第八章
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「シュークリーム屋さんからすごくいい匂いがしてて、つい立ち止まってたんです。そしたら、たまたま通りかかった銀さんに声掛けられて・・・誘われたんで、ご相伴に与っちゃいました」
心なしか、満足そうな顔を浮かべている。頭の中に、カスタードクリームの味が蘇ったのだろうか。
彼女は先程までの土方の様子を、自分の説明が不足していて要領が得ず、そのせいで考え込ませてしまったと思ったらしい。それはとても彼女らしい勘違いなのだが、聞かされた土方は少々複雑な心境だ。
当然彼は、シュークリームの件の詳細について考え込んでいたのではない。勝手な思い違いで嫉妬してしまった自分が情けなくて、それに落ち込んでいただけだ。
それなのに、もう必要もないと追求せずにいた事の詳細を伝えられてしまった。おかげで改めて自分の情けなさを思い知ることとなり、恥ずかしさも倍増である。
しかしながら、これで確実に二人は疚しい関係でなかったと、残り一割の疑惑はきれいすっきりと晴れてくれた。これには、少しばかりホッとしたようだ。
とはいえ今更これを聞いたところで、特に広がりを見せるような話の内容ではない。本当に土方が彼女にしたかった話は、明らかに別の色を持った深い話なのだ。
紗己から語られた真実に土方は、呆れたようなホッとしたような、やや疲れた表情で首の後ろを擦りながら息をついた。
「あー・・・美味かったか」
「はい、とっても」
「そうか、良かったな」
ようやく、会話らしいやり取りを交わす。
どうでもいいと思っている話でも、聞いた限りはそれなりに反応をしなければと生真面目な男は思っている。他愛も無いことでも、夫婦円満に会話は不可欠なのだと。
普通に会話をしたことで、すっかりいつもの調子を取り戻した土方は、すぐ脇にある座卓に左肘をつくと、寄りかかるように頬杖をついた。
ほんとにもう、紛らわしいんだよ・・・ったく。
普段通り柔らかな表情の紗己を前に、胸中で軽くぼやく。だが、残ったのは情けなさと恥ずかしさだけではあるものの、とりあえずは一安心だ。
土方は次なる話題に切り替えようと、脳内整理に取り掛かった。と、そこでまた、とても些細なことが見事頭の隅に引っかかってしまう。
そういやさっきの話だと、あの野郎が紗己に奢ったってことだよな・・・・・・。
どうでもいいことと言ってしまえばそうなのだが、それをサラリと流せないのが嫉妬というもの。土方は不愉快そうに片眉を上げて言葉を放った。
「なあ紗己、お前の分も万事屋が出したのか?」
「ええ、ご馳走していただきました」
にこやかに、ありのままを伝える。例のごとく、土方の変調に気付くことはないようだ。それどころか、言葉足らずにならないように意識して、細かな部分まで説明してくれる。
「自分で払おうとしたんですけど、銀さんが先に私の分も払ってくれたんです。ふふ、私が気を遣わないように、ご祝儀みたいなものだからって言ってくださったんですよ」
「ふーん・・・」
適当に返事をしつつ、より一層座卓に寄り掛かる。
あの万年金欠野郎がねェ。口中で小さく呟くと、やけに明るい表情の紗己を一瞥した。
銀時の紗己への態度がどうにも優しすぎるように思えて、なんとなく気に入らない。
疑いはしたものの、彼らが疚しい関係でないことはもう分かっているし、信じてもいる。けれど、紗己から見てのベストポジションを築いている銀時が、憎らしく思えて仕方ないのだ。
まるでふてくされたようなポーズで黙り込めば、自然に紗己の言葉が脳内でリプレイされる。そうすると、紗己が銀時を慕っていることを余計に思い知らされ、だんだんと苛立ってきてしまった。
なんでそんないつも偶然遭遇してんだよ、タイミング良すぎだろ! つーか、町でシュークリームとかファミレスでパフェとか、デートみたいになってんじゃねーか! ああクソ腹立つ!!
土方は胡座を崩して片膝を立てると、乱暴な勢いで息を吐き出した。不快な感情を滲ませた口元からは、彼女に聴こえないように微調整された小さな舌打ちも漏れている。
いくら自分の妻であっても、交友関係にまでは口出ししたくはない。第一、気に食わないから会うなと言ったところで、嫌だと突っぱねられるがオチだ。
実際それを強要したところ、嫌だと断られ、挙げ句泣かせてしまった過去がある。まあ、それが直接的原因で泣いたわけではないのだが。
とにもかくにも、まだ彼女への想いに自覚が無かった頃とは違い、今は自分が彼女の夫なのだという絶対の自信がある。
いつまでもしつこくヤキモチを妬いていたら、言わずにいいことをぽろっとこぼしてしまいそうだ。了見の狭い小さい男だと思われたら、それこそたまらない。そう思った土方は、気持ちの切り替えを図ろうと控え目な深呼吸をした。
心なしか、満足そうな顔を浮かべている。頭の中に、カスタードクリームの味が蘇ったのだろうか。
彼女は先程までの土方の様子を、自分の説明が不足していて要領が得ず、そのせいで考え込ませてしまったと思ったらしい。それはとても彼女らしい勘違いなのだが、聞かされた土方は少々複雑な心境だ。
当然彼は、シュークリームの件の詳細について考え込んでいたのではない。勝手な思い違いで嫉妬してしまった自分が情けなくて、それに落ち込んでいただけだ。
それなのに、もう必要もないと追求せずにいた事の詳細を伝えられてしまった。おかげで改めて自分の情けなさを思い知ることとなり、恥ずかしさも倍増である。
しかしながら、これで確実に二人は疚しい関係でなかったと、残り一割の疑惑はきれいすっきりと晴れてくれた。これには、少しばかりホッとしたようだ。
とはいえ今更これを聞いたところで、特に広がりを見せるような話の内容ではない。本当に土方が彼女にしたかった話は、明らかに別の色を持った深い話なのだ。
紗己から語られた真実に土方は、呆れたようなホッとしたような、やや疲れた表情で首の後ろを擦りながら息をついた。
「あー・・・美味かったか」
「はい、とっても」
「そうか、良かったな」
ようやく、会話らしいやり取りを交わす。
どうでもいいと思っている話でも、聞いた限りはそれなりに反応をしなければと生真面目な男は思っている。他愛も無いことでも、夫婦円満に会話は不可欠なのだと。
普通に会話をしたことで、すっかりいつもの調子を取り戻した土方は、すぐ脇にある座卓に左肘をつくと、寄りかかるように頬杖をついた。
ほんとにもう、紛らわしいんだよ・・・ったく。
普段通り柔らかな表情の紗己を前に、胸中で軽くぼやく。だが、残ったのは情けなさと恥ずかしさだけではあるものの、とりあえずは一安心だ。
土方は次なる話題に切り替えようと、脳内整理に取り掛かった。と、そこでまた、とても些細なことが見事頭の隅に引っかかってしまう。
そういやさっきの話だと、あの野郎が紗己に奢ったってことだよな・・・・・・。
どうでもいいことと言ってしまえばそうなのだが、それをサラリと流せないのが嫉妬というもの。土方は不愉快そうに片眉を上げて言葉を放った。
「なあ紗己、お前の分も万事屋が出したのか?」
「ええ、ご馳走していただきました」
にこやかに、ありのままを伝える。例のごとく、土方の変調に気付くことはないようだ。それどころか、言葉足らずにならないように意識して、細かな部分まで説明してくれる。
「自分で払おうとしたんですけど、銀さんが先に私の分も払ってくれたんです。ふふ、私が気を遣わないように、ご祝儀みたいなものだからって言ってくださったんですよ」
「ふーん・・・」
適当に返事をしつつ、より一層座卓に寄り掛かる。
あの万年金欠野郎がねェ。口中で小さく呟くと、やけに明るい表情の紗己を一瞥した。
銀時の紗己への態度がどうにも優しすぎるように思えて、なんとなく気に入らない。
疑いはしたものの、彼らが疚しい関係でないことはもう分かっているし、信じてもいる。けれど、紗己から見てのベストポジションを築いている銀時が、憎らしく思えて仕方ないのだ。
まるでふてくされたようなポーズで黙り込めば、自然に紗己の言葉が脳内でリプレイされる。そうすると、紗己が銀時を慕っていることを余計に思い知らされ、だんだんと苛立ってきてしまった。
なんでそんないつも偶然遭遇してんだよ、タイミング良すぎだろ! つーか、町でシュークリームとかファミレスでパフェとか、デートみたいになってんじゃねーか! ああクソ腹立つ!!
土方は胡座を崩して片膝を立てると、乱暴な勢いで息を吐き出した。不快な感情を滲ませた口元からは、彼女に聴こえないように微調整された小さな舌打ちも漏れている。
いくら自分の妻であっても、交友関係にまでは口出ししたくはない。第一、気に食わないから会うなと言ったところで、嫌だと突っぱねられるがオチだ。
実際それを強要したところ、嫌だと断られ、挙げ句泣かせてしまった過去がある。まあ、それが直接的原因で泣いたわけではないのだが。
とにもかくにも、まだ彼女への想いに自覚が無かった頃とは違い、今は自分が彼女の夫なのだという絶対の自信がある。
いつまでもしつこくヤキモチを妬いていたら、言わずにいいことをぽろっとこぼしてしまいそうだ。了見の狭い小さい男だと思われたら、それこそたまらない。そう思った土方は、気持ちの切り替えを図ろうと控え目な深呼吸をした。