第七章
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銀時は不愉快そうに顔を歪めると、舌打ちをして土方に背を向けた。しかし、すぐには動こうとしない。それを不審に思った土方は、
「・・・おい、何突っ立ってんだよ」
訝しげに声を掛けた。
「お前さァ、紗己とちゃんと話してんのか?」
「あ? 何だ突然・・・」
投げ掛けられた質問に、土方はただただ首を捻るばかり。銀時の真意が見えず、どう答えればいいのか少々悩む。だが彼の言葉をその通り受け取れば、答えは一つ。
「会話くらい、してるに決まってんだろ」
四六時中共に過ごすわけではないが、少なくとも会話をする時間くらいはある。それでなくとも新婚なのだ、今のところ会話に困るようなことはない。
銀時の問いに、さも当然とばかりに答える。しかしそれは、銀時の聞きたかった答えではなかった。
「そりゃ同じ屋根の下に暮らしてて、会話しねー方が逆に難しいだろ。そうじゃなくてさァ、アイツがどうしたいと思ってるのか、ちゃんと知ってんのかって訊いてんだよ」
「どうしたいって・・・何をだよ?」
「あー・・・だからアレだよ、お前が悩んでることそのまんま」
少し言いにくそうに言葉を濁す。銀時のその微妙な表情に、彼が何のことを言っているのか理解したのだろう。土方は瞬時に顔を赤くして語調を強める。
「そ、そんなこと訊けるわけねーだろ!」
「なんで? 夫婦だろ、それくらい訊きゃァいいじゃねーか」
平然と言ってのける。すると土方は腹立たしそうに、
「それが出来てりゃ何の苦労もねーんだよ! 大体だなァ、アイツはそういうのには極端に疎いし、そもそも鈍感で・・・」
言いながら、いつもの紗己の笑顔を思い出す。穏やかな笑みを湛える愛しい妻を。
「と、とにかくアイツはそんなこと、考えもしねェような女なんだよっ!」
息も荒く言い切った。良いとか悪いとかではなく、それが紗己なのだ。それが自分の愛した女なのだと、やや報われなさを感じつつも。
「・・・あー」
目の前の土方の姿に、銀時は腕を組んで嘆息した。先程までは土方のことを哀れに思っていたのだが、ここでまたその意識に変化が芽生える。
コイツ、紗己がどう思ってんのか、ほんと分かってねーな・・・・・・。夫から見た妻としての彼女と、自分のように他者から見た彼女とでは、何かが違っているというのか。
まあきっと違ってるんだろうな、と思いはする。しかし、頭をもたげるこの僅かにもやもやとしたものは何だろうか。
その不明瞭な感情に不快感を覚えつつ、銀時は昼間紗己から聞いたことを、目の前の男を視界に入れつつ思い出し始めた。
土方は、紗己が『そんなこと』を考えもしない女なのだと言い張るが、銀時はそれに意義を唱えたい。彼女は夫に触れられることを拒否していないし、むしろそれを期待しているきらいがある。
何故そう言い切れるかと言えば、彼女が話の中で言っていたことが、ずばりそのものなのだ。
手を握ってもらうのが、すごく好きなんです――。
自分の中の記憶を辿りながら、恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに話した紗己。愛する男の手は大きくて節くれだっていて力強くて、その温もりを感じるだけで、幸せな気持ちになれるのだという。だから、すぐにまた触れたくなるのだと。
それを聞いた時、銀時は彼女も『女』なのだと改めて感じた。
今までの彼女なら、自ら『触れたい』とまでは主張しなかったはずだ。結婚して、心も、実生活でも格段に土方と距離が近くなった。それが彼女に、自分は妻であり女であると、無意識ながら自覚させているのだろう。
口付けに関しても、本当は待ち望んでいるに違いない。銀時は、全てを踏まえた上でそう確信していた。二回の機会も実らなかった後日談。時に残念そうに話す彼女を、銀時は見逃さなかった。
皆まで言わずとも、そこはそれ。純情娘の考えなど、大人の男からしてみれば透けて見えているようなものだ。そういった経緯があるからこそ、きっと彼女は土方に求められても拒否しないだろうと思う。
だが、あくまでもこれは夫婦の問題で、他者である自分がそうそう口出しすべきことでもないし、そもそも土方の手助けをする気など毛頭ないのも正直なところだ。
しかし、紗己の気持ちがこうも土方に届いていないのでは、彼女に対して気の毒だと思う気持ちもある。
とにもかくにも、少しでも彼女が幸せであってくれればそれでいいが、それにはこの男の行動が最優先課題だ。そう思った銀時は、やたら面倒臭そうに首を鳴らしながら言葉を放った。
「何でもいいからさー、とにかく紗己とちゃんと話してみろって」
「お前人の話聞いてねーだろ! さっきも言ったが、アイツはそういう・・・」
「あーあー聞いてる聞いてる。知ってる知ってる。つーか、お前ほんと面倒な男な」
「なっ・・・」
自分への悪口で話を遮られ、土方は腹立ちのあまり言葉を失ってしまった。しかし銀時は、そんな土方を尻目に淡々と言葉を続ける。
「お前さァ、ちょっとはテメーの女房信じてみれば? いくら鈍感とはいえアイツだってもう立派な『女』なんだからさー。少しは込み入った話だってできるだろうよ」
組んでいた腕を解いて、死んだ魚のような双眸を土方に向けた。
「・・・おい、何突っ立ってんだよ」
訝しげに声を掛けた。
「お前さァ、紗己とちゃんと話してんのか?」
「あ? 何だ突然・・・」
投げ掛けられた質問に、土方はただただ首を捻るばかり。銀時の真意が見えず、どう答えればいいのか少々悩む。だが彼の言葉をその通り受け取れば、答えは一つ。
「会話くらい、してるに決まってんだろ」
四六時中共に過ごすわけではないが、少なくとも会話をする時間くらいはある。それでなくとも新婚なのだ、今のところ会話に困るようなことはない。
銀時の問いに、さも当然とばかりに答える。しかしそれは、銀時の聞きたかった答えではなかった。
「そりゃ同じ屋根の下に暮らしてて、会話しねー方が逆に難しいだろ。そうじゃなくてさァ、アイツがどうしたいと思ってるのか、ちゃんと知ってんのかって訊いてんだよ」
「どうしたいって・・・何をだよ?」
「あー・・・だからアレだよ、お前が悩んでることそのまんま」
少し言いにくそうに言葉を濁す。銀時のその微妙な表情に、彼が何のことを言っているのか理解したのだろう。土方は瞬時に顔を赤くして語調を強める。
「そ、そんなこと訊けるわけねーだろ!」
「なんで? 夫婦だろ、それくらい訊きゃァいいじゃねーか」
平然と言ってのける。すると土方は腹立たしそうに、
「それが出来てりゃ何の苦労もねーんだよ! 大体だなァ、アイツはそういうのには極端に疎いし、そもそも鈍感で・・・」
言いながら、いつもの紗己の笑顔を思い出す。穏やかな笑みを湛える愛しい妻を。
「と、とにかくアイツはそんなこと、考えもしねェような女なんだよっ!」
息も荒く言い切った。良いとか悪いとかではなく、それが紗己なのだ。それが自分の愛した女なのだと、やや報われなさを感じつつも。
「・・・あー」
目の前の土方の姿に、銀時は腕を組んで嘆息した。先程までは土方のことを哀れに思っていたのだが、ここでまたその意識に変化が芽生える。
コイツ、紗己がどう思ってんのか、ほんと分かってねーな・・・・・・。夫から見た妻としての彼女と、自分のように他者から見た彼女とでは、何かが違っているというのか。
まあきっと違ってるんだろうな、と思いはする。しかし、頭をもたげるこの僅かにもやもやとしたものは何だろうか。
その不明瞭な感情に不快感を覚えつつ、銀時は昼間紗己から聞いたことを、目の前の男を視界に入れつつ思い出し始めた。
土方は、紗己が『そんなこと』を考えもしない女なのだと言い張るが、銀時はそれに意義を唱えたい。彼女は夫に触れられることを拒否していないし、むしろそれを期待しているきらいがある。
何故そう言い切れるかと言えば、彼女が話の中で言っていたことが、ずばりそのものなのだ。
手を握ってもらうのが、すごく好きなんです――。
自分の中の記憶を辿りながら、恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに話した紗己。愛する男の手は大きくて節くれだっていて力強くて、その温もりを感じるだけで、幸せな気持ちになれるのだという。だから、すぐにまた触れたくなるのだと。
それを聞いた時、銀時は彼女も『女』なのだと改めて感じた。
今までの彼女なら、自ら『触れたい』とまでは主張しなかったはずだ。結婚して、心も、実生活でも格段に土方と距離が近くなった。それが彼女に、自分は妻であり女であると、無意識ながら自覚させているのだろう。
口付けに関しても、本当は待ち望んでいるに違いない。銀時は、全てを踏まえた上でそう確信していた。二回の機会も実らなかった後日談。時に残念そうに話す彼女を、銀時は見逃さなかった。
皆まで言わずとも、そこはそれ。純情娘の考えなど、大人の男からしてみれば透けて見えているようなものだ。そういった経緯があるからこそ、きっと彼女は土方に求められても拒否しないだろうと思う。
だが、あくまでもこれは夫婦の問題で、他者である自分がそうそう口出しすべきことでもないし、そもそも土方の手助けをする気など毛頭ないのも正直なところだ。
しかし、紗己の気持ちがこうも土方に届いていないのでは、彼女に対して気の毒だと思う気持ちもある。
とにもかくにも、少しでも彼女が幸せであってくれればそれでいいが、それにはこの男の行動が最優先課題だ。そう思った銀時は、やたら面倒臭そうに首を鳴らしながら言葉を放った。
「何でもいいからさー、とにかく紗己とちゃんと話してみろって」
「お前人の話聞いてねーだろ! さっきも言ったが、アイツはそういう・・・」
「あーあー聞いてる聞いてる。知ってる知ってる。つーか、お前ほんと面倒な男な」
「なっ・・・」
自分への悪口で話を遮られ、土方は腹立ちのあまり言葉を失ってしまった。しかし銀時は、そんな土方を尻目に淡々と言葉を続ける。
「お前さァ、ちょっとはテメーの女房信じてみれば? いくら鈍感とはいえアイツだってもう立派な『女』なんだからさー。少しは込み入った話だってできるだろうよ」
組んでいた腕を解いて、死んだ魚のような双眸を土方に向けた。