第七章
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――――――
「紗己っ!」
反動で外れてしまうのではというくらいに力いっぱい障子戸を開き、土方は額に汗を浮かべて部屋に駆け込む。
「トシ、こっちだ」
声のする方に目をやると、二間を仕切る襖が少しだけ開き、中から近藤が顔を覗かせた。土方は唇の隙間からゆっくりと息を吐き出し呼吸を整えると、出来るだけ大きな音を立てないよう慎重に歩を進めた。
それに合わせるように中から静かに襖が開かれ、部屋の真ん中に敷かれた布団に横たわる紗己の姿が目に入った。
「紗己・・・っ」
血の気が引く思いで枕元に膝を付くと、眠っていると思っていた紗己の瞼がゆっくりと開き、
「・・・土方さん・・・・・・」
弱々しい声で、不安気に自分を見下ろす夫の名を呼んだ。
「っ、紗己! 大丈夫か!?」
「あ・・・はい、平気です・・・」
言いながら身体を起こそうとする紗己を、土方も、その隣に座る近藤までもが腰を浮かせて止めにかかる。
「いいから寝てろっ」
「そうだぞ紗己ちゃん! 安静だって言われてるんだから!!」
「は、はい・・・」
二人がかりで説得され、さすがに相当な心配を掛けてしまったと自覚した紗己は、申し訳なさそうに眉を寄せると、再び布団に身体を横たわらせた。
土方はそれをしっかりと確認すると、もう絶対安静だとばかりに彼女の喉元まで布団を掛ける。そして寝ている紗己にではなく、隣の近藤に話し掛ける。
「・・・それで、どうなんだ身体は」
「ああ。医者の話では、寝不足からくる貧血ってことらしい。まあ、過労がたたったんだろうな」
「は? 寝不足・・・過労って・・・え?」
近藤の口から語られたその言葉に、土方は首を捻って紗己の方に視線をやった。
「おい紗己・・・お前、寝不足・・・え? 昼寝してるって言って・・・」
言いながら、その言葉の意味を理解出来ずにいる。
この三日間、仕事を終えて部屋に戻ると、明け方や真夜中という時間帯にも関わらず、常に紗己は起きて待っていた。一人の時間を持て余して早い間に就寝したら、早くに目が覚めてしまったのだと言う。
それでいて、翌朝には自分より確実に先に起きている彼女。土方が目を覚ます頃には、大抵朝食の準備が出来上がっている。
一体いつ寝ているのか。彼女の身体が心配になった土方だが、そんな彼に紗己は穏やかに笑って言った。土方さんがお仕事している間に、昼寝させてもらってます――と。
実際、自分が仕事をしている間は紗己が何をしているのか知らない。自室で書類仕事などをする時なら、目の届く範囲に彼女がいるのだろうが、しかしこの二日間に限って言えば、土方は常に屯所を空けていた。
家事のことは一切分からない。掃除や洗濯、食事の用意にどれくらいの時間を費やしているのかも、全く想像がつかない。
だが、丸一日休む暇も無いことはないだろう。昼寝をするくらいの時間はあるはずだ。だからきっと、自分が居ない間に羽を伸ばして寛ぎ、睡眠を補っているのだろう。
そう思い込んでいたからこそ、紗己が起きて待ってくれていたことに喜びを感じていたのだ。
けれど、今近藤から聞いた話だと、紗己は寝不足で貧血となり倒れたのだという。確認を取るように訊ねてきた土方に、紗己は明らかに動揺を隠せない様子だ。
「あ、あの! 違うんです、その・・・えっと・・・ちゃんと寝てますよ!? わ、私昼間は結構暇なんです! だから、土方さんがお仕事されてる間にちゃちゃっと昼寝を・・・」
早口で捲くし立てる紗己だったが、その言葉に疑問を呈したのは土方ではなく近藤だった。
「え? 紗己ちゃん、昨日も一昨日も昼間は屯所の掃除・・・」
「局長さん!」
近藤のまさかの発言に、紗己は常よりも大きな声で慌てて彼の言葉を遮った。
それが制止を求めるものだったと気付いた近藤は、しまったという顔で恐る恐る隣に座る土方を見やる。だが土方は近藤と目を合わせる事なく、俯いたまま口を開いた。
「・・・近藤さん」
「な、なんだトシ!?」
「ちょっと・・・・・・いいか」
「あ、ああ・・・」
横たわる自分の側で交わされる会話、そして常よりも低く抑えた愛する夫の声音。これはもう怒ってしまったのではと思った紗己は、立ち上がろうとする土方を泣きそうな顔で見上げている。
「土方さん・・・」
「・・・なんだお前、なんて顔してんだよ・・・ったく」
不安が前面に出ている紗己に、怒る気になどなれるはずもない。元より彼は怒ってなどいないのだが。
土方は軽く息を吐くと、横になっている紗己の頭を優しく撫でた。
「ちょっとな、近藤さんと急ぎの仕事の話がある。すぐに戻るから、心配しねェで大人しく寝てろよ」
「はい・・・」
力なく頷く紗己から名残惜しそうに手を離すと、土方は立ち上がり隣に座る近藤を連れて部屋を出た。
「紗己っ!」
反動で外れてしまうのではというくらいに力いっぱい障子戸を開き、土方は額に汗を浮かべて部屋に駆け込む。
「トシ、こっちだ」
声のする方に目をやると、二間を仕切る襖が少しだけ開き、中から近藤が顔を覗かせた。土方は唇の隙間からゆっくりと息を吐き出し呼吸を整えると、出来るだけ大きな音を立てないよう慎重に歩を進めた。
それに合わせるように中から静かに襖が開かれ、部屋の真ん中に敷かれた布団に横たわる紗己の姿が目に入った。
「紗己・・・っ」
血の気が引く思いで枕元に膝を付くと、眠っていると思っていた紗己の瞼がゆっくりと開き、
「・・・土方さん・・・・・・」
弱々しい声で、不安気に自分を見下ろす夫の名を呼んだ。
「っ、紗己! 大丈夫か!?」
「あ・・・はい、平気です・・・」
言いながら身体を起こそうとする紗己を、土方も、その隣に座る近藤までもが腰を浮かせて止めにかかる。
「いいから寝てろっ」
「そうだぞ紗己ちゃん! 安静だって言われてるんだから!!」
「は、はい・・・」
二人がかりで説得され、さすがに相当な心配を掛けてしまったと自覚した紗己は、申し訳なさそうに眉を寄せると、再び布団に身体を横たわらせた。
土方はそれをしっかりと確認すると、もう絶対安静だとばかりに彼女の喉元まで布団を掛ける。そして寝ている紗己にではなく、隣の近藤に話し掛ける。
「・・・それで、どうなんだ身体は」
「ああ。医者の話では、寝不足からくる貧血ってことらしい。まあ、過労がたたったんだろうな」
「は? 寝不足・・・過労って・・・え?」
近藤の口から語られたその言葉に、土方は首を捻って紗己の方に視線をやった。
「おい紗己・・・お前、寝不足・・・え? 昼寝してるって言って・・・」
言いながら、その言葉の意味を理解出来ずにいる。
この三日間、仕事を終えて部屋に戻ると、明け方や真夜中という時間帯にも関わらず、常に紗己は起きて待っていた。一人の時間を持て余して早い間に就寝したら、早くに目が覚めてしまったのだと言う。
それでいて、翌朝には自分より確実に先に起きている彼女。土方が目を覚ます頃には、大抵朝食の準備が出来上がっている。
一体いつ寝ているのか。彼女の身体が心配になった土方だが、そんな彼に紗己は穏やかに笑って言った。土方さんがお仕事している間に、昼寝させてもらってます――と。
実際、自分が仕事をしている間は紗己が何をしているのか知らない。自室で書類仕事などをする時なら、目の届く範囲に彼女がいるのだろうが、しかしこの二日間に限って言えば、土方は常に屯所を空けていた。
家事のことは一切分からない。掃除や洗濯、食事の用意にどれくらいの時間を費やしているのかも、全く想像がつかない。
だが、丸一日休む暇も無いことはないだろう。昼寝をするくらいの時間はあるはずだ。だからきっと、自分が居ない間に羽を伸ばして寛ぎ、睡眠を補っているのだろう。
そう思い込んでいたからこそ、紗己が起きて待ってくれていたことに喜びを感じていたのだ。
けれど、今近藤から聞いた話だと、紗己は寝不足で貧血となり倒れたのだという。確認を取るように訊ねてきた土方に、紗己は明らかに動揺を隠せない様子だ。
「あ、あの! 違うんです、その・・・えっと・・・ちゃんと寝てますよ!? わ、私昼間は結構暇なんです! だから、土方さんがお仕事されてる間にちゃちゃっと昼寝を・・・」
早口で捲くし立てる紗己だったが、その言葉に疑問を呈したのは土方ではなく近藤だった。
「え? 紗己ちゃん、昨日も一昨日も昼間は屯所の掃除・・・」
「局長さん!」
近藤のまさかの発言に、紗己は常よりも大きな声で慌てて彼の言葉を遮った。
それが制止を求めるものだったと気付いた近藤は、しまったという顔で恐る恐る隣に座る土方を見やる。だが土方は近藤と目を合わせる事なく、俯いたまま口を開いた。
「・・・近藤さん」
「な、なんだトシ!?」
「ちょっと・・・・・・いいか」
「あ、ああ・・・」
横たわる自分の側で交わされる会話、そして常よりも低く抑えた愛する夫の声音。これはもう怒ってしまったのではと思った紗己は、立ち上がろうとする土方を泣きそうな顔で見上げている。
「土方さん・・・」
「・・・なんだお前、なんて顔してんだよ・・・ったく」
不安が前面に出ている紗己に、怒る気になどなれるはずもない。元より彼は怒ってなどいないのだが。
土方は軽く息を吐くと、横になっている紗己の頭を優しく撫でた。
「ちょっとな、近藤さんと急ぎの仕事の話がある。すぐに戻るから、心配しねェで大人しく寝てろよ」
「はい・・・」
力なく頷く紗己から名残惜しそうに手を離すと、土方は立ち上がり隣に座る近藤を連れて部屋を出た。