第七章
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「そん、な・・・私には、勿体無い言葉です・・・っ」
相当感動しているのだろう、紗己は両手を口元に当てて必死に言葉を返した。
「今日もだが、お前最近よく泣くなァ」
今日だけでも何度も涙を見せる紗己に、土方は優しく笑う。すると彼女は、困らせてしまったとお得意の勘違いをしてしまったようだ。
「ご、ごめ・・・っ、なさ・・・で、でも・・・嬉し涙、ですから・・・っ」
「そりゃ・・・いや、そうだな」
本当は、そんなことは見ればわかると言いたいところだったが、あえてそこは突っ込まないでおく。
泣いていることで気を遣わせないようにと、かえって気を回しているのだろう。そんな紗己が可愛くて仕方ない土方は、その気持ちを表すように彼女の丸い頭に手を乗せると、少しだけ雑な手付きで掻き撫で回した。
「寝不足になったのも、俺が喜んじまったからだろ。無理させて悪かったな」
「ち、違います! 私が待っていたかっただけなんです・・・っ、だから・・・」
「ああ、分かってる」
どこまでも自分が悪いのだと続ける紗己の言葉を遮るように、土方は静かにそう答えると、軟らかな彼女の髪を指に絡ませながら、少し背を曲げてその泣き顔を覗き込んだ。
「夜中に戻っても、お前が待っててくれるのは確かに嬉しい。でもな、俺はお前が元気でいてくれりゃァ、それだけでいいんだよ。お前が元気でいてくれなけりゃ、他に何があっても喜べねえ。分かるか?」
「はい・・・でも、私・・・」
待っていたいんです、と小さな声が土方の耳に届いた。
それは、彼女にしては珍しい自己主張。疲れて帰ってくる夫を喜ばせたいと思う気持ちと、自分自身も夫との時間を大事にしたいという思いが重なってのことなのだろう。
その気持ちを感じ取った土方は、指に絡めていた紗己の髪を解くと軽く息をついた。
「まあ・・・そのことはおいおい、な。俺もちゃんと考えるから、お前は安心して休んで、今はとにかく体調を戻すことだけ考えろ」
言いながら優しく頭を撫でてやると、紗己は安心したように素直に頷いた。
妻の落ち着いた表情に土方もまた一安心すると、穏やかな笑みを浮かべながら首元のスカーフをスッと取り払った。すっきりと露出された首筋を擦りながら、ようやく笑顔を見せた紗己を一瞥する。
「ハァ・・・すごいよな、本当に」
「え、何がですか?」
もうすっかり泣き止んだ紗己が、突然の土方の言葉に不思議そうに首を傾げる。
「いや・・・なんでもねェ」
独り言のつもりだったのだが、ついつい口に出てしまっていたらしい。それでも紗己は、「そうですか」と返事をするに留まっている。
気まずい思いに気付かないフリして、聞き流してくれたのか。そんな風に思いながら、土方は様々な感情で少々散らかってしまった脳内の整理に取り掛かった。
俺のことも、俺の仕事のことも、色んなことに全部気を配ってくれてんだよなー・・・・・・。それに比べて俺ときたら、コイツに甘えて浮かれて・・・今日なんて一日『あっち』のことしか考えてなかったじゃねーか。
「情けねえ・・・」
「え、何がですか?」
「え!? い、いや・・・なんでもねえ!」
またまた、胸中の呟きが口をついて出ていたらしい。
『あっち』のこととは、言わずもがな夜の営みのこと。今日はその楽しみだけで過ごしていたといっても過言ではないが、今となってはそんなことどうでもいい。
多少の残念さはあるものの、何よりも彼女の健康が一番だ。改めてそう思い直すと、土方は紗己の肩をポンポンと軽く叩いた。
「い、いつまでも座ってたら身体が休まらねーぞ! ほら、まだ寝足りねェだろ、寝れる間に寝とけ」
やや早口にそう言って、彼女を再び布団に横たわらせると、掛布団を胸元まで掛けてやった。
だが次の瞬間、土方はぴたっと動きを止めた。布団から出ていた紗己の左手が土方へとすっと伸びて、隊服のシャツの右袖部分をキュッと掴んだのだ。
思わぬ紗己の行動に、土方は少し驚いたように横になっている彼女を見下ろす。
「・・・紗己? どうかしたのか」
「あ・・・ご、ごめんなさい・・・・・・。その、もう行っちゃうのかなって・・・」
時間的にはもう夜だが、仕事の途中で抜けてきた土方が、そろそろ仕事に戻ってしまうと思ったのだろう。
体調を崩せば、人は誰でも多少は心細くなってしまうもの。それが理解った土方は、彼女を安心させるようにしっかりと傍らに腰を据える。
「行かねーよ、今日はもう外勤は切り上げだ。あとは書類仕事だけだし、お前が寝るまでちゃんとそばにいるから、安心していい」
予想外に可愛らしい紗己の態度に、思わず頬が緩んでしまう。
それでもまだシャツを放そうとしない紗己の左手に土方の左手が触れると、ようやく白い指先から力が抜け、しかし今度は、彼女自らが土方の骨張った手に細い指を絡めてきた。
「っ!」
心臓が、ドキリと跳ね上がる。
今までにも、何度もこうして手を握ったりはしてきた。だがそれはいつも土方からであって、常に彼の大きな手が彼女の手を掴んだりといったもの。彼女の方から力が込められるようなことは、一度だってなかったのだ。
しかし今は、紗己のまだ冷たさの残る華奢な指が、土方と温もりを分かち合おうと、たどたどしく動いている。それがどういう意味を持った行動かは不明だが、少なくとも土方の心を鷲掴みにしているのは確かだった。
相当感動しているのだろう、紗己は両手を口元に当てて必死に言葉を返した。
「今日もだが、お前最近よく泣くなァ」
今日だけでも何度も涙を見せる紗己に、土方は優しく笑う。すると彼女は、困らせてしまったとお得意の勘違いをしてしまったようだ。
「ご、ごめ・・・っ、なさ・・・で、でも・・・嬉し涙、ですから・・・っ」
「そりゃ・・・いや、そうだな」
本当は、そんなことは見ればわかると言いたいところだったが、あえてそこは突っ込まないでおく。
泣いていることで気を遣わせないようにと、かえって気を回しているのだろう。そんな紗己が可愛くて仕方ない土方は、その気持ちを表すように彼女の丸い頭に手を乗せると、少しだけ雑な手付きで掻き撫で回した。
「寝不足になったのも、俺が喜んじまったからだろ。無理させて悪かったな」
「ち、違います! 私が待っていたかっただけなんです・・・っ、だから・・・」
「ああ、分かってる」
どこまでも自分が悪いのだと続ける紗己の言葉を遮るように、土方は静かにそう答えると、軟らかな彼女の髪を指に絡ませながら、少し背を曲げてその泣き顔を覗き込んだ。
「夜中に戻っても、お前が待っててくれるのは確かに嬉しい。でもな、俺はお前が元気でいてくれりゃァ、それだけでいいんだよ。お前が元気でいてくれなけりゃ、他に何があっても喜べねえ。分かるか?」
「はい・・・でも、私・・・」
待っていたいんです、と小さな声が土方の耳に届いた。
それは、彼女にしては珍しい自己主張。疲れて帰ってくる夫を喜ばせたいと思う気持ちと、自分自身も夫との時間を大事にしたいという思いが重なってのことなのだろう。
その気持ちを感じ取った土方は、指に絡めていた紗己の髪を解くと軽く息をついた。
「まあ・・・そのことはおいおい、な。俺もちゃんと考えるから、お前は安心して休んで、今はとにかく体調を戻すことだけ考えろ」
言いながら優しく頭を撫でてやると、紗己は安心したように素直に頷いた。
妻の落ち着いた表情に土方もまた一安心すると、穏やかな笑みを浮かべながら首元のスカーフをスッと取り払った。すっきりと露出された首筋を擦りながら、ようやく笑顔を見せた紗己を一瞥する。
「ハァ・・・すごいよな、本当に」
「え、何がですか?」
もうすっかり泣き止んだ紗己が、突然の土方の言葉に不思議そうに首を傾げる。
「いや・・・なんでもねェ」
独り言のつもりだったのだが、ついつい口に出てしまっていたらしい。それでも紗己は、「そうですか」と返事をするに留まっている。
気まずい思いに気付かないフリして、聞き流してくれたのか。そんな風に思いながら、土方は様々な感情で少々散らかってしまった脳内の整理に取り掛かった。
俺のことも、俺の仕事のことも、色んなことに全部気を配ってくれてんだよなー・・・・・・。それに比べて俺ときたら、コイツに甘えて浮かれて・・・今日なんて一日『あっち』のことしか考えてなかったじゃねーか。
「情けねえ・・・」
「え、何がですか?」
「え!? い、いや・・・なんでもねえ!」
またまた、胸中の呟きが口をついて出ていたらしい。
『あっち』のこととは、言わずもがな夜の営みのこと。今日はその楽しみだけで過ごしていたといっても過言ではないが、今となってはそんなことどうでもいい。
多少の残念さはあるものの、何よりも彼女の健康が一番だ。改めてそう思い直すと、土方は紗己の肩をポンポンと軽く叩いた。
「い、いつまでも座ってたら身体が休まらねーぞ! ほら、まだ寝足りねェだろ、寝れる間に寝とけ」
やや早口にそう言って、彼女を再び布団に横たわらせると、掛布団を胸元まで掛けてやった。
だが次の瞬間、土方はぴたっと動きを止めた。布団から出ていた紗己の左手が土方へとすっと伸びて、隊服のシャツの右袖部分をキュッと掴んだのだ。
思わぬ紗己の行動に、土方は少し驚いたように横になっている彼女を見下ろす。
「・・・紗己? どうかしたのか」
「あ・・・ご、ごめんなさい・・・・・・。その、もう行っちゃうのかなって・・・」
時間的にはもう夜だが、仕事の途中で抜けてきた土方が、そろそろ仕事に戻ってしまうと思ったのだろう。
体調を崩せば、人は誰でも多少は心細くなってしまうもの。それが理解った土方は、彼女を安心させるようにしっかりと傍らに腰を据える。
「行かねーよ、今日はもう外勤は切り上げだ。あとは書類仕事だけだし、お前が寝るまでちゃんとそばにいるから、安心していい」
予想外に可愛らしい紗己の態度に、思わず頬が緩んでしまう。
それでもまだシャツを放そうとしない紗己の左手に土方の左手が触れると、ようやく白い指先から力が抜け、しかし今度は、彼女自らが土方の骨張った手に細い指を絡めてきた。
「っ!」
心臓が、ドキリと跳ね上がる。
今までにも、何度もこうして手を握ったりはしてきた。だがそれはいつも土方からであって、常に彼の大きな手が彼女の手を掴んだりといったもの。彼女の方から力が込められるようなことは、一度だってなかったのだ。
しかし今は、紗己のまだ冷たさの残る華奢な指が、土方と温もりを分かち合おうと、たどたどしく動いている。それがどういう意味を持った行動かは不明だが、少なくとも土方の心を鷲掴みにしているのは確かだった。