第七章
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「土方、さん・・・・・・?」
「気付いてやれなくて悪かった。ちゃんと見てたはずなんだがな、お前の顔・・・」
空いていた土方の左手が紗己の顔に伸びていく。輪郭に沿うようにこめかみや耳、頬を包むと、親指が目尻の涙を掬い取った。
「お前、こんなに分かりやすく寝不足の顔してんのに、な・・・・・・。自分のことばっか考えて、お前の笑った顔に勝手に癒されてた。悪かったな、紗己」
紗己の涙を拭った土方の親指が、目尻、頬と優しく撫で擦った。その度に、ふわりふわりと煙草の匂いが鼻先を掠める。
愛しい夫の象徴であるその匂いに呼応するように、胸の奥から喉元へと込み上げてくる熱を、何とかやり過ごそうと紗己は口を開く。
「ひ、土方さんが、謝ることないです! 私が悪いんですから、その・・・もっと怒ってください」
「・・・は? 何言ってんだお前・・・」
怒られることを望む紗己の発言に、まるで理解出来ないといったように首を捻る土方は、様子を窺おうと横になっている彼女を見下ろす。その視線に応えるように、紗己の薄桜色の唇が言葉を紡いだ。
「怒って、ください・・・お願いです、怒られたいんです・・・」
「・・・っ!」
潤んだ瞳で懇願されては、まるで何かのプレイのような錯覚に陥ってしまう。土方は思わず生唾を飲んだ。
違う違うそういう意味じゃねェだろこれは分かってるちゃんと分かってるぞ俺は勘違いなんて全然してねーよ? とは言え分かっちゃいるがこう・・・『ねだられる』ってのは悪くねェよなー・・・っておい! 過労で倒れてるってのに何考えてんだよ俺は!!
頭に過った良からぬ妄想をかき消すように、土方は紗己から顔を逸らして咳払いをした。
「あー、あ゛ー・・・そのあれだその・・・」
何か言わなければいけないと口を開くも、うまく言葉は出てこず口ごもってしまう。
しかし紗己は、当然土方の胸中を知る由もなく。彼の不審な行動をさして気に留めず、もう一度、今度は落ち着いた声で話し出した。
「私の勝手な行動で、土方さんにも局長さんにも・・・隊士の皆さんにも、たくさん迷惑を掛けてしまいました・・・・・・。もっと怒ってください、そうじゃないと・・・」
「紗己・・・・・・」
皆に余計な心配を掛けてしまったことを、深く悔いているのだろう。優しくされることに、かえって心苦しさを感じているのだろう。その思いを感じ取った土方は、少し困ったように笑みを浮かべてから、口元を引き締めた。
横たわっている紗己に触れていた両手を、自身の膝の上に置き直すと、背筋を伸ばして紗己を見据える。その一連の動作に、彼女もまた真剣な眼差しで彼を見上げた。
一瞬だけ静かな空気が流れ、そしてすぐに土方の冷静な声が妻に降り注がれた。
「反省してるヤツにしつこく言うのは性に合わねーんだが、お前がそこまで言うんなら・・・」
誰に対しての言い訳か、土方は前置きをしてから言葉を続ける。
「本当に心配したんだぞ。お前だけの身体じゃねェんだ、それは分かってくれ」
「はい」
「子供のことは勿論だが、お前に何かあったら俺は一体どうすりゃいい」
「はい」
「もう無理も無茶もするな。疲れてんなら遠慮しねえで休めばいいし、疲れてるって思ってなくても休める時は休め。いいな、分かったか」
「はい」
「とにかく・・・今後はこういうことにならねェように。分かったな」
「はい」
「まあでも・・・ありがとうな」
「はい・・・って、えっ!?」
別にそれまで適当に返事をしていたわけではないのだが、突然土方から礼を言われた紗己は、上体を半分起こして驚きの声を上げた。目を丸くしている妻を前に、土方は些か不愉快そうな顔を見せる。
「なんだよ、俺が礼言うとなんか変か?」
「い、いえ! 変とか、そういうんじゃない、です、けど・・・」
「・・・けど?」
「ちょっと、意外でしたから・・・」
完全に身体を起こし布団の上に座った紗己は、腕を組んで片眉を上げる土方を盗み見るような視線を向けた。その様子に土方は、やれやれといった感じで嘆息する。
「俺だって心からそう思えば、素直に口にするぞ」
「はあ・・・」
彼が礼を言った事実はどうであれ、どうして自分が礼を言われるのか、いまいち実感のない紗己。気持ちのこもらない気の抜けた彼女の返事に、皆まで言わないと伝わらないのかと土方は肩を落とした。
しかし、このままでは微妙な空気が流れたままだ。まだまだ血色の悪い顔で自分を見つめる紗己に、首の後ろを撫でながら土方はゆっくりと話し始める。
「今回の件も、隊士達を気遣ってのことだったんだろ? お前がそこまで隊士達や真選組のこと考えてくれてるのは、本当にありがたいと思ってる」
「土方さん・・・・・・」
「それに、お前のしてくれてることが全部俺を想ってのことだって、ちゃんと理解してる。ありがとな、紗己」
普段は鋭い双眸も、愛しい妻を映す今はとても穏やかで優しい。その視線に、温かい言葉に、紗己はたまらず涙を零してしまう。
「気付いてやれなくて悪かった。ちゃんと見てたはずなんだがな、お前の顔・・・」
空いていた土方の左手が紗己の顔に伸びていく。輪郭に沿うようにこめかみや耳、頬を包むと、親指が目尻の涙を掬い取った。
「お前、こんなに分かりやすく寝不足の顔してんのに、な・・・・・・。自分のことばっか考えて、お前の笑った顔に勝手に癒されてた。悪かったな、紗己」
紗己の涙を拭った土方の親指が、目尻、頬と優しく撫で擦った。その度に、ふわりふわりと煙草の匂いが鼻先を掠める。
愛しい夫の象徴であるその匂いに呼応するように、胸の奥から喉元へと込み上げてくる熱を、何とかやり過ごそうと紗己は口を開く。
「ひ、土方さんが、謝ることないです! 私が悪いんですから、その・・・もっと怒ってください」
「・・・は? 何言ってんだお前・・・」
怒られることを望む紗己の発言に、まるで理解出来ないといったように首を捻る土方は、様子を窺おうと横になっている彼女を見下ろす。その視線に応えるように、紗己の薄桜色の唇が言葉を紡いだ。
「怒って、ください・・・お願いです、怒られたいんです・・・」
「・・・っ!」
潤んだ瞳で懇願されては、まるで何かのプレイのような錯覚に陥ってしまう。土方は思わず生唾を飲んだ。
違う違うそういう意味じゃねェだろこれは分かってるちゃんと分かってるぞ俺は勘違いなんて全然してねーよ? とは言え分かっちゃいるがこう・・・『ねだられる』ってのは悪くねェよなー・・・っておい! 過労で倒れてるってのに何考えてんだよ俺は!!
頭に過った良からぬ妄想をかき消すように、土方は紗己から顔を逸らして咳払いをした。
「あー、あ゛ー・・・そのあれだその・・・」
何か言わなければいけないと口を開くも、うまく言葉は出てこず口ごもってしまう。
しかし紗己は、当然土方の胸中を知る由もなく。彼の不審な行動をさして気に留めず、もう一度、今度は落ち着いた声で話し出した。
「私の勝手な行動で、土方さんにも局長さんにも・・・隊士の皆さんにも、たくさん迷惑を掛けてしまいました・・・・・・。もっと怒ってください、そうじゃないと・・・」
「紗己・・・・・・」
皆に余計な心配を掛けてしまったことを、深く悔いているのだろう。優しくされることに、かえって心苦しさを感じているのだろう。その思いを感じ取った土方は、少し困ったように笑みを浮かべてから、口元を引き締めた。
横たわっている紗己に触れていた両手を、自身の膝の上に置き直すと、背筋を伸ばして紗己を見据える。その一連の動作に、彼女もまた真剣な眼差しで彼を見上げた。
一瞬だけ静かな空気が流れ、そしてすぐに土方の冷静な声が妻に降り注がれた。
「反省してるヤツにしつこく言うのは性に合わねーんだが、お前がそこまで言うんなら・・・」
誰に対しての言い訳か、土方は前置きをしてから言葉を続ける。
「本当に心配したんだぞ。お前だけの身体じゃねェんだ、それは分かってくれ」
「はい」
「子供のことは勿論だが、お前に何かあったら俺は一体どうすりゃいい」
「はい」
「もう無理も無茶もするな。疲れてんなら遠慮しねえで休めばいいし、疲れてるって思ってなくても休める時は休め。いいな、分かったか」
「はい」
「とにかく・・・今後はこういうことにならねェように。分かったな」
「はい」
「まあでも・・・ありがとうな」
「はい・・・って、えっ!?」
別にそれまで適当に返事をしていたわけではないのだが、突然土方から礼を言われた紗己は、上体を半分起こして驚きの声を上げた。目を丸くしている妻を前に、土方は些か不愉快そうな顔を見せる。
「なんだよ、俺が礼言うとなんか変か?」
「い、いえ! 変とか、そういうんじゃない、です、けど・・・」
「・・・けど?」
「ちょっと、意外でしたから・・・」
完全に身体を起こし布団の上に座った紗己は、腕を組んで片眉を上げる土方を盗み見るような視線を向けた。その様子に土方は、やれやれといった感じで嘆息する。
「俺だって心からそう思えば、素直に口にするぞ」
「はあ・・・」
彼が礼を言った事実はどうであれ、どうして自分が礼を言われるのか、いまいち実感のない紗己。気持ちのこもらない気の抜けた彼女の返事に、皆まで言わないと伝わらないのかと土方は肩を落とした。
しかし、このままでは微妙な空気が流れたままだ。まだまだ血色の悪い顔で自分を見つめる紗己に、首の後ろを撫でながら土方はゆっくりと話し始める。
「今回の件も、隊士達を気遣ってのことだったんだろ? お前がそこまで隊士達や真選組のこと考えてくれてるのは、本当にありがたいと思ってる」
「土方さん・・・・・・」
「それに、お前のしてくれてることが全部俺を想ってのことだって、ちゃんと理解してる。ありがとな、紗己」
普段は鋭い双眸も、愛しい妻を映す今はとても穏やかで優しい。その視線に、温かい言葉に、紗己はたまらず涙を零してしまう。