第九章
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「あー・・・その、お前を・・・抱いたあの夜のことなんだが・・・」
重たい口を開き、核心に迫る。
「俺はあの時、お前にその・・・キス、してなかったか?」
言ってから、何とも居心地悪そうに咳払いをした。
デリケートな話題故に、あまり口にしたくはなかったのだ。今更とはいえ、罪悪感が完全に消え去ったわけでもないのだし。
そんな複雑な心境を知ってか知らずか、紗己は記憶を辿るようにゆっくりとした動作で、天井を見上げ呟いた。
「ああ・・・・・・そう、いえば」
「や、やっぱりしてたんだよな!?」
腰をぐっと落として紗己の顔を覗き込む。
やや高いテンションで確認をすると、その勢いに驚きつつも彼女はこくりと頷いた。途端土方の表情はみるみる解れていき、先程の重苦しさから一転、調子良さげなことを口にし出す。
「だよな! そうだよそうだよなァ、いや、そうだとは思ってたんだけどな」
言いながら、紗己の華奢な肩を軽快に撫で回すと、土方は安堵の表情を浮かべて一息ついた。
そして、大人の男としてのそこそこ豊富な経験を、愛しい妻に少し申し訳ない気持ちで振り返る。
勿論全てを記憶に留めてなどいないが、過去の数多の『行為』の中で、それをしてないはずはないと妙な自信に胸を張る。
人違いだったとはいえ、夢の中で抱いたはずの相手は遊びの女ではなかったのだ。求め合う中で、唇を重ねないわけがない。
だよなァやっぱり、してないはずが無いと思ったんだよ。
記憶は無いものの、それなりに納得できる行動を取っていた自分自身に安心する。
しかし、まだ柔らかな感触が残る唇にふと意識が向いて、途端にある疑問が脳裏を掠めた。
してたんだよな・・・ってことは、コイツにとっちゃ、これは二回目ってことになるんじゃねェのか? 今のこれを、真に『初めて』と受け止めてるのは、俺だけってことになるんじゃねェか――?
だとしても、だからどうこうという話ではないんだが・・・と思いはする。
あの夜のことは、相手は紗己であって『紗己』ではなかったのだ。いくら口付けをしていたとしても、それをカウントするのは、何かが違う気もしている。
ただ、単なる経験としてなら、紗己にはカウントされていてもおかしくないはずだ。彼女にとってのファーストキスは、あの夜に済まされたに違いないのだから。
ならば何故、先程口付けた時にあのような初々しい反応を見せたのだろう――どうこうという話ではないと思っていながらも、ここまで考えて、また眉間に皺を寄せてしまう。
そこに、彼の表情の変化が気に掛かった紗己が、不安そうに声を掛けてきた。
「土方さん?」
「・・・・・・えっ」
「どうか、したんですか?」
「・・・いや、別に大したことじゃねーんだが、ちょっと気になってな」
彼女の肩に乗せていた手を静かに下ろして、やや顎を上げ気味に紗己を見下ろす。
「お前・・・は、覚えてるわけだろ? その、あの夜のこと」
「・・・・・・まあ・・・」
少しの間を置いてから、困惑気味に曖昧な返事をする。その反応に、僅かに疑念を滲ませた声で土方は質問を続けた。
「あの夜ん時の経験があって、なんでさっきキスされたって、すぐに分からなかったんだ?」
たかがキスくらいで・・・と呆れた様子で、吐息混じりに言葉を吐き出した。
その『たかが』キスをするのに散々思い悩んで二の足を踏んでいたのは、何を隠そう自分自身なのだが、そのことはすっかり棚に上げている。ここに辿り着くまでの己の不甲斐なさに対しての、無意識の自虐的発言とも取れなくもないだろう。
何にしても、やけに冷静な姿を前面に出している土方に、紗己は彼以上に眉間に皺を寄せて、ぽつぽつと話し出した。
「ああ、そう・・・ですよね、そういえば・・・うん、そうですね」
質問に対しての答えとしては、どうにも正解とは言い難い独り言のような呟き。
何か先があるのだろうか、あるのなら早く言えとばかりに、土方は顎をしゃくって続きを促す。それに急かされるように、紗己は衝撃の一夜を今更ながら振り返らされる。
「私、あの時は何が何だか、よく分からない状態で・・・だから・・・それで・・・」
目の前の土方の視線を気にしながら、言葉足らずにならないようにと丁寧に話す。
「事故・・・事故だって思い込んでたから・・・あの、今土方さんに言われるまで、私忘れて・・・いえあの、考えないようにしてて・・・」
ありのまま答えて良いものか、一瞬迷いはしたが、ここで嘘をつく理由も彼女には特別なく。
「うーん、やっぱり・・・ちょっと、忘れてました」
「・・・・・・は?」
土方にとってはこれこそが衝撃の発言だ。
重たい口を開き、核心に迫る。
「俺はあの時、お前にその・・・キス、してなかったか?」
言ってから、何とも居心地悪そうに咳払いをした。
デリケートな話題故に、あまり口にしたくはなかったのだ。今更とはいえ、罪悪感が完全に消え去ったわけでもないのだし。
そんな複雑な心境を知ってか知らずか、紗己は記憶を辿るようにゆっくりとした動作で、天井を見上げ呟いた。
「ああ・・・・・・そう、いえば」
「や、やっぱりしてたんだよな!?」
腰をぐっと落として紗己の顔を覗き込む。
やや高いテンションで確認をすると、その勢いに驚きつつも彼女はこくりと頷いた。途端土方の表情はみるみる解れていき、先程の重苦しさから一転、調子良さげなことを口にし出す。
「だよな! そうだよそうだよなァ、いや、そうだとは思ってたんだけどな」
言いながら、紗己の華奢な肩を軽快に撫で回すと、土方は安堵の表情を浮かべて一息ついた。
そして、大人の男としてのそこそこ豊富な経験を、愛しい妻に少し申し訳ない気持ちで振り返る。
勿論全てを記憶に留めてなどいないが、過去の数多の『行為』の中で、それをしてないはずはないと妙な自信に胸を張る。
人違いだったとはいえ、夢の中で抱いたはずの相手は遊びの女ではなかったのだ。求め合う中で、唇を重ねないわけがない。
だよなァやっぱり、してないはずが無いと思ったんだよ。
記憶は無いものの、それなりに納得できる行動を取っていた自分自身に安心する。
しかし、まだ柔らかな感触が残る唇にふと意識が向いて、途端にある疑問が脳裏を掠めた。
してたんだよな・・・ってことは、コイツにとっちゃ、これは二回目ってことになるんじゃねェのか? 今のこれを、真に『初めて』と受け止めてるのは、俺だけってことになるんじゃねェか――?
だとしても、だからどうこうという話ではないんだが・・・と思いはする。
あの夜のことは、相手は紗己であって『紗己』ではなかったのだ。いくら口付けをしていたとしても、それをカウントするのは、何かが違う気もしている。
ただ、単なる経験としてなら、紗己にはカウントされていてもおかしくないはずだ。彼女にとってのファーストキスは、あの夜に済まされたに違いないのだから。
ならば何故、先程口付けた時にあのような初々しい反応を見せたのだろう――どうこうという話ではないと思っていながらも、ここまで考えて、また眉間に皺を寄せてしまう。
そこに、彼の表情の変化が気に掛かった紗己が、不安そうに声を掛けてきた。
「土方さん?」
「・・・・・・えっ」
「どうか、したんですか?」
「・・・いや、別に大したことじゃねーんだが、ちょっと気になってな」
彼女の肩に乗せていた手を静かに下ろして、やや顎を上げ気味に紗己を見下ろす。
「お前・・・は、覚えてるわけだろ? その、あの夜のこと」
「・・・・・・まあ・・・」
少しの間を置いてから、困惑気味に曖昧な返事をする。その反応に、僅かに疑念を滲ませた声で土方は質問を続けた。
「あの夜ん時の経験があって、なんでさっきキスされたって、すぐに分からなかったんだ?」
たかがキスくらいで・・・と呆れた様子で、吐息混じりに言葉を吐き出した。
その『たかが』キスをするのに散々思い悩んで二の足を踏んでいたのは、何を隠そう自分自身なのだが、そのことはすっかり棚に上げている。ここに辿り着くまでの己の不甲斐なさに対しての、無意識の自虐的発言とも取れなくもないだろう。
何にしても、やけに冷静な姿を前面に出している土方に、紗己は彼以上に眉間に皺を寄せて、ぽつぽつと話し出した。
「ああ、そう・・・ですよね、そういえば・・・うん、そうですね」
質問に対しての答えとしては、どうにも正解とは言い難い独り言のような呟き。
何か先があるのだろうか、あるのなら早く言えとばかりに、土方は顎をしゃくって続きを促す。それに急かされるように、紗己は衝撃の一夜を今更ながら振り返らされる。
「私、あの時は何が何だか、よく分からない状態で・・・だから・・・それで・・・」
目の前の土方の視線を気にしながら、言葉足らずにならないようにと丁寧に話す。
「事故・・・事故だって思い込んでたから・・・あの、今土方さんに言われるまで、私忘れて・・・いえあの、考えないようにしてて・・・」
ありのまま答えて良いものか、一瞬迷いはしたが、ここで嘘をつく理由も彼女には特別なく。
「うーん、やっぱり・・・ちょっと、忘れてました」
「・・・・・・は?」
土方にとってはこれこそが衝撃の発言だ。