第八章
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もう、完全にお手上げだ。これ以上悩んでも答えは出ないと、土方は力無く首を横に振った。
妻を抱くという、世の夫が当たり前のように行っていること。それがこんなにも難しいことだったのかと、改めて思い知る。誰もここまで仰々しく捉えないだけなのだが、今の彼には広い視野をもつ余裕などない。
こと紗己が絡むと、普段の冷静さはすっかり鳴りを潜めてしまうのだ。
そんなにも大事な彼女に――強引にはなれないし、かと言って、何もしないままずっとやり過ごすわけにもいかない。今夜のところはそれでもいいが、この問題にはいずれ必ず決着をつけなければいけないのだ。
とはいえ、打開策は無いに等しい。この負のスパイラルを抜け出すには、何が必要なのだろうか。土方はやけに真剣な面持ちで、やおら腕を組んできつく目を閉じた。
もう・・・訊いた方が早くねーか? ふと思う。
何をどうしたところで、彼女に無理をさせている気になってしまうのだ。だからこそ、何も仕掛けられない。嫌われたくないから何も出来ない。
ならば彼女の本心を訊き出し、それに沿った行動をすればいい。そうすれば、彼女の望みがなんであれ、少なくとも嫌われることはないだろう。
今までは、紗己はそんなこと考えもしないだろうと訊くことも躊躇われていた。だが、そうも言っていられない事態。
夫婦なのだから話し合いは大事だ。いろいろと限界が近付いてきたため、あっさりと方向転換を図る。何よりも、早く決着をつけて楽になりたいのだ。
土方はまだしっかりと瞼を閉じたまま、頭の中で構想を練る。
さて、訊くのはいい。それが最善だ。けどなァ、どうやって話切り出せばいいんだ? つーか、ここまで悩んでおいて、結局自分ではリード出来ねーのかよ、俺・・・・・・。
組んだ腕はそのままに、手首の角度を変えて指先で顎を掻く。
大人の男として、スマートに事を運ぼうと思っていた土方だったが、その目論見虚しく、結局は紗己の意思に委ねる形となってしまった。
自分の情けなさに膝を抱えたい気持ちになるものの、今はそんなことをしている場合ではない。というよりも、そこまで情けない姿はさすがに見せたくない。
気持ちを切り替えるように肩を揺すると、土方は背筋を伸ばして胸を張った。眉を寄せて薄っすらと目を開ける。ぼやけた視界。そこに映し出された人影が、こちらに向かって小首を傾げたのが分かる。
「紗己・・・」
「はい」
「あ、あー・・・うん」
まるで見守るかのような眼差しに、うまく言葉が出てこない。それでもその優しい瞳に促されるように、ようやく話を切り出す決心をする。
「話が、あるんだが・・・今、いいか?」
「・・・はい、大丈夫です」
土方の低い声に、自然と紗己の表情も硬いものになる。
これはまずい。こんなに緊張させたら、聞ける話も聞けなくなる。焦った土方は、何とか紗己を安心させようとぎこちない笑みを作って見せた。
「ま、まァあれだ、そんなに身構えるな」
「はい・・・」
目の前の男の不自然な笑みにではないだろうが、少しだけ紗己の表情が和らいだ。
だがその上目遣いには、次にどんな言葉がくるのかという不安が見え隠れしている。そしてその緊張感漂う双眸に、土方はふと数時間前の出来事を思い出した。
外出時に偶然出くわした銀時との会話の記憶が、頭の中にどっとなだれ込んできた。それらを一つ一つ丁寧に思い返し、自分の中で結論付ける。
やはり、あの男は『何か』を知っている――と。
昼間に紗己と会ったっつってたしな、その時に何か聞いたに違いねーんだ。だから、わざわざ紗己との話し合いを薦めてきたり、やけに親切・・・いやいや親切とまでは思ってねえ!
脳内だけでは足りなかったのか、力いっぱい首を振って否定する。その動作を余すことなく目の前に座る紗己に見せてしまっているのだが、そのことは気にならないらしい。
土方は逸れてしまった意識を元の問題に戻すため、ゆっくりと息を吐くと静かに目を閉じた。もう一度、銀時とのやり取りを思い出す。
こともあろうに、コンビニで女性週刊誌を読み入っていたところを目撃されたのだ。だが彼は、いつもの口達者ぶりをそうも披露せず、その控え目さには違和感さえ覚えたほど。それも全て、紗己から何らかの話を聞いていたからだとすれば、納得がいく。
紗己が自ら相談を持ちかけたのか、はたまた銀時がうまく話を聞き出したのか。どちらにしても、彼女との会話の中で、自分たちの夫婦関係が話題に上ったのは間違いないだろう。
ならば、夫婦間の永遠のテーマともいえる『夜の営み』について、彼女自身どうしたいのか問うこともそこまで躊躇わずに済む。そう思った土方は、新たなる決意を胸に、閉ざしていた視界に光を取り入れた。
妻を抱くという、世の夫が当たり前のように行っていること。それがこんなにも難しいことだったのかと、改めて思い知る。誰もここまで仰々しく捉えないだけなのだが、今の彼には広い視野をもつ余裕などない。
こと紗己が絡むと、普段の冷静さはすっかり鳴りを潜めてしまうのだ。
そんなにも大事な彼女に――強引にはなれないし、かと言って、何もしないままずっとやり過ごすわけにもいかない。今夜のところはそれでもいいが、この問題にはいずれ必ず決着をつけなければいけないのだ。
とはいえ、打開策は無いに等しい。この負のスパイラルを抜け出すには、何が必要なのだろうか。土方はやけに真剣な面持ちで、やおら腕を組んできつく目を閉じた。
もう・・・訊いた方が早くねーか? ふと思う。
何をどうしたところで、彼女に無理をさせている気になってしまうのだ。だからこそ、何も仕掛けられない。嫌われたくないから何も出来ない。
ならば彼女の本心を訊き出し、それに沿った行動をすればいい。そうすれば、彼女の望みがなんであれ、少なくとも嫌われることはないだろう。
今までは、紗己はそんなこと考えもしないだろうと訊くことも躊躇われていた。だが、そうも言っていられない事態。
夫婦なのだから話し合いは大事だ。いろいろと限界が近付いてきたため、あっさりと方向転換を図る。何よりも、早く決着をつけて楽になりたいのだ。
土方はまだしっかりと瞼を閉じたまま、頭の中で構想を練る。
さて、訊くのはいい。それが最善だ。けどなァ、どうやって話切り出せばいいんだ? つーか、ここまで悩んでおいて、結局自分ではリード出来ねーのかよ、俺・・・・・・。
組んだ腕はそのままに、手首の角度を変えて指先で顎を掻く。
大人の男として、スマートに事を運ぼうと思っていた土方だったが、その目論見虚しく、結局は紗己の意思に委ねる形となってしまった。
自分の情けなさに膝を抱えたい気持ちになるものの、今はそんなことをしている場合ではない。というよりも、そこまで情けない姿はさすがに見せたくない。
気持ちを切り替えるように肩を揺すると、土方は背筋を伸ばして胸を張った。眉を寄せて薄っすらと目を開ける。ぼやけた視界。そこに映し出された人影が、こちらに向かって小首を傾げたのが分かる。
「紗己・・・」
「はい」
「あ、あー・・・うん」
まるで見守るかのような眼差しに、うまく言葉が出てこない。それでもその優しい瞳に促されるように、ようやく話を切り出す決心をする。
「話が、あるんだが・・・今、いいか?」
「・・・はい、大丈夫です」
土方の低い声に、自然と紗己の表情も硬いものになる。
これはまずい。こんなに緊張させたら、聞ける話も聞けなくなる。焦った土方は、何とか紗己を安心させようとぎこちない笑みを作って見せた。
「ま、まァあれだ、そんなに身構えるな」
「はい・・・」
目の前の男の不自然な笑みにではないだろうが、少しだけ紗己の表情が和らいだ。
だがその上目遣いには、次にどんな言葉がくるのかという不安が見え隠れしている。そしてその緊張感漂う双眸に、土方はふと数時間前の出来事を思い出した。
外出時に偶然出くわした銀時との会話の記憶が、頭の中にどっとなだれ込んできた。それらを一つ一つ丁寧に思い返し、自分の中で結論付ける。
やはり、あの男は『何か』を知っている――と。
昼間に紗己と会ったっつってたしな、その時に何か聞いたに違いねーんだ。だから、わざわざ紗己との話し合いを薦めてきたり、やけに親切・・・いやいや親切とまでは思ってねえ!
脳内だけでは足りなかったのか、力いっぱい首を振って否定する。その動作を余すことなく目の前に座る紗己に見せてしまっているのだが、そのことは気にならないらしい。
土方は逸れてしまった意識を元の問題に戻すため、ゆっくりと息を吐くと静かに目を閉じた。もう一度、銀時とのやり取りを思い出す。
こともあろうに、コンビニで女性週刊誌を読み入っていたところを目撃されたのだ。だが彼は、いつもの口達者ぶりをそうも披露せず、その控え目さには違和感さえ覚えたほど。それも全て、紗己から何らかの話を聞いていたからだとすれば、納得がいく。
紗己が自ら相談を持ちかけたのか、はたまた銀時がうまく話を聞き出したのか。どちらにしても、彼女との会話の中で、自分たちの夫婦関係が話題に上ったのは間違いないだろう。
ならば、夫婦間の永遠のテーマともいえる『夜の営み』について、彼女自身どうしたいのか問うこともそこまで躊躇わずに済む。そう思った土方は、新たなる決意を胸に、閉ざしていた視界に光を取り入れた。