第七章
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結婚したとはいえ、理解の範疇を超える程に清い関係を続けている土方と紗己。そのことにとやかく言うつもりはないものの、それを紗己がどう受け止めているのかは気に掛かるところだ。
銀時はそれとなく、彼女が何を望んでいるのかを訊こうとタイミングを見計らっていた。すると機会を窺って黙っていた銀時に対し、遠慮がちに話し掛けてきたのは紗己の方だった。
「あの・・・銀さん。ちょっと、訊きたいことがあるんです・・・」
先程までとは違い、その声には緊張が混じっている。きっと土方絡みなのだろう、そう思いながら銀時は隣に目を向けた。だが紗己は、自身の膝頭に視線を落としたまま、何も言おうとはしない。
「なに、どうした?」
「いえ、あの・・・」
「なんだよ、何が訊きたいんだよ」
出来るだけ紗己が話しやすいように明るい声色で返答し、彼女の視界に映り込もうと背中を少し曲げる。そうして顔を覗き込んだ瞬間、紗己は銀時から目を逸らすようにして勢いよく立ち上がった。
彼女の突然の行動に、銀時は大きな身体を仰け反らせて驚きの声を上げる。
「うおっ、な、なんだよ急に!」
「あああの、か、缶! 捨ててきますね!! そ、それっ、貸してください!!」
「え、あ、ああ・・・」
傍らに置いていた缶を手渡そうと、左脇に上体を捻る。するとそれを待ちきれなかった紗己のしなやかな手が、銀時の目の前にスッと伸びてきた。石鹸の香りだろうか、鼻先を優しい匂いが掠めていき、何とも穏やかな気持ちになった銀時は、手に取った空の缶を紗己に手渡した。
両手に空の缶を持って、パタパタと早足に歩く紗己の後姿を眺めながら、銀時は眉間に皺を寄せて嘆息する。
「面白味のないつまんねー野郎だとは思ってたけど、これァちょっとありえねーだろ・・・」
片耳をいじりながらボソッと呟く。
土方が彼女に手を出さない理由が、皆目見当付かないのだ。肉体的な面で言えば、妊娠中であることを気にしているのかも知れない。それでも、口付けをしない理由にはならないだろう。
おまけに、過去に囚われているわけでもないらしい。それならば、他にどんな理由があるというのか・・・と考えていた矢先、またも『あること』が銀時の頭に過ぎった。
そういや、コイツらの関係って元々変ではあったよなァ・・・・・・。
理解に苦しみはするも、彼らが特殊な関係であったことも考慮しなければとも思う。そこまで立ち入る必要は無い、といえば無いのだが。
現在妊娠中の紗己は、妊娠するような経験がまだ一度しかない。そのことは、彼女の妊娠が発覚した折に判明している。
土方からしてみれば、紗己は驚く程に真っ直ぐで純粋で、加えて言うなら自分しか知らない女なのだ。そんな彼女に手を出すとなれば、多少の身構えはあって当然だろう。何せ、処女を抱くのに程近い感覚なのだから。
そこまで考えて銀時は、哀れみを含んだ吐息を漏らした。
まァ、分からなくもねーけど。想いが強けりゃ、その分余計に緊張するしなー。特に相手があんなにも純粋で、おまけに自分の子供を妊娠してるとあったら、興奮材料が服着て生活してるようなもんだよな。
幼い頃のような清らかさと、ともすれば獣になりかねない大人すぎる部分が、土方の中で互いにけん制し合っているのだろう。そんなふうに思うと、何だか土方が気の毒に思えてきた。
口付けだけで爆発しそうなくらいに欲望が溜まっているのだとしたら、日々理性との戦いを強いられているはずだ。先程までは理解に苦しんでいた銀時だが、そう考えればなるほど合点がいく。
かといって自分に何か出来るような問題でもなく、生暖かい目で二人を見守っていくしかないのだが。
一人ベンチに座り、あれやこれやと思い巡らせているうちに、空き缶を捨てに行っていた紗己が戻ってきた。
「おう、ごくろーさん」
「は、はい・・・」
もう用は済んだはずなのだが、さっきまで座っていたところに腰を下ろそうとはしない。表情もどこか硬く、空いてしまった両手で帯締めをいじっている。そんな彼女を一瞥すると、銀時は顎をしゃくって着席を促した。
「どうしたんだよ、そんな立ったまんまじゃなくて座れば?」
「は、はい・・・」
同じ返事はするものの、その身体は動きを見せない。
「紗己?」
銀時は、やや訝しげに彼女の名を呼んだ。すると紗己は、不安に揺れる双眸で銀時を見据えると、何かを決心したように唇を引き締めた。
「銀さん! これって・・・変ですか!?」
「は? な、なにが・・・・・・?」
その勢いに圧倒され、思わず肩を強張らせてしまう。彼女の言っていることの意味が分からずに、怪訝な表情を崩せない。
「なになに何だよ、何が変って今のお前が何よりも変だけど・・・紗己?」
突拍子もない発言をする彼女に、つい軽い気持ちで言ってしまっただけなのだが。彼のその表情と言葉が、紗己をますます不安にさせてしまったらしい。
「やっぱり・・・変なんですね・・・」
「いや、だからね紗己ちゃん? 何を訊きたいのかちゃんと説明してくんねーとさァ、主語がないと銀さんも困るんだけども」
「主語・・・・・・?」
「ああ、訊きたいことのお題は何なのか、俺まだ何も聞いてないしお前も何も言ってねーけど?」
やや呆れ気味にそう言うと、紗己はしばらくの間を置いてから小さく首を傾げた。
銀時はそれとなく、彼女が何を望んでいるのかを訊こうとタイミングを見計らっていた。すると機会を窺って黙っていた銀時に対し、遠慮がちに話し掛けてきたのは紗己の方だった。
「あの・・・銀さん。ちょっと、訊きたいことがあるんです・・・」
先程までとは違い、その声には緊張が混じっている。きっと土方絡みなのだろう、そう思いながら銀時は隣に目を向けた。だが紗己は、自身の膝頭に視線を落としたまま、何も言おうとはしない。
「なに、どうした?」
「いえ、あの・・・」
「なんだよ、何が訊きたいんだよ」
出来るだけ紗己が話しやすいように明るい声色で返答し、彼女の視界に映り込もうと背中を少し曲げる。そうして顔を覗き込んだ瞬間、紗己は銀時から目を逸らすようにして勢いよく立ち上がった。
彼女の突然の行動に、銀時は大きな身体を仰け反らせて驚きの声を上げる。
「うおっ、な、なんだよ急に!」
「あああの、か、缶! 捨ててきますね!! そ、それっ、貸してください!!」
「え、あ、ああ・・・」
傍らに置いていた缶を手渡そうと、左脇に上体を捻る。するとそれを待ちきれなかった紗己のしなやかな手が、銀時の目の前にスッと伸びてきた。石鹸の香りだろうか、鼻先を優しい匂いが掠めていき、何とも穏やかな気持ちになった銀時は、手に取った空の缶を紗己に手渡した。
両手に空の缶を持って、パタパタと早足に歩く紗己の後姿を眺めながら、銀時は眉間に皺を寄せて嘆息する。
「面白味のないつまんねー野郎だとは思ってたけど、これァちょっとありえねーだろ・・・」
片耳をいじりながらボソッと呟く。
土方が彼女に手を出さない理由が、皆目見当付かないのだ。肉体的な面で言えば、妊娠中であることを気にしているのかも知れない。それでも、口付けをしない理由にはならないだろう。
おまけに、過去に囚われているわけでもないらしい。それならば、他にどんな理由があるというのか・・・と考えていた矢先、またも『あること』が銀時の頭に過ぎった。
そういや、コイツらの関係って元々変ではあったよなァ・・・・・・。
理解に苦しみはするも、彼らが特殊な関係であったことも考慮しなければとも思う。そこまで立ち入る必要は無い、といえば無いのだが。
現在妊娠中の紗己は、妊娠するような経験がまだ一度しかない。そのことは、彼女の妊娠が発覚した折に判明している。
土方からしてみれば、紗己は驚く程に真っ直ぐで純粋で、加えて言うなら自分しか知らない女なのだ。そんな彼女に手を出すとなれば、多少の身構えはあって当然だろう。何せ、処女を抱くのに程近い感覚なのだから。
そこまで考えて銀時は、哀れみを含んだ吐息を漏らした。
まァ、分からなくもねーけど。想いが強けりゃ、その分余計に緊張するしなー。特に相手があんなにも純粋で、おまけに自分の子供を妊娠してるとあったら、興奮材料が服着て生活してるようなもんだよな。
幼い頃のような清らかさと、ともすれば獣になりかねない大人すぎる部分が、土方の中で互いにけん制し合っているのだろう。そんなふうに思うと、何だか土方が気の毒に思えてきた。
口付けだけで爆発しそうなくらいに欲望が溜まっているのだとしたら、日々理性との戦いを強いられているはずだ。先程までは理解に苦しんでいた銀時だが、そう考えればなるほど合点がいく。
かといって自分に何か出来るような問題でもなく、生暖かい目で二人を見守っていくしかないのだが。
一人ベンチに座り、あれやこれやと思い巡らせているうちに、空き缶を捨てに行っていた紗己が戻ってきた。
「おう、ごくろーさん」
「は、はい・・・」
もう用は済んだはずなのだが、さっきまで座っていたところに腰を下ろそうとはしない。表情もどこか硬く、空いてしまった両手で帯締めをいじっている。そんな彼女を一瞥すると、銀時は顎をしゃくって着席を促した。
「どうしたんだよ、そんな立ったまんまじゃなくて座れば?」
「は、はい・・・」
同じ返事はするものの、その身体は動きを見せない。
「紗己?」
銀時は、やや訝しげに彼女の名を呼んだ。すると紗己は、不安に揺れる双眸で銀時を見据えると、何かを決心したように唇を引き締めた。
「銀さん! これって・・・変ですか!?」
「は? な、なにが・・・・・・?」
その勢いに圧倒され、思わず肩を強張らせてしまう。彼女の言っていることの意味が分からずに、怪訝な表情を崩せない。
「なになに何だよ、何が変って今のお前が何よりも変だけど・・・紗己?」
突拍子もない発言をする彼女に、つい軽い気持ちで言ってしまっただけなのだが。彼のその表情と言葉が、紗己をますます不安にさせてしまったらしい。
「やっぱり・・・変なんですね・・・」
「いや、だからね紗己ちゃん? 何を訊きたいのかちゃんと説明してくんねーとさァ、主語がないと銀さんも困るんだけども」
「主語・・・・・・?」
「ああ、訊きたいことのお題は何なのか、俺まだ何も聞いてないしお前も何も言ってねーけど?」
やや呆れ気味にそう言うと、紗己はしばらくの間を置いてから小さく首を傾げた。