序章
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こんな事――?
紗己の口から聞かされたその言葉に、サァッと血の気が引いていく。
土方は跳ねる鼓動に息苦しさを感じつつ、現状を把握せねばと寝起きの頭を更に必死に回転させる。
いやいやいやまさかんなわけねーだろ・・・さっきのあれは夢なんだからそうだ夢だ夢に違いない。ほら、夢って目覚めるまでの一、二秒で見てるとかって話だし、いやまァあの夢は結構長く・・・いやいや短い時間で長い夢見ちまっただけだああそうだ。だからここに寝かされてすぐに夢見て、こいつが動いた音で目が覚めただけだ、ああそうだそうに違いない!
藁にも縋る思いで期待を込めて彼女に視線をやるが、その目に映るのは、乱れに乱れた着物姿。
横座りのままでいる紗己のはだけた胸元や、裾が捲れ上がりさらけ出された白い内腿には、幾つもの紅い刻印が月明かりによって照らし出されている。
「・・・・・・」
この状況を前に言葉など出てくるはずもなく、土方は頬を引きつらせながら唇を一文字に結びごくりと息を呑んだ。
オイオイまじかよ・・・状況証拠だけじゃなく、物的証拠まで揃ってんじゃねえか・・・・・・。
はじめは美人局かと一瞬疑いはしたが、酔い潰れるまで飲んでいたこと、そして先程まで見ていた夢、それらを鑑みればこれは自分が仕出かしたらしいと認めざるを得ない。
(ああ、やっちまった・・・・・・)
現実を受け入れた土方が、黒髪を揺らしてがっくりと項垂れる。すると月明かりを背にした紗己が、申し訳無さそうな表情を浮かべて、まるで慰めるかのように声を掛けてきた。
「あの・・・副長さんが起きる前に、すぐに出て行こうと思ったんですけど、痛くてしばらく動けなくて・・・・・・。起こしちゃって、ごめんなさい」
別に土方は起こされたことに怒っているわけではないのだが、どうやら彼女も動転しているようだ。
そしてたった今紗己の口から発せられた言葉を耳にした途端、土方は頭を抱えたくなった。
『痛くてしばらく動けなくて』
・・・・・・?
『痛くてしばらく動けなくて』
・・・・・・。
『痛くて』『しばらく動けなくて』
――って・・・
ちょ、ちょちょっと待った! 痛いってなに、何だよ!? どう考えてもこりゃヤっちまったんだろう、それは認める! でも『痛い』って!? いくら夢うつつだったからって、乱暴に抱いたつもりはねえぞ!
そりゃァ久方ぶりだったから多少は長かったかも知れねェが、乱暴には絶対にしてねえっ!! なら・・・なんで動けない程痛いんだよ? え、まさかんなわけ・・・でも痛いっつったらそれしか・・・コイツひょっとして――・・・
「『はじめて』、だったのか・・・・・・?」
掠れた低い声で問われ、紗己は恥ずかしいのか怯えたのか、目を逸らして小さく頷いた。
「嘘だろ・・・・・・」
額を押さえ肩を落とし、深く深く嘆息する。よれよれのシャツにトランクス。後悔を絵に描いたような姿だ。
夜明け前の薄暗い部屋の中は、息苦しくなる程の静けさに包まれている。
そしてこの重苦しい空気に先に耐えられなくなったのは、紗己の方だった。
「わ、私平気ですからっ」
着物の乱れを雑に直し、紗己は腰を押さえながらよろよろと立ち上がった。
土方は緩慢な動きで、それを追うように顔を上げる。瞬間、ぱちりと視線が絡んだ。
気が動転しているのは確かだろうが、どこか泣きそうにも見える作り笑顔を浮かべる紗己が、自らに言い聞かせるようにひたすら明るい声を出す。
「ほ、本当に平気ですから! あのっ、副長さんひどく酔ってましたし、事故! そう、事故みたいなもんですから!! 私、気にしてませんから・・・だから副長さんも気にしないでください!」
やや一方的に言い放つと、着物の裾と足を引きずりながら紗己は部屋を後にした。
紗己の口から聞かされたその言葉に、サァッと血の気が引いていく。
土方は跳ねる鼓動に息苦しさを感じつつ、現状を把握せねばと寝起きの頭を更に必死に回転させる。
いやいやいやまさかんなわけねーだろ・・・さっきのあれは夢なんだからそうだ夢だ夢に違いない。ほら、夢って目覚めるまでの一、二秒で見てるとかって話だし、いやまァあの夢は結構長く・・・いやいや短い時間で長い夢見ちまっただけだああそうだ。だからここに寝かされてすぐに夢見て、こいつが動いた音で目が覚めただけだ、ああそうだそうに違いない!
藁にも縋る思いで期待を込めて彼女に視線をやるが、その目に映るのは、乱れに乱れた着物姿。
横座りのままでいる紗己のはだけた胸元や、裾が捲れ上がりさらけ出された白い内腿には、幾つもの紅い刻印が月明かりによって照らし出されている。
「・・・・・・」
この状況を前に言葉など出てくるはずもなく、土方は頬を引きつらせながら唇を一文字に結びごくりと息を呑んだ。
オイオイまじかよ・・・状況証拠だけじゃなく、物的証拠まで揃ってんじゃねえか・・・・・・。
はじめは美人局かと一瞬疑いはしたが、酔い潰れるまで飲んでいたこと、そして先程まで見ていた夢、それらを鑑みればこれは自分が仕出かしたらしいと認めざるを得ない。
(ああ、やっちまった・・・・・・)
現実を受け入れた土方が、黒髪を揺らしてがっくりと項垂れる。すると月明かりを背にした紗己が、申し訳無さそうな表情を浮かべて、まるで慰めるかのように声を掛けてきた。
「あの・・・副長さんが起きる前に、すぐに出て行こうと思ったんですけど、痛くてしばらく動けなくて・・・・・・。起こしちゃって、ごめんなさい」
別に土方は起こされたことに怒っているわけではないのだが、どうやら彼女も動転しているようだ。
そしてたった今紗己の口から発せられた言葉を耳にした途端、土方は頭を抱えたくなった。
『痛くてしばらく動けなくて』
・・・・・・?
『痛くてしばらく動けなくて』
・・・・・・。
『痛くて』『しばらく動けなくて』
――って・・・
ちょ、ちょちょっと待った! 痛いってなに、何だよ!? どう考えてもこりゃヤっちまったんだろう、それは認める! でも『痛い』って!? いくら夢うつつだったからって、乱暴に抱いたつもりはねえぞ!
そりゃァ久方ぶりだったから多少は長かったかも知れねェが、乱暴には絶対にしてねえっ!! なら・・・なんで動けない程痛いんだよ? え、まさかんなわけ・・・でも痛いっつったらそれしか・・・コイツひょっとして――・・・
「『はじめて』、だったのか・・・・・・?」
掠れた低い声で問われ、紗己は恥ずかしいのか怯えたのか、目を逸らして小さく頷いた。
「嘘だろ・・・・・・」
額を押さえ肩を落とし、深く深く嘆息する。よれよれのシャツにトランクス。後悔を絵に描いたような姿だ。
夜明け前の薄暗い部屋の中は、息苦しくなる程の静けさに包まれている。
そしてこの重苦しい空気に先に耐えられなくなったのは、紗己の方だった。
「わ、私平気ですからっ」
着物の乱れを雑に直し、紗己は腰を押さえながらよろよろと立ち上がった。
土方は緩慢な動きで、それを追うように顔を上げる。瞬間、ぱちりと視線が絡んだ。
気が動転しているのは確かだろうが、どこか泣きそうにも見える作り笑顔を浮かべる紗己が、自らに言い聞かせるようにひたすら明るい声を出す。
「ほ、本当に平気ですから! あのっ、副長さんひどく酔ってましたし、事故! そう、事故みたいなもんですから!! 私、気にしてませんから・・・だから副長さんも気にしないでください!」
やや一方的に言い放つと、着物の裾と足を引きずりながら紗己は部屋を後にした。