第九章
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――――――
――前々から思ってたんですけど、やっぱり食の好みって大事だと思うんです。私、マヨネーズは人並み程度にしか食べませんし。って言うか、マヨネーズって調味料ですしね。
その点銀さんとなら味覚が近いんですよねー、一緒に甘い物食べてくれるし、甘味処にも一緒に行ってくれるし。
まあそんなわけで、短い間でしたがお世話になりました。
マヨネーズと煙草の摂り過ぎは、身体に毒ですよ――・・・
え、ちょっとおい紗己? なんだこれ、お前何言ってんだよ? つうかそんなわけってどんなわけだよ!? って待て待てちょっと待て! 前にも同じような事言われた気が・・・っておい紗己!!?
ちょ、ちょっと待てってオイ! どこに行くんだよ!? 行くな、行かないでくれっ! 頼むから行かないでくれ――!!
「っ・・・!?」
ガバッと布団を剥いで飛び起きた。夢か現実か、何が何やら分からない状態で、口が勝手に愛しい妻の名を呼ぶ。
「紗己・・・紗己っ」
「はい?」
「っ!」
いきなり背後から声がして、土方は驚き肩をビクッと強張らせた。
「い、居たのか・・・・・・」
言いながらゆっくりと振り向くと、半分開いた襖の向こうで優しく微笑む紗己の姿が。先程運んできた朝食を、座卓に並べていたところだった。
むしろ驚いたのは紗己の方だ。続き間を仕切る襖を半分開けていたので、飛び起きる土方の姿が丸見えだった。それに驚いていると、今度は突然大声で名前を呼ばれたのだ。
「大丈夫ですか。何か、嫌な夢でも見たんですか?」
「嫌な、夢・・・・・・? ああ、嫌な・・・いやいや嫌なんてモンじゃねーだろありゃァ、悪夢だ悪夢・・・」
片手で額を覆って、ブツブツと低く呟く。
あろうことか、紗己があんなことを言うなんて。布団から出る気力もなく、がっくりと項垂れる。
自身の夢の中での彼女の発言に、勝手にショックを受けているようだ。紗己からしてみれば、随分と迷惑な話である。
くっそ嫌な夢見ちまったぜ、寝覚めが悪いなんてレベルじゃねェぞ、これ・・・・・・。
どうしてあんな夢を見てしまったのかと、腹立たしそうに舌打ちをする。
同じようなパターンの夢を、前にも一度見ているのだ。何故またそれを繰り返すのか、想像力豊かな己の右脳に物言いをつけたい気分だ。
前回同じパターンの夢で飛び起きた時も、新婚初夜に寝落ちしてしまった翌朝だったし、どうも昨夜先に寝てしまったことを気にしているのだろう。
だが今回は、その内容に多少の違いが出てきている。夢の中の紗己は、銀時の名前を出してきたのだ。
食の好みの違いを指摘され、アイデンティティを否定されたような悲しい気持ち。けれどそれよりも引っかかるのは、別の男と比較されたことと、その相手が銀時ということ。
昨日の銀時との会話、そして紗己から聞いた彼の話。自分の妻と絶妙な距離感を保っている銀時への嫉妬と対抗心が、土方に再び不愉快な夢を見させたのだろう。
そりゃァ俺は甘いモンは好んで食わねーが、俺だって頼まれれば一緒に甘味処に行ってやるってのに・・・・・・。
全て自分が勝手に見た夢の内容なのに、まるで実際に言われたような気になって不快感を表情に滲ませる。
まだ布団から出ることなく、眉間に皺を寄せて猫背気味に嘆息している夫の後姿。朝食を並べ終えた紗己が、その背中を心配して布団の側へとやってきて、両膝を畳につき土方の顔を覗き込んだ。
「具合、悪いんですか?」
「・・・え」
「そんなにゆっくりは出来ないと思いますけど、出発ギリギリまで、もう少し休まれますか?」
「あー・・・いや、ちょっと寝ぼけてただけだ。もう起きる」
言いながら頭を掻くと、土方は腰から下に掛かっていた掛布団を更に足元へと押しやった。
慌てるのは嫌なので、元々余裕を持たせていた朝のスケジュールだが、二度寝するほどの時間的余裕はない。
そう、本日から三日間の出張なのだ。その出発の朝に、出掛けるのが嫌になるような夢を見てしまった。いや、出発の朝だからこそ見てしまったのだろう。気掛かりなことが多すぎて、その心境が見事反映されてしまった。
しかし仕事は仕事、いい加減気持ちを切り替えなければいけない。
土方は重たい気持ちを抱えたままのそっと立ち上がると、顔を洗うために自室を後にした。
――前々から思ってたんですけど、やっぱり食の好みって大事だと思うんです。私、マヨネーズは人並み程度にしか食べませんし。って言うか、マヨネーズって調味料ですしね。
その点銀さんとなら味覚が近いんですよねー、一緒に甘い物食べてくれるし、甘味処にも一緒に行ってくれるし。
まあそんなわけで、短い間でしたがお世話になりました。
マヨネーズと煙草の摂り過ぎは、身体に毒ですよ――・・・
え、ちょっとおい紗己? なんだこれ、お前何言ってんだよ? つうかそんなわけってどんなわけだよ!? って待て待てちょっと待て! 前にも同じような事言われた気が・・・っておい紗己!!?
ちょ、ちょっと待てってオイ! どこに行くんだよ!? 行くな、行かないでくれっ! 頼むから行かないでくれ――!!
「っ・・・!?」
ガバッと布団を剥いで飛び起きた。夢か現実か、何が何やら分からない状態で、口が勝手に愛しい妻の名を呼ぶ。
「紗己・・・紗己っ」
「はい?」
「っ!」
いきなり背後から声がして、土方は驚き肩をビクッと強張らせた。
「い、居たのか・・・・・・」
言いながらゆっくりと振り向くと、半分開いた襖の向こうで優しく微笑む紗己の姿が。先程運んできた朝食を、座卓に並べていたところだった。
むしろ驚いたのは紗己の方だ。続き間を仕切る襖を半分開けていたので、飛び起きる土方の姿が丸見えだった。それに驚いていると、今度は突然大声で名前を呼ばれたのだ。
「大丈夫ですか。何か、嫌な夢でも見たんですか?」
「嫌な、夢・・・・・・? ああ、嫌な・・・いやいや嫌なんてモンじゃねーだろありゃァ、悪夢だ悪夢・・・」
片手で額を覆って、ブツブツと低く呟く。
あろうことか、紗己があんなことを言うなんて。布団から出る気力もなく、がっくりと項垂れる。
自身の夢の中での彼女の発言に、勝手にショックを受けているようだ。紗己からしてみれば、随分と迷惑な話である。
くっそ嫌な夢見ちまったぜ、寝覚めが悪いなんてレベルじゃねェぞ、これ・・・・・・。
どうしてあんな夢を見てしまったのかと、腹立たしそうに舌打ちをする。
同じようなパターンの夢を、前にも一度見ているのだ。何故またそれを繰り返すのか、想像力豊かな己の右脳に物言いをつけたい気分だ。
前回同じパターンの夢で飛び起きた時も、新婚初夜に寝落ちしてしまった翌朝だったし、どうも昨夜先に寝てしまったことを気にしているのだろう。
だが今回は、その内容に多少の違いが出てきている。夢の中の紗己は、銀時の名前を出してきたのだ。
食の好みの違いを指摘され、アイデンティティを否定されたような悲しい気持ち。けれどそれよりも引っかかるのは、別の男と比較されたことと、その相手が銀時ということ。
昨日の銀時との会話、そして紗己から聞いた彼の話。自分の妻と絶妙な距離感を保っている銀時への嫉妬と対抗心が、土方に再び不愉快な夢を見させたのだろう。
そりゃァ俺は甘いモンは好んで食わねーが、俺だって頼まれれば一緒に甘味処に行ってやるってのに・・・・・・。
全て自分が勝手に見た夢の内容なのに、まるで実際に言われたような気になって不快感を表情に滲ませる。
まだ布団から出ることなく、眉間に皺を寄せて猫背気味に嘆息している夫の後姿。朝食を並べ終えた紗己が、その背中を心配して布団の側へとやってきて、両膝を畳につき土方の顔を覗き込んだ。
「具合、悪いんですか?」
「・・・え」
「そんなにゆっくりは出来ないと思いますけど、出発ギリギリまで、もう少し休まれますか?」
「あー・・・いや、ちょっと寝ぼけてただけだ。もう起きる」
言いながら頭を掻くと、土方は腰から下に掛かっていた掛布団を更に足元へと押しやった。
慌てるのは嫌なので、元々余裕を持たせていた朝のスケジュールだが、二度寝するほどの時間的余裕はない。
そう、本日から三日間の出張なのだ。その出発の朝に、出掛けるのが嫌になるような夢を見てしまった。いや、出発の朝だからこそ見てしまったのだろう。気掛かりなことが多すぎて、その心境が見事反映されてしまった。
しかし仕事は仕事、いい加減気持ちを切り替えなければいけない。
土方は重たい気持ちを抱えたままのそっと立ち上がると、顔を洗うために自室を後にした。