第六章
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――――――
朝食もとっくに終え、土方は今、暇を持て余すように新聞を広げていた。
屯所内の新居と言うべき自室には、いつもの着流し姿の男が一人。紗己はと言うと、朝食の後片付けから洗濯へと家事に勤しんでいる。いくら新婚生活の初日とはいえ、主婦には主婦の仕事があるものだ。
これが世間一般の夫婦ならば、今頃は新婚旅行に旅立っているのかもしれない。しかし、公務員ではあってものんびり休暇が取れないのが、真選組副長という立場。
まるで中年サラリーマンの無趣味な休日のようになってしまっている自分に、土方は一人溜め息を落とす。
「・・・いや、もういいだろ新聞は・・・」
頁を捲ろうと動かしかけた手を止めた。朝刊に目を通すのはこれで三度目。さすがに飽きたらしい。
実際は、やることが全くないというわけではない。事務仕事ならば山のようにあるし、新聞よりも目を通しておきたい書類だってある。
しかし、ここで退屈しのぎに仕事に手を出してしまえば、途中で止められなくなるのは必至だ。そんなことをすれば、午後からの予定も変えざるを得なくなる。
第一、何故せっかくの休日に仕事をしなければならないのか。その思いから、甘んじてこの退屈な時間を受け入れているのだ。
土方は新聞を畳んで部屋の隅にやると、いつものクセで袂に手を突っ込んだ。
「あー・・・」
目的のモノに軽く指先が触れてから、何かを思い出したかのように手を引き抜く。
今、ここに紗己はいない。だからこの部屋で煙草を吸ったとしても、彼女に悪影響はないだろう。おまけに、紗己から喫煙を止められているわけでもない。
だが、二人の私室でニコチン摂取をすることに、どうにも罪悪感を覚えてしまう。
止めなきゃいけねーんだろうけどな、さすがに今すぐってのは無理だ。いや、そのうち止めるかもしんねーけど・・・いつか、そのうち・・・・・・。
頭の中の言い訳ですら歯切れが悪く、土方は低く唸ってから自身の黒髪をわしゃわしゃと掻き乱して嘆息した。
紗己と生まれてくる子供のことを思えば、いずれは止めたほうがいいのだと思いはする。だがすぐに禁煙が出来るのなら、世の中のヘビースモーカーは苦労知らずだろう。
今自分に出来るのは、せめて煙が彼女に害をもたらさないようにするくらいだ。そう自分を正当化すると、誰が聞いているわけでもないのに言い訳をするように小さく呟いた。
「ここじゃあ、な」
すくっと立ち上がると、袂の重みを確かめながら部屋を出た。
今日は、昼から紗己と町に出かける予定だ。せっかくの休日、二人で食事でも・・・と彼から誘ったのだ。
本当ならば、どこか遠くに連れて行ってやりたいとの思いもある。出来るものなら、新婚旅行にだって連れて行きたい。
しかし自分にはそんな暇はないし、彼女自身の体調を考えれば長時間の移動は好ましくない。気持ちだけで十分だと言ってくれる紗己のために、せめて与えられた休日くらいは、彼女に自分の時間をあげたい――と、土方は思っていた。
ぼんやりと紗己との朝食時の会話を思い出しながら、廊下を歩く。
昼から出掛けようと誘うと、心底嬉しそうな笑顔を見せた紗己。その付き合い始めのような初々しさを思い出すだけで、どうしても頬が緩んでしまう。
そんな風にニヤニヤしながら歩いていると、ちょうど中庭に差し掛かったところで、縁側に寝そべっている男が目に留まった。
土方は一瞬眉をひそめると、その男の元へと足を進める。
「おい総悟!」
足元に寝転がっている真選組の一番隊長を睨み付けると、仁王立ちのまま怒鳴りつけた。
それに目を覚ましたのか、初めから起きていたのか。ふざけた柄のアイマスクを緩慢な動作で取り外した沖田は、頭上の土方に向かって嘆息した。
「ハァ・・・なんでェ土方さんか。せっかくの非番に、こんなところで何やってんでェ」
「そりゃこっちの台詞だ。テメーこそ、こんなところで何やってんだ」
「何ってそりゃ、見ての通り惰眠をむさぼってたんでさァ」
「んなこたァ言われなくてもわかるわ! 何で仕事中に寝てんだっつってんだよっ」
申し訳なさの一欠片も無いあっさりとした口調に、思わず声を荒らげてしまう。しかし沖田はそれも慣れたものなのか、軽く欠伸をするとゆっくりと体を起こした。
ポキポキと首を鳴らしながら、土方を一瞥する。
「アンタもいちいちうるさい男だ。そんなんじゃ紗己に嫌われちまうぜ」
「うるせェ、アイツはそんなこと気にしたりしねーよ。それよりお前、仮にも隊長だろうが。他の隊士に示しがつかねーだろ・・・」
そう言いつつも、剣の腕は真選組一だと謳われる男だ。つかみどころの無いマイペースぶりだが、それなりに信頼されているのも知っている。
土方はやや呆れ顔で嘆息すると、縁側に座る沖田の隣に腰を下ろした。
朝食もとっくに終え、土方は今、暇を持て余すように新聞を広げていた。
屯所内の新居と言うべき自室には、いつもの着流し姿の男が一人。紗己はと言うと、朝食の後片付けから洗濯へと家事に勤しんでいる。いくら新婚生活の初日とはいえ、主婦には主婦の仕事があるものだ。
これが世間一般の夫婦ならば、今頃は新婚旅行に旅立っているのかもしれない。しかし、公務員ではあってものんびり休暇が取れないのが、真選組副長という立場。
まるで中年サラリーマンの無趣味な休日のようになってしまっている自分に、土方は一人溜め息を落とす。
「・・・いや、もういいだろ新聞は・・・」
頁を捲ろうと動かしかけた手を止めた。朝刊に目を通すのはこれで三度目。さすがに飽きたらしい。
実際は、やることが全くないというわけではない。事務仕事ならば山のようにあるし、新聞よりも目を通しておきたい書類だってある。
しかし、ここで退屈しのぎに仕事に手を出してしまえば、途中で止められなくなるのは必至だ。そんなことをすれば、午後からの予定も変えざるを得なくなる。
第一、何故せっかくの休日に仕事をしなければならないのか。その思いから、甘んじてこの退屈な時間を受け入れているのだ。
土方は新聞を畳んで部屋の隅にやると、いつものクセで袂に手を突っ込んだ。
「あー・・・」
目的のモノに軽く指先が触れてから、何かを思い出したかのように手を引き抜く。
今、ここに紗己はいない。だからこの部屋で煙草を吸ったとしても、彼女に悪影響はないだろう。おまけに、紗己から喫煙を止められているわけでもない。
だが、二人の私室でニコチン摂取をすることに、どうにも罪悪感を覚えてしまう。
止めなきゃいけねーんだろうけどな、さすがに今すぐってのは無理だ。いや、そのうち止めるかもしんねーけど・・・いつか、そのうち・・・・・・。
頭の中の言い訳ですら歯切れが悪く、土方は低く唸ってから自身の黒髪をわしゃわしゃと掻き乱して嘆息した。
紗己と生まれてくる子供のことを思えば、いずれは止めたほうがいいのだと思いはする。だがすぐに禁煙が出来るのなら、世の中のヘビースモーカーは苦労知らずだろう。
今自分に出来るのは、せめて煙が彼女に害をもたらさないようにするくらいだ。そう自分を正当化すると、誰が聞いているわけでもないのに言い訳をするように小さく呟いた。
「ここじゃあ、な」
すくっと立ち上がると、袂の重みを確かめながら部屋を出た。
今日は、昼から紗己と町に出かける予定だ。せっかくの休日、二人で食事でも・・・と彼から誘ったのだ。
本当ならば、どこか遠くに連れて行ってやりたいとの思いもある。出来るものなら、新婚旅行にだって連れて行きたい。
しかし自分にはそんな暇はないし、彼女自身の体調を考えれば長時間の移動は好ましくない。気持ちだけで十分だと言ってくれる紗己のために、せめて与えられた休日くらいは、彼女に自分の時間をあげたい――と、土方は思っていた。
ぼんやりと紗己との朝食時の会話を思い出しながら、廊下を歩く。
昼から出掛けようと誘うと、心底嬉しそうな笑顔を見せた紗己。その付き合い始めのような初々しさを思い出すだけで、どうしても頬が緩んでしまう。
そんな風にニヤニヤしながら歩いていると、ちょうど中庭に差し掛かったところで、縁側に寝そべっている男が目に留まった。
土方は一瞬眉をひそめると、その男の元へと足を進める。
「おい総悟!」
足元に寝転がっている真選組の一番隊長を睨み付けると、仁王立ちのまま怒鳴りつけた。
それに目を覚ましたのか、初めから起きていたのか。ふざけた柄のアイマスクを緩慢な動作で取り外した沖田は、頭上の土方に向かって嘆息した。
「ハァ・・・なんでェ土方さんか。せっかくの非番に、こんなところで何やってんでェ」
「そりゃこっちの台詞だ。テメーこそ、こんなところで何やってんだ」
「何ってそりゃ、見ての通り惰眠をむさぼってたんでさァ」
「んなこたァ言われなくてもわかるわ! 何で仕事中に寝てんだっつってんだよっ」
申し訳なさの一欠片も無いあっさりとした口調に、思わず声を荒らげてしまう。しかし沖田はそれも慣れたものなのか、軽く欠伸をするとゆっくりと体を起こした。
ポキポキと首を鳴らしながら、土方を一瞥する。
「アンタもいちいちうるさい男だ。そんなんじゃ紗己に嫌われちまうぜ」
「うるせェ、アイツはそんなこと気にしたりしねーよ。それよりお前、仮にも隊長だろうが。他の隊士に示しがつかねーだろ・・・」
そう言いつつも、剣の腕は真選組一だと謳われる男だ。つかみどころの無いマイペースぶりだが、それなりに信頼されているのも知っている。
土方はやや呆れ顔で嘆息すると、縁側に座る沖田の隣に腰を下ろした。