第八章
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「・・・紗己・・・・・・?」
「あ、あの、土方さん・・・」
「な、なんだ・・・・・・?」
まだ寄り掛かったまま、胸元で話す彼女の息遣いに、土方の鼻息も荒くなる。それを抑えようとしてやけに低い声で返事をすると、紗己のくぐもった声が土方に届けられた。
「ごめんなさい、よく聞こえなくて・・・あの、何ておっしゃったんですか?」
「・・・え?」
「あの、えっと・・・急にその力が・・・だからその・・・聞こえなかったんです」
「あー・・・」
やはり期待も虚しく、哀しいほど予想通りの展開に、土方は苦い表情を浮かべがっくりと肩を落とした。
ほら、やっぱりな・・・期待するだけ無駄なんだよ・・・・・・。いやまァ、別に期待しちゃいなかったが・・・・・・。
どうも、土方の独り言を含めた発言が気になった紗己。感極まった土方が強く抱き締めてきたため、その圧迫により彼が何を言っているのか耳に届かなかった。
だがその僅かに前から、彼がブツブツと独り言を言っていたのは気付いていたし、いつもと違う様子が気にはなっていた。
時に「訊き返すな」と言われてしまうので、どうしようかと迷いはしたが、おずおずと疑問をぶつけてきたのだ。
きちんと予防線を張っていたため、そう激しく落胆はしていないものの、やはり残念な気分にはなっていた土方だが、今日この時間、彼女とのやり取りを思い返して、だんだんと可笑しくなってきた。
何でこんな流れになったんだかな。初めはコイツにどうしたいか、ヤりたいかヤりたくないか訊こうとしてて・・・・・・。
途中銀時との関係を疑ったりと、本来の目的からは逸れたりもした。だが最後には、紗己の願いを陰ながら支えるという形に落ち着いた。
子供を無事に産みたいという彼女に対し、少しでも精神的負担が緩和されればと思ってのことだ。自分のために日々尽くしてくれている愛しい妻を思えば、期間限定であれば欲望を抑制できる。
ただこれは、あくまでも土方の中だけの決定事項であって、紗己には何も伝わってはいない。
そもそもそれ以前に土方は、紗己は出産を終えるまではしたくないと思っていると、決めつけている節がある。それに加えて、彼女はその行為に興味を持っていないと、そういった感情に疎い女だと、これもまた決めつけてしまっている。
だからこそ今まさに、疎い面を見せつけられても、残念に思いながらも妙に納得してしまうのだ。
ああ、やっぱりそういう意識を持ち合わせていないんだな――と。
じわりじわりと胸に広がり出した、ほっこりとした感情。いつの間にか想定外の展開になりはしたが、それを土方が不快に思うことはない。
物事は思い通りに運ばないのが常だし、相手は『この』紗己なのだから。そんなことをぼんやりと思っていると、腕の中の紗己が話を続けてきた。
「さっき、決めたって聞こえた気がしたんですけど、あの、何か決めたんですか?」
「いや、何でもねーよ・・・」
少しだけ頬を緩めて、掴んでいた紗己の肩を優しく撫でた。
鈍感なのか何なのか、分かりゃしねーよなァこれじゃ。真剣になってるこっちが、馬鹿らしくなっちまう。
思いつつも、そんな彼女だからいいのだ。
土方はほんの僅かに呆れを滲ませながらも、穏やかな表情で紗己を見下ろした。
腰に回していた腕からも、少しだけ力を抜く。二人の間に空気が流れる隙間が出来て、それまで密着していた部分がやけにひんやりとする。熱くなっていた頭と身体を、心地よく冷ましてくれる。
拘束が弱まったことを感じたのだろうか。土方に凭れていた紗己の身体が、ゆっくりと自立し始めた。特別深い意味も持たず、その動きに目線を合わしていた土方だったが、次の一瞬、逞しい身体がビクッと強張った。顔を上げた紗己の表情に、目が離せなくなってしまったのだ。
息苦しさがそうさせたのか、上気した頬に潤んだ双眸。ジッと自分を見上げる彼女に目を奪われ、空気を食べるような動きで半開きになっていた口を慌てて閉じた。
なっ・・・なんつー顔で見てんだよっ!
一気に口中がカラカラに渇いてしまい、それを潤そうと無闇に喉を動かす。その喉仏が上下する様子を、紗己は黙って見つめている。
何か言いたそうというわけではないが、何かを伝えたがっているような色をした瞳。それが何を意味しているのか、彼女の要求が何なのか。土方は跳ねる鼓動に気付かぬフリをして、口元を引き攣らせ彼女の名を呼んだ。
「っ、紗己?」
「・・・・・・」
「紗己・・・・・・?」
「・・・」
何も答えない。だが、目を逸らさない。これには土方も、どうすれば良いか困ってしまった。
何でもいいから反応してくれという思いと併せて、見つめ続けられていることの気まずさが彼にのし掛かる。
それでなくとも、紗己はまだ土方に緩く抱き締められた状態でいるのだ。彼女の視線を切るようにその体勢を崩すとすれば、それもまた気まずさに繋がってしまうだろう。
自由なはずなのに身動きの取れない土方は、肩を落とし気味に小さく嘆息して、目に見えて困惑振りを露わにした。と、その時――。
「っ!!」
土方は大きく息を呑んで、目を見張った。不意に伸ばされた紗己の手が、彼女の腰に回していた土方の左腕に触れている。
とてもぎこちなく、たどたどしい手付きで、肘から二の腕にかけて這うように、撫でるように。
触れられている箇所から全身にかけて、甘く激しく電流が走る。
「あ、あの、土方さん・・・」
「な、なんだ・・・・・・?」
まだ寄り掛かったまま、胸元で話す彼女の息遣いに、土方の鼻息も荒くなる。それを抑えようとしてやけに低い声で返事をすると、紗己のくぐもった声が土方に届けられた。
「ごめんなさい、よく聞こえなくて・・・あの、何ておっしゃったんですか?」
「・・・え?」
「あの、えっと・・・急にその力が・・・だからその・・・聞こえなかったんです」
「あー・・・」
やはり期待も虚しく、哀しいほど予想通りの展開に、土方は苦い表情を浮かべがっくりと肩を落とした。
ほら、やっぱりな・・・期待するだけ無駄なんだよ・・・・・・。いやまァ、別に期待しちゃいなかったが・・・・・・。
どうも、土方の独り言を含めた発言が気になった紗己。感極まった土方が強く抱き締めてきたため、その圧迫により彼が何を言っているのか耳に届かなかった。
だがその僅かに前から、彼がブツブツと独り言を言っていたのは気付いていたし、いつもと違う様子が気にはなっていた。
時に「訊き返すな」と言われてしまうので、どうしようかと迷いはしたが、おずおずと疑問をぶつけてきたのだ。
きちんと予防線を張っていたため、そう激しく落胆はしていないものの、やはり残念な気分にはなっていた土方だが、今日この時間、彼女とのやり取りを思い返して、だんだんと可笑しくなってきた。
何でこんな流れになったんだかな。初めはコイツにどうしたいか、ヤりたいかヤりたくないか訊こうとしてて・・・・・・。
途中銀時との関係を疑ったりと、本来の目的からは逸れたりもした。だが最後には、紗己の願いを陰ながら支えるという形に落ち着いた。
子供を無事に産みたいという彼女に対し、少しでも精神的負担が緩和されればと思ってのことだ。自分のために日々尽くしてくれている愛しい妻を思えば、期間限定であれば欲望を抑制できる。
ただこれは、あくまでも土方の中だけの決定事項であって、紗己には何も伝わってはいない。
そもそもそれ以前に土方は、紗己は出産を終えるまではしたくないと思っていると、決めつけている節がある。それに加えて、彼女はその行為に興味を持っていないと、そういった感情に疎い女だと、これもまた決めつけてしまっている。
だからこそ今まさに、疎い面を見せつけられても、残念に思いながらも妙に納得してしまうのだ。
ああ、やっぱりそういう意識を持ち合わせていないんだな――と。
じわりじわりと胸に広がり出した、ほっこりとした感情。いつの間にか想定外の展開になりはしたが、それを土方が不快に思うことはない。
物事は思い通りに運ばないのが常だし、相手は『この』紗己なのだから。そんなことをぼんやりと思っていると、腕の中の紗己が話を続けてきた。
「さっき、決めたって聞こえた気がしたんですけど、あの、何か決めたんですか?」
「いや、何でもねーよ・・・」
少しだけ頬を緩めて、掴んでいた紗己の肩を優しく撫でた。
鈍感なのか何なのか、分かりゃしねーよなァこれじゃ。真剣になってるこっちが、馬鹿らしくなっちまう。
思いつつも、そんな彼女だからいいのだ。
土方はほんの僅かに呆れを滲ませながらも、穏やかな表情で紗己を見下ろした。
腰に回していた腕からも、少しだけ力を抜く。二人の間に空気が流れる隙間が出来て、それまで密着していた部分がやけにひんやりとする。熱くなっていた頭と身体を、心地よく冷ましてくれる。
拘束が弱まったことを感じたのだろうか。土方に凭れていた紗己の身体が、ゆっくりと自立し始めた。特別深い意味も持たず、その動きに目線を合わしていた土方だったが、次の一瞬、逞しい身体がビクッと強張った。顔を上げた紗己の表情に、目が離せなくなってしまったのだ。
息苦しさがそうさせたのか、上気した頬に潤んだ双眸。ジッと自分を見上げる彼女に目を奪われ、空気を食べるような動きで半開きになっていた口を慌てて閉じた。
なっ・・・なんつー顔で見てんだよっ!
一気に口中がカラカラに渇いてしまい、それを潤そうと無闇に喉を動かす。その喉仏が上下する様子を、紗己は黙って見つめている。
何か言いたそうというわけではないが、何かを伝えたがっているような色をした瞳。それが何を意味しているのか、彼女の要求が何なのか。土方は跳ねる鼓動に気付かぬフリをして、口元を引き攣らせ彼女の名を呼んだ。
「っ、紗己?」
「・・・・・・」
「紗己・・・・・・?」
「・・・」
何も答えない。だが、目を逸らさない。これには土方も、どうすれば良いか困ってしまった。
何でもいいから反応してくれという思いと併せて、見つめ続けられていることの気まずさが彼にのし掛かる。
それでなくとも、紗己はまだ土方に緩く抱き締められた状態でいるのだ。彼女の視線を切るようにその体勢を崩すとすれば、それもまた気まずさに繋がってしまうだろう。
自由なはずなのに身動きの取れない土方は、肩を落とし気味に小さく嘆息して、目に見えて困惑振りを露わにした。と、その時――。
「っ!!」
土方は大きく息を呑んで、目を見張った。不意に伸ばされた紗己の手が、彼女の腰に回していた土方の左腕に触れている。
とてもぎこちなく、たどたどしい手付きで、肘から二の腕にかけて這うように、撫でるように。
触れられている箇所から全身にかけて、甘く激しく電流が走る。