第七章
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――――――
小一時間ほど経っただろうか。土方は飽くことなく紗己の寝顔を見つめ続けていた。
はじめのうちは、ちゃんと睡眠を補ってくれていることに安心していた。しかし、だんだんと心配になってきてしまった。
あまりに静かな寝姿に、このままずっと起きなかったらどうしよう――と、ありえない不安を抱いてしまう。だが、すやすやと眠る彼女を起こす気にはなれない。
できれば、自分が起こすのではなく自然に目覚めてほしい。そんな気持ちで、閉じられた瞼を穴が開くほど見つめていると。
「・・・ん、う・・・」
小さな唸りと共に、紗己の長い睫毛に縁取られた瞳がゆっくりと開いた。
愛しい妻の寝起きに、良かった、ただ眠ってただけなんだなと安堵の息をつく。しかし、その安心しきった顔を見られるのは気恥ずかしくて、何とか普段通りの自分を装う。
「あ・・・れ、私寝ちゃって・・・」
「ああ、よく寝てた」
「ごめんなさい、起きて待ってるつもりだったんですけど・・・」
体調を崩したのだ。眠ってしまっても何ら悪いことではない。それでも相変わらず気を遣いすぎる妻に、土方は呆れた口調で言葉を返す。
「馬鹿、謝らなくていいっつったろ。悪くもねーのに、簡単に謝るな」
こんなになってまで待たなくてもいい。その思いを胸に、土方は謝る紗己の頬に軽く触れた。
手の平は自分に向け、少し曲げた武骨な指の節が柔らかな頬を押す。控え目なその接触に、紗己は申し訳なさそうに目を伏せた。
「悪くないことないです・・・・・・。私、土方さんに嘘、ついたから・・・」
「ああ」
「本当に、ごめんなさい。心配掛けたくなかったのに・・・・・・」
泣きはしないものの、その声はとてもか細く震えている。
きっと、怒られると思っていたのだろう。だが土方は怒鳴ったりせず、声音も穏やかなものだ。だからこそ分かる。どれだけ心配を掛けたのか、そして今どれほど安心しているのか。
そのことが申し訳なくて余計に泣きそうになり、きゅっと唇を噛む紗己の姿に、土方は肩を落として吐息した。
「お前なァ、あんま無茶すんなよ・・・心臓止まるかと思ったぞ」
言いながら、ふっと笑みをこぼす。すると、それを見た紗己が急に表情を崩し始めた。
顔を赤くして眉を寄せ、震える口元を必死に引き締めている。次第に双眸は潤みを増して睫毛を濡らし、目尻から涙が零れ落ちると、紗己は布団から両手を引き出し自身の顔を覆った。
「・・・ふ・・・っ、ご、め・・・なさ・・・っ」
泣き顔を見せないようにと身を捩る。しかし土方に背を向けようとした瞬間、彼女の身体はとすん、と敷布団に押さえつけられた。紗己の左肩をしっかりと掴んだ土方が、彼女を先程までと同じように仰向けに寝かしつける。
「土、方さ・・・」
大きな体躯を前のめりにして、紗己の肩を押さえるために腰を浮かせる。触れている部分から熱が伝わり、けれどそこに痛みは感じない。怒りは込められていないのだろうが黙ったままの土方に、涙に濡れた瞳が向けられた。
「怒って・・・ない、んですか・・・・・・。私、土方さんに嘘ついて・・・勝手に、無茶して倒れちゃって・・・」
「怒ってねーよ」
間髪入れずに発せられた言葉。それを裏付けるように、彼の声には怒りの色は全くない。
「・・・ほんと、ですか・・・・・・?」
恐々と自分を見上げてくる紗己をじっと見つめると、土方は眉間に皺を作って小さく嘆息した。浮かせていた腰を下ろして胡坐をかくと、今度は盛大に嘆息する。
「・・・いや、本当はちょっと怒ってる」
そうは言いつつも、表情は先程よりも幾分か和らいでいる。
土方は紗己の左肩から手を離すと、涙に濡れた彼女の指先に自身の指を絡めた。水分に触れたからか、それとも貧血のせいなのか。思っていた以上に冷たいその指先を温めるように、大きな手でしっかりと包み込む。
土方の思いの外優しい所作に、冷えた指先が温もりを取り戻すのと比例して、涙もまた勢いを増す。
「怒って・・・の、に・・・ど・・・してそんな・・・優し・・・っ」
「なんだそれ、怒鳴ってほしいのか?」
そう言って口角を上げると、紗己は枕に頭を沈めた状態でふるふると首を振る。
「でも・・・私が、悪いんです・・・っ、体調、管理も出来な・・・で、母親として・・・自覚もなくって・・・っ」
「もういい、紗己」
「でも・・・」
まだ謝り足らないのか、口を開きかけたその時。握り締められていた手に、強い力が込められた。
小一時間ほど経っただろうか。土方は飽くことなく紗己の寝顔を見つめ続けていた。
はじめのうちは、ちゃんと睡眠を補ってくれていることに安心していた。しかし、だんだんと心配になってきてしまった。
あまりに静かな寝姿に、このままずっと起きなかったらどうしよう――と、ありえない不安を抱いてしまう。だが、すやすやと眠る彼女を起こす気にはなれない。
できれば、自分が起こすのではなく自然に目覚めてほしい。そんな気持ちで、閉じられた瞼を穴が開くほど見つめていると。
「・・・ん、う・・・」
小さな唸りと共に、紗己の長い睫毛に縁取られた瞳がゆっくりと開いた。
愛しい妻の寝起きに、良かった、ただ眠ってただけなんだなと安堵の息をつく。しかし、その安心しきった顔を見られるのは気恥ずかしくて、何とか普段通りの自分を装う。
「あ・・・れ、私寝ちゃって・・・」
「ああ、よく寝てた」
「ごめんなさい、起きて待ってるつもりだったんですけど・・・」
体調を崩したのだ。眠ってしまっても何ら悪いことではない。それでも相変わらず気を遣いすぎる妻に、土方は呆れた口調で言葉を返す。
「馬鹿、謝らなくていいっつったろ。悪くもねーのに、簡単に謝るな」
こんなになってまで待たなくてもいい。その思いを胸に、土方は謝る紗己の頬に軽く触れた。
手の平は自分に向け、少し曲げた武骨な指の節が柔らかな頬を押す。控え目なその接触に、紗己は申し訳なさそうに目を伏せた。
「悪くないことないです・・・・・・。私、土方さんに嘘、ついたから・・・」
「ああ」
「本当に、ごめんなさい。心配掛けたくなかったのに・・・・・・」
泣きはしないものの、その声はとてもか細く震えている。
きっと、怒られると思っていたのだろう。だが土方は怒鳴ったりせず、声音も穏やかなものだ。だからこそ分かる。どれだけ心配を掛けたのか、そして今どれほど安心しているのか。
そのことが申し訳なくて余計に泣きそうになり、きゅっと唇を噛む紗己の姿に、土方は肩を落として吐息した。
「お前なァ、あんま無茶すんなよ・・・心臓止まるかと思ったぞ」
言いながら、ふっと笑みをこぼす。すると、それを見た紗己が急に表情を崩し始めた。
顔を赤くして眉を寄せ、震える口元を必死に引き締めている。次第に双眸は潤みを増して睫毛を濡らし、目尻から涙が零れ落ちると、紗己は布団から両手を引き出し自身の顔を覆った。
「・・・ふ・・・っ、ご、め・・・なさ・・・っ」
泣き顔を見せないようにと身を捩る。しかし土方に背を向けようとした瞬間、彼女の身体はとすん、と敷布団に押さえつけられた。紗己の左肩をしっかりと掴んだ土方が、彼女を先程までと同じように仰向けに寝かしつける。
「土、方さ・・・」
大きな体躯を前のめりにして、紗己の肩を押さえるために腰を浮かせる。触れている部分から熱が伝わり、けれどそこに痛みは感じない。怒りは込められていないのだろうが黙ったままの土方に、涙に濡れた瞳が向けられた。
「怒って・・・ない、んですか・・・・・・。私、土方さんに嘘ついて・・・勝手に、無茶して倒れちゃって・・・」
「怒ってねーよ」
間髪入れずに発せられた言葉。それを裏付けるように、彼の声には怒りの色は全くない。
「・・・ほんと、ですか・・・・・・?」
恐々と自分を見上げてくる紗己をじっと見つめると、土方は眉間に皺を作って小さく嘆息した。浮かせていた腰を下ろして胡坐をかくと、今度は盛大に嘆息する。
「・・・いや、本当はちょっと怒ってる」
そうは言いつつも、表情は先程よりも幾分か和らいでいる。
土方は紗己の左肩から手を離すと、涙に濡れた彼女の指先に自身の指を絡めた。水分に触れたからか、それとも貧血のせいなのか。思っていた以上に冷たいその指先を温めるように、大きな手でしっかりと包み込む。
土方の思いの外優しい所作に、冷えた指先が温もりを取り戻すのと比例して、涙もまた勢いを増す。
「怒って・・・の、に・・・ど・・・してそんな・・・優し・・・っ」
「なんだそれ、怒鳴ってほしいのか?」
そう言って口角を上げると、紗己は枕に頭を沈めた状態でふるふると首を振る。
「でも・・・私が、悪いんです・・・っ、体調、管理も出来な・・・で、母親として・・・自覚もなくって・・・っ」
「もういい、紗己」
「でも・・・」
まだ謝り足らないのか、口を開きかけたその時。握り締められていた手に、強い力が込められた。