第八章
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今日一日、土方は必要以上に自分を追い込んでいる。今も、例に漏れずだ。
新聞を読んでいるふりをして、そっと彼女の気配を読む。続き間の和室にいる紗己は、鞄の中身を指折り確認している。どうやら、荷物の準備も終盤のようだ。
その様子に土方は、彼女の意識が完全に自分から離れたのだと認識する。
そしてつい横道に逸れてしまったと、本来思案していた問題へと意識を引き戻した。本来の懸案事項は、言わずもがな彼女との夜の営みについてだ。
これまで、散々なまでに機を逃し続けてきた土方だが、こればかりは誰のせいというわけではない。あえて言うのなら、新婚初夜という絶好のチャンスに寝落ちしてしまった、自分自身の失態なのである。
その頓挫してしまった新婚初夜から、一週間が経っていた。
一度きっかけを掴み損ねると、それを再度手元に引き寄せるのは相当に難しい。それを土方はこの数日間、嫌というほど痛感している。だからこそ、この機を逃せば今後どうなってしまうかわからないと焦っているのだ。
明日から三日間、否応無しに二人は離れることになる。それを理由にしてはどうかと、彼はずっと思案していた。
仕事だし、あまり電話も出来ないと思う。一人になるのは、寂しいし不安だろう――そんな言葉を並べながら、うまくそっちの方向に持ち込めないだろうかと考える。
そこに大した理由など必要ない。些細なきっかけでもいいと、気持ちはもう藁にも縋る思いだ。
土方は胸の前で逞しい腕を組むと、頭の中でゆっくりと台詞を組み立て始めた。眉を寄せて一見難しそうな表情をしているが、その実めくるめく甘い夜に向けてのイメージトレーニング中だったりする。
部屋の中は、テレビなども点けておらず比較的静かだ。ここは屯所の中でも端に位置しているので、隊士達の賑わいが聞こえてくることもない。
それでもこの静けさは、息が詰まるようでも切なくなるようでもない。紗己の奏でる生活感溢れる物音が、今はこの部屋のBGMになっている。
その心安らぐ生活音に耳を傾けつつ、土方は変わらず険しい表情のままで、時折腕に触れている指がピクリと僅かな反応を見せる。一体どんなイメージトレーニングをしているのだろうか。
何はともあれ、『明日から出張』というこのビッグイベントを、土方は何とかモノにしたいと意気込む。そのために、脳内で繰り返し紗己を口説いているのだ。
しかしその反面、まだ思案に暮れていたりもする。何せ、二人の契りを阻む問題は一向に解決していないのだから。
そんな細かいことで悩むくらいなら、さっさと行動に出ればいい。男なら、ちょっと強引にでも自分からアクションを起こせばいいだろう。他人が聞いたら、皆口を揃えて言いそうだ。
勿論そう出来るのであれば、もうとっくにそうしている。だがそう出来ない言い分が、彼の中には立派に存在していた。
紗己は今、妊娠中だ。今はまだ腹もそう目立ちはしないが、あと少し経てば妊婦らしい体型に変わっていくだろう。
彼女の身体の変化を、土方は決して否定的に受け取っていない。その変化は喜ばしいことだし、早く子供の顔を見たいという気持ちは当然ある。
しかし、それはそれ、これはこれ。今問題視すべきなのは、その『変化』が紗己にどう影響を及ぼすかということだ。
事に至るのにも、まずは生まれたままの姿にならなければいけない。これが問題なのだ。
幾度と無く肉体を重ねている関係ならこんな心配など不要なのだが、二人はまだ互いの裸さえ見ていない。
土方としては、裸を見せ合うことに関しては当たり前のように慣れている。だから紗己の裸に興奮はすれど、動揺はしない。
だが紗己は違う。初めて裸を見せるということだけでも勇気がいるだろうに、その肉体は妊婦仕様に変化しているのだ。これは、彼女にとってハードルが高すぎるのではないだろうか――と、土方の心配は尽きない。
女ってのはどうも、体型がどうだの気にする生き物だからなァ。イメージトレーニングをしつつぼんやりと思う。
彼自身は、別に彼女の腹が出ていようが全くもって構わない。そもそも体型などは二の次で、相手が紗己であればなんだっていいと思っているのだ。
だがどれだけこちらがそう思っていたとしても、彼女がそれを良しとしなければ話は進まないだろう。
そんなことを考えつつ、土方は険しい表情をつくったままで隣の部屋の紗己をちらり見やった。
するとそこには、彼と同じように難しい表情をしてる紗己の姿が。頬に片手を当てて、よくよく聞けば小さく唸っているではないか。
これには土方も、彼女に何かあったのではとそばに行こうとした、のだが――。
新聞を読んでいるふりをして、そっと彼女の気配を読む。続き間の和室にいる紗己は、鞄の中身を指折り確認している。どうやら、荷物の準備も終盤のようだ。
その様子に土方は、彼女の意識が完全に自分から離れたのだと認識する。
そしてつい横道に逸れてしまったと、本来思案していた問題へと意識を引き戻した。本来の懸案事項は、言わずもがな彼女との夜の営みについてだ。
これまで、散々なまでに機を逃し続けてきた土方だが、こればかりは誰のせいというわけではない。あえて言うのなら、新婚初夜という絶好のチャンスに寝落ちしてしまった、自分自身の失態なのである。
その頓挫してしまった新婚初夜から、一週間が経っていた。
一度きっかけを掴み損ねると、それを再度手元に引き寄せるのは相当に難しい。それを土方はこの数日間、嫌というほど痛感している。だからこそ、この機を逃せば今後どうなってしまうかわからないと焦っているのだ。
明日から三日間、否応無しに二人は離れることになる。それを理由にしてはどうかと、彼はずっと思案していた。
仕事だし、あまり電話も出来ないと思う。一人になるのは、寂しいし不安だろう――そんな言葉を並べながら、うまくそっちの方向に持ち込めないだろうかと考える。
そこに大した理由など必要ない。些細なきっかけでもいいと、気持ちはもう藁にも縋る思いだ。
土方は胸の前で逞しい腕を組むと、頭の中でゆっくりと台詞を組み立て始めた。眉を寄せて一見難しそうな表情をしているが、その実めくるめく甘い夜に向けてのイメージトレーニング中だったりする。
部屋の中は、テレビなども点けておらず比較的静かだ。ここは屯所の中でも端に位置しているので、隊士達の賑わいが聞こえてくることもない。
それでもこの静けさは、息が詰まるようでも切なくなるようでもない。紗己の奏でる生活感溢れる物音が、今はこの部屋のBGMになっている。
その心安らぐ生活音に耳を傾けつつ、土方は変わらず険しい表情のままで、時折腕に触れている指がピクリと僅かな反応を見せる。一体どんなイメージトレーニングをしているのだろうか。
何はともあれ、『明日から出張』というこのビッグイベントを、土方は何とかモノにしたいと意気込む。そのために、脳内で繰り返し紗己を口説いているのだ。
しかしその反面、まだ思案に暮れていたりもする。何せ、二人の契りを阻む問題は一向に解決していないのだから。
そんな細かいことで悩むくらいなら、さっさと行動に出ればいい。男なら、ちょっと強引にでも自分からアクションを起こせばいいだろう。他人が聞いたら、皆口を揃えて言いそうだ。
勿論そう出来るのであれば、もうとっくにそうしている。だがそう出来ない言い分が、彼の中には立派に存在していた。
紗己は今、妊娠中だ。今はまだ腹もそう目立ちはしないが、あと少し経てば妊婦らしい体型に変わっていくだろう。
彼女の身体の変化を、土方は決して否定的に受け取っていない。その変化は喜ばしいことだし、早く子供の顔を見たいという気持ちは当然ある。
しかし、それはそれ、これはこれ。今問題視すべきなのは、その『変化』が紗己にどう影響を及ぼすかということだ。
事に至るのにも、まずは生まれたままの姿にならなければいけない。これが問題なのだ。
幾度と無く肉体を重ねている関係ならこんな心配など不要なのだが、二人はまだ互いの裸さえ見ていない。
土方としては、裸を見せ合うことに関しては当たり前のように慣れている。だから紗己の裸に興奮はすれど、動揺はしない。
だが紗己は違う。初めて裸を見せるということだけでも勇気がいるだろうに、その肉体は妊婦仕様に変化しているのだ。これは、彼女にとってハードルが高すぎるのではないだろうか――と、土方の心配は尽きない。
女ってのはどうも、体型がどうだの気にする生き物だからなァ。イメージトレーニングをしつつぼんやりと思う。
彼自身は、別に彼女の腹が出ていようが全くもって構わない。そもそも体型などは二の次で、相手が紗己であればなんだっていいと思っているのだ。
だがどれだけこちらがそう思っていたとしても、彼女がそれを良しとしなければ話は進まないだろう。
そんなことを考えつつ、土方は険しい表情をつくったままで隣の部屋の紗己をちらり見やった。
するとそこには、彼と同じように難しい表情をしてる紗己の姿が。頬に片手を当てて、よくよく聞けば小さく唸っているではないか。
これには土方も、彼女に何かあったのではとそばに行こうとした、のだが――。