第七章
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「あの、私・・・言ってなかったですか?」
「少なくとも、俺は何も聞いてねーよ。何、お前言ったつもりだったの?」
訊き返すと、紗己はこくり頷く。どうやら一人頭の中で会話をしていたらしい。
彼女の器用すぎる不器用な性格に銀時は嘆息しつつ、依然立ったままの彼女を見上げた。
「ハァ・・・ま、いいや。話しにくいから、とりあえず座ってくんない?」
「・・・はあ、はい・・・」
言われたまま、紗己はベンチに腰を下ろした。ようやくきちんと会話が出来るような状態となり、改めて銀時は隣の紗己に質問の真意を訊ねる。
「んで、お前は一体俺に何を訊きたかったんだよ。やっぱり変の『やっぱり』って、何?」
「そ、それはその・・・あの・・・」
はっきりと言いにくいのか、口ごもってしまう紗己。だが急かしたところで、きっと彼女は何も言えないだろう。
それならば彼女のペースに合わせようと、じっと腕を組んだまま次の言葉を待っていると。か細く震える声が銀時の耳に届いた。
「その・・・何も・・・されないって、やっぱり・・・変なんでしょうか・・・・・・?」
「何もされないって・・・」
紗己の言葉を、とりあえず繰り返してみる。
先程まで彼女と交わしていた会話、それを受けての彼女のこの様子。そこに含まれる意味に遅まきながら気付いた銀時は、組んでいた腕を解いて両手を自身の膝の上に乗せた。
「あーいや、変っつーか・・・いやまァ色んな形があるからさ、一概に変とまでは言えねーけど・・・」
オブラートに包むように、やんわりと言葉を濁す。
本当は変だと思う気持ちが遥かに勝っているのだが、そんなことを言おうものならその後が大変だ。紗己のことだ、気を回しすぎて自分から土方に抱かれようとするかも知れない。
まあそれはそれで、土方にとっては願ってもない、喜ばしい展開だろうが。
自分には何の得にもならないことを、あれやこれやと親切に考え込む。今の彼女には、どんな言葉をかけてやるのが一番なのか――と、眉を寄せてちらり横目で紗己を盗み見ると。
そこには、恥ずかしいのか気まずいのか、太ももに置いた自身の手をひたすら凝視する紗己の姿が。
こんなにも他人事に必死になる自分を、馬鹿らしく思わないわけではない。だがこの紗己の姿を目の当たりにして、適当なことなど言えるはずもない、とも銀時は思う。
広い背中を少し屈めると、足元に視線を落として脳内整理に取り掛かった。
そもそもあの野郎は、紗己が孕んでるから遠慮して手が出せないでいるんだろ? そりゃァ本人に訊いたわけじゃねえが、おそらくそうだろうな。
だったら、紗己が自分からサインを出して誘っちまえば、結果的には万々歳じゃねーのか?
紗己は紗己で、何もされないのを気にしてるみたいだし。
「・・・なあ、紗己」
前屈みになっていた身体を起こしながら、落ち着いた声で呼び掛ける。ひとしきり考え、彼なりに結論が出たようだ。
「・・・はい?」
「あのさ、お前はどうしたいの」
「え? どうしたいって、何が・・・ですか?」
「お前訊いてきたじゃん、何もされないのは変なのかって。お前はどうなの、物足りねーと思ってんのか?」
かなり込み入ったことを訊いている。
銀時の出した結論とは、紗己が何を望んでいるのかを確かめるということだったらしい。ふざけているでもなくからかっているでもなく、真面目な声音の銀時の言葉に、紗己は動揺を隠せない。
「も、物足りない・・・ってやだ、銀さんってば! そそ、そんな私あの・・・」
「物足りないと思ってたとしても、それは別に悪いことじゃねーだろ。もう夫婦なんだからさ、その辺は変に遠慮とかいらねーんじゃねェの?」
「で、でも・・・」
「どうなんだよ、あのニコチン野郎に『何か』されたいと思ってんだろ?」
言いながら、死んだ魚のような目を紗己に向ける。すると彼女は、その視線から逃れるように顔を思い切り伏せてしまった。
その姿に銀時は、さすがに深入りしすぎたかと少しばかり反省する。俯く彼女の頭に手を乗せると、軽くポンポンと叩いてから優しくひと撫でした。
「あー・・・悪ィ、ちょっとデリカシーが足りなかったか。お前の力になりたいとは思ってんだけどさァ、こればっかりは他人が口出しすることでもねーよな」
自らに言い聞かせるように、静かに言葉を紡ぐ。その時、俯いたままだった紗己が僅かな反応を見せた。
ゆっくりと顔を上げると、頬にかかる髪を耳に掛けて短く深呼吸をし始める。そうして少し落ち着きを取り戻したのか、恥ずかしそうに銀時を見つめた。
「ご、ごめんなさい銀さん、気を遣わせちゃって・・・・・・。私、どうしたらいいのかも、どうしたいのかも、よくわからなくって・・・・・・」
「いいって、気にすんな」
頬を赤く染めつつも、不安の色濃い彼女の表情。
他人が口出しすることではないと思ってはみたが、こんなにも不安に揺れる瞳を向けられ、突き放すことなど出来やしないし、したくもない。
慕われれば放っておけない性質が、彼女の助けになれと主張する。銀時は紗己の頭から手を離すと、その手で自身の髪をわしゃわしゃと掻き乱した。
「少なくとも、俺は何も聞いてねーよ。何、お前言ったつもりだったの?」
訊き返すと、紗己はこくり頷く。どうやら一人頭の中で会話をしていたらしい。
彼女の器用すぎる不器用な性格に銀時は嘆息しつつ、依然立ったままの彼女を見上げた。
「ハァ・・・ま、いいや。話しにくいから、とりあえず座ってくんない?」
「・・・はあ、はい・・・」
言われたまま、紗己はベンチに腰を下ろした。ようやくきちんと会話が出来るような状態となり、改めて銀時は隣の紗己に質問の真意を訊ねる。
「んで、お前は一体俺に何を訊きたかったんだよ。やっぱり変の『やっぱり』って、何?」
「そ、それはその・・・あの・・・」
はっきりと言いにくいのか、口ごもってしまう紗己。だが急かしたところで、きっと彼女は何も言えないだろう。
それならば彼女のペースに合わせようと、じっと腕を組んだまま次の言葉を待っていると。か細く震える声が銀時の耳に届いた。
「その・・・何も・・・されないって、やっぱり・・・変なんでしょうか・・・・・・?」
「何もされないって・・・」
紗己の言葉を、とりあえず繰り返してみる。
先程まで彼女と交わしていた会話、それを受けての彼女のこの様子。そこに含まれる意味に遅まきながら気付いた銀時は、組んでいた腕を解いて両手を自身の膝の上に乗せた。
「あーいや、変っつーか・・・いやまァ色んな形があるからさ、一概に変とまでは言えねーけど・・・」
オブラートに包むように、やんわりと言葉を濁す。
本当は変だと思う気持ちが遥かに勝っているのだが、そんなことを言おうものならその後が大変だ。紗己のことだ、気を回しすぎて自分から土方に抱かれようとするかも知れない。
まあそれはそれで、土方にとっては願ってもない、喜ばしい展開だろうが。
自分には何の得にもならないことを、あれやこれやと親切に考え込む。今の彼女には、どんな言葉をかけてやるのが一番なのか――と、眉を寄せてちらり横目で紗己を盗み見ると。
そこには、恥ずかしいのか気まずいのか、太ももに置いた自身の手をひたすら凝視する紗己の姿が。
こんなにも他人事に必死になる自分を、馬鹿らしく思わないわけではない。だがこの紗己の姿を目の当たりにして、適当なことなど言えるはずもない、とも銀時は思う。
広い背中を少し屈めると、足元に視線を落として脳内整理に取り掛かった。
そもそもあの野郎は、紗己が孕んでるから遠慮して手が出せないでいるんだろ? そりゃァ本人に訊いたわけじゃねえが、おそらくそうだろうな。
だったら、紗己が自分からサインを出して誘っちまえば、結果的には万々歳じゃねーのか?
紗己は紗己で、何もされないのを気にしてるみたいだし。
「・・・なあ、紗己」
前屈みになっていた身体を起こしながら、落ち着いた声で呼び掛ける。ひとしきり考え、彼なりに結論が出たようだ。
「・・・はい?」
「あのさ、お前はどうしたいの」
「え? どうしたいって、何が・・・ですか?」
「お前訊いてきたじゃん、何もされないのは変なのかって。お前はどうなの、物足りねーと思ってんのか?」
かなり込み入ったことを訊いている。
銀時の出した結論とは、紗己が何を望んでいるのかを確かめるということだったらしい。ふざけているでもなくからかっているでもなく、真面目な声音の銀時の言葉に、紗己は動揺を隠せない。
「も、物足りない・・・ってやだ、銀さんってば! そそ、そんな私あの・・・」
「物足りないと思ってたとしても、それは別に悪いことじゃねーだろ。もう夫婦なんだからさ、その辺は変に遠慮とかいらねーんじゃねェの?」
「で、でも・・・」
「どうなんだよ、あのニコチン野郎に『何か』されたいと思ってんだろ?」
言いながら、死んだ魚のような目を紗己に向ける。すると彼女は、その視線から逃れるように顔を思い切り伏せてしまった。
その姿に銀時は、さすがに深入りしすぎたかと少しばかり反省する。俯く彼女の頭に手を乗せると、軽くポンポンと叩いてから優しくひと撫でした。
「あー・・・悪ィ、ちょっとデリカシーが足りなかったか。お前の力になりたいとは思ってんだけどさァ、こればっかりは他人が口出しすることでもねーよな」
自らに言い聞かせるように、静かに言葉を紡ぐ。その時、俯いたままだった紗己が僅かな反応を見せた。
ゆっくりと顔を上げると、頬にかかる髪を耳に掛けて短く深呼吸をし始める。そうして少し落ち着きを取り戻したのか、恥ずかしそうに銀時を見つめた。
「ご、ごめんなさい銀さん、気を遣わせちゃって・・・・・・。私、どうしたらいいのかも、どうしたいのかも、よくわからなくって・・・・・・」
「いいって、気にすんな」
頬を赤く染めつつも、不安の色濃い彼女の表情。
他人が口出しすることではないと思ってはみたが、こんなにも不安に揺れる瞳を向けられ、突き放すことなど出来やしないし、したくもない。
慕われれば放っておけない性質が、彼女の助けになれと主張する。銀時は紗己の頭から手を離すと、その手で自身の髪をわしゃわしゃと掻き乱した。