第八章
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「い、いや別に・・・」
大変ぎこちなく、口元を手で覆い隠す。自分なりに綿密に練ったつもりの計画が、崩れかけの塔のようにグラグラと揺れ始めた。それと同時に、普段は鋭い双眸も、右へ左へと泳いでしまう。
これでは、悩みや心配があると告白しているようなものだ。口ほどに物を言う目は、当然紗己にもそれを伝えてしまっている。
「何か、あったんですか・・・・・・?」
ますます心配そうに、より一層顔を近付け訊ねる紗己。これには、せっかく固めた決意もまた揺らいでしまう。
常に相手のことを考えてしまう性分の彼女が、もし今の自分の胸中を知ったら? 夫が妻を求めることに悩んでいると知ったら?
きっと彼女は、迷わずその身を委ねてくれることだろう。それが相手の望みならば、進んで求めに応じるはずだ。
それならそれでいいと、土方は思う。明確な意思も無く、拒否も無く、言われるがまま応えるだけであっても。それもまた、彼女らしい判断と言えるかも知れない。
だが本当は嫌だと、その感情を押し殺していたとしたら? 自分の本心に頑丈な蓋をしてでも、望みを受け入れようと耐えているとしたら?
それを『無理矢理』と言うのではないのかと、土方は胸を締め付けてくる痛みに吐息した。
そんなことは望んでいない。彼女が苦しむことも、彼女に嫌われることも。
こうした原点回帰を一体何度繰り返しただろうかと、土方は疲れ顔で肩を落とす。どれだけ強引になろうと意を決したところで、いつもこの壁にぶち当たってしまうのだ。
普段は強靭な心も、まるでガラス細工のように、紗己が絡むと途端に強度を失ってしまう。土方はそんな自分に辟易といった具合に、背中を丸めて頭を掻いた。その様子を紗己に見せてしまっていることも気にせずに、大きな溜め息を落とし続ける。
しかしそんな姿を見せられ続ければ、紗己の心配は募るばかりだ。けれど、彼女は何も言わずにじっと待っている。
ひとしきり落ち込んで、だが何かが変わるわけでもなく、今自分の為すべきことが分からなくなってしまった土方は、逸らしていた目線を静かに紗己に戻した。
「な、なあ紗己・・・」
普段とはまるで違った、弱々しい声音。話し掛けたとして、次に何を言えばいいのか全く考えてなどいない。ただ、彼女の名を呼べば少しは心が落ち着く気がして、つい口走っていたのだ。
明らかに何か思い悩んでいる様に見える夫の姿に、呼び掛けられた紗己は小さく息を呑む。次に来る言葉に身構えたのだろうか。
けれど、それも一瞬のこと。しなやかな手指を太腿の上で綺麗に揃えると、すぐにいつもの笑顔を作って見せた。
「はい」
とても穏やかで優しい声音で答える。
心配していると知られることで、余計に土方を困らせていると思ったらしい。先程までの不安げな表情は、もう柔らかな笑みに隠されている。
それが彼女の自分に対する気遣いなのだと、土方もそう受け取ったのだろう。
「土方さん?」
「・・・いや、なんでもねェ」
なんだかいたたまれなくて、せっかく上げた顔をまた俯かせてしまった。胡坐をかいている自身のズボンの裾をいじりながら、情けない自分に悪態をつく。
いつまでこんな堂々巡り続ける気だよ、俺は! 情けなさすぎるだろ、それでも男か!! 簡単なことだろうが、軽く手ェ伸ばすだけで触れられる距離にいるってのに・・・そんなにも、嫌われるのが怖いのか・・・・・・?
怖いのだ。だからここまで慎重になってしまっている。この時点で土方の脳内では、彼女は抱かれることを拒んでいると、その結論に達してしまっているようだ。
当然、紗己はそんなこと一度も口にしたことはないし、そんな態度を露わにしたこともない。単に、土方の勝手な思い込みでしかないのだが、その思い込みを疑うという判断をするだけの余裕は、今の彼には無いらしい。
行為に及ぶことによって、妊娠中である彼女が感じるやも知れぬ精神的苦痛が、今後トラウマとなってはいけないと、土方はそれが何より気掛かりなのだ。
だが見方を変えれば、それは彼自身の問題とも言える。酔っ払って記憶が無い中、半ば無理矢理に彼女の処女を奪い、挙げ句妊娠させてしまったことが、土方の中でトラウマと化している節があるのだ。だからこそ、いくら強く心が結ばれていようとも、お手軽な感覚で抱くことができない。
おまけに、今日偶然目にしてしまった女性週刊誌の記事が、余計に彼の心中を掻き乱している。
くそ・・・っ!あんなモン読むんじゃなかった!!
それでなくとも踏み出せない一歩が、あの特集のおかげでますます困難極めるものとなってしまった。
大変ぎこちなく、口元を手で覆い隠す。自分なりに綿密に練ったつもりの計画が、崩れかけの塔のようにグラグラと揺れ始めた。それと同時に、普段は鋭い双眸も、右へ左へと泳いでしまう。
これでは、悩みや心配があると告白しているようなものだ。口ほどに物を言う目は、当然紗己にもそれを伝えてしまっている。
「何か、あったんですか・・・・・・?」
ますます心配そうに、より一層顔を近付け訊ねる紗己。これには、せっかく固めた決意もまた揺らいでしまう。
常に相手のことを考えてしまう性分の彼女が、もし今の自分の胸中を知ったら? 夫が妻を求めることに悩んでいると知ったら?
きっと彼女は、迷わずその身を委ねてくれることだろう。それが相手の望みならば、進んで求めに応じるはずだ。
それならそれでいいと、土方は思う。明確な意思も無く、拒否も無く、言われるがまま応えるだけであっても。それもまた、彼女らしい判断と言えるかも知れない。
だが本当は嫌だと、その感情を押し殺していたとしたら? 自分の本心に頑丈な蓋をしてでも、望みを受け入れようと耐えているとしたら?
それを『無理矢理』と言うのではないのかと、土方は胸を締め付けてくる痛みに吐息した。
そんなことは望んでいない。彼女が苦しむことも、彼女に嫌われることも。
こうした原点回帰を一体何度繰り返しただろうかと、土方は疲れ顔で肩を落とす。どれだけ強引になろうと意を決したところで、いつもこの壁にぶち当たってしまうのだ。
普段は強靭な心も、まるでガラス細工のように、紗己が絡むと途端に強度を失ってしまう。土方はそんな自分に辟易といった具合に、背中を丸めて頭を掻いた。その様子を紗己に見せてしまっていることも気にせずに、大きな溜め息を落とし続ける。
しかしそんな姿を見せられ続ければ、紗己の心配は募るばかりだ。けれど、彼女は何も言わずにじっと待っている。
ひとしきり落ち込んで、だが何かが変わるわけでもなく、今自分の為すべきことが分からなくなってしまった土方は、逸らしていた目線を静かに紗己に戻した。
「な、なあ紗己・・・」
普段とはまるで違った、弱々しい声音。話し掛けたとして、次に何を言えばいいのか全く考えてなどいない。ただ、彼女の名を呼べば少しは心が落ち着く気がして、つい口走っていたのだ。
明らかに何か思い悩んでいる様に見える夫の姿に、呼び掛けられた紗己は小さく息を呑む。次に来る言葉に身構えたのだろうか。
けれど、それも一瞬のこと。しなやかな手指を太腿の上で綺麗に揃えると、すぐにいつもの笑顔を作って見せた。
「はい」
とても穏やかで優しい声音で答える。
心配していると知られることで、余計に土方を困らせていると思ったらしい。先程までの不安げな表情は、もう柔らかな笑みに隠されている。
それが彼女の自分に対する気遣いなのだと、土方もそう受け取ったのだろう。
「土方さん?」
「・・・いや、なんでもねェ」
なんだかいたたまれなくて、せっかく上げた顔をまた俯かせてしまった。胡坐をかいている自身のズボンの裾をいじりながら、情けない自分に悪態をつく。
いつまでこんな堂々巡り続ける気だよ、俺は! 情けなさすぎるだろ、それでも男か!! 簡単なことだろうが、軽く手ェ伸ばすだけで触れられる距離にいるってのに・・・そんなにも、嫌われるのが怖いのか・・・・・・?
怖いのだ。だからここまで慎重になってしまっている。この時点で土方の脳内では、彼女は抱かれることを拒んでいると、その結論に達してしまっているようだ。
当然、紗己はそんなこと一度も口にしたことはないし、そんな態度を露わにしたこともない。単に、土方の勝手な思い込みでしかないのだが、その思い込みを疑うという判断をするだけの余裕は、今の彼には無いらしい。
行為に及ぶことによって、妊娠中である彼女が感じるやも知れぬ精神的苦痛が、今後トラウマとなってはいけないと、土方はそれが何より気掛かりなのだ。
だが見方を変えれば、それは彼自身の問題とも言える。酔っ払って記憶が無い中、半ば無理矢理に彼女の処女を奪い、挙げ句妊娠させてしまったことが、土方の中でトラウマと化している節があるのだ。だからこそ、いくら強く心が結ばれていようとも、お手軽な感覚で抱くことができない。
おまけに、今日偶然目にしてしまった女性週刊誌の記事が、余計に彼の心中を掻き乱している。
くそ・・・っ!あんなモン読むんじゃなかった!!
それでなくとも踏み出せない一歩が、あの特集のおかげでますます困難極めるものとなってしまった。