに値するだけの情報を持ってるってことか」
「ああ。奴等の不正の記録を俺に寄越してきた」
言いながら土方は、袂から証拠が入った封筒を取り出した。
「主犯の高官――安藤って男なんだが、コイツがなかなか几帳面な男らしくてな。過去の汚職の記録・・・それこそ日付や相手、金額までしっかり書き記してやがった。その文書を、例の芸者の部屋に保管してたんだとよ」
これはその一部だがな、と手にした封筒に視線を落として付け加えると、貴重な証拠が入ったその封筒をまた袂に戻した。
「おいおい、どういうことだ? 紗己をここで預かれなんて、ややこしい問題持ち込んできてんじゃねーだろうなァ?」
「フッ・・・残念ながらテメーの言うとおり、ややこしい問題だよ」
嫌そうに顔をしかめる銀時を一瞥して、自嘲気味に笑ったのは一瞬のこと。すぐさま土方は険しい表情で、おもむろに腕を組んで話し始めた。
「昨夜の接待で厄介な連中に目を付けられてな、勘定所の高官が犯そうとしてる公金横領に巻き込まれちまった。奴は子飼いの武器商人と結託して、水増し請求で荒稼ぎするつもりだ」
「巻き込まれたってのは、テメー個人がか?」
「ああ。奴等は紗己を脅しのネタにして、俺に真選組への武器の卸をその武器問屋に替えろと迫ってきた」
話しながら自然と袂に差し入れた右手を、言い終えてからそっと引き抜いた。恐らく無意識に煙草を吸おうとしたのだろう。土方は再びソファに腰を下ろすと、自身の右手に視線を落として嘆息する。
「・・・迂闊だったよ。何の想定もせずに、近藤さんの代わりにのこのことあの場へ出向いちまったんだからな」
「敵は端から、決定的な弱みを持つテメーに狙いを定めてたってわけか」
普段のやる気の無さ気な表情とは違い真剣な面持ちの銀時の発言に、土方は僅かに驚いたような表情を見せた。存外頭のキレる野郎だ。胸中で呟く。
気の重い話題だけに、せめて気持ちを落ち着かせたいと煙草への欲求が募る土方だが、襖一枚隔てた向こうに紗己が居るため、ぐっとそれを抑え込む。愛しい妻を思いながら吐息すると、ソファの背もたれに身体を預け渋面を浮かべて天井を見上げた。
「・・・奴等は、俺が話を飲まなければ紗己に手を掛けるつもりだ」
天井の木目から視線を外した土方は、ゆっくりと背中を起こし鋭い双眸で銀時を見据えて言葉を続ける。
「だから、事が決着するまでテメーに紗己を預けたい。金さえ払えば何でもやるのがテメーらの仕事だろ、万事屋」
雑な言い方ではあるものの、真剣な表情には僅かに笑みが滲んでいるように見えた。それを自分への信頼の表れだと受け取った銀時は、仕方がないと言った表情で吐息しながらガリガリと頭を掻いた。
「そりゃァまあ、仕事ならな。けど預かるって言ってもよー、どれくらい預かりゃいいんだ?」
「そんなに長くはかからねーさ。うまく事が運べば、明日のうちには迎えに来れる」
「明日って・・・そりゃまた随分性急だな。よほど見込みのある作戦でも立ててんのか?」
土方の発言に、銀時は眉を寄せて首を傾げる。
厄介な連中に目を付けられ、紗己まで命を狙われるかも知れないという。だからこそ彼女の身の安全のために、
得心がいかない様子の銀時を見やると、土方は腕を組んで淡々と種明かしをし始めた。
「件の武器商人が、今日の深夜に攘夷浪士共と武器の取引をするって情報を掴んだ。この現場を押さえて連中とっ捕まえて、朝になったら例の高官の屋敷に乗り込むって算段だ」
話しながら再びソファの背もたれに身体を預け、顎を引いて銀時を一瞥する。
一方の銀時は、今しがた聞いたばかりの話を脳内で整理して、なるほどなと小さく呟いた。そんなうまい状況が揃えば、一気にカタを付けようと動き出すのは当然だ。
だが、土方が敵と接触を持ったのは昨夜の話だという。何故そんな情報をたかだか半日程度で掴むことが出来たのだろうか――眉間に皺を寄せて、これまでに沖田や紗己から聞いた話と、今聞いたばかりの土方の話を重ね合わせてみる。するとそこに一つの可能性が浮かんできた。
「昨日の今日で、よくそんな情報が手に入ったな。情報源は、夫婦喧嘩の原因の芸者ってとこか」
椅子ごと身体を土方の方に向け、冷静な口調で訊ねる。すると土方は僅かに目を見開いたが、すぐに落ち着いた様子で「ああ」と短く返事をした。
やっぱりそうか。土方の肯定で点と点が線で繋がり、紗己を傷付け苦しめていた問題も、実際は浮気では無いのだと確信を得る。そのことに銀時は不思議な安堵を覚えた。
一方の土方も、銀時の発言を受けて彼が全ての事柄を理解したのだと知る。
きっと沖田から今朝の騒動についても聞いているのだろう。屯所の門周りに潜んでいた敵の見張りであろう気配にも、あの沖田が気付かないはずがない。であれば、その情報も含めて沖田は銀時に伝えているはずだ。
どうやら総悟もコイツも、俺が浮気してるとは思ってねーようだな。土方もまた安堵の息をつく。
そこへ銀時が、机に左肘を乗せて頬杖をつきながら話し掛けてきた。
「そう簡単に信用しちまって大丈夫なのか、その芸者。女はアレだよ、怖い生き物だからねー」
普段と変わらぬ気怠げな表情を見せる銀時の放った言葉に、土方は些かムッとした表情を見せる。
「俺は女に騙されるようなヘマはしねェ」
「じゃあその芸者、信じるに値するだけの情報を持ってるってことか」
「ああ。奴等の不正の記録を俺に寄越してきた」
言いながら土方は、袂から証拠が入った封筒を取り出した。
「主犯の高官――安藤って男なんだが、コイツがなかなか几帳面な男らしくてな。過去の汚職の記録・・・それこそ日付や相手、金額までしっかり書き記してやがった。その文書を、例の芸者の部屋に保管してたんだとよ」
これはその一部だがな、と手にした封筒に視線を落として付け加えると、貴重な証拠が入ったその封筒をまた袂に戻した。