第八章
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一瞬息をするのを忘れてしまったため、酸素不足から身体の至るところに心臓があるかのような錯覚に陥った。今自分に何が起こっているのか、真っ白になった頭を土方は必死に揺り起こす。
なな、な、なんだこれはどどどういうつもりだ!? と・・・っ、とにかく落ち着け冷静になれ! 意味なくこんな行動には出ねえだろ、きっと何か俺に・・・え、意味が・・・意味って・・・・・・。
思ってから、その『意味』が何であるか、思考が見事に一時停止した。
何も言わず、ただひたすらに訴えかけるような眼差し。上気した頬は先程よりも赤みを増している。言葉こそ発しないが、薄く開いた艶やかな唇は触れてくれと言わんばかりだと、少なくとも土方はそう受け取った。
「っ、紗己・・・・・・?」
「・・・」
やたら熱っぽい視線が、土方の胸を射抜く。
もう三度も名を呼ばれているのに、それでも何も答えない紗己。こんなことは今まで一度もなかったぞと、乱れ打つ脈拍に急かされるように土方は浅い呼吸を繰り返す。
ちょ、ちょっと待て待てこれはちょっとアレじゃねーか!?
今ここで口付けをせがまれていると思っても、誰も彼を責めはしないだろう。現に紗己の仕草は、圧倒的多数の者にそう思わせるものだ。
と、ここで土方の脳裏に、ふとある事が過ぎった。それは三日前、紗己が倒れた時の事。
話し合いも済ませ、あとは彼女を寝かし付けるだけ・・・となった時。土方がその場から離れると思った紗己が白いシャツを掴み、武骨な手に自ら指を絡めてきたのだ。
紗己のそういった行動は初めてのことで、驚き心を鷲掴みにされた土方。その時も彼女に呼び掛けてみたが、今と同じく彼女は何も答えずに、潤んだ瞳でジッと土方を見つめたのだ。
結果としては、甘い空気に飲まれはしたものの、口付けには至らなかった。それは土方自身が、ここで口付けをしてしまっては抑制が効かないと判断して、何とか理性を働かせたからだ。
しかしその時の紗己を思い返し、今の彼女と重なる部分は大いにあると土方は密かに思う。
あの時も徐々に迫る土方に対し、それに応えるように瞳を閉じた紗己。それはもう、どこからどう見ても口付けを待つ姿だった。
今はどうだろう。三日前よりも積極性が増しているように思えてくる。
触れてきた手の動きも、ひたすら無言のまま何かを訴えるような双眸も。口付けを求めていると考えるのが、一番妥当だろう。
そう、妥当なのだ。妥当だからこそ、どう対処していいか悩んでしまう。
土方とて、口付けたいに決まっている。今日なんて、口付けよりも更に深いことにばかり気を取られていたのだ。
だが、その欲望には自ら鍵をかけた。紗己が出産を終えるまでは抱かないと、そう決心した。
彼女を強く抱き締めたことにしても、そこに欲の色は一切含まれていなかった。
しかし、愛する妻からの熱い視線を受けて、無視出来る男などいるだろうか。先程まで何の気なしに感じていた彼女の温もりにも、今頃になって過剰に反応し始める。
未だ抱き寄せたままの、彼女の肩と腰。そこに触れている手の平から電気が流れ込むように、甘い刺激がじわじわと土方の理性を侵食していく。そうなってくると、数分数秒前の記憶までもが興奮材料となってしまう。
紗己の軟らかな髪の質感も優しい香りも、胸元にかかっていた熱い息も。どれだけ普段クールを装っていようとも、中身は健康な成人男子だ。襲い来る欲望の波に抗えるほど干からびてはいない。
そもそも、本来であれば抗う必要もないことで、新妻と口付けて誰に咎められるわけでもないし、実際に誰も咎めない。
何よりもその新妻が、恐らくは口付けを求めサインを出してきている。鈍感で、そういったことには興味がないと思っていた彼女が。
どどどうするこれ、いいのか・・・いいのかっ!? ・・・いやいや駄目だ駄目だろ、ここでキスだけで止められると思うか? いや、それは無理だ絶対無理だ!
抱かないと決めたのは、腹の子を苦しめたくないという彼女の思いを尊重したからだ。彼女がそういった行為を今は望んでいないと思い込んでいる土方は、これが最良の判断だと思っている。
だが、口付けはまた違う。したからといって、肉体的に何か支障が出るようなものではない。
当然土方もこれに限っては待つ気はないし、本音を言えば今すぐにでも口付けたいのだ。しかし、今は駄目だと歯を食い縛る。
話し合いを始めるまでは落ち着いていた彼の欲望レベルも、この短い時間のうちに既に臨界点近くまで達していた。破裂寸前の風船のように、ちょっとした刺激だけでも欲望をぶちまけてしまいそうなのだ。
だからこそ、気持ちも身体もクールダウンさせて、欲望を制御出来そうな時に・・・と考えている。少なくとも、それが今でないのは確かだ。
土方は紗己の視線から逃れるように、顔を逸らしてわざとらしい咳を数回した。そしてそのまま明後日の方を向いて、腕の中の彼女に一本調子で話しかける。
「っ、あー・・・あーそのそろそろ時間もアレだしその・・・」
風呂に入ってくる、と言おうとした瞬間。
「・・・っ!!?」
逞しい男の背中が、ビクッと震えた。
なな、な、なんだこれはどどどういうつもりだ!? と・・・っ、とにかく落ち着け冷静になれ! 意味なくこんな行動には出ねえだろ、きっと何か俺に・・・え、意味が・・・意味って・・・・・・。
思ってから、その『意味』が何であるか、思考が見事に一時停止した。
何も言わず、ただひたすらに訴えかけるような眼差し。上気した頬は先程よりも赤みを増している。言葉こそ発しないが、薄く開いた艶やかな唇は触れてくれと言わんばかりだと、少なくとも土方はそう受け取った。
「っ、紗己・・・・・・?」
「・・・」
やたら熱っぽい視線が、土方の胸を射抜く。
もう三度も名を呼ばれているのに、それでも何も答えない紗己。こんなことは今まで一度もなかったぞと、乱れ打つ脈拍に急かされるように土方は浅い呼吸を繰り返す。
ちょ、ちょっと待て待てこれはちょっとアレじゃねーか!?
今ここで口付けをせがまれていると思っても、誰も彼を責めはしないだろう。現に紗己の仕草は、圧倒的多数の者にそう思わせるものだ。
と、ここで土方の脳裏に、ふとある事が過ぎった。それは三日前、紗己が倒れた時の事。
話し合いも済ませ、あとは彼女を寝かし付けるだけ・・・となった時。土方がその場から離れると思った紗己が白いシャツを掴み、武骨な手に自ら指を絡めてきたのだ。
紗己のそういった行動は初めてのことで、驚き心を鷲掴みにされた土方。その時も彼女に呼び掛けてみたが、今と同じく彼女は何も答えずに、潤んだ瞳でジッと土方を見つめたのだ。
結果としては、甘い空気に飲まれはしたものの、口付けには至らなかった。それは土方自身が、ここで口付けをしてしまっては抑制が効かないと判断して、何とか理性を働かせたからだ。
しかしその時の紗己を思い返し、今の彼女と重なる部分は大いにあると土方は密かに思う。
あの時も徐々に迫る土方に対し、それに応えるように瞳を閉じた紗己。それはもう、どこからどう見ても口付けを待つ姿だった。
今はどうだろう。三日前よりも積極性が増しているように思えてくる。
触れてきた手の動きも、ひたすら無言のまま何かを訴えるような双眸も。口付けを求めていると考えるのが、一番妥当だろう。
そう、妥当なのだ。妥当だからこそ、どう対処していいか悩んでしまう。
土方とて、口付けたいに決まっている。今日なんて、口付けよりも更に深いことにばかり気を取られていたのだ。
だが、その欲望には自ら鍵をかけた。紗己が出産を終えるまでは抱かないと、そう決心した。
彼女を強く抱き締めたことにしても、そこに欲の色は一切含まれていなかった。
しかし、愛する妻からの熱い視線を受けて、無視出来る男などいるだろうか。先程まで何の気なしに感じていた彼女の温もりにも、今頃になって過剰に反応し始める。
未だ抱き寄せたままの、彼女の肩と腰。そこに触れている手の平から電気が流れ込むように、甘い刺激がじわじわと土方の理性を侵食していく。そうなってくると、数分数秒前の記憶までもが興奮材料となってしまう。
紗己の軟らかな髪の質感も優しい香りも、胸元にかかっていた熱い息も。どれだけ普段クールを装っていようとも、中身は健康な成人男子だ。襲い来る欲望の波に抗えるほど干からびてはいない。
そもそも、本来であれば抗う必要もないことで、新妻と口付けて誰に咎められるわけでもないし、実際に誰も咎めない。
何よりもその新妻が、恐らくは口付けを求めサインを出してきている。鈍感で、そういったことには興味がないと思っていた彼女が。
どどどうするこれ、いいのか・・・いいのかっ!? ・・・いやいや駄目だ駄目だろ、ここでキスだけで止められると思うか? いや、それは無理だ絶対無理だ!
抱かないと決めたのは、腹の子を苦しめたくないという彼女の思いを尊重したからだ。彼女がそういった行為を今は望んでいないと思い込んでいる土方は、これが最良の判断だと思っている。
だが、口付けはまた違う。したからといって、肉体的に何か支障が出るようなものではない。
当然土方もこれに限っては待つ気はないし、本音を言えば今すぐにでも口付けたいのだ。しかし、今は駄目だと歯を食い縛る。
話し合いを始めるまでは落ち着いていた彼の欲望レベルも、この短い時間のうちに既に臨界点近くまで達していた。破裂寸前の風船のように、ちょっとした刺激だけでも欲望をぶちまけてしまいそうなのだ。
だからこそ、気持ちも身体もクールダウンさせて、欲望を制御出来そうな時に・・・と考えている。少なくとも、それが今でないのは確かだ。
土方は紗己の視線から逃れるように、顔を逸らしてわざとらしい咳を数回した。そしてそのまま明後日の方を向いて、腕の中の彼女に一本調子で話しかける。
「っ、あー・・・あーそのそろそろ時間もアレだしその・・・」
風呂に入ってくる、と言おうとした瞬間。
「・・・っ!!?」
逞しい男の背中が、ビクッと震えた。