第九章
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――人生で一番幸せだった時は?
もし今誰かにそう訊かれれば、間違いなく今この時だと答えると、腕の中に愛しい妻を感じながら土方は感慨深げに思う。
ここまで辿り着くのに随分と時間がかかったが・・・まァそれもいつか、いい思い出の一つになっちまうんだけどな。
晴れた日の昼下がり――縁側で微笑みながら、この出来事を懐かしむ自分たちの姿を想像して、自然と穏やかな表情になった。
ここまで人生を謳歌出来るなんて、出会ってすぐの頃には思いもしなかった。幸せを与えてくれた紗己に感謝を伝えたくて、また抱き締める腕に力が込められる。
それに応えるように紗己も、土方の肩口に頬を摺り寄せ体重を預けた。そうすることでより密着度が増し、土方の幸福感は右肩上がりで伸び続けていく。当然、離れたくなくなる。
ああ、もう出張したくなくなってきた・・・いや、行かないわけはねーんだが。三日間、長いようで短いけど、短いようで長いよな・・・・・・。
土方は静かに息を吐き出すと、少しだけ腕の力を緩め、その手を彼女の腰に回した。肩を丸めて紗己の顔を覗き込む。未だ目元は潤み赤らんでいるが、泣き止んではいるようだ。
「なあ紗己」
そう深刻ではない声で呼び掛けると、彼女は身構えたりはせず照れ臭そうに涙の跡を手の甲で擦って、返事の代わりに小さく頷いた。
真っ直ぐ自分を見つめる瞳に土方もまた照れ臭さを感じるが、一度火がついた情愛が彼に愛を囁かせる。
「寂しいか」
「え?」
「三日間会えねェだろ。寂しいか?」
「・・・・・・」
熱い眼差しから逃れるように目を逸らす。きっと、素直に言って困らせてはいけないと気を遣っているのだろう。急に憂いを含んだ双眸が、心の内を代弁している。
そんなところが彼女らしいと愛しさだけが募るのも、幸せ漂うこの雰囲気に酔ってしまっているからなのか。土方は軽く息をつくと、熱を測る時のように自身の額を紗己の額にコツンと合わせた。
互いの前髪がさらりと触れ合う。息がかかる。紗己の高い体温が、じわりと溶け込んでくる。
「言っていいんだぞ」
「っあ、の・・・」
眼前で囁かれ、今度はまともに言葉を返せない。それすらも愛しくて、土方は口端を微かに上げて笑みをこぼした。
「寂しくねェのか?」
「いえ、そんなことは・・・」
「俺は寂しい」
「・・・えっ!?」
まさかの発言に、思わず驚きの声を上げてしまった紗己。腰を抱かれているから離れはしないが、顔を引いてまじまじと土方を見つめる。
額から温もりが消える程の彼女の反応に、土方は少しムッとして眉を寄せた。
「・・・何だよ、そんなに驚くことか?」
「あ、いえその、ちょっと意外だったから・・・」
「俺だって素直に言う時もあるぞ」
「それはそうなんですけど・・・」
言葉尻を濁す。そこにはまだ続きがあるようで、ならば聞こうと、土方は先を促すような視線を送った。
その合図を正確に受け取った紗己は、もじもじと爪先を動かしつつぽつりぽつりと話し出す。
「土方さんがその・・・寂しいって思ってくださってるなんて、なんだか意外だったから・・・」
不機嫌にさせてしまい、どちらかと言えば気まずいはずなのに。どこか嬉しそうに見えるのは、はにかんでいるからだろうか。
そんな顔を見せられたら、いつまでも不愉快そうにはしていられない。元より、そこまで気を悪くしているわけでもなかったが。
土方は自然とにやけてしまう自分を誤魔化そうと、呆れたように溜め息を落とした。
「ったく・・・お前らしいけどな」
一応の愚痴らしきものをこぼしてみてから、紗己の腰を優しく引き寄せる。
「で、どうなんだ」
「えっ」
再び距離を詰められて、紗己の表情は瞬時に緊張の色に染まる。その初々しい様子にじっくりと幸せを噛み締めたいところだが、早く答えを聞きたい土方は、腰を抱く腕にぐっと力を込めて彼女を急かす。
「どうなんだよ、寂しくねェのか?」
「あの、その・・・」
「言えよ、紗己」
言葉は強いが、決して威圧感はない。やや俯いていた紗己だったが、聞き慣れた声が耳元に心地よくて、自然と言葉が口をついて出た。
「・・・寂しい、寂しいです・・・」
「ああ、そうだな」
「土方さん・・・」
優しい声に誘われて、俯いていた顔をゆっくりと上げた。そこには、満足そうな表情を浮かべる土方が。
言って良かったんだと安心した紗己だったが、やはり性格は簡単には変わらない。土方が後ろ髪を引かれる思いで出立しないでいいようにと、極力事も無げな口調で話し出す。
「で、でもあれですよ! 三日間なんてすぐですし!! 寂し・・・くないことはないけど・・・いえあの、全然平気・・・っん、」
言葉が途切れた。重ねられた唇が、彼女の言葉を飲み込んでいく。
もし今誰かにそう訊かれれば、間違いなく今この時だと答えると、腕の中に愛しい妻を感じながら土方は感慨深げに思う。
ここまで辿り着くのに随分と時間がかかったが・・・まァそれもいつか、いい思い出の一つになっちまうんだけどな。
晴れた日の昼下がり――縁側で微笑みながら、この出来事を懐かしむ自分たちの姿を想像して、自然と穏やかな表情になった。
ここまで人生を謳歌出来るなんて、出会ってすぐの頃には思いもしなかった。幸せを与えてくれた紗己に感謝を伝えたくて、また抱き締める腕に力が込められる。
それに応えるように紗己も、土方の肩口に頬を摺り寄せ体重を預けた。そうすることでより密着度が増し、土方の幸福感は右肩上がりで伸び続けていく。当然、離れたくなくなる。
ああ、もう出張したくなくなってきた・・・いや、行かないわけはねーんだが。三日間、長いようで短いけど、短いようで長いよな・・・・・・。
土方は静かに息を吐き出すと、少しだけ腕の力を緩め、その手を彼女の腰に回した。肩を丸めて紗己の顔を覗き込む。未だ目元は潤み赤らんでいるが、泣き止んではいるようだ。
「なあ紗己」
そう深刻ではない声で呼び掛けると、彼女は身構えたりはせず照れ臭そうに涙の跡を手の甲で擦って、返事の代わりに小さく頷いた。
真っ直ぐ自分を見つめる瞳に土方もまた照れ臭さを感じるが、一度火がついた情愛が彼に愛を囁かせる。
「寂しいか」
「え?」
「三日間会えねェだろ。寂しいか?」
「・・・・・・」
熱い眼差しから逃れるように目を逸らす。きっと、素直に言って困らせてはいけないと気を遣っているのだろう。急に憂いを含んだ双眸が、心の内を代弁している。
そんなところが彼女らしいと愛しさだけが募るのも、幸せ漂うこの雰囲気に酔ってしまっているからなのか。土方は軽く息をつくと、熱を測る時のように自身の額を紗己の額にコツンと合わせた。
互いの前髪がさらりと触れ合う。息がかかる。紗己の高い体温が、じわりと溶け込んでくる。
「言っていいんだぞ」
「っあ、の・・・」
眼前で囁かれ、今度はまともに言葉を返せない。それすらも愛しくて、土方は口端を微かに上げて笑みをこぼした。
「寂しくねェのか?」
「いえ、そんなことは・・・」
「俺は寂しい」
「・・・えっ!?」
まさかの発言に、思わず驚きの声を上げてしまった紗己。腰を抱かれているから離れはしないが、顔を引いてまじまじと土方を見つめる。
額から温もりが消える程の彼女の反応に、土方は少しムッとして眉を寄せた。
「・・・何だよ、そんなに驚くことか?」
「あ、いえその、ちょっと意外だったから・・・」
「俺だって素直に言う時もあるぞ」
「それはそうなんですけど・・・」
言葉尻を濁す。そこにはまだ続きがあるようで、ならば聞こうと、土方は先を促すような視線を送った。
その合図を正確に受け取った紗己は、もじもじと爪先を動かしつつぽつりぽつりと話し出す。
「土方さんがその・・・寂しいって思ってくださってるなんて、なんだか意外だったから・・・」
不機嫌にさせてしまい、どちらかと言えば気まずいはずなのに。どこか嬉しそうに見えるのは、はにかんでいるからだろうか。
そんな顔を見せられたら、いつまでも不愉快そうにはしていられない。元より、そこまで気を悪くしているわけでもなかったが。
土方は自然とにやけてしまう自分を誤魔化そうと、呆れたように溜め息を落とした。
「ったく・・・お前らしいけどな」
一応の愚痴らしきものをこぼしてみてから、紗己の腰を優しく引き寄せる。
「で、どうなんだ」
「えっ」
再び距離を詰められて、紗己の表情は瞬時に緊張の色に染まる。その初々しい様子にじっくりと幸せを噛み締めたいところだが、早く答えを聞きたい土方は、腰を抱く腕にぐっと力を込めて彼女を急かす。
「どうなんだよ、寂しくねェのか?」
「あの、その・・・」
「言えよ、紗己」
言葉は強いが、決して威圧感はない。やや俯いていた紗己だったが、聞き慣れた声が耳元に心地よくて、自然と言葉が口をついて出た。
「・・・寂しい、寂しいです・・・」
「ああ、そうだな」
「土方さん・・・」
優しい声に誘われて、俯いていた顔をゆっくりと上げた。そこには、満足そうな表情を浮かべる土方が。
言って良かったんだと安心した紗己だったが、やはり性格は簡単には変わらない。土方が後ろ髪を引かれる思いで出立しないでいいようにと、極力事も無げな口調で話し出す。
「で、でもあれですよ! 三日間なんてすぐですし!! 寂し・・・くないことはないけど・・・いえあの、全然平気・・・っん、」
言葉が途切れた。重ねられた唇が、彼女の言葉を飲み込んでいく。