序章②
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――――――
「副長!」
障子戸が乱暴に開くと同時に、大きな声が飛び込んできた。声の主は山崎退だ。
部下の礼を欠いた登場の仕方に怒鳴りはしないものの、畳に座り胡座をかいて煙草を吸っていた土方は、不機嫌を前面に出して山崎を睨み付ける。
「なんだ、けたたましい声出しやがって」
「なんだ、じゃないですよ! ひどいじゃないですか副長、廊下で紗己ちゃんに会いましたよ」
「うるせェよ、どうせ怒ってたんだろ」
さっき怒って部屋出てったからな、と煙草を咥えながら言うと、そんな土方に山崎は冷ややかな視線を送った。
「いいえ、泣いてました」
「・・・・・・え?」
嘘だろ? なんで泣くんだよ、あんなに怒ってたじゃねーか・・・・・・。
胸中で言葉を返しつつ、さも意外だという顔で山崎を見やる。
その反応も、想定の範囲内だったのだろう。山崎は吐息しながら、土方に向かい合うように畳に腰を下ろして正座した。そして紗己から聞いた話を、目の前のなかなか面倒な男に話し始める。
「副長、紗己ちゃんに言ったんですって? 万事屋の旦那と会うなって」
「そ、それがどうした!」
「あのねえ。会うなも何も、今日でまだ二回しか会ったことないらしいじゃないですか、紗己ちゃんと旦那は。今日だって、偶然再会して荷物持つの手伝ってくれただけだって言ってましたよ」
呆れ混じりの口調で話す山崎に、何とか反論をしようと土方は言葉を捻り出す。
「だ、だからなんだってんだっ! あの野郎絶対に下心があったに違いねーんだよ!!」
「それ、アンタの思い込みじゃないんですか副長」
「っ・・・」
そう言われてしまうと二の句が告げない。土方は腹立たしそうに煙を吐いた。
「・・・おい山崎、そういやアイツ・・・紗己はなんで泣いてたんだ?」
本当は気になって仕方ないくせに、まるで気になんかしてなかったけどな、とでも言いたげに小さな声で呟く。
だが、そっぽを向いて煙を吐き続けるその姿からは、ソワソワと落ち着かない心情が滲み出ている。
(ほんっと、面倒な人だなぁ)
とても口には出せないので胸の内でこぼしつつ、山崎は先程紗己から聞いた話と目の前の男の態度を勘案して、導き出した答えを告げた。
「なんで泣いてたかは本人に訊いてくださいよ、俺もそんな深いところまでは知りませんから。ああでも、彼女から一つ伝言頼まれてました」
「伝言? 俺に、か?」
あの紗己が? 一体何なのかと鼓動が跳ねる。
ひっきりなしに吸い続けていた煙草を灰皿へと移すと、少し乾いた唇を一文字に引き締めた。
「はい。なんでも、『親切にされたくらいで、誰も彼も良い人だなんて思ったりしません』って」
「・・・・・・」
「どうせ副長のことだから、『親切にされれば誰でも良い人なんだろう』とか言ったんでしょ?」
「・・・・・・」
あまりにもその通りすぎて何も言い返せない土方は、引き締めていた唇の内側をくっと噛んだ。
(紗己のヤツ、やっぱ怒ってんじゃねーか)
何の落ち度もない紗己を怒らせてしまった事への若干の申し訳無さと、目の前の部下への気まずさから、居心地悪そうに山崎を睨む。
だが、それでも鳴りを潜めない居心地の悪さにとうとう我慢しきれず、土方は脇に置いていた煙草の箱を山崎目掛けて思いきり投げつけた。
「いてっ、何すんですかあ」
「うっせーんだよ調子に乗りやがって! もういいさっさと仕事に戻れっ」
自分こそ仕事そっちのけだというのに、見事に棚に上げている。
山崎は、箱の当たったこめかみあたりを擦りながら、恨みがましい目つきで土方を見た。
「・・・なんだよ、文句あんのか」
「いえ。文句じゃないですけど、紗己ちゃんが可哀想だなーって思いまして」
「ああ?」
酷い事を言ったのは確かだが、そこまで紗己の肩を持たれるとどうにも不愉快になり、土方は低い声で威嚇した。
「紗己ちゃんはね、副長に罵倒されたのが泣くほど辛かったんですよ。どういう意味か、ちゃんと分かってます?」
「・・・・・・」
分かっているのかいないのか。表情を固めている土方の姿に嘆息すると、山崎は肩を竦めて部屋を出て行った。
「副長!」
障子戸が乱暴に開くと同時に、大きな声が飛び込んできた。声の主は山崎退だ。
部下の礼を欠いた登場の仕方に怒鳴りはしないものの、畳に座り胡座をかいて煙草を吸っていた土方は、不機嫌を前面に出して山崎を睨み付ける。
「なんだ、けたたましい声出しやがって」
「なんだ、じゃないですよ! ひどいじゃないですか副長、廊下で紗己ちゃんに会いましたよ」
「うるせェよ、どうせ怒ってたんだろ」
さっき怒って部屋出てったからな、と煙草を咥えながら言うと、そんな土方に山崎は冷ややかな視線を送った。
「いいえ、泣いてました」
「・・・・・・え?」
嘘だろ? なんで泣くんだよ、あんなに怒ってたじゃねーか・・・・・・。
胸中で言葉を返しつつ、さも意外だという顔で山崎を見やる。
その反応も、想定の範囲内だったのだろう。山崎は吐息しながら、土方に向かい合うように畳に腰を下ろして正座した。そして紗己から聞いた話を、目の前のなかなか面倒な男に話し始める。
「副長、紗己ちゃんに言ったんですって? 万事屋の旦那と会うなって」
「そ、それがどうした!」
「あのねえ。会うなも何も、今日でまだ二回しか会ったことないらしいじゃないですか、紗己ちゃんと旦那は。今日だって、偶然再会して荷物持つの手伝ってくれただけだって言ってましたよ」
呆れ混じりの口調で話す山崎に、何とか反論をしようと土方は言葉を捻り出す。
「だ、だからなんだってんだっ! あの野郎絶対に下心があったに違いねーんだよ!!」
「それ、アンタの思い込みじゃないんですか副長」
「っ・・・」
そう言われてしまうと二の句が告げない。土方は腹立たしそうに煙を吐いた。
「・・・おい山崎、そういやアイツ・・・紗己はなんで泣いてたんだ?」
本当は気になって仕方ないくせに、まるで気になんかしてなかったけどな、とでも言いたげに小さな声で呟く。
だが、そっぽを向いて煙を吐き続けるその姿からは、ソワソワと落ち着かない心情が滲み出ている。
(ほんっと、面倒な人だなぁ)
とても口には出せないので胸の内でこぼしつつ、山崎は先程紗己から聞いた話と目の前の男の態度を勘案して、導き出した答えを告げた。
「なんで泣いてたかは本人に訊いてくださいよ、俺もそんな深いところまでは知りませんから。ああでも、彼女から一つ伝言頼まれてました」
「伝言? 俺に、か?」
あの紗己が? 一体何なのかと鼓動が跳ねる。
ひっきりなしに吸い続けていた煙草を灰皿へと移すと、少し乾いた唇を一文字に引き締めた。
「はい。なんでも、『親切にされたくらいで、誰も彼も良い人だなんて思ったりしません』って」
「・・・・・・」
「どうせ副長のことだから、『親切にされれば誰でも良い人なんだろう』とか言ったんでしょ?」
「・・・・・・」
あまりにもその通りすぎて何も言い返せない土方は、引き締めていた唇の内側をくっと噛んだ。
(紗己のヤツ、やっぱ怒ってんじゃねーか)
何の落ち度もない紗己を怒らせてしまった事への若干の申し訳無さと、目の前の部下への気まずさから、居心地悪そうに山崎を睨む。
だが、それでも鳴りを潜めない居心地の悪さにとうとう我慢しきれず、土方は脇に置いていた煙草の箱を山崎目掛けて思いきり投げつけた。
「いてっ、何すんですかあ」
「うっせーんだよ調子に乗りやがって! もういいさっさと仕事に戻れっ」
自分こそ仕事そっちのけだというのに、見事に棚に上げている。
山崎は、箱の当たったこめかみあたりを擦りながら、恨みがましい目つきで土方を見た。
「・・・なんだよ、文句あんのか」
「いえ。文句じゃないですけど、紗己ちゃんが可哀想だなーって思いまして」
「ああ?」
酷い事を言ったのは確かだが、そこまで紗己の肩を持たれるとどうにも不愉快になり、土方は低い声で威嚇した。
「紗己ちゃんはね、副長に罵倒されたのが泣くほど辛かったんですよ。どういう意味か、ちゃんと分かってます?」
「・・・・・・」
分かっているのかいないのか。表情を固めている土方の姿に嘆息すると、山崎は肩を竦めて部屋を出て行った。