第六章
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――――――
「・・・本当にこれで良かったんですか?」
ハンドルを握りながら、バックミラー越しに後部座席を確認すると、そこに座る人物に遠慮がちに問い掛けた。
山崎は今、紗己の父親を駅まで送るために車を走らせている。流れる景色を窓ガラス越しに眺めている花嫁の父は、運転席の山崎に穏やかな声色で答えた。
「いえいえ、いいんですよ。あなた方にまで気を遣わせてしまって、申し訳ないですねェ」
「いや、俺はいいんですけどね・・・ん?」
プルルル、と電話のベルが車内に響く。誰も座っていない助手席に放り投げていた携帯の着信ランプが、ちかちかと点灯している。
一体誰からだろうと、左手を伸ばして自身の携帯を手に取ると。ディスプレイには、真選組の一番隊長の名前と番号が表示されていた。
「え、沖田隊長? なんでまた・・・ちょっとすみません」
後ろにいる紗己の父親に一声掛けると、疑問を抱きつつ着信ボタンを押し、携帯電話を耳に当てた。
「はい、もしも・・・」
『山崎っ! 出るのが遅せーんだよテメーは!!』
「え、ええっ!? な、アレ・・・なんで副長が沖田隊長の携た・・・」
『んなこたどうでもいいからさっさと戻って来い! まだ駅に着いてねーだろうな!?』
「は? あーまだ着いてはないですけど。いや、ていうか戻って来いって一体・・・」
『そのまんまだろうが! 親父さんを連れ帰れっつってんだよ!!』
「いや、そんなこと言われても・・・」
言い淀みながら、バックミラーで後部座席を確認する。
紗己の父親は、おそらく電話の内容をわかっているのだろう。何も言わず、ただただ穏やかな笑みを浮かべたままだ。なのに、息苦しい程の威圧感が背後から放たれている。
双方からプレッシャーをかけられた山崎は、つくづく自分は損な役回りだと嘆息した。
屯所で今何が起こっているのかはわからないが、自分が近藤から命じられたこの任務からして、恐らくは事が土方に知られたのだろう。
連れて帰れという土方の気持ちもわかるが、局長から命じられた任を、許可なく放棄することなど出来ない。
とりあえず山崎は車を走らせながら、電話口の土方と話を詰めようと口を開いた。
「あのですね副長、俺も局長から頼まれてんですけど・・・」
『ガタガタうっせーんだよ! 近藤さんとはもう話がついてんだ、とにかくさっさと戻れ!! いいか、これは副長命令だっ』
「ちょ、ちょっと副長ー・・・アレ、電波か・・・・・・? もしもーし」
突然あちらからの音声が聞こえづらくなった。というより、誰かの間を渡されているような空気の流れる音を拾っている。
向こう側で今何が起こっているのか全くわからないため、どう動けばいいのか判断しかねてしまう。命令とあらば遂行せざるを得ないのだが、念のため最終決断を仰ぎたい山崎の耳に。
『山崎さん!』
さっきまでの野太い男の声ではなく、馴染みのある高い声が届いた。
「え、紗己ちゃん?」
『山崎さん! お願いします、父を連れて戻ってきてください!! 私、まだ・・・父にちゃんと、何も言えてないんです、だから・・・お願い・・・っ』
「紗己ちゃん・・・・・・」
電話越しに聞こえる彼女の息遣いが、どれだけ父親が戻ってくることを懇願しているかを伝えている。
しばらくして電話を切ると、山崎は対向車線から車が来ていないことを確認して、思いっきりハンドルをきった。強引に車をUターンさせると、提灯型のパトランプを点けて猛スピードで走り出す。
「すみません! 俺・・・屯所に戻ります!」
前だけを見て、さっきよりも強めの声で行き先を告げた。その顔は真剣そのものだ。
一方紗己の父親は、おもむろに腕を組んで吐息する。
「どうしても、ですか」
「はい、すみません! でも・・・俺、女の子に頼まれたら弱いんで」
先程の紗己との会話を思い出しながら、バックミラーで後ろの様子を確認すると、ずっと笑顔のままだった紗己の父親は、少し困ったような表情を浮かべてから小さく笑った。
「ははは、こりゃァ娘に怒られますかな」
「悲しまれるよりいいじゃないですか」
そう切り返すと、それもそうだと明るい声が返ってきた。
「・・・本当にこれで良かったんですか?」
ハンドルを握りながら、バックミラー越しに後部座席を確認すると、そこに座る人物に遠慮がちに問い掛けた。
山崎は今、紗己の父親を駅まで送るために車を走らせている。流れる景色を窓ガラス越しに眺めている花嫁の父は、運転席の山崎に穏やかな声色で答えた。
「いえいえ、いいんですよ。あなた方にまで気を遣わせてしまって、申し訳ないですねェ」
「いや、俺はいいんですけどね・・・ん?」
プルルル、と電話のベルが車内に響く。誰も座っていない助手席に放り投げていた携帯の着信ランプが、ちかちかと点灯している。
一体誰からだろうと、左手を伸ばして自身の携帯を手に取ると。ディスプレイには、真選組の一番隊長の名前と番号が表示されていた。
「え、沖田隊長? なんでまた・・・ちょっとすみません」
後ろにいる紗己の父親に一声掛けると、疑問を抱きつつ着信ボタンを押し、携帯電話を耳に当てた。
「はい、もしも・・・」
『山崎っ! 出るのが遅せーんだよテメーは!!』
「え、ええっ!? な、アレ・・・なんで副長が沖田隊長の携た・・・」
『んなこたどうでもいいからさっさと戻って来い! まだ駅に着いてねーだろうな!?』
「は? あーまだ着いてはないですけど。いや、ていうか戻って来いって一体・・・」
『そのまんまだろうが! 親父さんを連れ帰れっつってんだよ!!』
「いや、そんなこと言われても・・・」
言い淀みながら、バックミラーで後部座席を確認する。
紗己の父親は、おそらく電話の内容をわかっているのだろう。何も言わず、ただただ穏やかな笑みを浮かべたままだ。なのに、息苦しい程の威圧感が背後から放たれている。
双方からプレッシャーをかけられた山崎は、つくづく自分は損な役回りだと嘆息した。
屯所で今何が起こっているのかはわからないが、自分が近藤から命じられたこの任務からして、恐らくは事が土方に知られたのだろう。
連れて帰れという土方の気持ちもわかるが、局長から命じられた任を、許可なく放棄することなど出来ない。
とりあえず山崎は車を走らせながら、電話口の土方と話を詰めようと口を開いた。
「あのですね副長、俺も局長から頼まれてんですけど・・・」
『ガタガタうっせーんだよ! 近藤さんとはもう話がついてんだ、とにかくさっさと戻れ!! いいか、これは副長命令だっ』
「ちょ、ちょっと副長ー・・・アレ、電波か・・・・・・? もしもーし」
突然あちらからの音声が聞こえづらくなった。というより、誰かの間を渡されているような空気の流れる音を拾っている。
向こう側で今何が起こっているのか全くわからないため、どう動けばいいのか判断しかねてしまう。命令とあらば遂行せざるを得ないのだが、念のため最終決断を仰ぎたい山崎の耳に。
『山崎さん!』
さっきまでの野太い男の声ではなく、馴染みのある高い声が届いた。
「え、紗己ちゃん?」
『山崎さん! お願いします、父を連れて戻ってきてください!! 私、まだ・・・父にちゃんと、何も言えてないんです、だから・・・お願い・・・っ』
「紗己ちゃん・・・・・・」
電話越しに聞こえる彼女の息遣いが、どれだけ父親が戻ってくることを懇願しているかを伝えている。
しばらくして電話を切ると、山崎は対向車線から車が来ていないことを確認して、思いっきりハンドルをきった。強引に車をUターンさせると、提灯型のパトランプを点けて猛スピードで走り出す。
「すみません! 俺・・・屯所に戻ります!」
前だけを見て、さっきよりも強めの声で行き先を告げた。その顔は真剣そのものだ。
一方紗己の父親は、おもむろに腕を組んで吐息する。
「どうしても、ですか」
「はい、すみません! でも・・・俺、女の子に頼まれたら弱いんで」
先程の紗己との会話を思い出しながら、バックミラーで後ろの様子を確認すると、ずっと笑顔のままだった紗己の父親は、少し困ったような表情を浮かべてから小さく笑った。
「ははは、こりゃァ娘に怒られますかな」
「悲しまれるよりいいじゃないですか」
そう切り返すと、それもそうだと明るい声が返ってきた。