第十章
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「おい、ところであの布団・・・」
もやもやとした気持ちを抑えながら疑問を口にして、眉間に深く皺を寄せて銀時を見やる。
その表情に、土方が何を言いたいのか理解したのだろう。銀時は頭の後ろで組んでいた腕を胸の前に組み替えると、少しムッとした表情で言葉を放った。
「俺のじゃねーよ! つーか俺だって気ィ遣うわ」
もしも臭いなんて思われたら地味に傷付くからな、と胸中でこぼすと、
「うちは客用布団なんてねーからな。ありゃァ神楽の借りてる」
組んでいた腕を解いて、わしゃわしゃと頭を掻きながら言った。
「そ、そうか・・・」
銀時の答えに安心した土方だったが、小さいことを気にする男だと思われたくなくて、特に気にしていないといった表情を繕って見せる。
しかし自分に向けられた嫉妬に気付かないはずもなく、銀時は土方に一瞥をくれると、やや呆れたような口調で話し出した。
「お前さー、たかだか布団のことで嫉妬するくらいなら、テメーの女房泣かしてんじゃねーよ」
「ばっ・・・べ、別に俺ァ嫉妬なんか・・・」
思わず焦り顔で反論したが、銀時が口にしたとある言葉が耳に残り、土方は神妙な面持ちで低く問い掛けた。
「・・・泣いてたのか、アイツ」
突然ガラリと変わった空気に一瞬戸惑った銀時だったが、土方に裏切られたと思い込み傷付き泣きじゃくっていた紗己を思い出すと、一言言わずにはいられない。
「そりゃあ、な。まァ泣くだろ。言い訳も何もしてもらえなけりゃ、肯定したも同然だからな」
「・・・・・・」
胸に刺さる正論に返す言葉も無い土方は、自身の両膝に乗せていた手に力を入れて膝小僧にぐっと爪を立てる。
たとえちゃんと説明出来なかったとしても、部屋を出たアイツをすぐに追い掛けてやれば、ここまで傷付けずに済んだんだ・・・・・・。
愛しい妻の悲痛な様子を他者から聞かされる度に、後悔の念が重く胸にのしかかる。
真実を話すことは出来なくても、浮気などしていないと断言することなら出来たはずだ。どれだけ嫌がられようと、逃げる彼女を追い掛けその柔らかな身体を捕まえ、強く抱き締めることは出来たはずだ。
だがそれをしなかったのは、思い通りにいかない腹立ちと、紗己なら理解ってくれるだろうという甘えが念頭にあったからだ。どんな時でも笑顔で待ってくれている紗己だから、今回も大丈夫だとその優しさに甘えきっていた。
だが、実際は違う。いつでも穏やかな笑顔を見せてくれる紗己が、その微笑みの裏で本当は様々な感情を我慢していることを土方は知っている。どれだけ悲しくても寂しくても、『困らせてはいけない』と無意識に我慢してしまう性格なのだということも。
伏し目がちに黙り込んだ土方の姿に嘆息すると、銀時は椅子の背をギシギシと揺らしながら気怠げに言葉を投げた。
「で、どうなんだよ。浮気したの、その芸者と」
「してねーよっ!!」
遠慮のない銀時の発言に、土方はすぐさま顔を上げて間髪入れずに反論する。だがすぐに、しまったといった顔で背後の襖へと振り返った。大きな声を出したため、紗己を起こしてしまったのではと慌てたのだが、特に彼女が起きてくるような気配は無い。
土方はハァっと溜め息を落とすと、すぐに背筋を伸ばし、普段と変わらない切れ長の鋭い双眸で銀時を見据えた。
「俺は何もしてねーし、アイツを裏切るような真似は誓ってしねえ。今までも・・・これからも絶対だ」
「そーかい。じゃあ、早く連れて帰ってやれよ」
土方の強い決意にも特に表情を変えることなく、銀時はなおも椅子の背を揺らしながら言った。
相変わらず堅い男だ――胸中で呟きながら、ソファに座っている土方を一瞥する。すると突然、険しい表情をした土方がすくっと立ち上がった。どうかしたのかとその動作を目で追っていた銀時の下へとやって来た土方は、机を挟んで銀時の向かい側に立った。
程近い距離で自分を見下ろす土方に銀時が眉をひそめる中、自身の懐に手を差し入れた土方が、そこから封筒を取り出し、それを机の上にぽんと置く。
「・・・何だ、こりゃァ」
銀時は訝しげな面持ちで、目の前に置かれたそこそこ厚みのある封筒と、机の前に立つ土方を交互に見やる。すると土方は、常よりも低く落ち着いた声音で話を切り出した。
「依頼料だ」
「依頼料?」
訊き返しながら、よく見ると銀行名が印字されている封筒を手に取り、中身をチラッと覗いてみる。途端、思わず銀時の口から吐息が漏れた。まじかよ、結構入ってんぞ・・・・・・。
札がしっかりと詰まった封筒を、困惑しながらも机の上に戻した銀時は、自身の向かい側に立つ土方へ疑念に満ちた視線を向けた。
依頼とは何だ? これだけの金額を用意してきたとなれば、簡単に解決出来る類の依頼ではないのだろう。沖田の話していた事や目の前の土方の様子から、どうにもややこしい事件の臭いがする。
銀時の物言いたげな視線に気付いた土方は、薄く開いた唇の隙間から静かに息を吐き出すと、
「テメーに依頼がある、万事屋。俺が迎えに来るまで、紗己をここで預かってほしい」
決意を固めたような真剣な表情で銀時を見据え、そう言った。
もやもやとした気持ちを抑えながら疑問を口にして、眉間に深く皺を寄せて銀時を見やる。
その表情に、土方が何を言いたいのか理解したのだろう。銀時は頭の後ろで組んでいた腕を胸の前に組み替えると、少しムッとした表情で言葉を放った。
「俺のじゃねーよ! つーか俺だって気ィ遣うわ」
もしも臭いなんて思われたら地味に傷付くからな、と胸中でこぼすと、
「うちは客用布団なんてねーからな。ありゃァ神楽の借りてる」
組んでいた腕を解いて、わしゃわしゃと頭を掻きながら言った。
「そ、そうか・・・」
銀時の答えに安心した土方だったが、小さいことを気にする男だと思われたくなくて、特に気にしていないといった表情を繕って見せる。
しかし自分に向けられた嫉妬に気付かないはずもなく、銀時は土方に一瞥をくれると、やや呆れたような口調で話し出した。
「お前さー、たかだか布団のことで嫉妬するくらいなら、テメーの女房泣かしてんじゃねーよ」
「ばっ・・・べ、別に俺ァ嫉妬なんか・・・」
思わず焦り顔で反論したが、銀時が口にしたとある言葉が耳に残り、土方は神妙な面持ちで低く問い掛けた。
「・・・泣いてたのか、アイツ」
突然ガラリと変わった空気に一瞬戸惑った銀時だったが、土方に裏切られたと思い込み傷付き泣きじゃくっていた紗己を思い出すと、一言言わずにはいられない。
「そりゃあ、な。まァ泣くだろ。言い訳も何もしてもらえなけりゃ、肯定したも同然だからな」
「・・・・・・」
胸に刺さる正論に返す言葉も無い土方は、自身の両膝に乗せていた手に力を入れて膝小僧にぐっと爪を立てる。
たとえちゃんと説明出来なかったとしても、部屋を出たアイツをすぐに追い掛けてやれば、ここまで傷付けずに済んだんだ・・・・・・。
愛しい妻の悲痛な様子を他者から聞かされる度に、後悔の念が重く胸にのしかかる。
真実を話すことは出来なくても、浮気などしていないと断言することなら出来たはずだ。どれだけ嫌がられようと、逃げる彼女を追い掛けその柔らかな身体を捕まえ、強く抱き締めることは出来たはずだ。
だがそれをしなかったのは、思い通りにいかない腹立ちと、紗己なら理解ってくれるだろうという甘えが念頭にあったからだ。どんな時でも笑顔で待ってくれている紗己だから、今回も大丈夫だとその優しさに甘えきっていた。
だが、実際は違う。いつでも穏やかな笑顔を見せてくれる紗己が、その微笑みの裏で本当は様々な感情を我慢していることを土方は知っている。どれだけ悲しくても寂しくても、『困らせてはいけない』と無意識に我慢してしまう性格なのだということも。
伏し目がちに黙り込んだ土方の姿に嘆息すると、銀時は椅子の背をギシギシと揺らしながら気怠げに言葉を投げた。
「で、どうなんだよ。浮気したの、その芸者と」
「してねーよっ!!」
遠慮のない銀時の発言に、土方はすぐさま顔を上げて間髪入れずに反論する。だがすぐに、しまったといった顔で背後の襖へと振り返った。大きな声を出したため、紗己を起こしてしまったのではと慌てたのだが、特に彼女が起きてくるような気配は無い。
土方はハァっと溜め息を落とすと、すぐに背筋を伸ばし、普段と変わらない切れ長の鋭い双眸で銀時を見据えた。
「俺は何もしてねーし、アイツを裏切るような真似は誓ってしねえ。今までも・・・これからも絶対だ」
「そーかい。じゃあ、早く連れて帰ってやれよ」
土方の強い決意にも特に表情を変えることなく、銀時はなおも椅子の背を揺らしながら言った。
相変わらず堅い男だ――胸中で呟きながら、ソファに座っている土方を一瞥する。すると突然、険しい表情をした土方がすくっと立ち上がった。どうかしたのかとその動作を目で追っていた銀時の下へとやって来た土方は、机を挟んで銀時の向かい側に立った。
程近い距離で自分を見下ろす土方に銀時が眉をひそめる中、自身の懐に手を差し入れた土方が、そこから封筒を取り出し、それを机の上にぽんと置く。
「・・・何だ、こりゃァ」
銀時は訝しげな面持ちで、目の前に置かれたそこそこ厚みのある封筒と、机の前に立つ土方を交互に見やる。すると土方は、常よりも低く落ち着いた声音で話を切り出した。
「依頼料だ」
「依頼料?」
訊き返しながら、よく見ると銀行名が印字されている封筒を手に取り、中身をチラッと覗いてみる。途端、思わず銀時の口から吐息が漏れた。まじかよ、結構入ってんぞ・・・・・・。
札がしっかりと詰まった封筒を、困惑しながらも机の上に戻した銀時は、自身の向かい側に立つ土方へ疑念に満ちた視線を向けた。
依頼とは何だ? これだけの金額を用意してきたとなれば、簡単に解決出来る類の依頼ではないのだろう。沖田の話していた事や目の前の土方の様子から、どうにもややこしい事件の臭いがする。
銀時の物言いたげな視線に気付いた土方は、薄く開いた唇の隙間から静かに息を吐き出すと、
「テメーに依頼がある、万事屋。俺が迎えに来るまで、紗己をここで預かってほしい」
決意を固めたような真剣な表情で銀時を見据え、そう言った。