第六章
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「他の奴らは結構な二日酔いみてーだが、お前は平気か」
「酒は飲んでも飲まれるなってね。俺は加減の分かる男でさァ」
「そうか・・・」
言いながら袂から煙草とライターを取り出すと、箱から一本引き抜き、素早く咥えて火を点けた。
すっきりと晴れた高い空に紫煙を吐き出す。土方は昨夜のことを思い出していた。
紗己の口から聞かされた、彼にとっては衝撃の事実。点と点が繋がって、そこから現れたのは沖田の存在だった。
彼女との誤解は完全に解け、もう何のわだかまりもない。もう済んでしまったことだ、今更沖田を責める気など毛頭ない。
けれど、言わないといけない――と、土方は思う。それが沖田への、過去への、そして紗己への誠意だと信じているからだ。
決意を固めた土方は、指に挟んだ煙草に視線を落としてぽつり呟いた。
「・・・なあ総悟」
「なんですかィ」
「アイツは・・・身代わりなんかじゃねえぞ」
その言葉に怒りの色はなく、ただはっきりとした意思が伝わってくる。沖田は一瞬眉を寄せて隣の土方を一瞥したが、また視線を中庭へと戻して、ハァ・・・と溜め息を落とした。
「なんでェ、バレちまったんですか。それで? 紗己にいらねー事吹き込んだって、俺を殴りにでも来たんですかィ?」
「別に殴りゃしねェよ。お前がアイツに言ったこと・・・お前がそう思ってたってのも、分からねーわけじゃねえ・・・」
苦い顔をしたのを煙草のせいにするように、再び深く煙を吸い込むと、それをゆっくりと吐き出しながら言葉を繋げた。
「でも、紗己は身代わりじゃねえ。誰にも代わりなんて存在しねェよ」
自分にとっての大切な者たち、その誰一人にだって代わりなど存在しないのだと強く思う。それを聞いた沖田は、いつもと同じポーカーフェイスで淡々と言葉を返す。
「分かってまさァ、それくらい。俺だって本気でそんなこと言ったんじゃありませんよ。けどそれを鵜呑みにして、それでもアンタのことが良いって言うんだから、紗己も相当馬鹿な女だ」
「おい、人の女房つかまえて馬鹿はねーだろ、馬鹿は」
気を悪くして当然のことを言われたにも関わらず、土方はやや呆れながらも少し笑ってしまった。
沖田の言うことを真に受けてしまう紗己を可愛いと思いつつ、また、彼女にそんなことを吹き込んだ沖田のことも、手のかかる弟のように思えてしまう。
土方はまた小さく笑うと、片膝を立てて中庭の真ん中で風に揺られる洗濯物を眺めた。
紗己が部屋から持っていったタオルや寝間着が、他の隊士達の物と一緒に干されてある。自分たちの物だけでなく、ついでだからと結局大量の洗濯物に手を出してしまう彼女のことが、とても好きなのだ。
そんなことをぼんやりと考えていると、隣の沖田が小さく笑いながら声を掛けてきた。
「せいぜい紗己のこと幸せにしてやんなせェ。アンタの外見じゃなくて中身がいいなんて奇特な女、なかなかいるもんじゃねーからねィ」
「なっ・・・」
なんて失礼なことを言う男だと、土方は明らかに不機嫌な顔をつくる。しかし、彼なりに自分達を思いやっての言葉だと理解できるので、怒鳴る気にはなれない。
そして同時に、幸せに『出来なかった』者のことも思い出す。
「紗己のことはあれだが、その・・・悪かったと思ってる、お前の姉貴を幸せにしてやれ・・・」
「土方さん」
途中で言葉を遮られ、土方は訝しげに沖田を見やる。すると沖田は、やれやれといった風に首を振ってから土方を一瞥した。
「勝手に人の姉上を不幸だったなんて、決め付けないでくだせェ。あの人は幸せだったんだよ、ずっと一人の男のことを想い続けて・・・それが姉上にとっては幸せだった」
「総悟・・・」
「悪いなんて思う必要はねェでしょう。そんな風に思われてるなんて、その方が姉上が気の毒でさァ」
「・・・そうだな」
小さく呟くと、土方は短くなりすぎた煙草を携帯灰皿に落とした。そして新たな一本は取り出すことなく、空の向こうに思いを届かせるように、頭上を見上げて言葉を綴った。
「俺は紗己を必ず幸せにする。それから・・・俺たちの居場所を、真選組を必ず護る」
侍でありたい。その志のために江戸に来た。そのためだけに生きてきた。今はそこに護るべきものが増えただけだ。
無表情ではあるもののやや満足気にも見える土方の姿に、このペースに巻き込まれたくないと思った沖田は、いつも通りの口調で言葉を投げた。
「紗己の実家は結構な豪商だってね、やったじゃねーか土方さん。真選組を護らなくても、米問屋の跡取り婿として食っていけるぜ」
これで安心して辞められるねィ、と続ける沖田に、土方は声を荒らげて反論する。
「ば・・・っ、馬鹿なこと言うんじゃねえ!」
「なにがですかィ。真選組の副長ともあろう男が、若い娘女中に手ェ出して孕ませちまったんだ。世間的にも、責任取らなきゃいけませんぜ」
「だから! 責任は取っただろうがって違っ・・・この責任ってのは別にそういうアレじゃなくてだな・・・いや結婚はちゃんと俺の意思で・・・」
もごもごと言い訳めいた発言を続ける土方に対し、そんなことはどうでもいいとでも言うように沖田は軽く一蹴する。
「そっちの責任じゃありやせん。副長の座は俺に任せて、さっさと責任取って真選組を辞めて若旦那になりなせェ」
「ふざっけんな、誰が辞めるか! お前こそさっさと隊長らしく仕事に戻れ!!」
真選組名物とでも言うべき二人の男の言い合いは、空の向こうまで届くほどに、屯所内に響き渡った。
「酒は飲んでも飲まれるなってね。俺は加減の分かる男でさァ」
「そうか・・・」
言いながら袂から煙草とライターを取り出すと、箱から一本引き抜き、素早く咥えて火を点けた。
すっきりと晴れた高い空に紫煙を吐き出す。土方は昨夜のことを思い出していた。
紗己の口から聞かされた、彼にとっては衝撃の事実。点と点が繋がって、そこから現れたのは沖田の存在だった。
彼女との誤解は完全に解け、もう何のわだかまりもない。もう済んでしまったことだ、今更沖田を責める気など毛頭ない。
けれど、言わないといけない――と、土方は思う。それが沖田への、過去への、そして紗己への誠意だと信じているからだ。
決意を固めた土方は、指に挟んだ煙草に視線を落としてぽつり呟いた。
「・・・なあ総悟」
「なんですかィ」
「アイツは・・・身代わりなんかじゃねえぞ」
その言葉に怒りの色はなく、ただはっきりとした意思が伝わってくる。沖田は一瞬眉を寄せて隣の土方を一瞥したが、また視線を中庭へと戻して、ハァ・・・と溜め息を落とした。
「なんでェ、バレちまったんですか。それで? 紗己にいらねー事吹き込んだって、俺を殴りにでも来たんですかィ?」
「別に殴りゃしねェよ。お前がアイツに言ったこと・・・お前がそう思ってたってのも、分からねーわけじゃねえ・・・」
苦い顔をしたのを煙草のせいにするように、再び深く煙を吸い込むと、それをゆっくりと吐き出しながら言葉を繋げた。
「でも、紗己は身代わりじゃねえ。誰にも代わりなんて存在しねェよ」
自分にとっての大切な者たち、その誰一人にだって代わりなど存在しないのだと強く思う。それを聞いた沖田は、いつもと同じポーカーフェイスで淡々と言葉を返す。
「分かってまさァ、それくらい。俺だって本気でそんなこと言ったんじゃありませんよ。けどそれを鵜呑みにして、それでもアンタのことが良いって言うんだから、紗己も相当馬鹿な女だ」
「おい、人の女房つかまえて馬鹿はねーだろ、馬鹿は」
気を悪くして当然のことを言われたにも関わらず、土方はやや呆れながらも少し笑ってしまった。
沖田の言うことを真に受けてしまう紗己を可愛いと思いつつ、また、彼女にそんなことを吹き込んだ沖田のことも、手のかかる弟のように思えてしまう。
土方はまた小さく笑うと、片膝を立てて中庭の真ん中で風に揺られる洗濯物を眺めた。
紗己が部屋から持っていったタオルや寝間着が、他の隊士達の物と一緒に干されてある。自分たちの物だけでなく、ついでだからと結局大量の洗濯物に手を出してしまう彼女のことが、とても好きなのだ。
そんなことをぼんやりと考えていると、隣の沖田が小さく笑いながら声を掛けてきた。
「せいぜい紗己のこと幸せにしてやんなせェ。アンタの外見じゃなくて中身がいいなんて奇特な女、なかなかいるもんじゃねーからねィ」
「なっ・・・」
なんて失礼なことを言う男だと、土方は明らかに不機嫌な顔をつくる。しかし、彼なりに自分達を思いやっての言葉だと理解できるので、怒鳴る気にはなれない。
そして同時に、幸せに『出来なかった』者のことも思い出す。
「紗己のことはあれだが、その・・・悪かったと思ってる、お前の姉貴を幸せにしてやれ・・・」
「土方さん」
途中で言葉を遮られ、土方は訝しげに沖田を見やる。すると沖田は、やれやれといった風に首を振ってから土方を一瞥した。
「勝手に人の姉上を不幸だったなんて、決め付けないでくだせェ。あの人は幸せだったんだよ、ずっと一人の男のことを想い続けて・・・それが姉上にとっては幸せだった」
「総悟・・・」
「悪いなんて思う必要はねェでしょう。そんな風に思われてるなんて、その方が姉上が気の毒でさァ」
「・・・そうだな」
小さく呟くと、土方は短くなりすぎた煙草を携帯灰皿に落とした。そして新たな一本は取り出すことなく、空の向こうに思いを届かせるように、頭上を見上げて言葉を綴った。
「俺は紗己を必ず幸せにする。それから・・・俺たちの居場所を、真選組を必ず護る」
侍でありたい。その志のために江戸に来た。そのためだけに生きてきた。今はそこに護るべきものが増えただけだ。
無表情ではあるもののやや満足気にも見える土方の姿に、このペースに巻き込まれたくないと思った沖田は、いつも通りの口調で言葉を投げた。
「紗己の実家は結構な豪商だってね、やったじゃねーか土方さん。真選組を護らなくても、米問屋の跡取り婿として食っていけるぜ」
これで安心して辞められるねィ、と続ける沖田に、土方は声を荒らげて反論する。
「ば・・・っ、馬鹿なこと言うんじゃねえ!」
「なにがですかィ。真選組の副長ともあろう男が、若い娘女中に手ェ出して孕ませちまったんだ。世間的にも、責任取らなきゃいけませんぜ」
「だから! 責任は取っただろうがって違っ・・・この責任ってのは別にそういうアレじゃなくてだな・・・いや結婚はちゃんと俺の意思で・・・」
もごもごと言い訳めいた発言を続ける土方に対し、そんなことはどうでもいいとでも言うように沖田は軽く一蹴する。
「そっちの責任じゃありやせん。副長の座は俺に任せて、さっさと責任取って真選組を辞めて若旦那になりなせェ」
「ふざっけんな、誰が辞めるか! お前こそさっさと隊長らしく仕事に戻れ!!」
真選組名物とでも言うべき二人の男の言い合いは、空の向こうまで届くほどに、屯所内に響き渡った。