序章②
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――――――
「お、紗己じゃねーか」
遠くから名前を呼ばれ、紗己はそれが誰なのか首を伸ばして辺りを見回した。
「こっちだ、こっち」
もう一度呼び掛けられ、声のする方へと視線を移すと、そこには見覚えのある真っ白な頭の男が。
「あ、あなたこないだの・・・」
記憶を辿っている間に、男は紗己の前まで来て足を止めた。
大胆に着崩した着物姿に、もふもふとした毛並みの大型犬を思い起こさせる印象深い髪型の、紗己にとっては恩人である。
「そうだ、坂田銀時さん!」
「長ェよ、フルネームで呼ばれるのは面倒だ」
首の後ろを掻きながらそう言うと、気怠そうに見える顔に半笑いを浮かべて、銀時でいいと言った。
本人から言われたものの、相手は自分よりもはるかに大人の男。そんな人物を呼び捨てにするのは気が引けるし、何より彼女自身が呼びにくい。
少しの間考え込むと、紗己ははにかみつつ、やや遠慮がちに答えた。
「・・・じゃあ、銀さんで、いいですか?」
たかだか名前くらいで、こんなに気を遣ってくれなくてもいいんだが。思いつつ軽く頷くと、銀時はこの話題から離れるように、話を切り替えた。
「随分大荷物じゃねえ? なんだお前、クリーニング屋でもやってんの」
そう言われてしまうのも当然。紗己は大量の洗剤を、両手にいくつも持っていたのだ。
自身の腕の中に積み上げられている洗剤の箱に視線を落とすと、少し困ったように、けれどどこか嬉しそうに紗己は話しだした。
「これ、特売品だったんで。買い溜めしとこうと思って、つい」
「買い溜めっつってもよー、限度があるだろ。せめて、持って帰れるだけの数にしとけよ」
遠くからやけにヨロヨロと歩く娘を見かけたので、何かと思って目を凝らしてみたら紗己だったのだ。
銀時は、圧迫で白くなった紗己の両手から、半分以上の箱を取り上げていく。途端手に血が通いはじめ、紗己は少し痒くなった指先を動かしながら銀時を見上げた。
「重いからいいですよ! ちゃんと持って帰れますから」
「いいって。こんなん放っておいたら、俺が後で気ィ悪いだろ」
彼なりの気遣いか、遠慮する紗己を気にすることもなくスタスタと歩き始めた。
――――――
黄昏時、カラスの鳴き声をBGMに、二人は薄暗くなった道をのんびりと喋りながら歩く。
「んで、今日はデートか何かか? こないだとは随分違う装いじゃねえ?」
少しからかいを含んだ言い方で、銀時は紗己の方を見やる。しかし紗己は、勘違いされたことに焦るでも無く、変わらぬ笑顔でそれを否定した。
「違いますよ、今日は友達と会ってたんです」
「へえ、まあそりゃそうか。帰りがけに洗剤なんて買われちゃ、その後誘い出すことも出来ねーもんな」
下世話なことを言っているが、紗己にはその意味が分かっていないので、そこで話が膨らむこともない。
かみ合っているのかいないのか、微妙な会話を続けつつ、二人は歩を進めていた。
「あ、次の角曲がります」
「おお・・・って、あれ、こっちって確か・・・・・・」
銀時は複雑な面持ちで隣に顔を向けると、穏やかな笑みを湛える紗己を見つめ片眉を上げた。
だが紗己には何故銀時がそんな表情を浮かべているのか、当然ながら分からないし、そもそもあまり気にしていないようだ。
「どうかしました? あ、そこです、見えてきました」
明るい調子で答える彼女の目線を追うと、そこには大きな佇まいの屋敷が。門柱には『真選組屯所』とある。
「あ゛あ゛? なにお前ひょっとしてなに、ここに住んでんのもしかして?」
驚きというよりも、心底嫌そうな顔で訊ねてくる銀時に、紗己は笑顔を向ける。
「はい、ここで住み込みの女中をしてます」
「お、紗己じゃねーか」
遠くから名前を呼ばれ、紗己はそれが誰なのか首を伸ばして辺りを見回した。
「こっちだ、こっち」
もう一度呼び掛けられ、声のする方へと視線を移すと、そこには見覚えのある真っ白な頭の男が。
「あ、あなたこないだの・・・」
記憶を辿っている間に、男は紗己の前まで来て足を止めた。
大胆に着崩した着物姿に、もふもふとした毛並みの大型犬を思い起こさせる印象深い髪型の、紗己にとっては恩人である。
「そうだ、坂田銀時さん!」
「長ェよ、フルネームで呼ばれるのは面倒だ」
首の後ろを掻きながらそう言うと、気怠そうに見える顔に半笑いを浮かべて、銀時でいいと言った。
本人から言われたものの、相手は自分よりもはるかに大人の男。そんな人物を呼び捨てにするのは気が引けるし、何より彼女自身が呼びにくい。
少しの間考え込むと、紗己ははにかみつつ、やや遠慮がちに答えた。
「・・・じゃあ、銀さんで、いいですか?」
たかだか名前くらいで、こんなに気を遣ってくれなくてもいいんだが。思いつつ軽く頷くと、銀時はこの話題から離れるように、話を切り替えた。
「随分大荷物じゃねえ? なんだお前、クリーニング屋でもやってんの」
そう言われてしまうのも当然。紗己は大量の洗剤を、両手にいくつも持っていたのだ。
自身の腕の中に積み上げられている洗剤の箱に視線を落とすと、少し困ったように、けれどどこか嬉しそうに紗己は話しだした。
「これ、特売品だったんで。買い溜めしとこうと思って、つい」
「買い溜めっつってもよー、限度があるだろ。せめて、持って帰れるだけの数にしとけよ」
遠くからやけにヨロヨロと歩く娘を見かけたので、何かと思って目を凝らしてみたら紗己だったのだ。
銀時は、圧迫で白くなった紗己の両手から、半分以上の箱を取り上げていく。途端手に血が通いはじめ、紗己は少し痒くなった指先を動かしながら銀時を見上げた。
「重いからいいですよ! ちゃんと持って帰れますから」
「いいって。こんなん放っておいたら、俺が後で気ィ悪いだろ」
彼なりの気遣いか、遠慮する紗己を気にすることもなくスタスタと歩き始めた。
――――――
黄昏時、カラスの鳴き声をBGMに、二人は薄暗くなった道をのんびりと喋りながら歩く。
「んで、今日はデートか何かか? こないだとは随分違う装いじゃねえ?」
少しからかいを含んだ言い方で、銀時は紗己の方を見やる。しかし紗己は、勘違いされたことに焦るでも無く、変わらぬ笑顔でそれを否定した。
「違いますよ、今日は友達と会ってたんです」
「へえ、まあそりゃそうか。帰りがけに洗剤なんて買われちゃ、その後誘い出すことも出来ねーもんな」
下世話なことを言っているが、紗己にはその意味が分かっていないので、そこで話が膨らむこともない。
かみ合っているのかいないのか、微妙な会話を続けつつ、二人は歩を進めていた。
「あ、次の角曲がります」
「おお・・・って、あれ、こっちって確か・・・・・・」
銀時は複雑な面持ちで隣に顔を向けると、穏やかな笑みを湛える紗己を見つめ片眉を上げた。
だが紗己には何故銀時がそんな表情を浮かべているのか、当然ながら分からないし、そもそもあまり気にしていないようだ。
「どうかしました? あ、そこです、見えてきました」
明るい調子で答える彼女の目線を追うと、そこには大きな佇まいの屋敷が。門柱には『真選組屯所』とある。
「あ゛あ゛? なにお前ひょっとしてなに、ここに住んでんのもしかして?」
驚きというよりも、心底嫌そうな顔で訊ねてくる銀時に、紗己は笑顔を向ける。
「はい、ここで住み込みの女中をしてます」