序章②
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――――――
「うめぇー! やっぱ一日一糖分、こうじゃなきゃ頭回んねえよ」
公園のベンチに座り、男は差し出されるまま手掴みで羊羹を頬張った。その姿に、紗己は隣で目を細めている。
「ん? 何、お前食わねえの?」
「え、私ですか?」
多めに買っていたのは本当で、包み紙の中にはまだまだ同僚達の分はしっかりと残っている。
しかし自分までここで食べてしまったら、屯所に戻ってから皆と食す時に胸が焼けてしまうのではないかと、紗己は食べずにいたのだ。
「なんだよ、俺に遠慮なんかしなくていいんだって。こんな天気のいい日に公園で甘味を貪るなんたァ、最高じゃねーか」
言葉の割には嬉々とした表情は一切浮かべないものの、男は非常に満足げに手に付いた糖分を舐め取っている。
別に紗己は、外で食べるのが恥ずかしいとかみっともないとか思っているわけではない。だがどうやら男は彼女がそう思っていると勘違いしたらしく、遠慮するなともう一度言った。
そう言われてしまうと、さすがに断りづらくなる。それにせっかくの勧めを断って気を悪くさせてもいけない。そう思った紗己は、
「・・・じゃあ、私もいただきます」
包み紙の中から小さめの一切れを取り出すと、爪楊枝を突き刺して口に運んだ。
「ん、美味しい・・・」
口内に広がる甘さと羊羹特有の舌触りに、思わずうっとりとしてしまう。
だが、こうも砂糖の塊を一気に食べれるはずもなく。しかし一人では間が持たないので、紗己は残りの羊羹のうちの一切れを、また隣の男に手渡した。
「っ! いいのか?」
「ええ、どうぞ食べてください」
(すっごい美味しいけど、もう戻ってからは食べれそうにないなあ)
まだまだ残暑が厳しい季節。汗ばむ陽気の中での糖分摂取は、エネルギー補給にはなるもののやはり胸焼け必須。
この一切れだけで十分満足した紗己は、屯所で食べるつもりだった自分の分を男に食べさせた。
「あーごっそさん、うまかったぜ。しっかしアレだよお前、いくらお礼でもこんな公園で二人で羊羹なんて危険だよ? 俺だからいいものの、羊羹の代わりにお前を食わせろーなんて言われても仕方ないよ、無防備すぎるってマジで」
男は爪楊枝を咥えながら、大きく伸びをして紗己の方も見ずにそう言った。
実際は催促したようなものなのだが、男はそのことについては一切なんとも思っていないようだ。
「でも、助けてくれたじゃないですか」
「そんなんで簡単に信用したら、後でどんな目に遭わされても文句言えねーよ? 信じる心も大切だろうが、そんなの美徳でもなんでもないからね、時と場合によるからね」
危険なところを助けておきながらぼんやりしてると注意してきたり、お礼の品をがっつり食べておきながら無防備だと言ってきたり。
なかなか掴みどころのない男なのだが、言われた紗己は嫌な顔一つしない。
(なんだろ、見た目は全然違うのに)
「・・・似てる」
思わず漏れ出た紗己の呟きに、男は怪訝な顔をする。
「それ、さっきも言ってたな。なに、そんなに甘いモン好きな野郎なのか?」
「いいえ、甘いモノは・・・特別好きってほどでもないと思いますよ、たぶん」
「なんだそれ、じゃあ全然違うじゃねーか勘違いだよ勘違い。なんたって俺ァオンリーワンだからね、そうそうないからね他人の空似なんて」
まるで自分を形成しているものが糖分だけかのような発言に、紗己はマヨネーズを愛してやまない男の事を思い出す。
雰囲気かなぁ、見た目は全然違うし・・・あ、背格好は似てるけど。でももし副長さんが助けてくれたなら、同じこと言いそう・・・・・・。
やっぱりどことなく似てますよ。言おうと思ったが、紗己はやめておいた。
自分が誰かに似ていると言われ続けたら、それはあまりいい気分ではないのかも知れない。
ましてや、知らない誰かに似ていると言われれば、否定したくなるのも当然だ。
「・・・そうですね、オンリーワンですよね」
「おお。俺もアンタも、な」
――――――
「それじゃあ、私そろそろ行きます。本当にどうもありがとうございました」
ぺこり頭を下げる紗己に、男は頭を掻きながら近寄った。
「あー荷物重いだろ、送ってってやるよ。家、どこ?」
「え? 平気ですよ、そう遠くないから大丈夫です。ご親切にありがとうございます」
「そうか? んじゃあいいけど、気をつけろよ、また変なのに絡まれないように。知らねえヤツに触られりゃ、誰だって嫌なもんだからな」
軽く片手を上げると、男は先に公園を出るために歩き始めた。その背中を紗己が見送っていると、男は何かを思い出したのか、突然振り返り紗己に呼び掛けた。
「俺ァ坂田銀時ってんだ、かぶき町で万事屋やってる。困ったことがあったら、遠慮しねーで訪ねて来いよ」
「あっ、ありがとうございます! 私、紗己って言います!!」
歩き出した男に聞こえるように、少し大きめの声を出す。すると、男は背中越しに手を振って行ってしまった。
(不思議なひと・・・・・・)
真面目なのか不真面目なのか不明瞭なあたりも、自分の知る男に似ているように思えて、何故かわからないが嬉しい気持ちになってしまう。
『知らねえヤツに触られりゃ、誰だって嫌なもんだからな』
男が先程言っていた言葉が、ふと頭を過ぎる。
「知ってる人なら違うのかな、嫌じゃなかったら・・・・・・?」
私副長さんに触れられて、嫌って全然思ってない――。
「もしかして、好きなのかな・・・私」
ぼんやりと思う。手にずしりとくる袋の中から、ぶどうの甘酸っぱい匂いがした。
「うめぇー! やっぱ一日一糖分、こうじゃなきゃ頭回んねえよ」
公園のベンチに座り、男は差し出されるまま手掴みで羊羹を頬張った。その姿に、紗己は隣で目を細めている。
「ん? 何、お前食わねえの?」
「え、私ですか?」
多めに買っていたのは本当で、包み紙の中にはまだまだ同僚達の分はしっかりと残っている。
しかし自分までここで食べてしまったら、屯所に戻ってから皆と食す時に胸が焼けてしまうのではないかと、紗己は食べずにいたのだ。
「なんだよ、俺に遠慮なんかしなくていいんだって。こんな天気のいい日に公園で甘味を貪るなんたァ、最高じゃねーか」
言葉の割には嬉々とした表情は一切浮かべないものの、男は非常に満足げに手に付いた糖分を舐め取っている。
別に紗己は、外で食べるのが恥ずかしいとかみっともないとか思っているわけではない。だがどうやら男は彼女がそう思っていると勘違いしたらしく、遠慮するなともう一度言った。
そう言われてしまうと、さすがに断りづらくなる。それにせっかくの勧めを断って気を悪くさせてもいけない。そう思った紗己は、
「・・・じゃあ、私もいただきます」
包み紙の中から小さめの一切れを取り出すと、爪楊枝を突き刺して口に運んだ。
「ん、美味しい・・・」
口内に広がる甘さと羊羹特有の舌触りに、思わずうっとりとしてしまう。
だが、こうも砂糖の塊を一気に食べれるはずもなく。しかし一人では間が持たないので、紗己は残りの羊羹のうちの一切れを、また隣の男に手渡した。
「っ! いいのか?」
「ええ、どうぞ食べてください」
(すっごい美味しいけど、もう戻ってからは食べれそうにないなあ)
まだまだ残暑が厳しい季節。汗ばむ陽気の中での糖分摂取は、エネルギー補給にはなるもののやはり胸焼け必須。
この一切れだけで十分満足した紗己は、屯所で食べるつもりだった自分の分を男に食べさせた。
「あーごっそさん、うまかったぜ。しっかしアレだよお前、いくらお礼でもこんな公園で二人で羊羹なんて危険だよ? 俺だからいいものの、羊羹の代わりにお前を食わせろーなんて言われても仕方ないよ、無防備すぎるってマジで」
男は爪楊枝を咥えながら、大きく伸びをして紗己の方も見ずにそう言った。
実際は催促したようなものなのだが、男はそのことについては一切なんとも思っていないようだ。
「でも、助けてくれたじゃないですか」
「そんなんで簡単に信用したら、後でどんな目に遭わされても文句言えねーよ? 信じる心も大切だろうが、そんなの美徳でもなんでもないからね、時と場合によるからね」
危険なところを助けておきながらぼんやりしてると注意してきたり、お礼の品をがっつり食べておきながら無防備だと言ってきたり。
なかなか掴みどころのない男なのだが、言われた紗己は嫌な顔一つしない。
(なんだろ、見た目は全然違うのに)
「・・・似てる」
思わず漏れ出た紗己の呟きに、男は怪訝な顔をする。
「それ、さっきも言ってたな。なに、そんなに甘いモン好きな野郎なのか?」
「いいえ、甘いモノは・・・特別好きってほどでもないと思いますよ、たぶん」
「なんだそれ、じゃあ全然違うじゃねーか勘違いだよ勘違い。なんたって俺ァオンリーワンだからね、そうそうないからね他人の空似なんて」
まるで自分を形成しているものが糖分だけかのような発言に、紗己はマヨネーズを愛してやまない男の事を思い出す。
雰囲気かなぁ、見た目は全然違うし・・・あ、背格好は似てるけど。でももし副長さんが助けてくれたなら、同じこと言いそう・・・・・・。
やっぱりどことなく似てますよ。言おうと思ったが、紗己はやめておいた。
自分が誰かに似ていると言われ続けたら、それはあまりいい気分ではないのかも知れない。
ましてや、知らない誰かに似ていると言われれば、否定したくなるのも当然だ。
「・・・そうですね、オンリーワンですよね」
「おお。俺もアンタも、な」
――――――
「それじゃあ、私そろそろ行きます。本当にどうもありがとうございました」
ぺこり頭を下げる紗己に、男は頭を掻きながら近寄った。
「あー荷物重いだろ、送ってってやるよ。家、どこ?」
「え? 平気ですよ、そう遠くないから大丈夫です。ご親切にありがとうございます」
「そうか? んじゃあいいけど、気をつけろよ、また変なのに絡まれないように。知らねえヤツに触られりゃ、誰だって嫌なもんだからな」
軽く片手を上げると、男は先に公園を出るために歩き始めた。その背中を紗己が見送っていると、男は何かを思い出したのか、突然振り返り紗己に呼び掛けた。
「俺ァ坂田銀時ってんだ、かぶき町で万事屋やってる。困ったことがあったら、遠慮しねーで訪ねて来いよ」
「あっ、ありがとうございます! 私、紗己って言います!!」
歩き出した男に聞こえるように、少し大きめの声を出す。すると、男は背中越しに手を振って行ってしまった。
(不思議なひと・・・・・・)
真面目なのか不真面目なのか不明瞭なあたりも、自分の知る男に似ているように思えて、何故かわからないが嬉しい気持ちになってしまう。
『知らねえヤツに触られりゃ、誰だって嫌なもんだからな』
男が先程言っていた言葉が、ふと頭を過ぎる。
「知ってる人なら違うのかな、嫌じゃなかったら・・・・・・?」
私副長さんに触れられて、嫌って全然思ってない――。
「もしかして、好きなのかな・・・私」
ぼんやりと思う。手にずしりとくる袋の中から、ぶどうの甘酸っぱい匂いがした。