第九章
名前変換はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「いやァ、やってくれるじゃねーかィお二人さん」
「そ、総悟っ」
「見ーちゃった見ーちゃったー、真選組副長の破廉恥な場面見ーちゃったー」
「ばっ・・・誤解を招くような言い方すんな!」
一本調子の歌を止めさせようと大声を上げるが、沖田は全く気にしていない様子。むしろ面白がっているようだ。
「いちゃつくのは勝手ですが、ところ構わず発情するのは危険ですぜ、土方さん」
「べっべべ別に発情なんかしてねェよ! つーかお前いつからそこにいたんだっ」
「いつから? 近藤さんがここを離れたすぐ後から、俺はずっとここにいたんですがねィ」
「なっ・・・」
沖田の衝撃発言に、思わず言葉をなくしてしまった。
近藤さんがここを離れてから、今の今まで一部始終余すところなく全部見られてたってのか!?
信じたくない事実に、目眩すら覚える。足音一つ、気配すら感じなかったし、だからこそ誰もいないと確信して大胆な行動に出たというのに。
よりによって目撃者がコイツとは・・・見られた相手が悪すぎたと、土方は己の顔を右手で覆った。
と、その時。ふと頭に過ったとある違和感に、手の平の内側で顔をしかめる。
ん? ちょっと待てよ・・・近藤さんは、総悟に呼ばれてここを離れたんだよな? でもコイツは、そん時にはもう廊下にいたって・・・・・・。
「・・・っ!」
点と点が繋がり一つの答えに辿り着く。土方は顔から手を下ろすと、わなわなと唇を震わせて声を荒らげた。
「おい総悟! テメー嵌めやがったなっ」
「あーあ、バレちまった」
「バレちまった・・・じゃねえ! 俺たちを二人きりにするためにわざと近藤さんを呼んだろ!!」
「簡単に言えばそういうことですね」
赤鬼と化した土方とは対照的に、いつも通り飄々とした様子の沖田。
企みを遂行するために彼は、近藤が慌ただしく去った際、それに乗じて廊下に潜んでいたのだ。その後はひたすら気配を消して、土方が動くのを待っていた。どうりで足音一つ聞こえなかったわけだ。
沖田はまるで意に介さず、憤慨する土方を一瞥する。
「紗己と二人にしたら、絶対面白いモンが見れると思ったんでね。ま、予想が当たったってわけでさァ」
「なっ・・・」
「それにしても・・・硬派で通ってる鬼の副長さんが、こともあろうに屯所の玄関先で新妻といちゃついてるとはねェ。他の奴らに示しがつかねェんじゃねーんですか?」
試すような目付きで、すぐに反論出来ずにいる土方を見やる。
「お、お前がけしかけたんだろうがっ」
「俺はアンタらを二人きりにしただけで、そっから先はアンタが勝手に発情したってだけでさァ」
「くっ・・・」
そう言われてしまえば返す言葉もない。土方は悔しそうに、身体の両脇で握り拳を作った。
その間紗己は、どうしたものかと気を揉んでいた。斜め後ろに立つ沖田と、目の前で不機嫌を露わにしている土方。どちらにつくことも出来ず、双方をチラチラと盗み見るようにしては、身を小さくしている。だが、ほんの少しではあるが、楽しい気分もないわけではない。
男同士のがさつな雰囲気に溶け込んでいる土方の姿は、自分のよく知る夫とはまた違った一面で、ましてやそれが沖田との言い合いとなれば、土方は大抵顔を真っ赤にして劣勢なのだ。
そんな夫を垣間見ることができ、それまでの気恥ずかしさや寂しさも少し晴れ、紗己はくすりと笑った。
華奢な背中が微かに動いたのを見た沖田は、一歩前へ出ると、腰を折って紗己の顔を覗き込む。
「おい紗己。いくら土方さんが恥ずかしいキザ男だからって、笑っちゃいけねーや」
「え? い、いえ私は別にそんなことは・・・」
「おいコラ総悟っ! キザ男って何だキザ男ってのはっ」
「えー、だって・・・『忘れ物』だからねィ」
顎を軽く上げて、ちろりと横目で土方を見た。
「ぐっ・・・」
反論したい気持ちはやまやまだが、ここで何か言おうものなら、数倍数十倍になって減らず口が返ってくるに違いない。これ以上恥をかかされるのはごめんだと、土方は乱暴に髪を掻き乱して二人に背を向けた。引き戸の前で立ち止まり顔だけ振り返る。
「も、もう行くぞ! お前もさっさと仕事に戻れ総悟!!」
「へいへい、わかりやしたー。あ、土方さん」
「ああ!?」
「紗己ともう一回、最後のブチューはいいんですかィ?」
からかうように言ってやると、当事者の二人は同時に頬を赤らめた。何も言えずに恥ずかしそうにしている紗己と一瞬目を合わせてから、土方は唾を飛ばして沖田に噛み付く。
「ばばっ馬鹿言ってんじゃねえっ!」
「ひでェや、馬鹿だなんて。まァそれはいいとして・・・いくら機嫌損ねたからって、電話忘れちゃいけませんぜ、土方さん」
言いながら、隣に立つ紗己にチラッと視線をやる。すると土方は、
「うるせェ! 言われなくても忘れねーよっ!! もう行くからなっ」
あくまでも紗己ではなく沖田を睨みつけて、大股でズンズンと地面を踏みつけながら玄関を出て行った。
そうも経たないうちに、門の方からの怒鳴り声が玄関にいる二人の耳にも届いた。どうやら土方が「早く出せ」と怒鳴ったらしい。
車のエンジン音が遠くなってから、紗己は土間に下りて引き戸を閉めた。
「行っちゃいました、ね」
「あー、ほんとめんどくせェ男でさァ」
怠そうに首を鳴らしている沖田に、土間から上がった紗己が柔らかく笑い掛けた。
「ふふ、おかげで気が紛れました」
「あー、なんだそりゃァ」
まるで意味が分からないといった顔をわざとらしく作る。
彼が何も言おうとしないので、そこはそれ、紗己もそれ以上は何も言わない。すると沖田の方が少し気まずくなったらしく、ゆっくりと廊下を進みながら後方の紗己に話し掛けた。
「三日なんて、あっという間だ」
「はい、そうですね。あっという間、ですね」
閉めてしまった戸に目を向けて、穏やかにそう言った。
「紗己」
「え、なんですか?」
「俺ァまだ今朝何にも食ってねーんだ。どうせ暇だろ? 何か適当に作ってくれねーか」
廊下の真ん中で立ち止まって振り返りながら、まだ玄関先に立っている紗己に話し掛ける。そのやる気の無さそうな声に、紗己はにこり笑うと、はい、と明るく返事をして食堂へと続く廊下を歩き出した。
「そ、総悟っ」
「見ーちゃった見ーちゃったー、真選組副長の破廉恥な場面見ーちゃったー」
「ばっ・・・誤解を招くような言い方すんな!」
一本調子の歌を止めさせようと大声を上げるが、沖田は全く気にしていない様子。むしろ面白がっているようだ。
「いちゃつくのは勝手ですが、ところ構わず発情するのは危険ですぜ、土方さん」
「べっべべ別に発情なんかしてねェよ! つーかお前いつからそこにいたんだっ」
「いつから? 近藤さんがここを離れたすぐ後から、俺はずっとここにいたんですがねィ」
「なっ・・・」
沖田の衝撃発言に、思わず言葉をなくしてしまった。
近藤さんがここを離れてから、今の今まで一部始終余すところなく全部見られてたってのか!?
信じたくない事実に、目眩すら覚える。足音一つ、気配すら感じなかったし、だからこそ誰もいないと確信して大胆な行動に出たというのに。
よりによって目撃者がコイツとは・・・見られた相手が悪すぎたと、土方は己の顔を右手で覆った。
と、その時。ふと頭に過ったとある違和感に、手の平の内側で顔をしかめる。
ん? ちょっと待てよ・・・近藤さんは、総悟に呼ばれてここを離れたんだよな? でもコイツは、そん時にはもう廊下にいたって・・・・・・。
「・・・っ!」
点と点が繋がり一つの答えに辿り着く。土方は顔から手を下ろすと、わなわなと唇を震わせて声を荒らげた。
「おい総悟! テメー嵌めやがったなっ」
「あーあ、バレちまった」
「バレちまった・・・じゃねえ! 俺たちを二人きりにするためにわざと近藤さんを呼んだろ!!」
「簡単に言えばそういうことですね」
赤鬼と化した土方とは対照的に、いつも通り飄々とした様子の沖田。
企みを遂行するために彼は、近藤が慌ただしく去った際、それに乗じて廊下に潜んでいたのだ。その後はひたすら気配を消して、土方が動くのを待っていた。どうりで足音一つ聞こえなかったわけだ。
沖田はまるで意に介さず、憤慨する土方を一瞥する。
「紗己と二人にしたら、絶対面白いモンが見れると思ったんでね。ま、予想が当たったってわけでさァ」
「なっ・・・」
「それにしても・・・硬派で通ってる鬼の副長さんが、こともあろうに屯所の玄関先で新妻といちゃついてるとはねェ。他の奴らに示しがつかねェんじゃねーんですか?」
試すような目付きで、すぐに反論出来ずにいる土方を見やる。
「お、お前がけしかけたんだろうがっ」
「俺はアンタらを二人きりにしただけで、そっから先はアンタが勝手に発情したってだけでさァ」
「くっ・・・」
そう言われてしまえば返す言葉もない。土方は悔しそうに、身体の両脇で握り拳を作った。
その間紗己は、どうしたものかと気を揉んでいた。斜め後ろに立つ沖田と、目の前で不機嫌を露わにしている土方。どちらにつくことも出来ず、双方をチラチラと盗み見るようにしては、身を小さくしている。だが、ほんの少しではあるが、楽しい気分もないわけではない。
男同士のがさつな雰囲気に溶け込んでいる土方の姿は、自分のよく知る夫とはまた違った一面で、ましてやそれが沖田との言い合いとなれば、土方は大抵顔を真っ赤にして劣勢なのだ。
そんな夫を垣間見ることができ、それまでの気恥ずかしさや寂しさも少し晴れ、紗己はくすりと笑った。
華奢な背中が微かに動いたのを見た沖田は、一歩前へ出ると、腰を折って紗己の顔を覗き込む。
「おい紗己。いくら土方さんが恥ずかしいキザ男だからって、笑っちゃいけねーや」
「え? い、いえ私は別にそんなことは・・・」
「おいコラ総悟っ! キザ男って何だキザ男ってのはっ」
「えー、だって・・・『忘れ物』だからねィ」
顎を軽く上げて、ちろりと横目で土方を見た。
「ぐっ・・・」
反論したい気持ちはやまやまだが、ここで何か言おうものなら、数倍数十倍になって減らず口が返ってくるに違いない。これ以上恥をかかされるのはごめんだと、土方は乱暴に髪を掻き乱して二人に背を向けた。引き戸の前で立ち止まり顔だけ振り返る。
「も、もう行くぞ! お前もさっさと仕事に戻れ総悟!!」
「へいへい、わかりやしたー。あ、土方さん」
「ああ!?」
「紗己ともう一回、最後のブチューはいいんですかィ?」
からかうように言ってやると、当事者の二人は同時に頬を赤らめた。何も言えずに恥ずかしそうにしている紗己と一瞬目を合わせてから、土方は唾を飛ばして沖田に噛み付く。
「ばばっ馬鹿言ってんじゃねえっ!」
「ひでェや、馬鹿だなんて。まァそれはいいとして・・・いくら機嫌損ねたからって、電話忘れちゃいけませんぜ、土方さん」
言いながら、隣に立つ紗己にチラッと視線をやる。すると土方は、
「うるせェ! 言われなくても忘れねーよっ!! もう行くからなっ」
あくまでも紗己ではなく沖田を睨みつけて、大股でズンズンと地面を踏みつけながら玄関を出て行った。
そうも経たないうちに、門の方からの怒鳴り声が玄関にいる二人の耳にも届いた。どうやら土方が「早く出せ」と怒鳴ったらしい。
車のエンジン音が遠くなってから、紗己は土間に下りて引き戸を閉めた。
「行っちゃいました、ね」
「あー、ほんとめんどくせェ男でさァ」
怠そうに首を鳴らしている沖田に、土間から上がった紗己が柔らかく笑い掛けた。
「ふふ、おかげで気が紛れました」
「あー、なんだそりゃァ」
まるで意味が分からないといった顔をわざとらしく作る。
彼が何も言おうとしないので、そこはそれ、紗己もそれ以上は何も言わない。すると沖田の方が少し気まずくなったらしく、ゆっくりと廊下を進みながら後方の紗己に話し掛けた。
「三日なんて、あっという間だ」
「はい、そうですね。あっという間、ですね」
閉めてしまった戸に目を向けて、穏やかにそう言った。
「紗己」
「え、なんですか?」
「俺ァまだ今朝何にも食ってねーんだ。どうせ暇だろ? 何か適当に作ってくれねーか」
廊下の真ん中で立ち止まって振り返りながら、まだ玄関先に立っている紗己に話し掛ける。そのやる気の無さそうな声に、紗己はにこり笑うと、はい、と明るく返事をして食堂へと続く廊下を歩き出した。