第十章
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じんじんとした熱い痛みが手の平全体に広がっていき、銀時は苦虫を噛み潰したような顔をして右の手の平を脇腹辺りに擦りつけ嘆息した。どうしたってんだ、ほんとなに苛ついてんだか。
だが、本当に何も分からないわけではない。
沖田の指摘は大方図星で、苛立っているのは紛れもない事実だった。
それは放っておけない自分に対しても、夫婦の問題に介入せざるを得ない状況を作った沖田にも、理由は知らないまでも彼女を泣かせた土方にも。そして、ここにやってきた紗己にも――だ。
頼られることが不快なのか? いや、そうじゃない、もし一人で来たのなら・・・いや、一人でなら来ねーだろ。
思いながら気怠げに頭を振っていると、
「そんなことないと思うけどねィ。恐らくアイツ一人でも、アンタを頼って出てきたはずだ」
「っ・・・!」
あまりにもタイミングの良すぎる沖田の発言に一瞬顔を強張らせた銀時を、沖田は怪訝な表情で一瞥する。
「旦那? どうかしたんですかィ」
「あ、いや・・・な、なんでもねーけど? てゆーか、そんなことないと思うって・・・なんで?」
ぽりぽりと頭を掻きつつ明後日の方に顔を向け、ぎこちなく訊いてから残り一段を降りきった。
何でもないなんて言っておきながら、実は先程の胸中での呟きや物思いの中身が、ひょっとしたら無意識に口から漏れ出ていたのではないのかと、気になってしまったのだ。
しかしそれも無駄な心配だったようで、沖田は特段気に留めるふうでもなく、さも当たり前の事と言わんばかりに答える。
「は? なんでって、旦那が言ったんじゃねーですか。俺に連れて来られたのが腹立つって」
「あ! あーあーそれね、うん言ったな。確かに言ったな・・・」
心の声が漏れ出ていたわけではないと分かり一安心した銀時だったが、聞き流しきれなかった沖田の言葉を振り返り、途端複雑な面持ちになる。
連れられて来たのではなく、もしも――沖田の言うように一人でここへ来ていたとしたら?
どっちでも一緒だって。深く考える必要もねーだろ。自分の意思だろうとそうでなかろうと、泣いて頼って来た紗己を追い返すなんて、結局俺には出来やしねェんだし。
自嘲気味に吐息すると、銀時はこの一件に介入する決意をした。まあ、そう重たく考える程のことでもないだろう。
「で、その夫婦喧嘩とやらの原因はなに? 料理にマヨネーズかけられるのにいい加減我慢の限界がきたとかか?」
有り得ないと思っているからこそ、安心して言えるのだ。だが、その『有り得ない』よりも余程有り得ないと銀時が思っている事を、沖田は言った。
「浮気でさァ」
「浮気ィ!?」
思わず声がひっくり返ってしまった。目を丸くしながら、二階の自宅を見上げる。
「いや、え、浮気? あの石頭の堅物がか?」
「野郎も男ですからねィ。ま、真実は闇の中ってやつでさァ」
「ってことは、アイツは認めてねえって事か」
銀時の問いに、沖田は無表情で頷く。
「ふーん、浮気ねえ・・・」
ぽつり呟き、ゆっくりと腕を組んだ。
にわかに信じがたい、というのが今の銀時の本音だ。決して土方の肩を持ちたいわけでもないが、どうしても土方が浮気をするとは考えにくい。
銀時は土方がどれほど紗己を大切に想っているか、嫌と言うほど知っている。だからこそ、時には二人の仲を取り持ったりもした。
それに好きか嫌いかは別として、あの土方が簡単に浮気をするような男だとも思えない。
あれも結局はただの男だったってことか。けどなァ、どうも信じられねえんだよなー。
気に入らない人間を庇う気持ちになっている自分が少し気に入らないではあるが、そこは土方を庇っているのではなく、紗己の幸せを願っているだけだと自分に言い訳をして、銀時は沖田に事情を問う。
「まあ、浮気が真実かどうかは置いといて、なんでそれがお前や紗己の知るところとなったわけ?」
「今朝、野郎の浮気相手が訪ねてきたんでさァ。そこでその女・・・随分と色っぽい芸者だったらしいが、玄関先で紗己に宣戦布告したって話だ」
「ふーん、芸者ねえ。んで、女房と浮気相手がやりあってる間、あのマヨネーズ馬鹿はどうしてたんだよ」
「野郎は部屋で寝てたんだと。昨夜、近藤さんの代理で接待受けて、えらく酔い潰れて明け方に帰ってきたらしいからね」
呆れたように言った後、眉をしかめて沖田は言葉を続けた。
「その昨夜の接待の場に居たのが、例の芸者だ。二人でしっぽり楽しんで、野郎はそのまま朝帰りってわけでさァ」
淡々とした口調ながら、不快感を滲ませた沖田の言葉に、初めは黙って聞いていた銀時の表情が変わった。
「え、あれ、でもアイツ・・・」
「なんですか、旦那?」
「いや、俺昨夜アイツと飲んでたんだけど。つーか明け方まで」
銀時の言葉に、ポーカーフェイスが板についている沖田も驚きの声を上げる。
「それ本当ですか、旦那!」
「ああ、まあ一緒に飲んでたっつーか、俺が飲んでたところに後からアイツが偶然来ただけだけどな。一、二時間飲んでて、帰ったのが確か三時過ぎてたんじゃねーかな」
しこたま酔ってたし、しっかりは覚えてねーけど、と付け足した。
「それじゃあ、旦那と飲むまでに例の芸者と楽しんでたってことですかねィ」
「あー、けどあの野郎、会った時点でかなりグダグダに酔ってたぜ? あんなんじゃ勃つモンも勃たねーと思うけど。まァ様子はちょっと変だったが、浮気・・・ねえ」
言いながら銀時は首を捻る。やはりにわかには信じがたい。
確かに様子はおかしかったが、浮気してたようには思えねーけどな。庇うつもりは毛頭無いが、どうしてもその疑惑と土方が結びつかないのだ。
だが、本当に何も分からないわけではない。
沖田の指摘は大方図星で、苛立っているのは紛れもない事実だった。
それは放っておけない自分に対しても、夫婦の問題に介入せざるを得ない状況を作った沖田にも、理由は知らないまでも彼女を泣かせた土方にも。そして、ここにやってきた紗己にも――だ。
頼られることが不快なのか? いや、そうじゃない、もし一人で来たのなら・・・いや、一人でなら来ねーだろ。
思いながら気怠げに頭を振っていると、
「そんなことないと思うけどねィ。恐らくアイツ一人でも、アンタを頼って出てきたはずだ」
「っ・・・!」
あまりにもタイミングの良すぎる沖田の発言に一瞬顔を強張らせた銀時を、沖田は怪訝な表情で一瞥する。
「旦那? どうかしたんですかィ」
「あ、いや・・・な、なんでもねーけど? てゆーか、そんなことないと思うって・・・なんで?」
ぽりぽりと頭を掻きつつ明後日の方に顔を向け、ぎこちなく訊いてから残り一段を降りきった。
何でもないなんて言っておきながら、実は先程の胸中での呟きや物思いの中身が、ひょっとしたら無意識に口から漏れ出ていたのではないのかと、気になってしまったのだ。
しかしそれも無駄な心配だったようで、沖田は特段気に留めるふうでもなく、さも当たり前の事と言わんばかりに答える。
「は? なんでって、旦那が言ったんじゃねーですか。俺に連れて来られたのが腹立つって」
「あ! あーあーそれね、うん言ったな。確かに言ったな・・・」
心の声が漏れ出ていたわけではないと分かり一安心した銀時だったが、聞き流しきれなかった沖田の言葉を振り返り、途端複雑な面持ちになる。
連れられて来たのではなく、もしも――沖田の言うように一人でここへ来ていたとしたら?
どっちでも一緒だって。深く考える必要もねーだろ。自分の意思だろうとそうでなかろうと、泣いて頼って来た紗己を追い返すなんて、結局俺には出来やしねェんだし。
自嘲気味に吐息すると、銀時はこの一件に介入する決意をした。まあ、そう重たく考える程のことでもないだろう。
「で、その夫婦喧嘩とやらの原因はなに? 料理にマヨネーズかけられるのにいい加減我慢の限界がきたとかか?」
有り得ないと思っているからこそ、安心して言えるのだ。だが、その『有り得ない』よりも余程有り得ないと銀時が思っている事を、沖田は言った。
「浮気でさァ」
「浮気ィ!?」
思わず声がひっくり返ってしまった。目を丸くしながら、二階の自宅を見上げる。
「いや、え、浮気? あの石頭の堅物がか?」
「野郎も男ですからねィ。ま、真実は闇の中ってやつでさァ」
「ってことは、アイツは認めてねえって事か」
銀時の問いに、沖田は無表情で頷く。
「ふーん、浮気ねえ・・・」
ぽつり呟き、ゆっくりと腕を組んだ。
にわかに信じがたい、というのが今の銀時の本音だ。決して土方の肩を持ちたいわけでもないが、どうしても土方が浮気をするとは考えにくい。
銀時は土方がどれほど紗己を大切に想っているか、嫌と言うほど知っている。だからこそ、時には二人の仲を取り持ったりもした。
それに好きか嫌いかは別として、あの土方が簡単に浮気をするような男だとも思えない。
あれも結局はただの男だったってことか。けどなァ、どうも信じられねえんだよなー。
気に入らない人間を庇う気持ちになっている自分が少し気に入らないではあるが、そこは土方を庇っているのではなく、紗己の幸せを願っているだけだと自分に言い訳をして、銀時は沖田に事情を問う。
「まあ、浮気が真実かどうかは置いといて、なんでそれがお前や紗己の知るところとなったわけ?」
「今朝、野郎の浮気相手が訪ねてきたんでさァ。そこでその女・・・随分と色っぽい芸者だったらしいが、玄関先で紗己に宣戦布告したって話だ」
「ふーん、芸者ねえ。んで、女房と浮気相手がやりあってる間、あのマヨネーズ馬鹿はどうしてたんだよ」
「野郎は部屋で寝てたんだと。昨夜、近藤さんの代理で接待受けて、えらく酔い潰れて明け方に帰ってきたらしいからね」
呆れたように言った後、眉をしかめて沖田は言葉を続けた。
「その昨夜の接待の場に居たのが、例の芸者だ。二人でしっぽり楽しんで、野郎はそのまま朝帰りってわけでさァ」
淡々とした口調ながら、不快感を滲ませた沖田の言葉に、初めは黙って聞いていた銀時の表情が変わった。
「え、あれ、でもアイツ・・・」
「なんですか、旦那?」
「いや、俺昨夜アイツと飲んでたんだけど。つーか明け方まで」
銀時の言葉に、ポーカーフェイスが板についている沖田も驚きの声を上げる。
「それ本当ですか、旦那!」
「ああ、まあ一緒に飲んでたっつーか、俺が飲んでたところに後からアイツが偶然来ただけだけどな。一、二時間飲んでて、帰ったのが確か三時過ぎてたんじゃねーかな」
しこたま酔ってたし、しっかりは覚えてねーけど、と付け足した。
「それじゃあ、旦那と飲むまでに例の芸者と楽しんでたってことですかねィ」
「あー、けどあの野郎、会った時点でかなりグダグダに酔ってたぜ? あんなんじゃ勃つモンも勃たねーと思うけど。まァ様子はちょっと変だったが、浮気・・・ねえ」
言いながら銀時は首を捻る。やはりにわかには信じがたい。
確かに様子はおかしかったが、浮気してたようには思えねーけどな。庇うつもりは毛頭無いが、どうしてもその疑惑と土方が結びつかないのだ。