第六章
名前変換はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「え、おい・・・紗己・・・・・・?」
「あ、ごめんなさい。冗談です」
「・・・は? 冗談・・・・・・?」
「はい、冗談です」
まさか、彼女がそんな冗談を言うなんて。想像すらしなかった紗己の一言に、土方は見事に翻弄されてしまった。
「冗談かよ・・・」
言いながら、またしても脱力してしまった土方は、上半身を支えていた左腕から力を抜くと、そのままずるりと再び紗己の膝の上に落ち着いた。深く吐息して、眉間に皺を寄せたまま目を閉じる。
「びっくりしました?」
「お前なあ・・・驚かすな、心臓に悪い・・・」
「ごめんなさい。でも土方さんたら、あんなこと言うんだもの」
「あんなこと?」
紗己の言葉に土方は目を開けると、やや訝しげな表情を見せた。すると紗己は、それに答えるように言葉を続ける。
「だって、私が土方さんを、軽蔑したりするわけないじゃないですか。あなたの読みは正しいですよ。だからそんな悲しいこと、言わないでください」
「紗己、お前・・・」
きっぱりとした口調で答えた紗己は、言葉を返せずにいる土方に柔らかく微笑む。それはいつもの彼女と何一つ変わらず、これからもそうしていて欲しいと土方は切に願う。
それでも、ほんの短い時間ではあるものの、不安を感じたのは事実。少し心細くなってしまった弱い男は、太ももの柔らかさだけには飽き足らず、もっと温もりを欲してしまう。
土方は右手を宙に浮かせると、手の平を彼女の方に向けて手招きのような仕草をしてみせた。
「おい・・・手」
とんでもなく短い言葉だが、それもちゃんと紗己には伝わったようだ。
紗己は自身の右手を土方の手にそっと乗せた。すると土方は、彼女の手をしっかりと握り締めてそのまま引き寄せ、自分の頬に押し当てた。
武骨な自分の指とは違う、紗己の滑らかで繊細な白い指。その温もりが、幸せというものを教えてくれる。
――――――
静かな部屋に、秒針が時を刻む音が響く。
愛する妻の初・膝枕を堪能している、鬼の副長こと土方十四郎。時折、彼女の手指に自身の頬を摺り寄せるような仕草をしていたのだが。
「あれ・・・土方さん?」
急に膝に乗せられていた頭が重みを増したので、どうしたのかと彼の顔を覗き込む。するとそこには、しっかりと瞼を閉じて熟睡モードに入っている夫の姿が。
「寝ちゃったんだ・・・・・・」
安心したような、がっかりしたような。起こさないように小さく呟くと、土方の大きな手に包まれている自分の手をそっと抜き取った。
温もりが離れたため、空気をとてもひんやりと感じる。そこにまた温もりが欲しくて、紗己はその手を自分の頬に当てた。新たに得た温もりに心を落ち着かせると、このままではいけないと行動に移る。
まずは、膝枕を何とかしなければ。そう思った彼女は、眠っている土方の頭を両手で支えながら、じりじりと布団の上を後方に滑り始めた。ゆっくりゆっくりと慎重に腰を上げると、土方の頭をそっと布団に落ち着かせた。フゥッと一息つく。地味な動きながら結構な労働だ。
今度は布団にきちんと寝かさなければ、と寝ている男に目をやると、大きな身体はちょうどいい具合に正しい方向に収まっていた。土方の下敷きになってしまっている掛布団も、これもまたいい具合に彼の身体から半分以上ずれている。
「・・・よし!」
紗己は自身に気合いを入れると、立ち上がって掛布団の端をしっかりと掴み、そしてそれを勢いよく引っ張った。バサッと乾いた音が鳴ると同時に、仰向けだった土方の身体がごろりと横に傾いたが、小さな唸り声を出したものの起きることはなかった。
それに安心した紗己は、手にしていた掛布団を、体からはみ出さないように丁寧に被せていく。
「・・・フゥ、終わったー」
すっきりとした表情で、額にかいた汗を拭う。少し乱れた襟元を直すと、大回りをして自分の布団の上に腰を下ろした。
隣に視線を移せば、そこには熟睡している土方の姿。特にいびきをかいたりもせず、比較的静かに眠っている。
今まで一度も彼の寝姿を見たことがなかった紗己は、いそいそと隣の布団に近付くと、興味深げに夫の顔を覗き込んだ。仕事中の厳しい表情からは考えられないほどの、穏やかな寝顔。形の良い唇からは、静かな寝息が漏れている。
「ゆっくり・・・眠ってくださいね」
紗己はそう言うと、土方の額に掛かる黒髪をそっと撫で上げた。
しっかりと閉じられた瞼が開くのが待ち遠しい。
普段の鋭い双眸も、自分に見せてくれる優しい瞳も、そのどちらもが待ち遠しくてたまらない。
「あ、ごめんなさい。冗談です」
「・・・は? 冗談・・・・・・?」
「はい、冗談です」
まさか、彼女がそんな冗談を言うなんて。想像すらしなかった紗己の一言に、土方は見事に翻弄されてしまった。
「冗談かよ・・・」
言いながら、またしても脱力してしまった土方は、上半身を支えていた左腕から力を抜くと、そのままずるりと再び紗己の膝の上に落ち着いた。深く吐息して、眉間に皺を寄せたまま目を閉じる。
「びっくりしました?」
「お前なあ・・・驚かすな、心臓に悪い・・・」
「ごめんなさい。でも土方さんたら、あんなこと言うんだもの」
「あんなこと?」
紗己の言葉に土方は目を開けると、やや訝しげな表情を見せた。すると紗己は、それに答えるように言葉を続ける。
「だって、私が土方さんを、軽蔑したりするわけないじゃないですか。あなたの読みは正しいですよ。だからそんな悲しいこと、言わないでください」
「紗己、お前・・・」
きっぱりとした口調で答えた紗己は、言葉を返せずにいる土方に柔らかく微笑む。それはいつもの彼女と何一つ変わらず、これからもそうしていて欲しいと土方は切に願う。
それでも、ほんの短い時間ではあるものの、不安を感じたのは事実。少し心細くなってしまった弱い男は、太ももの柔らかさだけには飽き足らず、もっと温もりを欲してしまう。
土方は右手を宙に浮かせると、手の平を彼女の方に向けて手招きのような仕草をしてみせた。
「おい・・・手」
とんでもなく短い言葉だが、それもちゃんと紗己には伝わったようだ。
紗己は自身の右手を土方の手にそっと乗せた。すると土方は、彼女の手をしっかりと握り締めてそのまま引き寄せ、自分の頬に押し当てた。
武骨な自分の指とは違う、紗己の滑らかで繊細な白い指。その温もりが、幸せというものを教えてくれる。
――――――
静かな部屋に、秒針が時を刻む音が響く。
愛する妻の初・膝枕を堪能している、鬼の副長こと土方十四郎。時折、彼女の手指に自身の頬を摺り寄せるような仕草をしていたのだが。
「あれ・・・土方さん?」
急に膝に乗せられていた頭が重みを増したので、どうしたのかと彼の顔を覗き込む。するとそこには、しっかりと瞼を閉じて熟睡モードに入っている夫の姿が。
「寝ちゃったんだ・・・・・・」
安心したような、がっかりしたような。起こさないように小さく呟くと、土方の大きな手に包まれている自分の手をそっと抜き取った。
温もりが離れたため、空気をとてもひんやりと感じる。そこにまた温もりが欲しくて、紗己はその手を自分の頬に当てた。新たに得た温もりに心を落ち着かせると、このままではいけないと行動に移る。
まずは、膝枕を何とかしなければ。そう思った彼女は、眠っている土方の頭を両手で支えながら、じりじりと布団の上を後方に滑り始めた。ゆっくりゆっくりと慎重に腰を上げると、土方の頭をそっと布団に落ち着かせた。フゥッと一息つく。地味な動きながら結構な労働だ。
今度は布団にきちんと寝かさなければ、と寝ている男に目をやると、大きな身体はちょうどいい具合に正しい方向に収まっていた。土方の下敷きになってしまっている掛布団も、これもまたいい具合に彼の身体から半分以上ずれている。
「・・・よし!」
紗己は自身に気合いを入れると、立ち上がって掛布団の端をしっかりと掴み、そしてそれを勢いよく引っ張った。バサッと乾いた音が鳴ると同時に、仰向けだった土方の身体がごろりと横に傾いたが、小さな唸り声を出したものの起きることはなかった。
それに安心した紗己は、手にしていた掛布団を、体からはみ出さないように丁寧に被せていく。
「・・・フゥ、終わったー」
すっきりとした表情で、額にかいた汗を拭う。少し乱れた襟元を直すと、大回りをして自分の布団の上に腰を下ろした。
隣に視線を移せば、そこには熟睡している土方の姿。特にいびきをかいたりもせず、比較的静かに眠っている。
今まで一度も彼の寝姿を見たことがなかった紗己は、いそいそと隣の布団に近付くと、興味深げに夫の顔を覗き込んだ。仕事中の厳しい表情からは考えられないほどの、穏やかな寝顔。形の良い唇からは、静かな寝息が漏れている。
「ゆっくり・・・眠ってくださいね」
紗己はそう言うと、土方の額に掛かる黒髪をそっと撫で上げた。
しっかりと閉じられた瞼が開くのが待ち遠しい。
普段の鋭い双眸も、自分に見せてくれる優しい瞳も、そのどちらもが待ち遠しくてたまらない。