序章②
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――――――
「援助交際ねえ・・・人は見かけによらねえな。大人しそうな顔してたじゃねーか、今の娘」
取調室から出たところで、土方は咥えた煙草の先に焦点を合わせながらライターで火を点けた。すぐ隣には、一緒に取り調べをしていた沖田の姿がある。
「何言ってんですか土方さん、ああいうタイプの方が案外やるもんなんですよ。アレなんかもそうじゃないですかィ、女中の紗己。あれも大人しそうに見せておいて、結構強かかも知れねェぜ」
言いながら、沖田は昼間目にした光景を思い出していた。
(あれは・・・万事屋の旦那じゃねェか)
見回り途中に公園の横を通っていると、見慣れた銀髪の天然パーマがベンチに座っていた。
隣に座っている女が誰なのか興味が湧き、車のスピードを落として走らせると。
紗己・・・・・・? へえ、なかなかやるねェ・・・大人しそうな面してるクセに、まあ。
楽しそうに話しながら二人で羊羹を食べている姿は、一見恋人同士に見えないこともない。
二人がどういった知り合いなのか興味はあるものの、仕事中であり他の隊士が同乗していることもあって、そのままスピードを上げて通り過ぎたのだった。
公園に居た二人を思い出しつつ隣に立つ土方を一瞥すると、土方は沖田の言葉に目を吊り上げ必死に反論する。それはもう、口角泡を飛ばす勢いで。
「なっ、何言ってんだお前! アイツはなあ、アイツはそんなのしねーよ!! 第一そんなこと思いつきもしねェタイプなんだよっ」
「ふーん・・・土方さん、タイプだなんだ言えるくらい、いつから紗己とそんなに親しくなったんでェ?」
「え・・・って、ばばっばかな事言ってんじゃねえ! 別に親しくなんかねーよ!!」
今度は顔を真っ赤にして否定する。それをまた面倒臭そうに一瞥すると、沖田は首を鳴らしながら先を歩き出した。
――面白くねェ。無表情のまま、胸中で呟く。
そのまま二人が短い休憩を取りに食堂に行くと、そこには同じように小休憩を取っている数人の隊士と、水仕事をしている紗己の姿があった。
「あ、副長さんに沖田さん。お茶、飲みます?」
「ああ、頼む」
「それじゃ、俺にも淹れてくれ」
簡潔に答えた沖田に続き、土方も椅子を引きながら答えると、ふと視界の隅に桶が映った。
「なんだ、ありゃ・・・ぶどうか?」
「ええ、夕食の後にでもと思って。今冷やしてますから、夜楽しみにしててくださいね」
水を溜めた桶に、たくさんのぶどうが所狭しと埋まっている。それを見た沖田は、ニヤリと笑って土方に話し掛ける。
「土方さんには、おあつらえ向きのぶどうですね」
「あ? 何がだよ、ただのぶどうじゃねーか」
「巨峰と違って、あれは種無しでェ」
「ふーん、種無し・・・ってテメー総悟! どういう意味だコラァッ」
立ち上がり憤慨する土方と、それを見ても顔色一つ変えない沖田。種無し、種有りだと言い合う二人に、たまたま通りがかった山崎が割って入った。
「ちょっ・・・女の子の前で、何恥ずかしい事でっかい声で言い合ってんですかあんたら!?」
その言葉に、熱くなっていた土方が紗己の方を見やると、彼女はいつもと変わらぬ穏やかな表情で土方たちを見つめている。
「種無しじゃ、駄目でしたか?」
「いやその、そういう話じゃ・・・」
言葉を濁す土方を尻目に、沖田は淡々と問い掛ける。
「紗己、アンタはどうなんだィ」
「私は・・・好きですけど、種無し。ちょっと酸っぱいけど食べやすいし、皮も口の中ですぐに剥けるし・・・」
「ちょっ・・・馬鹿かテメーは何言ってんだ! つーか総悟! お前何言わせてんだよっ」
土方は慌てふためき、紗己の言葉を必死に遮る。すると沖田は、途端に冷えた目付きで、
「何言ってんでェ、土方さん。あんたが勝手に勘違いしてるだけじゃねーですか」
そう言い放つと、ポケットに手を突っ込んでそのまま食堂を出て行ってしまった。
いつも通りといえばそうなのだが、どこかしら違うようにも見えた沖田を気にしてか、土方と山崎は訝しげに顔を見合わせている。
紗己もまた、沖田が湯呑みに口も付けずに行ってしまった事を気にしているようだ。
「あの、私何か悪いこと言いましたか・・・・・・?」
自分の発言が気に障ったのだろうかと、不安気な表情を見せる紗己に対し、土方は表情こそ平時と変わらないものの、常より数倍は優しい口調で彼女を慰める。
「そんなんじゃねーよ。アイツはいつでもあんなだからな、お前が気にする必要はねえ」
「それならいいんですが・・・」
「いいんだよ・・・ってアレ? なんだ、口の端になんか付いてるぞ」
さっきまでは気付かなかったが、触れ合える距離で顔を覗くと、紗己の口元には茶色いものが少量付いていた。
「え? なんだろ・・・あ、羊羹だ」
舌で舐めとると、甘い味がした。公園で銀時と一緒に食べた時、おそらく付いてしまったのだろう。
だがそんな事を知らない土方は、紗己の抜け具合に頬を緩ませている。
コイツ、歳の割にしっかりしてるようで、こういうトコは歳よりも幼いよな。
かといってそれを口にするわけでもなく、土方は一人小さく笑うと、仕事に戻った紗己の後姿をご機嫌に眺めていた。
そんな土方の姿を、山崎は隣でじとっと眺めている。
(なんだ、なんでだ、なんでか知らんがムカつく・・・・・・)
二人の情事の事情を知らない山崎には、彼等がイチャついているようにしか見えていないらしい。
「援助交際ねえ・・・人は見かけによらねえな。大人しそうな顔してたじゃねーか、今の娘」
取調室から出たところで、土方は咥えた煙草の先に焦点を合わせながらライターで火を点けた。すぐ隣には、一緒に取り調べをしていた沖田の姿がある。
「何言ってんですか土方さん、ああいうタイプの方が案外やるもんなんですよ。アレなんかもそうじゃないですかィ、女中の紗己。あれも大人しそうに見せておいて、結構強かかも知れねェぜ」
言いながら、沖田は昼間目にした光景を思い出していた。
(あれは・・・万事屋の旦那じゃねェか)
見回り途中に公園の横を通っていると、見慣れた銀髪の天然パーマがベンチに座っていた。
隣に座っている女が誰なのか興味が湧き、車のスピードを落として走らせると。
紗己・・・・・・? へえ、なかなかやるねェ・・・大人しそうな面してるクセに、まあ。
楽しそうに話しながら二人で羊羹を食べている姿は、一見恋人同士に見えないこともない。
二人がどういった知り合いなのか興味はあるものの、仕事中であり他の隊士が同乗していることもあって、そのままスピードを上げて通り過ぎたのだった。
公園に居た二人を思い出しつつ隣に立つ土方を一瞥すると、土方は沖田の言葉に目を吊り上げ必死に反論する。それはもう、口角泡を飛ばす勢いで。
「なっ、何言ってんだお前! アイツはなあ、アイツはそんなのしねーよ!! 第一そんなこと思いつきもしねェタイプなんだよっ」
「ふーん・・・土方さん、タイプだなんだ言えるくらい、いつから紗己とそんなに親しくなったんでェ?」
「え・・・って、ばばっばかな事言ってんじゃねえ! 別に親しくなんかねーよ!!」
今度は顔を真っ赤にして否定する。それをまた面倒臭そうに一瞥すると、沖田は首を鳴らしながら先を歩き出した。
――面白くねェ。無表情のまま、胸中で呟く。
そのまま二人が短い休憩を取りに食堂に行くと、そこには同じように小休憩を取っている数人の隊士と、水仕事をしている紗己の姿があった。
「あ、副長さんに沖田さん。お茶、飲みます?」
「ああ、頼む」
「それじゃ、俺にも淹れてくれ」
簡潔に答えた沖田に続き、土方も椅子を引きながら答えると、ふと視界の隅に桶が映った。
「なんだ、ありゃ・・・ぶどうか?」
「ええ、夕食の後にでもと思って。今冷やしてますから、夜楽しみにしててくださいね」
水を溜めた桶に、たくさんのぶどうが所狭しと埋まっている。それを見た沖田は、ニヤリと笑って土方に話し掛ける。
「土方さんには、おあつらえ向きのぶどうですね」
「あ? 何がだよ、ただのぶどうじゃねーか」
「巨峰と違って、あれは種無しでェ」
「ふーん、種無し・・・ってテメー総悟! どういう意味だコラァッ」
立ち上がり憤慨する土方と、それを見ても顔色一つ変えない沖田。種無し、種有りだと言い合う二人に、たまたま通りがかった山崎が割って入った。
「ちょっ・・・女の子の前で、何恥ずかしい事でっかい声で言い合ってんですかあんたら!?」
その言葉に、熱くなっていた土方が紗己の方を見やると、彼女はいつもと変わらぬ穏やかな表情で土方たちを見つめている。
「種無しじゃ、駄目でしたか?」
「いやその、そういう話じゃ・・・」
言葉を濁す土方を尻目に、沖田は淡々と問い掛ける。
「紗己、アンタはどうなんだィ」
「私は・・・好きですけど、種無し。ちょっと酸っぱいけど食べやすいし、皮も口の中ですぐに剥けるし・・・」
「ちょっ・・・馬鹿かテメーは何言ってんだ! つーか総悟! お前何言わせてんだよっ」
土方は慌てふためき、紗己の言葉を必死に遮る。すると沖田は、途端に冷えた目付きで、
「何言ってんでェ、土方さん。あんたが勝手に勘違いしてるだけじゃねーですか」
そう言い放つと、ポケットに手を突っ込んでそのまま食堂を出て行ってしまった。
いつも通りといえばそうなのだが、どこかしら違うようにも見えた沖田を気にしてか、土方と山崎は訝しげに顔を見合わせている。
紗己もまた、沖田が湯呑みに口も付けずに行ってしまった事を気にしているようだ。
「あの、私何か悪いこと言いましたか・・・・・・?」
自分の発言が気に障ったのだろうかと、不安気な表情を見せる紗己に対し、土方は表情こそ平時と変わらないものの、常より数倍は優しい口調で彼女を慰める。
「そんなんじゃねーよ。アイツはいつでもあんなだからな、お前が気にする必要はねえ」
「それならいいんですが・・・」
「いいんだよ・・・ってアレ? なんだ、口の端になんか付いてるぞ」
さっきまでは気付かなかったが、触れ合える距離で顔を覗くと、紗己の口元には茶色いものが少量付いていた。
「え? なんだろ・・・あ、羊羹だ」
舌で舐めとると、甘い味がした。公園で銀時と一緒に食べた時、おそらく付いてしまったのだろう。
だがそんな事を知らない土方は、紗己の抜け具合に頬を緩ませている。
コイツ、歳の割にしっかりしてるようで、こういうトコは歳よりも幼いよな。
かといってそれを口にするわけでもなく、土方は一人小さく笑うと、仕事に戻った紗己の後姿をご機嫌に眺めていた。
そんな土方の姿を、山崎は隣でじとっと眺めている。
(なんだ、なんでだ、なんでか知らんがムカつく・・・・・・)
二人の情事の事情を知らない山崎には、彼等がイチャついているようにしか見えていないらしい。