第七章
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――――――
屯所を出てから、一つ目の煙草の自販機を通り過ぎる。空の色からすっかり赤みが消え、辺りは暗く街灯が点り出した。
この時期の夜の始まりは、さすがに上着なしでは寒い。屯所を出る時にはシャツにベスト姿だった土方も、五分と経たないうちに上着に袖を通していた。
煙草を買いに行くと言って出てきたのだが、それは体の言い口実に過ぎない。
こんなことで悩んでるなんて、アイツには口が裂けても言えねェ。歩きながら、先程までの沖田とのやり取りを思い出す。
自分ではほんの僅かに動揺しただけのつもりだったが、目聡い彼がそれを見逃すわけがない。もし、ちらっとでも心の内を明かしてしまったら、どれほど馬鹿にされることだろうか。一笑に付されるだけならまだいいが、今後事ある毎にそれをネタにされたらたまったもんじゃない。
それでなくとも、普段から沖田の言動には頭を悩ませているのだ。その悩みの種を、自ら熨斗を付けて贈るような真似は是非とも避けたい。
そんな事態を招かないためにも、早々にあの場から逃げ出したのだ。
比較的ゆっくりとした足取りで、二つ目の煙草の自販機を通り過ぎる。ここで買ってもよかったのだが、なんとなく気分転換を図りたいと、少し先のコンビニまで足を延ばすことにした。
沖田が言っていたように、紗己が煙草の買い置きをしてくれていることを、土方は当然知っている。
受動喫煙がもたらす妊婦への害を知ってからは、決して彼女に届く範囲で喫煙していない。それでも紗己は、頃合いを見計らって真新しいものを常に用意してくれている。
自室の文机の上と、寝室の箪笥の上。この二箇所に、いつでも未開封の一箱が置かれてあるのだ。
特に彼女から何を言われたわけでもないので、土方もそれについて何か言うことはないが、自分が持ち歩いているものが無くなりかけたら、そこから新しいものを持っていく。
たとえ仕事中でも、食事の時間や用がある時などは度々自室に足を運ぶことがある。その時に、必要なら補充していくという形だ。
まだ共に生活を始めてそう経ってはいないのに、既に『二人』のスタイルが出来つつある。それは、夫婦であることをより認識できる瞬間でもあって、こういった小さなことでも一人ではないと深く感じる。
そんな日々に、土方は大いに満足している。たった一つ、『あること』を除いては――。
程良い距離を歩ききり、土方はコンビニへと辿り着いた。
ここは、屯所の近くにあるコンビニの中でも一番遠いところにある。ぼんやりと考えながら歩いていたら、ついつい足を延ばし過ぎてしまっていた。
夜ともなれば、一層明るさが増す店内へと入る。どうせここまで来たのだ、せっかくだからついでに飲み物も買っていこうと、飲料コーナーへと進む途中。土方は、ふと視界に入ったものについ足を止めた。
そこは、通りに面した雑誌コーナー。通り過ぎる際、何の気なしに立ち読みしている女性客に目を向けた土方。そこそこの長身であるが故、軽く目線を落としただけで何を読んでいるのか望まずとも視界に入ってしまう。
その客が読んでいた女性週刊誌の見出しが、彼の目を釘付けにしたのだ。
――――――
「あれ? あれって・・・」
帰宅途中、コンビニの前の通りに差し掛かったところで、銀時は足を止めた。道の向こう側に見えるコンビニで、雑誌を立ち読みしている男。店内の明るすぎる照明が、その男の姿を浮き彫りにする。
なんだあの野郎、何だってあんな小難しい顔して・・・・・・。
遠目からでも分かるくらいに、眉間に皺を寄せている男――真選組副長・土方十四郎だ。
見なかったことにして、このまま立ち去ろうかとも思う。すぐに口喧嘩になる相手に、あえて話し掛けにいく程自分も暇ではない。
そう思いはするが、全く気にならないと言えば嘘になる。何しろ、昼間紗己から彼の話を聞いたばかりなのだ。
銀時はどうしたものかと嘆息しつつ、面倒臭そうに頭を掻くとのそのそと歩き出した。
「あんま関わりたくねーんだけど・・・」
小さく呟く。自分自身への言い訳だ。
――――――
「ちょっ、おま・・・オイオイなんつーモン読んでんだよ」
「・・・うぉあっ!?」
突然真横から話し掛けられたものだから、土方は思わず驚きの声を上げてしまう。慌てて振り向くと、そこにはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている銀時が立っていた。
「な、なんでテメーがこんなところにいるんだ万事屋!」
「ああ? コンビニにいるのに何か特別な理由でもいるんですかー」
「くっ・・・」
そう言われてしまうと、何も言葉を返せない。腹立たしそうに舌打ちをする土方に、銀時は更なる口撃を仕掛けてきた。
「なになに、いつもクールぶってる真選組の副長さんは、実は女性週刊誌が愛読書だったの?」
「なっ・・・」
「人は見かけによらないもんだねェ、土方くーん。あれ? でもあれだな、よく見ると合ってる気もしてきたわ。『女性ヘヴン』って顔してるよねー、うん」
「どんな顔だ!! つーか愛読書じゃねえっ」
口角泡を飛ばす勢いで否定するも、女性週刊誌を手に持ったままではいかんせん迫力がない。とにかくこれをどこかへやらなければと、土方は後ろ手に週刊誌を持ち、ラックへと押し込もうとした。のだが――。
――バサッ
「あっ!?」
焦るあまりに手元が狂い、週刊誌は乾いた音を立ててそのまま足元に落ちてしまった。すぐに拾おうと思った土方だったが、先に行動したのは銀時の方だった。
銀時はからかいの言葉を浴びせながら、床に開いて落ちた週刊誌に手を伸ばす。
「おーおー何焦ってんの? ほら、早くこれ持ってレジに行っ・・・」
腰を屈めて雑誌を拾い上げたのだが、その瞬間、銀時は言葉を切った。
余程力んでいたのだろう、しっかりと読みぐせがついてしまっている週刊誌。そのため、つい今しがた土方が読んでいたページがわかってしまったのだ。
屯所を出てから、一つ目の煙草の自販機を通り過ぎる。空の色からすっかり赤みが消え、辺りは暗く街灯が点り出した。
この時期の夜の始まりは、さすがに上着なしでは寒い。屯所を出る時にはシャツにベスト姿だった土方も、五分と経たないうちに上着に袖を通していた。
煙草を買いに行くと言って出てきたのだが、それは体の言い口実に過ぎない。
こんなことで悩んでるなんて、アイツには口が裂けても言えねェ。歩きながら、先程までの沖田とのやり取りを思い出す。
自分ではほんの僅かに動揺しただけのつもりだったが、目聡い彼がそれを見逃すわけがない。もし、ちらっとでも心の内を明かしてしまったら、どれほど馬鹿にされることだろうか。一笑に付されるだけならまだいいが、今後事ある毎にそれをネタにされたらたまったもんじゃない。
それでなくとも、普段から沖田の言動には頭を悩ませているのだ。その悩みの種を、自ら熨斗を付けて贈るような真似は是非とも避けたい。
そんな事態を招かないためにも、早々にあの場から逃げ出したのだ。
比較的ゆっくりとした足取りで、二つ目の煙草の自販機を通り過ぎる。ここで買ってもよかったのだが、なんとなく気分転換を図りたいと、少し先のコンビニまで足を延ばすことにした。
沖田が言っていたように、紗己が煙草の買い置きをしてくれていることを、土方は当然知っている。
受動喫煙がもたらす妊婦への害を知ってからは、決して彼女に届く範囲で喫煙していない。それでも紗己は、頃合いを見計らって真新しいものを常に用意してくれている。
自室の文机の上と、寝室の箪笥の上。この二箇所に、いつでも未開封の一箱が置かれてあるのだ。
特に彼女から何を言われたわけでもないので、土方もそれについて何か言うことはないが、自分が持ち歩いているものが無くなりかけたら、そこから新しいものを持っていく。
たとえ仕事中でも、食事の時間や用がある時などは度々自室に足を運ぶことがある。その時に、必要なら補充していくという形だ。
まだ共に生活を始めてそう経ってはいないのに、既に『二人』のスタイルが出来つつある。それは、夫婦であることをより認識できる瞬間でもあって、こういった小さなことでも一人ではないと深く感じる。
そんな日々に、土方は大いに満足している。たった一つ、『あること』を除いては――。
程良い距離を歩ききり、土方はコンビニへと辿り着いた。
ここは、屯所の近くにあるコンビニの中でも一番遠いところにある。ぼんやりと考えながら歩いていたら、ついつい足を延ばし過ぎてしまっていた。
夜ともなれば、一層明るさが増す店内へと入る。どうせここまで来たのだ、せっかくだからついでに飲み物も買っていこうと、飲料コーナーへと進む途中。土方は、ふと視界に入ったものについ足を止めた。
そこは、通りに面した雑誌コーナー。通り過ぎる際、何の気なしに立ち読みしている女性客に目を向けた土方。そこそこの長身であるが故、軽く目線を落としただけで何を読んでいるのか望まずとも視界に入ってしまう。
その客が読んでいた女性週刊誌の見出しが、彼の目を釘付けにしたのだ。
――――――
「あれ? あれって・・・」
帰宅途中、コンビニの前の通りに差し掛かったところで、銀時は足を止めた。道の向こう側に見えるコンビニで、雑誌を立ち読みしている男。店内の明るすぎる照明が、その男の姿を浮き彫りにする。
なんだあの野郎、何だってあんな小難しい顔して・・・・・・。
遠目からでも分かるくらいに、眉間に皺を寄せている男――真選組副長・土方十四郎だ。
見なかったことにして、このまま立ち去ろうかとも思う。すぐに口喧嘩になる相手に、あえて話し掛けにいく程自分も暇ではない。
そう思いはするが、全く気にならないと言えば嘘になる。何しろ、昼間紗己から彼の話を聞いたばかりなのだ。
銀時はどうしたものかと嘆息しつつ、面倒臭そうに頭を掻くとのそのそと歩き出した。
「あんま関わりたくねーんだけど・・・」
小さく呟く。自分自身への言い訳だ。
――――――
「ちょっ、おま・・・オイオイなんつーモン読んでんだよ」
「・・・うぉあっ!?」
突然真横から話し掛けられたものだから、土方は思わず驚きの声を上げてしまう。慌てて振り向くと、そこにはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている銀時が立っていた。
「な、なんでテメーがこんなところにいるんだ万事屋!」
「ああ? コンビニにいるのに何か特別な理由でもいるんですかー」
「くっ・・・」
そう言われてしまうと、何も言葉を返せない。腹立たしそうに舌打ちをする土方に、銀時は更なる口撃を仕掛けてきた。
「なになに、いつもクールぶってる真選組の副長さんは、実は女性週刊誌が愛読書だったの?」
「なっ・・・」
「人は見かけによらないもんだねェ、土方くーん。あれ? でもあれだな、よく見ると合ってる気もしてきたわ。『女性ヘヴン』って顔してるよねー、うん」
「どんな顔だ!! つーか愛読書じゃねえっ」
口角泡を飛ばす勢いで否定するも、女性週刊誌を手に持ったままではいかんせん迫力がない。とにかくこれをどこかへやらなければと、土方は後ろ手に週刊誌を持ち、ラックへと押し込もうとした。のだが――。
――バサッ
「あっ!?」
焦るあまりに手元が狂い、週刊誌は乾いた音を立ててそのまま足元に落ちてしまった。すぐに拾おうと思った土方だったが、先に行動したのは銀時の方だった。
銀時はからかいの言葉を浴びせながら、床に開いて落ちた週刊誌に手を伸ばす。
「おーおー何焦ってんの? ほら、早くこれ持ってレジに行っ・・・」
腰を屈めて雑誌を拾い上げたのだが、その瞬間、銀時は言葉を切った。
余程力んでいたのだろう、しっかりと読みぐせがついてしまっている週刊誌。そのため、つい今しがた土方が読んでいたページがわかってしまったのだ。