第七章
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――――――
「どうしたんですか副長、いやに機嫌いいですね」
「あ? 別に、んなことねーよ」
言いながら急に無表情を作ると、咥えていた煙草を指に挟み、煙を窓の外に吐き出した。
つい今しがた鼻から適当なメロディーを奏でていたのだが、無意識にそんな行為をしていた自分に今更気付く。土方は運転席の山崎に悟られないように、どうしても緩んでしまう頬を意識的に引き締めた。
式から既に、四日が経っていた。結婚式の翌日、三日前の非番の時には、昼間紗己と町に出掛け仲睦まじく過ごした。嬉しそうに自分の隣を歩く紗己に、幾度と無く口付けたい願望に駆られたのだが、それもグッと我慢していた。
その日は『夜』に向けて気合いたっぷりだったため、全てをその時に一気に済ませてしまおうと考えていたのだ。心の重石を完全に取り除けた土方は、夜が来るのを心待ちにしていた。
しかしその日は運の悪いことに、夕飯後に緊急出動がかかってしまった。非番だったとはいえ、屯所で生活をしていては無視することなど出来るはずも無く、紗己の待つ自室に戻れたのは、夜も明けるかという時間帯だった。
おまけにその後二日間は、朝まで仕事という元々の勤務体制。24時間年中無休の警察なのだから、当たり前といえばそうなのだが。
新婚だというのに、散々なまでに仕事に忙殺される日々。こうまで紗己とまともに話す時間が無いと、さすがに苦痛を感じる。自分は比較的無口な方だと思っていたが、と土方はそんな自分に小さく笑った。
今日は、夜には仕事が終わる予定だ。早く屯所に戻りたくて、紗己に会いたくて仕方が無い。
考え事をしているうちにすっかり短くなってしまった煙草を、中身がほとんど残っていないコーヒーの缶に突っ込む。
するとその一連の動作を横目で見ていた山崎が、それやられると後で片付ける時臭いんだけど・・・と運転席で顔をしかめるが、土方はそんなことお構い無しだ。というよりは、その視線にさえ一切気付いていない。
土方は流れる景色に顔を向けつつ、やがてくる二人の甘い時間に思いを馳せていた。ようやくあの柔らかい身体に直に触れることが出来る――そう思うだけでニヤつきは止まらない。
まだ、第一関門である口付けさえも済ませていない二人だが、それも全て今夜越えられる、これまで頑張って我慢してきた自分へのご褒美・・・といった気分の土方は、多大な期待に胸を膨らませていた。
長かった・・・やっと、やっとだ。これで今夜、今夜とうとう・・・
――プルルルッ!
「うぉおっ!?」
突然胸ポケットから聞こえてきたけたたましいベル音に、妄想真っ最中だった土方は驚きの声を上げた。それを誤魔化すように軽く咳払いをすると、運転席の山崎を少し気にしながら携帯の着信ボタンを押す。
「土方だ。ああ、近藤さんか。どうかし・・・」
『トシ! 大変だ、すぐに屯所に戻って来い!!』
「ああ? どうしたんだよ、何かあったのか?」
電話の向こう側で焦り声を出す近藤に、一体どうしたのかと土方は首を捻りつつ、電話を顎と肩の間に挟んだ。空いた手で新しい煙草を一本摘み取り、それに火を点けようとライターを取り出した瞬間。
土方の耳に信じられないような言葉が飛び込んできた。
『とにかく早く戻ってこい! 紗己ちゃんが倒れたんだ!!』
「え・・・・・・?」
思いもよらぬ近藤の言葉に、土方は目を見開いて息を呑む。手に持った煙草とライターが、ぽとりと足元に落ちた。
一瞬の無言で悟ったのだろう。電話の向こうから大きく自分を呼び掛ける声に、土方はすぐに冷静さを取り戻した。危うく落としかけた携帯をしっかりと手に持ち直す。
「・・・ああ、大丈夫だ。それで・・・ああ・・・・・・・・・わかった、すぐに戻る」
言い終えて電話を切った途端、土方は運転席の山崎に行き先変更を命じた。
「すぐに屯所に戻れ」
「え? あ、はい・・・副長? 何かあったんですか」
静かな口調なのだが落ち着き無く貧乏ゆすりをし始めた土方に、山崎は少し躊躇いながら問い掛けた。すると土方は、深く吐息してからぼそっと呟いた。
「紗己が・・・倒れたらしい」
「えっ!? だ、大丈夫なんですか!」
「・・・今、医者を呼んで待ってるところらしい。とにかく急いで戻ってくれ・・・っ」
募る焦りを必死に押し殺している上司の姿に山崎はしっかりと頷くと、すぐさまパトランプを点灯させてスピードを上げた。
走行中の車の中でジタバタしたところで、屯所に飛んで行けるわけではない。分かってはいてももどかしく、何も出来ない自分が腹立たしくて舌打ちをすると、土方はポケットに入れていた煙草の箱を取り出しそれをグシャッと握り潰した。
「どうしたんですか副長、いやに機嫌いいですね」
「あ? 別に、んなことねーよ」
言いながら急に無表情を作ると、咥えていた煙草を指に挟み、煙を窓の外に吐き出した。
つい今しがた鼻から適当なメロディーを奏でていたのだが、無意識にそんな行為をしていた自分に今更気付く。土方は運転席の山崎に悟られないように、どうしても緩んでしまう頬を意識的に引き締めた。
式から既に、四日が経っていた。結婚式の翌日、三日前の非番の時には、昼間紗己と町に出掛け仲睦まじく過ごした。嬉しそうに自分の隣を歩く紗己に、幾度と無く口付けたい願望に駆られたのだが、それもグッと我慢していた。
その日は『夜』に向けて気合いたっぷりだったため、全てをその時に一気に済ませてしまおうと考えていたのだ。心の重石を完全に取り除けた土方は、夜が来るのを心待ちにしていた。
しかしその日は運の悪いことに、夕飯後に緊急出動がかかってしまった。非番だったとはいえ、屯所で生活をしていては無視することなど出来るはずも無く、紗己の待つ自室に戻れたのは、夜も明けるかという時間帯だった。
おまけにその後二日間は、朝まで仕事という元々の勤務体制。24時間年中無休の警察なのだから、当たり前といえばそうなのだが。
新婚だというのに、散々なまでに仕事に忙殺される日々。こうまで紗己とまともに話す時間が無いと、さすがに苦痛を感じる。自分は比較的無口な方だと思っていたが、と土方はそんな自分に小さく笑った。
今日は、夜には仕事が終わる予定だ。早く屯所に戻りたくて、紗己に会いたくて仕方が無い。
考え事をしているうちにすっかり短くなってしまった煙草を、中身がほとんど残っていないコーヒーの缶に突っ込む。
するとその一連の動作を横目で見ていた山崎が、それやられると後で片付ける時臭いんだけど・・・と運転席で顔をしかめるが、土方はそんなことお構い無しだ。というよりは、その視線にさえ一切気付いていない。
土方は流れる景色に顔を向けつつ、やがてくる二人の甘い時間に思いを馳せていた。ようやくあの柔らかい身体に直に触れることが出来る――そう思うだけでニヤつきは止まらない。
まだ、第一関門である口付けさえも済ませていない二人だが、それも全て今夜越えられる、これまで頑張って我慢してきた自分へのご褒美・・・といった気分の土方は、多大な期待に胸を膨らませていた。
長かった・・・やっと、やっとだ。これで今夜、今夜とうとう・・・
――プルルルッ!
「うぉおっ!?」
突然胸ポケットから聞こえてきたけたたましいベル音に、妄想真っ最中だった土方は驚きの声を上げた。それを誤魔化すように軽く咳払いをすると、運転席の山崎を少し気にしながら携帯の着信ボタンを押す。
「土方だ。ああ、近藤さんか。どうかし・・・」
『トシ! 大変だ、すぐに屯所に戻って来い!!』
「ああ? どうしたんだよ、何かあったのか?」
電話の向こう側で焦り声を出す近藤に、一体どうしたのかと土方は首を捻りつつ、電話を顎と肩の間に挟んだ。空いた手で新しい煙草を一本摘み取り、それに火を点けようとライターを取り出した瞬間。
土方の耳に信じられないような言葉が飛び込んできた。
『とにかく早く戻ってこい! 紗己ちゃんが倒れたんだ!!』
「え・・・・・・?」
思いもよらぬ近藤の言葉に、土方は目を見開いて息を呑む。手に持った煙草とライターが、ぽとりと足元に落ちた。
一瞬の無言で悟ったのだろう。電話の向こうから大きく自分を呼び掛ける声に、土方はすぐに冷静さを取り戻した。危うく落としかけた携帯をしっかりと手に持ち直す。
「・・・ああ、大丈夫だ。それで・・・ああ・・・・・・・・・わかった、すぐに戻る」
言い終えて電話を切った途端、土方は運転席の山崎に行き先変更を命じた。
「すぐに屯所に戻れ」
「え? あ、はい・・・副長? 何かあったんですか」
静かな口調なのだが落ち着き無く貧乏ゆすりをし始めた土方に、山崎は少し躊躇いながら問い掛けた。すると土方は、深く吐息してからぼそっと呟いた。
「紗己が・・・倒れたらしい」
「えっ!? だ、大丈夫なんですか!」
「・・・今、医者を呼んで待ってるところらしい。とにかく急いで戻ってくれ・・・っ」
募る焦りを必死に押し殺している上司の姿に山崎はしっかりと頷くと、すぐさまパトランプを点灯させてスピードを上げた。
走行中の車の中でジタバタしたところで、屯所に飛んで行けるわけではない。分かってはいてももどかしく、何も出来ない自分が腹立たしくて舌打ちをすると、土方はポケットに入れていた煙草の箱を取り出しそれをグシャッと握り潰した。