第七章
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一方訊かれた銀時は、記憶を辿るような、何かを思案するような顔をしている。
そんな表情を作られたら、とても重要なことを言われてしまいそうで。気を落ち着かせるためか単に間が持たないだけなのか、土方は摘まんだままの煙草を口元に持っていった。そして火を点けようと、左手で風避けを作り少し背を丸めた時。
考えがまとまったのか、銀時はやけに軽快な口調で言葉を放った。
「幸せだってよー」
「あ?」
想定外の台詞だったのか、土方は銀時の言葉に首を傾げる。すると銀時はもう一度、今度は先程より分かりやすく、
「だーからァ、今の生活が幸せなんだってよ」
言いながら、無表情のまま死んだ魚のような目で土方を見やる。
その視線の先には、何やら形容し難い表情を浮かべた土方がいた。嬉しい気持ちが頬を緩めさせ、複雑な気持ちが眉間に皺を寄せさせている。
だが銀時は、そんな土方を特に気にすることもなく、じゃあなと軽く言ってから背中を向けた。それは実にあっさりとしていて、拍子抜けした土方は思わずライターを落としかけてしまった。
「っ・・・お、おいちょっと・・・」
歩き出した銀時に、中途半端に声を掛ける。何をどうしたいという理由はないが、何となく呼び止めてしまったのだ。
しかし銀時は土方の呼び声に気付かなかったのだろうか、気怠そうに夜の闇へと消えていった。
――――――
夜と言えども人通りの多い道を、銀時は一人物思いに耽り歩く。
これで少しでも、紗己が幸せになれればいい。思いはするのだが、それには土方に対して自分が取った行動に、多少疑問を感じる部分もあった。
紗己と何か話したか、彼女から何か聞いたのかと土方に訊ねられた時。彼女は幸せだと、今の生活が幸せだと言っていたと、そう告げたのだ。
嘘ではない。事実紗己は、今が幸せなのだと言っていた。しかしそれは、土方からの質問の答えには些か合っていない気もする。
ひょっとしたら彼は、紗己が『何もされない』ことを幸せだと感じていると、勘違いしてしまうかもしれない。頭の堅い男のことだ、その可能性は十分に考えられる。
だからこそ、土方の問いに対し一番相応しい答えは、『彼女は触れられることを望んでいる』だろう。
そう言っても良かったのだが、何となく言わなかった。言わなかったことに関しては別にいいのだが、言わなかったその理由が自分でも分からない。
ならばその理由に該当しそうな事柄をと幾つか思い浮かべてみるのだが、どうもどれもしっくりこない。
しかしながら銀時は、これは恋や愛ではないと強く確信している。今までの人生経験がそう教えてくれているのだ。紗己のことで頭がいっぱいになるような、そんな時間を過ごした記憶は少なくとも無い。
なのに――何故か気に掛かる。放っておけない。だからいつも、彼女の悩みに親身になってしまうのだ。
だったら、親身になった彼女の悩みを、確実な解決に導いてやれば良いものを、土方に伝えた言葉も変に含みを持たせたものになってしまった。
紗己が望むのならやぶさかではないが、自分の助言によって土方がおいしい思いをすることに、少し批判的な気持ちになったのは確かだ。
紗己の笑顔は見たいものの、それは土方によってもたらされるもの。彼女に関係する幸せの全てが、土方に直結しているという揺るぎない事実。それを思った途端、親切心は瞬く間に萎んでいった。
何でもかんでもはっきりさせたいとは思わない。だが、出来ればこの感情にしっくりくる表現を見つけ出したい――と銀時は思う。
腹が立つ、とはさすがに思っていない。気に食わない、というほどでもない。許せない、なんてわけがなく。ならば何がしっくりくるというのか――。
『何となく、イヤ』
「・・・何となく、だけどな」
夜空を見上げ、ぽつり呟く。非常に曖昧な表現だが、これが一番しっくりとくる。深い意味も理由もなく、ただ何となく嫌なだけなのだ。
だからといって、その漠然とした思いを前面に出す気はない。それこそ、何となく嫌なだけなのだから。
理由は不明ながらも、己の感情に当てはまる表現が見つかり、少しだけすっきりとした。
今頃土方は屯所に戻っている頃だろうか。今夜二人はどうなるのだろうか。通りを行く人々に時折気を取られつつ、ぼんやりと考える。
しかしこれ以上は考えるのも不毛だし、何よりも面倒だ。
「・・・まァ、いいや」
小さく呟くと、早く家に帰りたいと歩く速度を上げた。
そんな表情を作られたら、とても重要なことを言われてしまいそうで。気を落ち着かせるためか単に間が持たないだけなのか、土方は摘まんだままの煙草を口元に持っていった。そして火を点けようと、左手で風避けを作り少し背を丸めた時。
考えがまとまったのか、銀時はやけに軽快な口調で言葉を放った。
「幸せだってよー」
「あ?」
想定外の台詞だったのか、土方は銀時の言葉に首を傾げる。すると銀時はもう一度、今度は先程より分かりやすく、
「だーからァ、今の生活が幸せなんだってよ」
言いながら、無表情のまま死んだ魚のような目で土方を見やる。
その視線の先には、何やら形容し難い表情を浮かべた土方がいた。嬉しい気持ちが頬を緩めさせ、複雑な気持ちが眉間に皺を寄せさせている。
だが銀時は、そんな土方を特に気にすることもなく、じゃあなと軽く言ってから背中を向けた。それは実にあっさりとしていて、拍子抜けした土方は思わずライターを落としかけてしまった。
「っ・・・お、おいちょっと・・・」
歩き出した銀時に、中途半端に声を掛ける。何をどうしたいという理由はないが、何となく呼び止めてしまったのだ。
しかし銀時は土方の呼び声に気付かなかったのだろうか、気怠そうに夜の闇へと消えていった。
――――――
夜と言えども人通りの多い道を、銀時は一人物思いに耽り歩く。
これで少しでも、紗己が幸せになれればいい。思いはするのだが、それには土方に対して自分が取った行動に、多少疑問を感じる部分もあった。
紗己と何か話したか、彼女から何か聞いたのかと土方に訊ねられた時。彼女は幸せだと、今の生活が幸せだと言っていたと、そう告げたのだ。
嘘ではない。事実紗己は、今が幸せなのだと言っていた。しかしそれは、土方からの質問の答えには些か合っていない気もする。
ひょっとしたら彼は、紗己が『何もされない』ことを幸せだと感じていると、勘違いしてしまうかもしれない。頭の堅い男のことだ、その可能性は十分に考えられる。
だからこそ、土方の問いに対し一番相応しい答えは、『彼女は触れられることを望んでいる』だろう。
そう言っても良かったのだが、何となく言わなかった。言わなかったことに関しては別にいいのだが、言わなかったその理由が自分でも分からない。
ならばその理由に該当しそうな事柄をと幾つか思い浮かべてみるのだが、どうもどれもしっくりこない。
しかしながら銀時は、これは恋や愛ではないと強く確信している。今までの人生経験がそう教えてくれているのだ。紗己のことで頭がいっぱいになるような、そんな時間を過ごした記憶は少なくとも無い。
なのに――何故か気に掛かる。放っておけない。だからいつも、彼女の悩みに親身になってしまうのだ。
だったら、親身になった彼女の悩みを、確実な解決に導いてやれば良いものを、土方に伝えた言葉も変に含みを持たせたものになってしまった。
紗己が望むのならやぶさかではないが、自分の助言によって土方がおいしい思いをすることに、少し批判的な気持ちになったのは確かだ。
紗己の笑顔は見たいものの、それは土方によってもたらされるもの。彼女に関係する幸せの全てが、土方に直結しているという揺るぎない事実。それを思った途端、親切心は瞬く間に萎んでいった。
何でもかんでもはっきりさせたいとは思わない。だが、出来ればこの感情にしっくりくる表現を見つけ出したい――と銀時は思う。
腹が立つ、とはさすがに思っていない。気に食わない、というほどでもない。許せない、なんてわけがなく。ならば何がしっくりくるというのか――。
『何となく、イヤ』
「・・・何となく、だけどな」
夜空を見上げ、ぽつり呟く。非常に曖昧な表現だが、これが一番しっくりとくる。深い意味も理由もなく、ただ何となく嫌なだけなのだ。
だからといって、その漠然とした思いを前面に出す気はない。それこそ、何となく嫌なだけなのだから。
理由は不明ながらも、己の感情に当てはまる表現が見つかり、少しだけすっきりとした。
今頃土方は屯所に戻っている頃だろうか。今夜二人はどうなるのだろうか。通りを行く人々に時折気を取られつつ、ぼんやりと考える。
しかしこれ以上は考えるのも不毛だし、何よりも面倒だ。
「・・・まァ、いいや」
小さく呟くと、早く家に帰りたいと歩く速度を上げた。