第七章
名前変換はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
――――――
屯所内のとある一角。取調室を出たところで、開口一番沖田が口にした言葉――それは『嘆かわしい』だった。
「あ? 何だよ、いきなり」
「嘆かわしい世の中でさァ。純粋な恋心をやれ痴漢だのストーカーだの、面倒な世の中になっちまいましたね」
「確かにな。男の純情には、女ってのは案外気付かねーもんだ」
言いながら、二人して廊下を歩く。
何故こんな話題が持ち上がったかと言うと、昼間に連行した痴漢容疑の男の取り調べを、今の今まで執り行なっていたからだ。
沖田の言葉に頷きつつも、彼にしては至極まともな意見に、土方はさも意外だという顔をする。
「しかし、お前にしては珍しく普通の意見だな。山崎なんて、取り付く島も無いくらいに切り捨ててたぞ」
「別に庇う気なんか無いですがね。ただ、こんなご時世でなけりゃ、近藤さんもちょっとは救われるかもしれねェと思ったんでさァ」
「それは言えてるな。あの人の一直線ぶりは、一歩違えばストーカーと思われかねねえ」
本当はもうストーカー扱いされているのだが、そこにはあえて触れないでおく。しかし、そんな土方の気遣いなんて何のその。
「あの人は、もうすでにストーカーですけどね。どれだけ純粋な恋心でも、相手に気味悪がられた時点で終わりでさァ」
いつもの飄々とした口ぶりで、あっさりと言ってのける。
「・・・ま、まァそうなんだが・・・」
そこまで露骨に言わなくても・・・と思っている土方を尻目に、沖田はあくまでもマイペースを貫く。
「さっきの男もやれきっかけだのタイミングだの言ってやがったが、結局はただの言い訳でさァ。女の方にその気がありゃァ、こんな騒ぎにはならなかっただろうに・・・ん?」
足並みを揃えていたはずの土方の歩みが急に遅くなったので、不思議に思った沖田は足を止めて隣に目を向けた。やや後方にいる土方は、何やら複雑な表情を浮かべている。あえて言うならば、苦虫を噛み潰したような。
今の話題でそんな表情になる要因がどこにあったのだろうかと、沖田は土方を訝しむ。
「・・・土方さん、どうかしたんですかィ」
「い、いや別に・・・」
ポケットに両手を突っ込んだまま、ボソボソと低い声で返事をする。その様子に、ますます疑念に満ちた視線を送る沖田。彼もまたポケットに手を差し込んだ状態で、首だけ後ろに振り返り土方を一瞥した。
「なんでェ、何か気になることでもあるんですか?」
「い、いや特に・・・」
「その割には、様子が変じゃねーですか」
「べ、別にんなことねェよっ」
さらっと流してくれない沖田に、少し焦ったように言い放つ。その早口が、何かあると告白しているようなものなのだが。
どうにも居心地が悪い思いの土方は、ポケットから手を引き抜くと唐突に上着を脱ぎ始めた。暑い季節はもうとうに過ぎている。そんな行動に出れば、余計に怪しまれるだけだというのに。
果たしてそこまで意識が回っているのかは不明だが、土方は脱いだ上着を肩に引っ掛けると、数回咳払いをしてから思いつくまま言葉を並べた。
「そ、そうだ煙草だ煙草! ちょっとそこまで買いに行ってくる!!」
「煙草なら、紗己が買い置きしてるんじゃねーんですか。つーか、わざわざ外に行かなくてもうちの自販機で買えばいいじゃねーですか」
「っ・・・」
沖田の冷静な切り返しに、嫌な汗をかいてしまう。別に悪いことをしているわけではないのだが、勝手に焦って勝手に気まずくなってしまっている。
「よ、余分にあって困るもんじゃねーからなっ。そ、それにちょっと暑いから外で涼みたくてよ!」
これ以上ここで会話をしていたら、そのうち余計なことまで話してしまいそうだ。その危機感から、土方は何とかこの場を逃れようと思いつくままに言葉を並べた。
そして未だ自分に向けられている沖田の視線を振り切るように、そそくさと足早にこの場を去っていった。
屯所内のとある一角。取調室を出たところで、開口一番沖田が口にした言葉――それは『嘆かわしい』だった。
「あ? 何だよ、いきなり」
「嘆かわしい世の中でさァ。純粋な恋心をやれ痴漢だのストーカーだの、面倒な世の中になっちまいましたね」
「確かにな。男の純情には、女ってのは案外気付かねーもんだ」
言いながら、二人して廊下を歩く。
何故こんな話題が持ち上がったかと言うと、昼間に連行した痴漢容疑の男の取り調べを、今の今まで執り行なっていたからだ。
沖田の言葉に頷きつつも、彼にしては至極まともな意見に、土方はさも意外だという顔をする。
「しかし、お前にしては珍しく普通の意見だな。山崎なんて、取り付く島も無いくらいに切り捨ててたぞ」
「別に庇う気なんか無いですがね。ただ、こんなご時世でなけりゃ、近藤さんもちょっとは救われるかもしれねェと思ったんでさァ」
「それは言えてるな。あの人の一直線ぶりは、一歩違えばストーカーと思われかねねえ」
本当はもうストーカー扱いされているのだが、そこにはあえて触れないでおく。しかし、そんな土方の気遣いなんて何のその。
「あの人は、もうすでにストーカーですけどね。どれだけ純粋な恋心でも、相手に気味悪がられた時点で終わりでさァ」
いつもの飄々とした口ぶりで、あっさりと言ってのける。
「・・・ま、まァそうなんだが・・・」
そこまで露骨に言わなくても・・・と思っている土方を尻目に、沖田はあくまでもマイペースを貫く。
「さっきの男もやれきっかけだのタイミングだの言ってやがったが、結局はただの言い訳でさァ。女の方にその気がありゃァ、こんな騒ぎにはならなかっただろうに・・・ん?」
足並みを揃えていたはずの土方の歩みが急に遅くなったので、不思議に思った沖田は足を止めて隣に目を向けた。やや後方にいる土方は、何やら複雑な表情を浮かべている。あえて言うならば、苦虫を噛み潰したような。
今の話題でそんな表情になる要因がどこにあったのだろうかと、沖田は土方を訝しむ。
「・・・土方さん、どうかしたんですかィ」
「い、いや別に・・・」
ポケットに両手を突っ込んだまま、ボソボソと低い声で返事をする。その様子に、ますます疑念に満ちた視線を送る沖田。彼もまたポケットに手を差し込んだ状態で、首だけ後ろに振り返り土方を一瞥した。
「なんでェ、何か気になることでもあるんですか?」
「い、いや特に・・・」
「その割には、様子が変じゃねーですか」
「べ、別にんなことねェよっ」
さらっと流してくれない沖田に、少し焦ったように言い放つ。その早口が、何かあると告白しているようなものなのだが。
どうにも居心地が悪い思いの土方は、ポケットから手を引き抜くと唐突に上着を脱ぎ始めた。暑い季節はもうとうに過ぎている。そんな行動に出れば、余計に怪しまれるだけだというのに。
果たしてそこまで意識が回っているのかは不明だが、土方は脱いだ上着を肩に引っ掛けると、数回咳払いをしてから思いつくまま言葉を並べた。
「そ、そうだ煙草だ煙草! ちょっとそこまで買いに行ってくる!!」
「煙草なら、紗己が買い置きしてるんじゃねーんですか。つーか、わざわざ外に行かなくてもうちの自販機で買えばいいじゃねーですか」
「っ・・・」
沖田の冷静な切り返しに、嫌な汗をかいてしまう。別に悪いことをしているわけではないのだが、勝手に焦って勝手に気まずくなってしまっている。
「よ、余分にあって困るもんじゃねーからなっ。そ、それにちょっと暑いから外で涼みたくてよ!」
これ以上ここで会話をしていたら、そのうち余計なことまで話してしまいそうだ。その危機感から、土方は何とかこの場を逃れようと思いつくままに言葉を並べた。
そして未だ自分に向けられている沖田の視線を振り切るように、そそくさと足早にこの場を去っていった。