序章②
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――――――
泣くほど辛いって――。
「・・・どういう意味だ?」
困惑を纏った声が、静かな部屋に低く響く。
文机の前に座る土方は、溜め息を一つ落として、手にしている建前上の目的だった書類を指で弾いた。
もうかれこれ数十分、山崎に言われた言葉に一人頭を悩ませている。
きつい言い方したし、散々勝手な事言ったんだ。怒るのは、まあ無理ねーだろう。けど、ありゃァそんな泣くほど酷い事だったか・・・・・・?
「・・・わっかんねーよ! くそっ」
吐き捨てるように言うと、苛立ち混じりに書類を文机に叩き付ける。完全に八つ当たりだ。
空いた両手で黒髪をガシガシと掻き乱した土方は、盛大に嘆息してから片膝を立てて気怠そうに天井を見上げた。
なんで俺ァあんなにムキになっちまったんだか・・・・・・。分かってんだよ、紗己とあの野郎が別になんともないって・・・分かってんだよ。
我ながら情けないと土方は思う。あれじゃただの嫉妬ではないかと呆れる自分もいるのだ。
天井の木目を目で追いながら、これ以上何も考えてはいけないと自らに諭す。そうして崩していた体勢を戻すと、土方は軽く頭を振ってからまた胡座をかき、何度目とも知れない溜め息を落として文机へと向き直った。
(仕事、しなきゃな・・・・・・)
少し皺が入ってしまった書類を手に取り、停滞している仕事を再開しようとするのだが、どうしても気持ちの切り替えがうまくいかない。頭に過ぎるのは、屯所前での光景だった。
紗己と銀時が肩を並べているのを目撃した時、土方は間違いなく嫉妬していた。紗己が銀時と会うことを早々に封じなければ、彼女を奪われるのではと思ってしまったのも事実だ。
このままでは、紗己がアイツを好きになってしまうのではと不安になった。不安要素は全て消し去ってしまいたかった――。
改めて自分の気持ちを思い返した上で、土方は避けようの無い現実にぶち当たる。
なんだ? これじゃァまるで、俺が紗己のこと好きみたいじゃねーか・・・・・・?
「違っ・・・何考えてんだ俺! 違うだろ、別に俺は・・・」
紗己のことが――。
「好きとか・・・今更そんなの、無理だろ・・・・・・」
溜息とともに言葉を吐くと、そのまま机に突っ伏した。
これは、ただの独占欲だ。俺しか知らないアイツを他の男に取られるのが気に入らねェ、それだけだ。だってそうだろ? 紗己だって、俺みたいな男のこと好きになるわけ・・・
「・・・・・・」
ふと、先程山崎が言っていた言葉を思い出す。
「泣くほど辛いって・・・ひょっとしてアイツ・・・」
俺のことが好きなのか――?
「はっ、俺も相当の馬鹿だな・・・・・・」
呆れたように呟くと、机に額を押し付けた。薄い肉を挟んで天板と骨とがぶつかり、ごりっとした冷たい感触が額から伝わってくる。
アイツが俺を好きになるわけねーだろ。そもそもあれ以来、特別な接し方をしてくるでもなく、なんら前と変わらないし変わろうともしねェ。
少しは態度を変えてほしいと、思ってはいるのだ。けれど自身の素直な感情を頑なに否定したい土方は、その矛先を彼女の鈍感さに向ける。
ありゃァ、本当に事故だと思い込んでんさだろうな・・・・・・。少しは何か感じろよ! お前にそんな態度されてたら、俺がどんどん惨めになるだろうが・・・・・・。
いくら記憶に無いとはいえ、身体を繋げてしまったのだ。もう少し、何らかの反応を見せてはくれないものかと土方は嘆息する。
「それが・・・俺への罰かよ・・・・・・?」
言いながら自嘲気味に笑った。本当にそのように思えて仕方ない。
酒に酔って人違いで女を抱くような男なのだ、端から気に掛けてもらおうなど今更都合が良すぎる。そう思いはするも、やりきれなさだけが鈍く疼く胸の中に広がっていく。
泣くほど辛いって――。
「・・・どういう意味だ?」
困惑を纏った声が、静かな部屋に低く響く。
文机の前に座る土方は、溜め息を一つ落として、手にしている建前上の目的だった書類を指で弾いた。
もうかれこれ数十分、山崎に言われた言葉に一人頭を悩ませている。
きつい言い方したし、散々勝手な事言ったんだ。怒るのは、まあ無理ねーだろう。けど、ありゃァそんな泣くほど酷い事だったか・・・・・・?
「・・・わっかんねーよ! くそっ」
吐き捨てるように言うと、苛立ち混じりに書類を文机に叩き付ける。完全に八つ当たりだ。
空いた両手で黒髪をガシガシと掻き乱した土方は、盛大に嘆息してから片膝を立てて気怠そうに天井を見上げた。
なんで俺ァあんなにムキになっちまったんだか・・・・・・。分かってんだよ、紗己とあの野郎が別になんともないって・・・分かってんだよ。
我ながら情けないと土方は思う。あれじゃただの嫉妬ではないかと呆れる自分もいるのだ。
天井の木目を目で追いながら、これ以上何も考えてはいけないと自らに諭す。そうして崩していた体勢を戻すと、土方は軽く頭を振ってからまた胡座をかき、何度目とも知れない溜め息を落として文机へと向き直った。
(仕事、しなきゃな・・・・・・)
少し皺が入ってしまった書類を手に取り、停滞している仕事を再開しようとするのだが、どうしても気持ちの切り替えがうまくいかない。頭に過ぎるのは、屯所前での光景だった。
紗己と銀時が肩を並べているのを目撃した時、土方は間違いなく嫉妬していた。紗己が銀時と会うことを早々に封じなければ、彼女を奪われるのではと思ってしまったのも事実だ。
このままでは、紗己がアイツを好きになってしまうのではと不安になった。不安要素は全て消し去ってしまいたかった――。
改めて自分の気持ちを思い返した上で、土方は避けようの無い現実にぶち当たる。
なんだ? これじゃァまるで、俺が紗己のこと好きみたいじゃねーか・・・・・・?
「違っ・・・何考えてんだ俺! 違うだろ、別に俺は・・・」
紗己のことが――。
「好きとか・・・今更そんなの、無理だろ・・・・・・」
溜息とともに言葉を吐くと、そのまま机に突っ伏した。
これは、ただの独占欲だ。俺しか知らないアイツを他の男に取られるのが気に入らねェ、それだけだ。だってそうだろ? 紗己だって、俺みたいな男のこと好きになるわけ・・・
「・・・・・・」
ふと、先程山崎が言っていた言葉を思い出す。
「泣くほど辛いって・・・ひょっとしてアイツ・・・」
俺のことが好きなのか――?
「はっ、俺も相当の馬鹿だな・・・・・・」
呆れたように呟くと、机に額を押し付けた。薄い肉を挟んで天板と骨とがぶつかり、ごりっとした冷たい感触が額から伝わってくる。
アイツが俺を好きになるわけねーだろ。そもそもあれ以来、特別な接し方をしてくるでもなく、なんら前と変わらないし変わろうともしねェ。
少しは態度を変えてほしいと、思ってはいるのだ。けれど自身の素直な感情を頑なに否定したい土方は、その矛先を彼女の鈍感さに向ける。
ありゃァ、本当に事故だと思い込んでんさだろうな・・・・・・。少しは何か感じろよ! お前にそんな態度されてたら、俺がどんどん惨めになるだろうが・・・・・・。
いくら記憶に無いとはいえ、身体を繋げてしまったのだ。もう少し、何らかの反応を見せてはくれないものかと土方は嘆息する。
「それが・・・俺への罰かよ・・・・・・?」
言いながら自嘲気味に笑った。本当にそのように思えて仕方ない。
酒に酔って人違いで女を抱くような男なのだ、端から気に掛けてもらおうなど今更都合が良すぎる。そう思いはするも、やりきれなさだけが鈍く疼く胸の中に広がっていく。