序章②
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――――――
寝不足だ・・・・・・。目が覚めた瞬間そう思った。
疲れが取れきっていない身体は重怠く、土方は舌打ちしながらのそっとした動作で布団を剥いだ。
(くっそ、なかなか寝付けなかったじゃねえか)
寝不足の原因は、言わずもがな紗己のこと。昨日車中で山崎が話してきたことが、夜中床についてもなかなか頭から離れなかったのだ。
あのヤロー、つまんねえ事言ってきやがって。つーか紗己に気があるって奴ァ、誰と誰なんだ!
不愉快の極みといった表情で、朝の仕度を始める。
帯を解くと、着ていた寝間着を寝床に脱ぎ捨て箪笥へと向かう。中から隊服を取り出すと、吐息しながら白いシャツに袖を通し始めた。
アイツに気がある男が、アイツと同じ屋根の下に住んでるってのか・・・・・・?
はたと動きが止まった。頭の中で、意思とは関係なく妄想が繰り広げられていく。
自分以外の男に言い寄られ、それに笑顔で応える紗己――そんな事あるはずがないと一旦は否定するも、それを客観視する自分もいる。
ちょっと待てよ。別に紗己が他の隊士と付き合おうが、俺には関係ねーだろうが。
だってそうだろ? 俺たちは端から付き合ってるわけでもなんでもねえし、アレは酔っ払ってヤッちまっただけの、文字通り『間違い』ってやつだ。
もっと真面目な男と、それで幸せになれるんなら、俺は――。
「・・・気に食わねェんじゃねえ! なんか腹立つだけだ!!」
とりあえず、大声で怒鳴ってみた。そうすれば、心の中のモヤモヤもスッキリするのではと思ったのだが。
「スッキリしねぇ・・・・・・」
自分でも理解できない虚しさが、土方を苛むのだった。
――――――
身支度を整え食堂に行くと、当番表に紗己の札は無かった。どうやら今日は休みらしい。
(休みか。どうせなら俺が非番の時に休みになってろよ・・・・・・)
また勝手なことを思ってはみたが、すぐにその考えを取り消しにかかる。
な、何考えてんだ俺は! いいだろうが別に、アイツがいつ休もうが俺にはどうでもいいことだ! 休みが合えば飯にでも・・・なんて全っ然思ってもいねーし違う違う俺はほんと全然そんなの考えてねえ!!
突然頭を左右に振り出した土方を、他の隊士達が奇異な目で見ている。しかし、我に返った彼に凄まれると、彼等は蜘蛛の子を散らすように逃げ出していった。
どことはなしにイライラしながら、外回りに出るために玄関へと向かう。すると廊下の先、目的の玄関には、草履を履こうと腰を屈めている紗己がいた。
いつもとは違い鮮やかな色の着物に、肩までの長さの髪を結い上げて、そこに小ぶりなかんざしを挿している。
「あ、副長さん。今からお仕事ですか?」
「・・・ま、まあな。お前は・・・どっか出掛けるのか?」
どうも変に緊張してしまい、彼女を直視できない。
明るい紫に菊をあしらった、季節に合わせた粋な柄。眩しく見えるのは、きっとそのせいだと土方は自分に言い聞かせる。
「ええ、今日は休みをいただいてるので・・・副長さん?」
こんなにもめかし込んで、一体誰と会うんだよ。ひょっとして・・・男か?
「副長さん? どうかしました?」
紗己の声に土方は遅まきながら反応した。
「ああいや・・・なんでもない」
また心の中がモヤモヤとしてきて、その原因が何なのか、早くスッキリするにはどうすればいいのかと土方は思う。
一人で出掛けんのか? それとも誰かと――
「友達と、ですよ?」
「えっ!? な、なんでわかっ・・・」
「え? だって副長さん、今一人で出掛けるのかって、訊いたじゃないですか」
(なんてこった、口に出しちまってたのかよ・・・・・・)
今更ではあるが、自身の口元を手で覆う。情けなさと恥ずかしさで、穴があったら入りたい心境だ。それでも、紗己の本日の所用が、正確には『誰と会うか』が分かっただけでも良しとする。
土方は「ま、どうでもいいけどな」といった顔をつくって、にこやかな表情で玄関から出ようとしている紗己を一瞥した。けれど、やはり無意識に感情が先走ってしまう。
「行ってきま・・・」
「おい、紗己!」
「・・・どうか、しましたか?」
「あ・・・危ねえから、遅くなるなよ!」
どこの過保護な親だろう。付き合ってもいない男からプライベートを干渉されているにも関わらず、当の紗己はむしろ嬉しそうな表情を見せる。
「はい、夜までには戻ります」
行ってきますと言葉を残し、軽やかにかんざしを揺らして出て行った。
土方はというと、そのまま玄関に突っ立ったまま。
明後日の方向を見ながらも、目線だけはしっかりと紗己の背中を追っている。
寝不足だ・・・・・・。目が覚めた瞬間そう思った。
疲れが取れきっていない身体は重怠く、土方は舌打ちしながらのそっとした動作で布団を剥いだ。
(くっそ、なかなか寝付けなかったじゃねえか)
寝不足の原因は、言わずもがな紗己のこと。昨日車中で山崎が話してきたことが、夜中床についてもなかなか頭から離れなかったのだ。
あのヤロー、つまんねえ事言ってきやがって。つーか紗己に気があるって奴ァ、誰と誰なんだ!
不愉快の極みといった表情で、朝の仕度を始める。
帯を解くと、着ていた寝間着を寝床に脱ぎ捨て箪笥へと向かう。中から隊服を取り出すと、吐息しながら白いシャツに袖を通し始めた。
アイツに気がある男が、アイツと同じ屋根の下に住んでるってのか・・・・・・?
はたと動きが止まった。頭の中で、意思とは関係なく妄想が繰り広げられていく。
自分以外の男に言い寄られ、それに笑顔で応える紗己――そんな事あるはずがないと一旦は否定するも、それを客観視する自分もいる。
ちょっと待てよ。別に紗己が他の隊士と付き合おうが、俺には関係ねーだろうが。
だってそうだろ? 俺たちは端から付き合ってるわけでもなんでもねえし、アレは酔っ払ってヤッちまっただけの、文字通り『間違い』ってやつだ。
もっと真面目な男と、それで幸せになれるんなら、俺は――。
「・・・気に食わねェんじゃねえ! なんか腹立つだけだ!!」
とりあえず、大声で怒鳴ってみた。そうすれば、心の中のモヤモヤもスッキリするのではと思ったのだが。
「スッキリしねぇ・・・・・・」
自分でも理解できない虚しさが、土方を苛むのだった。
――――――
身支度を整え食堂に行くと、当番表に紗己の札は無かった。どうやら今日は休みらしい。
(休みか。どうせなら俺が非番の時に休みになってろよ・・・・・・)
また勝手なことを思ってはみたが、すぐにその考えを取り消しにかかる。
な、何考えてんだ俺は! いいだろうが別に、アイツがいつ休もうが俺にはどうでもいいことだ! 休みが合えば飯にでも・・・なんて全っ然思ってもいねーし違う違う俺はほんと全然そんなの考えてねえ!!
突然頭を左右に振り出した土方を、他の隊士達が奇異な目で見ている。しかし、我に返った彼に凄まれると、彼等は蜘蛛の子を散らすように逃げ出していった。
どことはなしにイライラしながら、外回りに出るために玄関へと向かう。すると廊下の先、目的の玄関には、草履を履こうと腰を屈めている紗己がいた。
いつもとは違い鮮やかな色の着物に、肩までの長さの髪を結い上げて、そこに小ぶりなかんざしを挿している。
「あ、副長さん。今からお仕事ですか?」
「・・・ま、まあな。お前は・・・どっか出掛けるのか?」
どうも変に緊張してしまい、彼女を直視できない。
明るい紫に菊をあしらった、季節に合わせた粋な柄。眩しく見えるのは、きっとそのせいだと土方は自分に言い聞かせる。
「ええ、今日は休みをいただいてるので・・・副長さん?」
こんなにもめかし込んで、一体誰と会うんだよ。ひょっとして・・・男か?
「副長さん? どうかしました?」
紗己の声に土方は遅まきながら反応した。
「ああいや・・・なんでもない」
また心の中がモヤモヤとしてきて、その原因が何なのか、早くスッキリするにはどうすればいいのかと土方は思う。
一人で出掛けんのか? それとも誰かと――
「友達と、ですよ?」
「えっ!? な、なんでわかっ・・・」
「え? だって副長さん、今一人で出掛けるのかって、訊いたじゃないですか」
(なんてこった、口に出しちまってたのかよ・・・・・・)
今更ではあるが、自身の口元を手で覆う。情けなさと恥ずかしさで、穴があったら入りたい心境だ。それでも、紗己の本日の所用が、正確には『誰と会うか』が分かっただけでも良しとする。
土方は「ま、どうでもいいけどな」といった顔をつくって、にこやかな表情で玄関から出ようとしている紗己を一瞥した。けれど、やはり無意識に感情が先走ってしまう。
「行ってきま・・・」
「おい、紗己!」
「・・・どうか、しましたか?」
「あ・・・危ねえから、遅くなるなよ!」
どこの過保護な親だろう。付き合ってもいない男からプライベートを干渉されているにも関わらず、当の紗己はむしろ嬉しそうな表情を見せる。
「はい、夜までには戻ります」
行ってきますと言葉を残し、軽やかにかんざしを揺らして出て行った。
土方はというと、そのまま玄関に突っ立ったまま。
明後日の方向を見ながらも、目線だけはしっかりと紗己の背中を追っている。