第七章
名前変換はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
――――――
その頃、紗己もまた一人町に買い物に来ていた。過労で倒れてから三日が過ぎ、もうすっかり体調も回復している。
倒れた翌日は土方が非番だったため、彼の目もあってその日は大人しく身体を休めていた。しかし昨日今日は、普段と変わらず主婦業をこなしている。勿論、身体に負担が掛かるような労働は控えているが。
木枯らしが吹く中、紗己は買い物袋を提げて通りを歩く。袋の中身は、1カートンの煙草と数本のマヨネーズ。全て土方のための物だ。
買ってこいと頼まれたわけではないが、忙しく働き詰めの夫に労いの意を込めて、嗜好品のストックを保持していたい。腕にズシリと感じる荷物の重みに土方の顔を思い浮かべて、紗己は口元を綻ばせた。
賑やかな町を歩けば、自分とそう年の頃の変わらない男女がよく目につく。皆がみなカップルというわけではないのかも知れないが、中には分かりやすく恋人同士であることをアピールしている者達もいる。
昼の町中で腕を組んだり手を繋いで歩いている姿を見かける度、紗己はそれに自分と土方を重ねて何とも気恥ずかしい気分になった。そして、少し羨ましい気持ちにもなる。
二人で町に出掛けたことはあるものの、腕はおろか手も繋いではいない。せいぜいはぐれないように、土方の着物の袖を控え目に掴んで歩くくらいだ。
自分達が周囲にどう映っているのか、ふとそんなことを考える。ちゃんと夫婦に見えているんだろうか、よそよそしく見えていないだろうか――と。
今までは、他人の目など気にもしなかったのに。常に誰かのことで頭が占領されているこの状態を、そわそわと落ち着かない気分だと紗己は思う。一方、そこに高揚感を感じているのも事実だ。それが恋であり愛なのだと、彼女が気付いているかは定かではないが。
考えながら歩いていたら、屯所とは逆方向へと随分歩いてしまっていた。少し速くなってしまった鼓動を落ち着かせようと、一旦足を止めると。
いい匂い・・・・・・。辺りにはまったりと甘い香りが漂っている。ふと前方に目をやれば、そこにはシュークリームの専門店があった。嗅いでいるだけでも幸せな気分にしてくれるバニラの甘い香りが、激しい誘惑を仕掛けてくる。
美味しそう、食べたいけど・・・・・・。
店先で甘い誘惑に負けそうになっていると、
「こりゃァ可愛いお嬢さんだ。どうだい、一緒にスウィーツでも」
背後から、何者かが声を掛けてきた。
「っ!」
突然聞こえた男の声に、紗己は驚き振り返る。しかし声の主を見るなり、彼女は朗らかな笑みを浮かべて見せた。
「ふふ、私で良ければ喜んで」
「おいおい、そう簡単に返事しちゃ危ねーだろ。相手が悪い男だったらどうすんだ」
「見知らぬ人には、こんな返事しませんよ。銀さんだからです」
「そいつァ光栄だ」
言いながら頭を掻くと、銀時は口端をニッと上げた。
――――――
「ありがとうございます銀さん、買っていただいちゃって」
「いいっていいって。ま、祝儀みてーなもんだから」
「それじゃあ、いただきます」
銀時の言葉ににこやかに笑うと、紗己は手に持っていた大きめのシュークリームにかぶり付いた。
カスタードクリームと生クリームが口内いっぱいに広がり、その濃厚な甘さに目尻を下げる。口周りに付いたクリームを指で拭いながら隣を向けば、シュークリーム丸ごと一個を頬張っている銀時の姿が目に入る。
「あー、やっぱうめェ・・・ん、どうかしたか?」
「いいえ。銀さんって、やっぱり甘いもの好きなんだなあって思って。ふふ、甘いものが似合いますね」
店先から少し離れた所にある広場で、ベンチに腰掛けてスウィーツを楽しむ二人。クスクスと笑っている紗己に、銀時はニヤリと意味深に笑って見せた。
「『誰』に比べて、甘いものが似合うって?」
「え?」
その言葉の意味がわからず、紗己は不思議そうに小首を傾げる。すると銀時は、そんな彼女にも分かりやすく言葉を付け足した。
「あんな年中味覚障害の野郎には、甘味の素晴らしさは分からねーよ」
決して機嫌を悪くしたわけではなく、からかうような口調だ。言われた紗己は、遅まきながら意味を理解したようで、途端恥ずかしそうに瞬きを繰り返す。
「そ、そんな比べるとか、そんなつもりじゃなかったんですけど。で、でも確かに・・・土方さんには、甘いものは似合わないですよね」
銀時の言う『年中味覚障害』を否定しないあたり、少なからず彼女もそう思っているのだろうか。紗己は何の気なしに、自分の夫を頭に思い浮かべてみる。
うん、やっぱり似合わない・・・よね。
土方がシュークリームを頬張る姿を想像しようとして、でも結局食べているところまでは想像できずに終わる。中のクリームがマヨネーズだったら、もっと容易に想像できたのかも知れないが。
隊服にシュークリーム。想像上での違和感満載な組み合わせに、ついつい頬が緩んでしまう。そんな紗己を横目で見ながら、銀時はやる気のない声を出した。
「まァ、あの見目だけは無駄にいい硬派な男には、マヨネーズくらいがちょうどいいんじゃねーの?」
非常に面倒くさそうに言葉を放つ。
それでなくとも、あの外見と制服だけでもモテているのだ。マイナスに傾くギャップが無ければ、本当にやってられない。
同じ男として、多少の悔しさを感じ得ずにはいられない。そんなことを考えながら再度隣を見れば、いつも通りの柔らかな笑みを湛えている紗己がいる。
その笑顔が、土方の幸せに直結していることがわかるからこそ、土方のことを羨ましく思ってしまうのだった。
その頃、紗己もまた一人町に買い物に来ていた。過労で倒れてから三日が過ぎ、もうすっかり体調も回復している。
倒れた翌日は土方が非番だったため、彼の目もあってその日は大人しく身体を休めていた。しかし昨日今日は、普段と変わらず主婦業をこなしている。勿論、身体に負担が掛かるような労働は控えているが。
木枯らしが吹く中、紗己は買い物袋を提げて通りを歩く。袋の中身は、1カートンの煙草と数本のマヨネーズ。全て土方のための物だ。
買ってこいと頼まれたわけではないが、忙しく働き詰めの夫に労いの意を込めて、嗜好品のストックを保持していたい。腕にズシリと感じる荷物の重みに土方の顔を思い浮かべて、紗己は口元を綻ばせた。
賑やかな町を歩けば、自分とそう年の頃の変わらない男女がよく目につく。皆がみなカップルというわけではないのかも知れないが、中には分かりやすく恋人同士であることをアピールしている者達もいる。
昼の町中で腕を組んだり手を繋いで歩いている姿を見かける度、紗己はそれに自分と土方を重ねて何とも気恥ずかしい気分になった。そして、少し羨ましい気持ちにもなる。
二人で町に出掛けたことはあるものの、腕はおろか手も繋いではいない。せいぜいはぐれないように、土方の着物の袖を控え目に掴んで歩くくらいだ。
自分達が周囲にどう映っているのか、ふとそんなことを考える。ちゃんと夫婦に見えているんだろうか、よそよそしく見えていないだろうか――と。
今までは、他人の目など気にもしなかったのに。常に誰かのことで頭が占領されているこの状態を、そわそわと落ち着かない気分だと紗己は思う。一方、そこに高揚感を感じているのも事実だ。それが恋であり愛なのだと、彼女が気付いているかは定かではないが。
考えながら歩いていたら、屯所とは逆方向へと随分歩いてしまっていた。少し速くなってしまった鼓動を落ち着かせようと、一旦足を止めると。
いい匂い・・・・・・。辺りにはまったりと甘い香りが漂っている。ふと前方に目をやれば、そこにはシュークリームの専門店があった。嗅いでいるだけでも幸せな気分にしてくれるバニラの甘い香りが、激しい誘惑を仕掛けてくる。
美味しそう、食べたいけど・・・・・・。
店先で甘い誘惑に負けそうになっていると、
「こりゃァ可愛いお嬢さんだ。どうだい、一緒にスウィーツでも」
背後から、何者かが声を掛けてきた。
「っ!」
突然聞こえた男の声に、紗己は驚き振り返る。しかし声の主を見るなり、彼女は朗らかな笑みを浮かべて見せた。
「ふふ、私で良ければ喜んで」
「おいおい、そう簡単に返事しちゃ危ねーだろ。相手が悪い男だったらどうすんだ」
「見知らぬ人には、こんな返事しませんよ。銀さんだからです」
「そいつァ光栄だ」
言いながら頭を掻くと、銀時は口端をニッと上げた。
――――――
「ありがとうございます銀さん、買っていただいちゃって」
「いいっていいって。ま、祝儀みてーなもんだから」
「それじゃあ、いただきます」
銀時の言葉ににこやかに笑うと、紗己は手に持っていた大きめのシュークリームにかぶり付いた。
カスタードクリームと生クリームが口内いっぱいに広がり、その濃厚な甘さに目尻を下げる。口周りに付いたクリームを指で拭いながら隣を向けば、シュークリーム丸ごと一個を頬張っている銀時の姿が目に入る。
「あー、やっぱうめェ・・・ん、どうかしたか?」
「いいえ。銀さんって、やっぱり甘いもの好きなんだなあって思って。ふふ、甘いものが似合いますね」
店先から少し離れた所にある広場で、ベンチに腰掛けてスウィーツを楽しむ二人。クスクスと笑っている紗己に、銀時はニヤリと意味深に笑って見せた。
「『誰』に比べて、甘いものが似合うって?」
「え?」
その言葉の意味がわからず、紗己は不思議そうに小首を傾げる。すると銀時は、そんな彼女にも分かりやすく言葉を付け足した。
「あんな年中味覚障害の野郎には、甘味の素晴らしさは分からねーよ」
決して機嫌を悪くしたわけではなく、からかうような口調だ。言われた紗己は、遅まきながら意味を理解したようで、途端恥ずかしそうに瞬きを繰り返す。
「そ、そんな比べるとか、そんなつもりじゃなかったんですけど。で、でも確かに・・・土方さんには、甘いものは似合わないですよね」
銀時の言う『年中味覚障害』を否定しないあたり、少なからず彼女もそう思っているのだろうか。紗己は何の気なしに、自分の夫を頭に思い浮かべてみる。
うん、やっぱり似合わない・・・よね。
土方がシュークリームを頬張る姿を想像しようとして、でも結局食べているところまでは想像できずに終わる。中のクリームがマヨネーズだったら、もっと容易に想像できたのかも知れないが。
隊服にシュークリーム。想像上での違和感満載な組み合わせに、ついつい頬が緩んでしまう。そんな紗己を横目で見ながら、銀時はやる気のない声を出した。
「まァ、あの見目だけは無駄にいい硬派な男には、マヨネーズくらいがちょうどいいんじゃねーの?」
非常に面倒くさそうに言葉を放つ。
それでなくとも、あの外見と制服だけでもモテているのだ。マイナスに傾くギャップが無ければ、本当にやってられない。
同じ男として、多少の悔しさを感じ得ずにはいられない。そんなことを考えながら再度隣を見れば、いつも通りの柔らかな笑みを湛えている紗己がいる。
その笑顔が、土方の幸せに直結していることがわかるからこそ、土方のことを羨ましく思ってしまうのだった。