序章②
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土方の部屋を飛び出した紗己は、脇目も振らず廊下を突き進んでいた。
わなわなと震える唇を、きつくきつく噛みしめる。心臓が早鐘を打つのは、早歩きをしているからではない。
紗己には、何故土方があんなにも怒ったのかその理由が分からなかった。
もしも本当に自分が悪いのであれば、素直に謝ることはできる。だが土方の言い分は、紗己にとって到底納得のいくものではなかった。
『お前は自分に親切にしてくれりゃあ、誰でも良い人だと思うんじゃねえのかっ!』
土方にぶつけられた言葉が、繰り返し頭の中で響き続ける。本当は思い出したくなんてないのに。
いつもなら、耳にすると胸が温かくなる土方の少し癖のある声も、今は思い出すと息が苦しくて堪らなくなり、紗己は着物の胸元を強く掴んだ。
(なんであんな言い方・・・っ、ひどいよ・・・・・・!)
土方にとっては勢い任せの台詞でも、言われた側はそうは受け取れない。
誰にでもついていくような軽い女だと罵られた気分になり、それが紗己を深く傷付ける。ましてや、無自覚ながらも特別な存在になりつつある男に言われたのだから、悲しいのは当然だろう。
「そんなふうに、思わないで・・・・・・」
ぽつり呟くと、途端に涙が溢れてきた。
角を曲がった所でゆっくりと足を止め、軽く息を整え着物の袖で濡れた頬を拭う紗己だったが、背後に何者かの気配を感じて、慌ててその動きを止めた。
「紗己ちゃん!」
「・・・っ」
振り返れば、そこには不安気な表情を浮かべた山崎が立っていた。紗己が心配だったため、無事かどうか彼女の部屋を訪ねようとしていたのだ。
山崎は紗己を見るなり、三白眼を見開いて驚きを露わにする。
「紗己ちゃんどうしたの!? 副長に何かされた、何か言われたっ!?」
「え、あ・・・違っ・・・」
泣いているのを心配されたのだと気付いた紗己は、慌てて目元を擦るとすぐに笑顔を取り繕った。
「平気です、なんでもないですから」
「紗己ちゃん・・・・・・」
平気なようにはとても見えないが、本人がそう言っているのにそれを否定するわけにもいかず。山崎は困ったような顔をしながらも、努めて明るい声を出した。
「どうせあの人のことだから、直情的になってひどい事言ったんだろ? まァ悪気があったりするような人でもないから、あんまり気にしない方がいいよ!」
少しでも気が楽になってくれればと紗己の肩をぽんと軽く叩くと、紗己は僅かながら表情を緩めた。
「・・・ありがとう、山崎さん」
「いいよ、お礼なんて言わなくて。あ、そうだ洗剤! あれ、わざわざ買ってきてくれたんだろ? ありがとう、洗濯場に運んどいたから」
そう言われて、紗己はようやく大量購入した洗剤の存在を思い出したのか、あっ、と小さく声を出した。
今の今まで忘れていたという顔をしていたのだろう、その様子に山崎は小さく笑う。
「せっかくの休みだったのに、帰りにあんな買い物してくるなんて。仕事熱心すぎだよ、紗己ちゃん」
「特売だったから、つい」
「いくら特売でも、あんなに大量に買ったら持って帰るの大変じゃないか」
「それ、銀さんにも言われました」
銀時との何気ないやり取りを思い出したのか、紗己は少し柔らかい表情を見せた。
それを見て今なら訊けると思った山崎は、キョロキョロと周囲に人がいないのを確かめてから、真相を知るために疑問を投げ掛ける。
「あ、あのさ紗己ちゃん。さっき万事屋の旦那と一緒にいただろ? その・・・旦那とどういう知り合いなわけ?」
「銀さんですか? どういうって言われても、ただの知り合いとしか・・・・・・」
紗己はそう前置きをして、ひと月前に銀時に助けられた事、そして今日も偶然会っただけだという事を山崎に語った。
わなわなと震える唇を、きつくきつく噛みしめる。心臓が早鐘を打つのは、早歩きをしているからではない。
紗己には、何故土方があんなにも怒ったのかその理由が分からなかった。
もしも本当に自分が悪いのであれば、素直に謝ることはできる。だが土方の言い分は、紗己にとって到底納得のいくものではなかった。
『お前は自分に親切にしてくれりゃあ、誰でも良い人だと思うんじゃねえのかっ!』
土方にぶつけられた言葉が、繰り返し頭の中で響き続ける。本当は思い出したくなんてないのに。
いつもなら、耳にすると胸が温かくなる土方の少し癖のある声も、今は思い出すと息が苦しくて堪らなくなり、紗己は着物の胸元を強く掴んだ。
(なんであんな言い方・・・っ、ひどいよ・・・・・・!)
土方にとっては勢い任せの台詞でも、言われた側はそうは受け取れない。
誰にでもついていくような軽い女だと罵られた気分になり、それが紗己を深く傷付ける。ましてや、無自覚ながらも特別な存在になりつつある男に言われたのだから、悲しいのは当然だろう。
「そんなふうに、思わないで・・・・・・」
ぽつり呟くと、途端に涙が溢れてきた。
角を曲がった所でゆっくりと足を止め、軽く息を整え着物の袖で濡れた頬を拭う紗己だったが、背後に何者かの気配を感じて、慌ててその動きを止めた。
「紗己ちゃん!」
「・・・っ」
振り返れば、そこには不安気な表情を浮かべた山崎が立っていた。紗己が心配だったため、無事かどうか彼女の部屋を訪ねようとしていたのだ。
山崎は紗己を見るなり、三白眼を見開いて驚きを露わにする。
「紗己ちゃんどうしたの!? 副長に何かされた、何か言われたっ!?」
「え、あ・・・違っ・・・」
泣いているのを心配されたのだと気付いた紗己は、慌てて目元を擦るとすぐに笑顔を取り繕った。
「平気です、なんでもないですから」
「紗己ちゃん・・・・・・」
平気なようにはとても見えないが、本人がそう言っているのにそれを否定するわけにもいかず。山崎は困ったような顔をしながらも、努めて明るい声を出した。
「どうせあの人のことだから、直情的になってひどい事言ったんだろ? まァ悪気があったりするような人でもないから、あんまり気にしない方がいいよ!」
少しでも気が楽になってくれればと紗己の肩をぽんと軽く叩くと、紗己は僅かながら表情を緩めた。
「・・・ありがとう、山崎さん」
「いいよ、お礼なんて言わなくて。あ、そうだ洗剤! あれ、わざわざ買ってきてくれたんだろ? ありがとう、洗濯場に運んどいたから」
そう言われて、紗己はようやく大量購入した洗剤の存在を思い出したのか、あっ、と小さく声を出した。
今の今まで忘れていたという顔をしていたのだろう、その様子に山崎は小さく笑う。
「せっかくの休みだったのに、帰りにあんな買い物してくるなんて。仕事熱心すぎだよ、紗己ちゃん」
「特売だったから、つい」
「いくら特売でも、あんなに大量に買ったら持って帰るの大変じゃないか」
「それ、銀さんにも言われました」
銀時との何気ないやり取りを思い出したのか、紗己は少し柔らかい表情を見せた。
それを見て今なら訊けると思った山崎は、キョロキョロと周囲に人がいないのを確かめてから、真相を知るために疑問を投げ掛ける。
「あ、あのさ紗己ちゃん。さっき万事屋の旦那と一緒にいただろ? その・・・旦那とどういう知り合いなわけ?」
「銀さんですか? どういうって言われても、ただの知り合いとしか・・・・・・」
紗己はそう前置きをして、ひと月前に銀時に助けられた事、そして今日も偶然会っただけだという事を山崎に語った。