第九章
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「・・・へ?」
紗己の口から頓狂な声が漏れ出た。目の前には隊服を身に纏い、右手をズボンのポケットに突っ込んだままの土方の姿が。そして彼の左手は、紗己の右肩を優しく掴んでいる。
じわじわと体温が伝わり始めた右肩に視線を移して、そこから下へ、上へと目の前の男をじっくり観察すると、
「・・・え?」
疑問符の付いた声が、また彼女の口から零れた。
幾人もが同時に会話をしているようなざわめきが頭の中いっぱいに広がり、今しがた己を襲った衝撃と目の前の光景を繋げようにも、思考が全く働かない。それでも、ほんのりと唇に残る感覚に、無意識ながらも鼓動が高鳴る。
一方の土方は、半分口を開けた状態で固まっている妻に、少々困惑した様子だ。
「おい、紗己・・・・・・?」
控え目に呼び掛けて、左手で軽く紗己の肩を揺する。少し背中を曲げて覗き込むようにすれば、こちらを見ているようで見ていなかった彼女と、ようやく目が合った。
「・・・?」
「紗己、大丈夫か?」
「・・・土、方さん・・・・・・?」
「あー・・・悪い、息出来てなかったか」
まるで寝起きのような力の入らない声を出す紗己に、苦しかったのだろうと触れている右肩を優しく撫でてやる。
鼻から息、やっぱりしてなかったか。何となくは予想していたらしく、土方は胸中で小さく笑った。
だが紗己は、頬を赤く染めつつも呆然とした様子で、
「はあ、息・・・あの、今一体・・・あれ・・・・・・?」
全く要領を得ない言葉をたどたどしく繰り返している。
「おい、紗己・・・・・・?」
見るからに放心状態の妻に、自分が今何をされたのか理解が追い付いていないのだと悟った土方は、これは参ったとばかりに肩を落とした。
鈍いってのは分かっちゃいたが、ここまで呆然とされるとはな・・・・・・。
紗己の右肩を撫でていた手を止めると、向き合っていながらも視線が絡まない妻の顔を再度覗き込む。
「おい、大丈夫か」
「・・・っ! は、はい」
声を掛けられたことにすぐに気付けず、少しの間を置いてから慌てたように紗己は返事をした。
普段の鋭さは鳴りを潜め、困惑に満ちた双眸の土方に見つめられ、何故そんな表情をしているのかと紗己は頭の片隅でぼんやりと思う。それと同時に、ばらばらに散らかっていたパズルのピースが一つずつはまっていくように、先程の出来事が脳内でゆっくりと形を成していく。
「あ・・・私、さっき・・・・・・」
自身の口元に手をやって、先程の衝撃を思い返すようにそっと唇を撫でると、それまでぼんやりとしていた紗己の目が一瞬色を取り戻した。
彼女の表情の小さな変化を当然見逃すはずがなく、紗己に状況整理をさせるために、土方は落ち着いた口調で話し出す。
「さっき・・・どうしたんだ?」
「あ、あの・・・私、その・・・」
両の爪先をもじもじと擦り合わせながら、頬を赤くして恥ずかしそうに目線を下げる。自分の身に何が起こったのか、ようやく気付いたのだ。
そんな紗己を見て、ここらで一気に畳み掛けるかと、土方は彼女との程近い距離を更に詰めるため半歩足を踏み込んだ。鋭い双眸はこの機を決して逃すまいと、獲物に狙いを定めた。
「さっきのことも、これがどういうことかも、もう・・・分かるよな?」
少し猫背になって紗己を見下ろす。畳を摺るようににじり寄れば、彼女はハッと息を呑んで小さく頷いた。
「わ、私・・・っ、そのあのっ・・・」
裏返った声で自分に起こったことを言葉にしようとする紗己。余程恥ずかしいのだろう、瞬きを幾度も繰り返し、両手で自身の胸元をギュッと押さえ付けている。
そんな彼女を前に土方は、先程よりももっと熱い感情に胸を鷲掴みにされていた。鈍感すぎるだろうと呆れる気持ちを持ってしてもなお、その何もかもが愛しくて堪らない。
溢れそうな想いを抑えきれずに、不意に紗己に口付けたのはつい先程の事だ。その感触がまだ残っている唇が、またそれを味わいたいと、もっと深く味わいたいと微かに動いた。
紗己の口から頓狂な声が漏れ出た。目の前には隊服を身に纏い、右手をズボンのポケットに突っ込んだままの土方の姿が。そして彼の左手は、紗己の右肩を優しく掴んでいる。
じわじわと体温が伝わり始めた右肩に視線を移して、そこから下へ、上へと目の前の男をじっくり観察すると、
「・・・え?」
疑問符の付いた声が、また彼女の口から零れた。
幾人もが同時に会話をしているようなざわめきが頭の中いっぱいに広がり、今しがた己を襲った衝撃と目の前の光景を繋げようにも、思考が全く働かない。それでも、ほんのりと唇に残る感覚に、無意識ながらも鼓動が高鳴る。
一方の土方は、半分口を開けた状態で固まっている妻に、少々困惑した様子だ。
「おい、紗己・・・・・・?」
控え目に呼び掛けて、左手で軽く紗己の肩を揺する。少し背中を曲げて覗き込むようにすれば、こちらを見ているようで見ていなかった彼女と、ようやく目が合った。
「・・・?」
「紗己、大丈夫か?」
「・・・土、方さん・・・・・・?」
「あー・・・悪い、息出来てなかったか」
まるで寝起きのような力の入らない声を出す紗己に、苦しかったのだろうと触れている右肩を優しく撫でてやる。
鼻から息、やっぱりしてなかったか。何となくは予想していたらしく、土方は胸中で小さく笑った。
だが紗己は、頬を赤く染めつつも呆然とした様子で、
「はあ、息・・・あの、今一体・・・あれ・・・・・・?」
全く要領を得ない言葉をたどたどしく繰り返している。
「おい、紗己・・・・・・?」
見るからに放心状態の妻に、自分が今何をされたのか理解が追い付いていないのだと悟った土方は、これは参ったとばかりに肩を落とした。
鈍いってのは分かっちゃいたが、ここまで呆然とされるとはな・・・・・・。
紗己の右肩を撫でていた手を止めると、向き合っていながらも視線が絡まない妻の顔を再度覗き込む。
「おい、大丈夫か」
「・・・っ! は、はい」
声を掛けられたことにすぐに気付けず、少しの間を置いてから慌てたように紗己は返事をした。
普段の鋭さは鳴りを潜め、困惑に満ちた双眸の土方に見つめられ、何故そんな表情をしているのかと紗己は頭の片隅でぼんやりと思う。それと同時に、ばらばらに散らかっていたパズルのピースが一つずつはまっていくように、先程の出来事が脳内でゆっくりと形を成していく。
「あ・・・私、さっき・・・・・・」
自身の口元に手をやって、先程の衝撃を思い返すようにそっと唇を撫でると、それまでぼんやりとしていた紗己の目が一瞬色を取り戻した。
彼女の表情の小さな変化を当然見逃すはずがなく、紗己に状況整理をさせるために、土方は落ち着いた口調で話し出す。
「さっき・・・どうしたんだ?」
「あ、あの・・・私、その・・・」
両の爪先をもじもじと擦り合わせながら、頬を赤くして恥ずかしそうに目線を下げる。自分の身に何が起こったのか、ようやく気付いたのだ。
そんな紗己を見て、ここらで一気に畳み掛けるかと、土方は彼女との程近い距離を更に詰めるため半歩足を踏み込んだ。鋭い双眸はこの機を決して逃すまいと、獲物に狙いを定めた。
「さっきのことも、これがどういうことかも、もう・・・分かるよな?」
少し猫背になって紗己を見下ろす。畳を摺るようににじり寄れば、彼女はハッと息を呑んで小さく頷いた。
「わ、私・・・っ、そのあのっ・・・」
裏返った声で自分に起こったことを言葉にしようとする紗己。余程恥ずかしいのだろう、瞬きを幾度も繰り返し、両手で自身の胸元をギュッと押さえ付けている。
そんな彼女を前に土方は、先程よりももっと熱い感情に胸を鷲掴みにされていた。鈍感すぎるだろうと呆れる気持ちを持ってしてもなお、その何もかもが愛しくて堪らない。
溢れそうな想いを抑えきれずに、不意に紗己に口付けたのはつい先程の事だ。その感触がまだ残っている唇が、またそれを味わいたいと、もっと深く味わいたいと微かに動いた。