序章②
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「あ、あの・・・偶然会って、銀さんが荷物持ってくれて・・・」
「銀、さん・・・・・・だあァ?」
ひどくゆっくり、噛みしめるように言うと、土方は突然怒気をはらんだ大声を上げた。
「おい紗己! お前いつからあの白髪天パと知り合いなんだっ」
「えっ・・・ひと月くらい前、から・・・・・・?」
いきなり怒鳴られ紗己は目を丸くしつつも、この方がいつもの副長さんらしいな・・・なんて頭の片隅でつい思ってしまい、随分と曖昧に言葉を返す。
「どこでどう知り合ったんだっ」
「どこでって・・・町で、男の人たちに絡まれていたところを、銀さんが助けてくださったんです。今日会ったので、まだ二回目ですよ」
向かいに座る紗己が、丁寧に質問に答えてくれる。
部屋に入った時の怯えた様子から、いつの間か普段の少々鈍感な彼女に戻っていることに、土方の苛々はますます治まらない。
なんでそんな平然としてんだ! いや・・・別に怖がらせたいとかそんなんじゃねえけど・・・・・・。
自分がこんなにもヒートアップしているというのに、それをなんとも思っていなさそうな紗己に、どうしても腹が立ってしまうのだ。
それが身勝手な考えなのは承知の上で、それでも苛立ちを抑えられない土方は、分かりやすく乱暴に溜め息をつくと、煙草を持っていない方の手で自身の額を覆い、もう一度、聞こえよがしに溜め息を落とした。
「お前なァ、いくら助けてもらったからって見ず知らずの男と親しくなんなよ! 危ねーだろうが・・・」
とはいえ、全く見も知らない男と自分の知らない所で親しくされるくらいなら、まだこの方がマシだったか。そう思っていた矢先のこと。
「危なくなんか! 銀さんすごい良い人だし、優しいですよ?」
土方が銀時に良い感情を抱いていないとはまるで考えもしない紗己が、耳心地の良い優しい声音に笑みを乗せて答えた。
(良い人、だと・・・・・・?)
銀時を庇うような、土方にとっては耳を疑いたくなる発言をした紗己に対し、怒りはとうとう頂点へと達してしまう。
「ふざっけんなっ!」
怒りに任せて声を荒らげ、ドンッ! と思い切り握り拳を畳に叩きつけると、
「お前は自分に親切にしてくれりゃあ、誰でも良い人だと思うんじゃねェのかっ! 男ってのはなあ、どんな野郎でも下心があんだよ!! お前危機意識無さすぎだ、もうアイツと会うな! 分かったなっ!?」
物凄い剣幕で捲し立てる。
本当は、言いながらもおかしなことを言っているのは自分の方だと、土方も内心理解している。
けれど、どうしても気に入らない。
銀時の言うとおり、紗己のプライベートを制限する権限など無いと分かっていながらも、どうしても我を通してしまう。
そんな勝手な葛藤を知ってか知らずか、紗己は珍しくムッとした表情を見せた。
「どうしてそんな事言うんですか? 他の男の人は知らないけど、銀さん良い人です! それに私親切にされただけで、誰でも良い人だなんて思ったりしません!」
いつもは穏やかな笑みを浮かべている印象しかない紗己が、興奮でやや早口になりながらも反論してくる。
紗己が怒るのも無理はない。誰にでもついていくような女だと言われた気がしたのだ。ただでさえ傷付く言葉を、よりにもよって土方から浴びせられた。
それでも先に怒りが立っているので、強気の発言を抑制することは出来ない。
これに驚いたのは土方だ。
紗己という人物を言葉で表すとしたら、一番に思い浮かぶのが『穏やか』である。そう認識していた紗己の、柔らかな弧を描く半月型の瞳には、明らかに不満の色が滲んでいたのだから。
予想外の反応に一瞬躊躇った土方だが、こちらも負けじと強い意思で我を通す。
「っ、とにかく! 万事屋とは会うな!!」
「嫌です!」
「おま・・・なんでそんな急に聞き分けねェんだよっ」
まるで、常に聞き分けがよくないといけないような言い方をする。
まさか紗己が反論するとは思ってもみなかった土方は、驚きのあまり指に挟んでいた煙草を落としそうになった。
「どうして会うななんて言うんですか! 納得できる理由を言ってください!!」
「・・・ねえよ」
「え?」
「理由なんかねェ! アイツが気にいらねーから会うなっつってんだよっ!!」
一際大きな声でそう言うと、手にしていた煙草を乱暴に灰皿に押し付けた。
急にしんと静まり返った部屋の中に、ジュッと火種が消える音がやけに存在感を主張する。
どうしてこんなにも無茶な要求を突きつけてしまうのか、土方本人にすら分からない。
だが自分を制御できない今の感情と、紗己を思うたびに頭にもたげるモヤモヤとした感情は同様のものに思えて、この不快な気持ちを落ち着かせる方法を無意識に探している。
そうすると、冷静な判断はどこへやら、紗己を抑圧するような言動をしているのだ。
(いくらなんでもこれはないだろ、俺・・・)
一応思いはするが、僅かな理性など突発的な感情の前では立場など無い。
だが、土方の胸の内の葛藤など知らぬ紗己は、
「理由が無いなら、聞き入れるなんて出来ません!」
きっぱり言い切ると、すくっと立ち上がり障子戸に手を掛けた。
「お、おい紗己! まだ話は終わっ・・・」
腰を浮かせて呼び止めたが、紗己は振り返りもせずに部屋を出て行ってしまった。
「銀、さん・・・・・・だあァ?」
ひどくゆっくり、噛みしめるように言うと、土方は突然怒気をはらんだ大声を上げた。
「おい紗己! お前いつからあの白髪天パと知り合いなんだっ」
「えっ・・・ひと月くらい前、から・・・・・・?」
いきなり怒鳴られ紗己は目を丸くしつつも、この方がいつもの副長さんらしいな・・・なんて頭の片隅でつい思ってしまい、随分と曖昧に言葉を返す。
「どこでどう知り合ったんだっ」
「どこでって・・・町で、男の人たちに絡まれていたところを、銀さんが助けてくださったんです。今日会ったので、まだ二回目ですよ」
向かいに座る紗己が、丁寧に質問に答えてくれる。
部屋に入った時の怯えた様子から、いつの間か普段の少々鈍感な彼女に戻っていることに、土方の苛々はますます治まらない。
なんでそんな平然としてんだ! いや・・・別に怖がらせたいとかそんなんじゃねえけど・・・・・・。
自分がこんなにもヒートアップしているというのに、それをなんとも思っていなさそうな紗己に、どうしても腹が立ってしまうのだ。
それが身勝手な考えなのは承知の上で、それでも苛立ちを抑えられない土方は、分かりやすく乱暴に溜め息をつくと、煙草を持っていない方の手で自身の額を覆い、もう一度、聞こえよがしに溜め息を落とした。
「お前なァ、いくら助けてもらったからって見ず知らずの男と親しくなんなよ! 危ねーだろうが・・・」
とはいえ、全く見も知らない男と自分の知らない所で親しくされるくらいなら、まだこの方がマシだったか。そう思っていた矢先のこと。
「危なくなんか! 銀さんすごい良い人だし、優しいですよ?」
土方が銀時に良い感情を抱いていないとはまるで考えもしない紗己が、耳心地の良い優しい声音に笑みを乗せて答えた。
(良い人、だと・・・・・・?)
銀時を庇うような、土方にとっては耳を疑いたくなる発言をした紗己に対し、怒りはとうとう頂点へと達してしまう。
「ふざっけんなっ!」
怒りに任せて声を荒らげ、ドンッ! と思い切り握り拳を畳に叩きつけると、
「お前は自分に親切にしてくれりゃあ、誰でも良い人だと思うんじゃねェのかっ! 男ってのはなあ、どんな野郎でも下心があんだよ!! お前危機意識無さすぎだ、もうアイツと会うな! 分かったなっ!?」
物凄い剣幕で捲し立てる。
本当は、言いながらもおかしなことを言っているのは自分の方だと、土方も内心理解している。
けれど、どうしても気に入らない。
銀時の言うとおり、紗己のプライベートを制限する権限など無いと分かっていながらも、どうしても我を通してしまう。
そんな勝手な葛藤を知ってか知らずか、紗己は珍しくムッとした表情を見せた。
「どうしてそんな事言うんですか? 他の男の人は知らないけど、銀さん良い人です! それに私親切にされただけで、誰でも良い人だなんて思ったりしません!」
いつもは穏やかな笑みを浮かべている印象しかない紗己が、興奮でやや早口になりながらも反論してくる。
紗己が怒るのも無理はない。誰にでもついていくような女だと言われた気がしたのだ。ただでさえ傷付く言葉を、よりにもよって土方から浴びせられた。
それでも先に怒りが立っているので、強気の発言を抑制することは出来ない。
これに驚いたのは土方だ。
紗己という人物を言葉で表すとしたら、一番に思い浮かぶのが『穏やか』である。そう認識していた紗己の、柔らかな弧を描く半月型の瞳には、明らかに不満の色が滲んでいたのだから。
予想外の反応に一瞬躊躇った土方だが、こちらも負けじと強い意思で我を通す。
「っ、とにかく! 万事屋とは会うな!!」
「嫌です!」
「おま・・・なんでそんな急に聞き分けねェんだよっ」
まるで、常に聞き分けがよくないといけないような言い方をする。
まさか紗己が反論するとは思ってもみなかった土方は、驚きのあまり指に挟んでいた煙草を落としそうになった。
「どうして会うななんて言うんですか! 納得できる理由を言ってください!!」
「・・・ねえよ」
「え?」
「理由なんかねェ! アイツが気にいらねーから会うなっつってんだよっ!!」
一際大きな声でそう言うと、手にしていた煙草を乱暴に灰皿に押し付けた。
急にしんと静まり返った部屋の中に、ジュッと火種が消える音がやけに存在感を主張する。
どうしてこんなにも無茶な要求を突きつけてしまうのか、土方本人にすら分からない。
だが自分を制御できない今の感情と、紗己を思うたびに頭にもたげるモヤモヤとした感情は同様のものに思えて、この不快な気持ちを落ち着かせる方法を無意識に探している。
そうすると、冷静な判断はどこへやら、紗己を抑圧するような言動をしているのだ。
(いくらなんでもこれはないだろ、俺・・・)
一応思いはするが、僅かな理性など突発的な感情の前では立場など無い。
だが、土方の胸の内の葛藤など知らぬ紗己は、
「理由が無いなら、聞き入れるなんて出来ません!」
きっぱり言い切ると、すくっと立ち上がり障子戸に手を掛けた。
「お、おい紗己! まだ話は終わっ・・・」
腰を浮かせて呼び止めたが、紗己は振り返りもせずに部屋を出て行ってしまった。