第八章
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真正面には、依然として不安げな面持ちの紗己が。その表情に弱い土方は僅かにたじろぎはするも、ここはもう退けないとばかりに唇をきつく結んだ。
組んでいた腕を解くと、大きな手で自身の両膝をがっしりと押さえる。そうすることで背筋をピンと伸ばした状態となり、見た目だけなら威圧感は倍増だ。
揺れに揺れていた気持ちも、多少安定を見せる。少しだけ、ほんの少しだけ気持ちに余裕が出てきた土方は、先程までの自分を無かったことにするかのように、落ち着き払った居住まいで紗己を一瞥した。
さて、訊くのは訊くとして、問題はどうやって訊くかだ。
はっきりとした言葉で訊ねなければ、きっと彼女には伝わらないだろう。その可能性の高さは、紗己とのこれまでの日々が証明してくれている。
かといって、あまり直接的すぎる表現だと少々気が退ける。
『したいかしたくないか、ぶっちゃけどっちだ?』だなんて、さすがに訊けない。
そんな言葉を投げた日には、こちらの顔色を窺いながら、己の意思に関係なく望まれている答えを口にするだろう。それでは意味がないと、土方は紗己に悟られないように小さく吐息した。
話があると切り出しておきながら、気難しい顔をして何も話そうとしない男を前に、痺れを切らしたのはやはり紗己の方だった。
「あ、あの・・・土方さん」
「っ、な、なんだ!?」
「話って、なんですか・・・・・・?」
「あー・・・」
気難しい表情から一転、困惑に満ちた表情を見せる。
どう話を切り出せばいいのか、未だ決めかねている中で、当の紗己からの遠慮がちな催促。これに困った土方は、伸ばしていた背筋をゆっくりと曲げると、俯きがちに頭を掻いた。
「まァその、アレだよ・・・」
「アレ?」
「いや、うん・・・な?」
「はぁ・・・・・・」
な? と言われても。土方が何を言おうとしているのかさっぱりわからない紗己もまた、困り顔を浮かべて俯いてしまった。
どうにも重苦しい空気が、二人を飲み込み始めた。それに危機感を覚える土方だが、脳内では考えが依然まとまらないままだ。
ちょっとでも変な訊き方したら、それでこのチャンスは台無しだ。なにがなんでも、確実に訊き出さねェと・・・・・・。
決意はぶれていないようだ。だが、直接的表現を用いるべきか否かで心が揺れている。
悩める男は妻の様子を窺おうと、下を向いたまま目線だけをちらり彼女に向けた。するとそこには、自分と同じようにこちらの様子を窺っている紗己の姿が。
「っ・・・!」
ごくり生唾を飲んで、土方は慌てて目線を下げた。
不安気な表情に加えて、少し潤んだ瞳に艶やかな唇。こんな間近でそんな表情をされてはたまらないと、弛みかけた理性のネジを何とか締め直す。
あっぶねェ・・・なんつー顔見せてくれてんだよ! 俺にも限界ってモンがあるって、コイツ絶対分かってねーだろ!!
まあ分からなくて当然だろうが・・・と、一応は思い直してみる。
土方はやたらに鼻先を擦りつつ、わざとらしい咳を数回繰り返した。それをやや訝しげに見つめる紗己を気にも留めず、少し熱を持った身体を鎮めようと明後日の方向に顔を向ける。
こんな顔を他の野郎に見せたりしてねェだろうな。想像するだけで、不愉快な気分になってしまう。
恥ずかしかったり困ったりすると自然とああいった表情になるのなら、極力外出しないで欲しいとまで思う始末だ。今日だって銀時にそんな顔を見せたに違いないと、勝手に想像して勝手に腹を立て始めた。
くっそ、あの白髪天パ! コイツにそんな話したら、絶対あの表情になるに決まって・・・ん? そんな話?
苛立ちの波が瞬時に引いていく。脳内での己の言葉に、ちょっと待てよと疑問を呈した。
そうだ、今日コイツは、あの野郎と『何か』を話してるんだ。ってことは、だ。ここでアイツの名前を出せば、俺が今日アイツと会ったことを言えば、自然な流れで話を切り出せるんじゃねーのか?
これは名案だと一人頷いている。紗己が銀時に夫婦生活の相談をしたと、彼の中では既に確定しているようだ。
職業柄、誘導尋問は得意だ。こちらから直接的表現で話を切り出さなくとも、彼女の口から言わせることも可能なのだ。
これでやっと決着がつけられると、ホッと息をつく。土方は一旦胡座の足を組み換えると、再び腕を組んでしっかりと瞼を下ろした。次に交わされるであろう会話を想定し、眉間に皺を寄せて順序だてをし始める。
一方の紗己は、ただひたすら待つしかなく、土方の一連の動きを黙ってジッと見つめている。
つい先程夫を興奮させたその表情に、不安の色が随分と足されているのだが、脳内シミュレーションに集中している土方が、そのことに気付くことはない。
組んでいた腕を解くと、大きな手で自身の両膝をがっしりと押さえる。そうすることで背筋をピンと伸ばした状態となり、見た目だけなら威圧感は倍増だ。
揺れに揺れていた気持ちも、多少安定を見せる。少しだけ、ほんの少しだけ気持ちに余裕が出てきた土方は、先程までの自分を無かったことにするかのように、落ち着き払った居住まいで紗己を一瞥した。
さて、訊くのは訊くとして、問題はどうやって訊くかだ。
はっきりとした言葉で訊ねなければ、きっと彼女には伝わらないだろう。その可能性の高さは、紗己とのこれまでの日々が証明してくれている。
かといって、あまり直接的すぎる表現だと少々気が退ける。
『したいかしたくないか、ぶっちゃけどっちだ?』だなんて、さすがに訊けない。
そんな言葉を投げた日には、こちらの顔色を窺いながら、己の意思に関係なく望まれている答えを口にするだろう。それでは意味がないと、土方は紗己に悟られないように小さく吐息した。
話があると切り出しておきながら、気難しい顔をして何も話そうとしない男を前に、痺れを切らしたのはやはり紗己の方だった。
「あ、あの・・・土方さん」
「っ、な、なんだ!?」
「話って、なんですか・・・・・・?」
「あー・・・」
気難しい表情から一転、困惑に満ちた表情を見せる。
どう話を切り出せばいいのか、未だ決めかねている中で、当の紗己からの遠慮がちな催促。これに困った土方は、伸ばしていた背筋をゆっくりと曲げると、俯きがちに頭を掻いた。
「まァその、アレだよ・・・」
「アレ?」
「いや、うん・・・な?」
「はぁ・・・・・・」
な? と言われても。土方が何を言おうとしているのかさっぱりわからない紗己もまた、困り顔を浮かべて俯いてしまった。
どうにも重苦しい空気が、二人を飲み込み始めた。それに危機感を覚える土方だが、脳内では考えが依然まとまらないままだ。
ちょっとでも変な訊き方したら、それでこのチャンスは台無しだ。なにがなんでも、確実に訊き出さねェと・・・・・・。
決意はぶれていないようだ。だが、直接的表現を用いるべきか否かで心が揺れている。
悩める男は妻の様子を窺おうと、下を向いたまま目線だけをちらり彼女に向けた。するとそこには、自分と同じようにこちらの様子を窺っている紗己の姿が。
「っ・・・!」
ごくり生唾を飲んで、土方は慌てて目線を下げた。
不安気な表情に加えて、少し潤んだ瞳に艶やかな唇。こんな間近でそんな表情をされてはたまらないと、弛みかけた理性のネジを何とか締め直す。
あっぶねェ・・・なんつー顔見せてくれてんだよ! 俺にも限界ってモンがあるって、コイツ絶対分かってねーだろ!!
まあ分からなくて当然だろうが・・・と、一応は思い直してみる。
土方はやたらに鼻先を擦りつつ、わざとらしい咳を数回繰り返した。それをやや訝しげに見つめる紗己を気にも留めず、少し熱を持った身体を鎮めようと明後日の方向に顔を向ける。
こんな顔を他の野郎に見せたりしてねェだろうな。想像するだけで、不愉快な気分になってしまう。
恥ずかしかったり困ったりすると自然とああいった表情になるのなら、極力外出しないで欲しいとまで思う始末だ。今日だって銀時にそんな顔を見せたに違いないと、勝手に想像して勝手に腹を立て始めた。
くっそ、あの白髪天パ! コイツにそんな話したら、絶対あの表情になるに決まって・・・ん? そんな話?
苛立ちの波が瞬時に引いていく。脳内での己の言葉に、ちょっと待てよと疑問を呈した。
そうだ、今日コイツは、あの野郎と『何か』を話してるんだ。ってことは、だ。ここでアイツの名前を出せば、俺が今日アイツと会ったことを言えば、自然な流れで話を切り出せるんじゃねーのか?
これは名案だと一人頷いている。紗己が銀時に夫婦生活の相談をしたと、彼の中では既に確定しているようだ。
職業柄、誘導尋問は得意だ。こちらから直接的表現で話を切り出さなくとも、彼女の口から言わせることも可能なのだ。
これでやっと決着がつけられると、ホッと息をつく。土方は一旦胡座の足を組み換えると、再び腕を組んでしっかりと瞼を下ろした。次に交わされるであろう会話を想定し、眉間に皺を寄せて順序だてをし始める。
一方の紗己は、ただひたすら待つしかなく、土方の一連の動きを黙ってジッと見つめている。
つい先程夫を興奮させたその表情に、不安の色が随分と足されているのだが、脳内シミュレーションに集中している土方が、そのことに気付くことはない。