第七章
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通りを歩く人々の視線が自分達に向かなくなったのを確認すると、銀時は気を取り直すように缶ジュースを口に運んだ。ごくごくと喉を鳴らしてジュースを飲めば、開いた唇から甘い息が漏れ出る。
喉と口内の渇きが落ち着いたので、先程の続きを話そうと一呼吸置いてから紗己に問い掛けた。
「あ゛ー・・・で、結局どうなんだよ? もしかしてそっちの方もまだ、か?」
そっちの方とは、言わずもがなキスのこと。これに関してはさすがの紗己もすぐに気付いたようで、弱々しくこくりと頷いた。それを見た銀時は、一瞬眉をピクッと動かしてから小さく呟く。
「そっちもまだかよ・・・」
衝撃の告白の連続に、とても信じられないといったように唖然とした表情を浮かべている。しかし、ふと『あること』が頭に過ぎった。
ひょっとしてあのマヨネーズ馬鹿、まだ引きずってんのか・・・・・・?
祝言の前日、紗己から聞かされた土方の異変。その後偶然公園で出会った土方は、紗己の言うように確かに思い詰めていた。
だとしても、もう過ぎたことだし、今現在二人は幸せなはずだ。だからこそ、これを今紗己に訊くのはいかがなものかと、そう思う気持ちはある。
だが紗己の幸せを願う銀時は、今自分の中に芽生えた土方への疑念を、早々に取り払ってしまいたかった。
あまり重たい雰囲気にならないように、慎重に言葉を選ぶ。言葉を選びすぎて、紗己が気付いてくれなかったらどうしようと思いながら。
「なあ紗己、そういや前に会った時に言ってたアレ、どうなった?」
「アレって、何ですか?」
「ほらお前言ってたじゃん、あの野郎が辛そうにしてるってさ。アレ、気のせいだったか?」
極力、事も無げに言ってみせる。だが組んだ足は不規則に揺れ続け、それは今の彼の心境を見事に反映していた。
その姿に紗己は、隣の男が何が言いたかったのかを理解したらしい。無表情をつくっている銀時に柔らかく微笑むと、意外にもさっぱりとした声音で話し出した。
「祝言の夜、土方さんが全部、話してくれました。私を人違いで、その・・・ね。そのことを正直に話して、私に許してもらいたかったって」
直接的表現が恥ずかしいのか、一部濁しつつ言葉を続ける。
「許すも何も、私全然怒ってなかったんですけどね。土方さんが辛そうにしてたのは、そのことでずっと、思い悩んでいらしたからなんです。それはもう大丈夫ですから、心配掛けちゃってごめんなさい」
「・・・そっか、まあ解決したんなら良かったわ」
彼女の言葉に内心安堵しつつ、それを知られないようにあっさりと返事をする。
本当は、色々と思うところはあるのだ。土方は結局紗己に全て打ち明ける方を選んだか――とか、それによって二人の関係が悪い方に向かなくて良かった――とか。
だがそもそも紗己は、土方の悩みを銀時が知っていたという事実を知らない。
今となれば、それを知ったところで特に問題もないのだろう。しかし今更掘り返す程のことでもないし、何より彼女の不安を煽るような可能性には触れたくない。その気持ちが、彼に味気のない返事をさせたのだ。
銀時は手に持ったままの缶ジュースの残り少ない中身を飲み干すと、それを紗己とは反対側の脇に置いて軽く息をついた。
つい今しがた彼女と交わした会話から、土方が過去を引きずっているのではないとの判断ができた。では何故、今もって土方は妻に一切手出しをしないのだろうか。これには銀時も、ただただ首を捻るしかない。
惚れた女と二人きりになったとして、どうして何もせずにいられるのか。どれだけ触れても飽き足らないのが、正常な感覚ではないのか。そんなことを考えながら、隣に座る紗己を一瞥する。
すると彼女は、眉を寄せて怪訝な面持ちをしている銀時に、小首を傾げてにっこり笑ってみせた。
「どうかしました?」
いつも通りの柔らかな笑顔で銀時を見つめる。控えめだけれど、見ている者を穏やかな気持ちにさせてくれる優しい笑顔だ。
「・・・いーや、今日もいい笑顔だねェ」
腕を頭の後ろに組むと、まるで茶化すように言ってみせた。
この笑顔を毎日拝んでおいて、よく何もせずにいられるもんだ。理解出来ないという気持ちを通り越して、若干不愉快にすら思う銀時だった。
喉と口内の渇きが落ち着いたので、先程の続きを話そうと一呼吸置いてから紗己に問い掛けた。
「あ゛ー・・・で、結局どうなんだよ? もしかしてそっちの方もまだ、か?」
そっちの方とは、言わずもがなキスのこと。これに関してはさすがの紗己もすぐに気付いたようで、弱々しくこくりと頷いた。それを見た銀時は、一瞬眉をピクッと動かしてから小さく呟く。
「そっちもまだかよ・・・」
衝撃の告白の連続に、とても信じられないといったように唖然とした表情を浮かべている。しかし、ふと『あること』が頭に過ぎった。
ひょっとしてあのマヨネーズ馬鹿、まだ引きずってんのか・・・・・・?
祝言の前日、紗己から聞かされた土方の異変。その後偶然公園で出会った土方は、紗己の言うように確かに思い詰めていた。
だとしても、もう過ぎたことだし、今現在二人は幸せなはずだ。だからこそ、これを今紗己に訊くのはいかがなものかと、そう思う気持ちはある。
だが紗己の幸せを願う銀時は、今自分の中に芽生えた土方への疑念を、早々に取り払ってしまいたかった。
あまり重たい雰囲気にならないように、慎重に言葉を選ぶ。言葉を選びすぎて、紗己が気付いてくれなかったらどうしようと思いながら。
「なあ紗己、そういや前に会った時に言ってたアレ、どうなった?」
「アレって、何ですか?」
「ほらお前言ってたじゃん、あの野郎が辛そうにしてるってさ。アレ、気のせいだったか?」
極力、事も無げに言ってみせる。だが組んだ足は不規則に揺れ続け、それは今の彼の心境を見事に反映していた。
その姿に紗己は、隣の男が何が言いたかったのかを理解したらしい。無表情をつくっている銀時に柔らかく微笑むと、意外にもさっぱりとした声音で話し出した。
「祝言の夜、土方さんが全部、話してくれました。私を人違いで、その・・・ね。そのことを正直に話して、私に許してもらいたかったって」
直接的表現が恥ずかしいのか、一部濁しつつ言葉を続ける。
「許すも何も、私全然怒ってなかったんですけどね。土方さんが辛そうにしてたのは、そのことでずっと、思い悩んでいらしたからなんです。それはもう大丈夫ですから、心配掛けちゃってごめんなさい」
「・・・そっか、まあ解決したんなら良かったわ」
彼女の言葉に内心安堵しつつ、それを知られないようにあっさりと返事をする。
本当は、色々と思うところはあるのだ。土方は結局紗己に全て打ち明ける方を選んだか――とか、それによって二人の関係が悪い方に向かなくて良かった――とか。
だがそもそも紗己は、土方の悩みを銀時が知っていたという事実を知らない。
今となれば、それを知ったところで特に問題もないのだろう。しかし今更掘り返す程のことでもないし、何より彼女の不安を煽るような可能性には触れたくない。その気持ちが、彼に味気のない返事をさせたのだ。
銀時は手に持ったままの缶ジュースの残り少ない中身を飲み干すと、それを紗己とは反対側の脇に置いて軽く息をついた。
つい今しがた彼女と交わした会話から、土方が過去を引きずっているのではないとの判断ができた。では何故、今もって土方は妻に一切手出しをしないのだろうか。これには銀時も、ただただ首を捻るしかない。
惚れた女と二人きりになったとして、どうして何もせずにいられるのか。どれだけ触れても飽き足らないのが、正常な感覚ではないのか。そんなことを考えながら、隣に座る紗己を一瞥する。
すると彼女は、眉を寄せて怪訝な面持ちをしている銀時に、小首を傾げてにっこり笑ってみせた。
「どうかしました?」
いつも通りの柔らかな笑顔で銀時を見つめる。控えめだけれど、見ている者を穏やかな気持ちにさせてくれる優しい笑顔だ。
「・・・いーや、今日もいい笑顔だねェ」
腕を頭の後ろに組むと、まるで茶化すように言ってみせた。
この笑顔を毎日拝んでおいて、よく何もせずにいられるもんだ。理解出来ないという気持ちを通り越して、若干不愉快にすら思う銀時だった。