第八章
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「大したことじゃないんですけど・・・」
ここまで食いつかれると思ってなかった紗己は、そう前置きした上でおずおずと口を開いた。
「紅茶を飲むのを止めました。あとは、緑茶・・・かな。あ、でも緑茶は土方さんと食事をした時だけ、食後にいただいてますよ」
「紅茶と緑茶? なんだ、願掛けでもしてんのか?」
甘味に比べて、彼女がそれらを制限している理由が分からず、土方はつい思いつくままを口にした。
それを聞いた紗己は、いかにも言いそうだと思ったのだろうか。彼の口から出た言葉に反応して、肩を上げてクスッと笑う。
「ふふ。違います、願掛けではないです」
「じゃあなんで・・・つーか紅茶は別だが、それじゃァお前普段何飲んでんだよ?」
願掛けではないと言われ、ではその真意は何なのかと気にはなる。だがそれよりも、彼女が日々何を飲んで水分補給をしているのかという方が、先に気になってしまった。
少なくとも食事を共にしている時は、食後同じ急須から二杯茶を淹れているように記憶している。もしや断酒ならぬ断茶をしているのではないだろうかと、心配性な夫は眉間に皺を寄せて紗己を見据えた。
一方紗己は、自分の決めごとがおかしなものとは思っていないため、平然と答えてくれる。
「私ですか? 番茶を飲んでます」
「番茶?」
「はい、番茶です」
つい聞き返してしまった土方に、まるで宣伝のように爽やかな回答をする。やはり断茶をしているわけではないようだ。そのことには密かに安心するも、どうにも解せない点もある。
番茶も緑茶も、同じく茶ではないのか? あえて片方に制限をかける理由はなんだ?
その疑問が丸々顔に出ていたのだろう。怪訝な表情を浮かべている土方を見て、紗己はまた小さく笑った。
「番茶の方がいいんですって。妊婦はカフェインを摂り過ぎたら良くないって、お医者さんに聞いたんです」
「医者って・・・俺と行ってから、お前一人で病院に行ったのか?」
まるで、許可なく出向いてはいけないような言い方だ。
一緒に病院に行った時には、医者から煙草の害について聞かされはした。だが、それ以外に釘を刺されるような話はなかった。
俺はそんな話聞いてないぞと首を捻る土方に、紗己は笑顔のまま首を振る。そしてそれが、最初に倒れて銀時に運んでもらった方の病院であったことを告げた。病院から帰る時に喉が渇いていたから、何か飲んではいけないものがあるのか医師に訊いたのだと。
「紅茶って、カフェインが多く含まれてるんですって。私、それまで全然知りませんでした」
「ふーん・・・」
自分にとって残念な内容のはずなのに、胸の前で両の手の平を軽やかに合わせ、妙に嬉しそうに話している。そんな彼女を前に土方は、肘の少し上あたりを軽く掻きながら鼻から息を出した。
そして、そう古くはない記憶の引き出しをあさり始める。
あれは、いつ頃だったか? 確かに言ってたよな、紅茶が好きで一日に何杯も飲んでるって・・・・・・。
甘いものが好物だと聞いた時期と、そんなには変わらなかったように思う。
江戸に出てきてから紅茶を飲むようになって、すっかりはまってしまったと、楽しそうに話していた紗己。和菓子にも合うんですよ、と言っていた姿が蘇り、土方は不思議な懐かしさを覚えた。
そして記憶の中の微笑ましい彼女の様子を思い出し、少しばかり頬が緩む。
しかし優しい気分も束の間、気掛かりな問題が幅を利かせ始めた。おかげで土方の表情は、思い出し微笑から一転、眉をしかめた気難しいものに変化を遂げる。
「どうかしましたか?」
いきなり表情を変えた夫に、紗己は小首を傾げて問い掛けた。すると土方はまた腕を組んで胸を張り、すぐ目の前に座る彼女の旋毛をまじまじと見つめて息を吐いた。
「お前、あんなに紅茶が好きだって言ってたじゃねーか」
言いながら、胸と腕に挟まれている指を不規則に動かし、間を置くことなく言葉を続ける。
「カフェインの摂り過ぎったって、がぶ飲みしなきゃいいだけの話だろ? そこまで我慢しなくても、ちょっとくらい飲めば・・・」
「駄目ですっ!」
「っ、な・・・」
突然の否定に、土方は思わずたじろぐ。
相手の発言を遮ってまで主張するなんて、普段の彼女には珍しいこと。おまけに今の話の流れなら、当然先程と同じように言いくるめられるだろうと、そう土方は思っていた。
細かなシミュレーションまではしていないが、彼女は自分の意見に賛同するものと思い込んでいた節がある。だから余計に、彼女の出方に驚いてしまったのだ。
ここまで食いつかれると思ってなかった紗己は、そう前置きした上でおずおずと口を開いた。
「紅茶を飲むのを止めました。あとは、緑茶・・・かな。あ、でも緑茶は土方さんと食事をした時だけ、食後にいただいてますよ」
「紅茶と緑茶? なんだ、願掛けでもしてんのか?」
甘味に比べて、彼女がそれらを制限している理由が分からず、土方はつい思いつくままを口にした。
それを聞いた紗己は、いかにも言いそうだと思ったのだろうか。彼の口から出た言葉に反応して、肩を上げてクスッと笑う。
「ふふ。違います、願掛けではないです」
「じゃあなんで・・・つーか紅茶は別だが、それじゃァお前普段何飲んでんだよ?」
願掛けではないと言われ、ではその真意は何なのかと気にはなる。だがそれよりも、彼女が日々何を飲んで水分補給をしているのかという方が、先に気になってしまった。
少なくとも食事を共にしている時は、食後同じ急須から二杯茶を淹れているように記憶している。もしや断酒ならぬ断茶をしているのではないだろうかと、心配性な夫は眉間に皺を寄せて紗己を見据えた。
一方紗己は、自分の決めごとがおかしなものとは思っていないため、平然と答えてくれる。
「私ですか? 番茶を飲んでます」
「番茶?」
「はい、番茶です」
つい聞き返してしまった土方に、まるで宣伝のように爽やかな回答をする。やはり断茶をしているわけではないようだ。そのことには密かに安心するも、どうにも解せない点もある。
番茶も緑茶も、同じく茶ではないのか? あえて片方に制限をかける理由はなんだ?
その疑問が丸々顔に出ていたのだろう。怪訝な表情を浮かべている土方を見て、紗己はまた小さく笑った。
「番茶の方がいいんですって。妊婦はカフェインを摂り過ぎたら良くないって、お医者さんに聞いたんです」
「医者って・・・俺と行ってから、お前一人で病院に行ったのか?」
まるで、許可なく出向いてはいけないような言い方だ。
一緒に病院に行った時には、医者から煙草の害について聞かされはした。だが、それ以外に釘を刺されるような話はなかった。
俺はそんな話聞いてないぞと首を捻る土方に、紗己は笑顔のまま首を振る。そしてそれが、最初に倒れて銀時に運んでもらった方の病院であったことを告げた。病院から帰る時に喉が渇いていたから、何か飲んではいけないものがあるのか医師に訊いたのだと。
「紅茶って、カフェインが多く含まれてるんですって。私、それまで全然知りませんでした」
「ふーん・・・」
自分にとって残念な内容のはずなのに、胸の前で両の手の平を軽やかに合わせ、妙に嬉しそうに話している。そんな彼女を前に土方は、肘の少し上あたりを軽く掻きながら鼻から息を出した。
そして、そう古くはない記憶の引き出しをあさり始める。
あれは、いつ頃だったか? 確かに言ってたよな、紅茶が好きで一日に何杯も飲んでるって・・・・・・。
甘いものが好物だと聞いた時期と、そんなには変わらなかったように思う。
江戸に出てきてから紅茶を飲むようになって、すっかりはまってしまったと、楽しそうに話していた紗己。和菓子にも合うんですよ、と言っていた姿が蘇り、土方は不思議な懐かしさを覚えた。
そして記憶の中の微笑ましい彼女の様子を思い出し、少しばかり頬が緩む。
しかし優しい気分も束の間、気掛かりな問題が幅を利かせ始めた。おかげで土方の表情は、思い出し微笑から一転、眉をしかめた気難しいものに変化を遂げる。
「どうかしましたか?」
いきなり表情を変えた夫に、紗己は小首を傾げて問い掛けた。すると土方はまた腕を組んで胸を張り、すぐ目の前に座る彼女の旋毛をまじまじと見つめて息を吐いた。
「お前、あんなに紅茶が好きだって言ってたじゃねーか」
言いながら、胸と腕に挟まれている指を不規則に動かし、間を置くことなく言葉を続ける。
「カフェインの摂り過ぎったって、がぶ飲みしなきゃいいだけの話だろ? そこまで我慢しなくても、ちょっとくらい飲めば・・・」
「駄目ですっ!」
「っ、な・・・」
突然の否定に、土方は思わずたじろぐ。
相手の発言を遮ってまで主張するなんて、普段の彼女には珍しいこと。おまけに今の話の流れなら、当然先程と同じように言いくるめられるだろうと、そう土方は思っていた。
細かなシミュレーションまではしていないが、彼女は自分の意見に賛同するものと思い込んでいた節がある。だから余計に、彼女の出方に驚いてしまったのだ。