第六章
名前変換はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「は!? ちょ、ちょっと待てよ、送り出したって・・・帰るのは明日の予定だろ!」
予期せぬ展開に狼狽する土方は、口角泡を飛ばしてなおも近藤に詰め寄る。
「俺も引き止めはしたんだが、お前達に気を遣わせるのもなんだからと言われてなあ」
「気を・・・って、アイツがここにいねェってことは、何にも言わずに帰ったってことかよ!? アンタこのこと聞いてたのか、近藤さん!」
つい、声を荒らげてしまう。彼を問い詰めたところで、どうにもならないことは分かっている。だが、どうしてこんな重要なことをせめて自分にだけでも話してくれなかったのかと、腹立たしい気持ちを抑えきれない。
「すまなかったな、トシ。だがなあ・・・頼まれてたんだよ、お前たちに気付かれないように途中で帰らせてほしいってな」
「っ・・・なんでだよ! アイツはまだちゃんと親父さんに挨拶してねえんだよ!! それなのに・・・」
奥歯をギリッと鳴らして言葉を切った。紗己が悲しむ姿が頭に浮かび、どうしてその選択をしたのかと、彼女の父親にも腹立たしさが込み上げる。
そんな土方の心情を察したのか、近藤は大広間の方を向くと、腕を組んで嘆息した。
「長居をすると離れがたくなると言っていてな。恐らくは、それが理由なんだろう」
「・・・・・・」
それを聞いた土方は、一歩二歩と近藤から距離をとって顔を伏せた。
自分にとって紗己は愛しい妻だ。だが彼女の父親にしてみれば、紗己はいつまでたっても可愛い可愛い大事な娘なんだ。
まだまだ嫁ぐような年ではないと思っていたのに、ある日突然妊娠を告げられてきっと驚いただろう。ひょっとしたら相手の男に対して、怒りに似たような感情もあったのかもしれない。けど彼女の父親は、自分に何一つそんな態度を示しはしなかった。殴りもしなければ、怒鳴りつけもしなかった。
大切な娘なのに。まだまだ幼い娘だったのに。たった一人の家族だったのに――。
「・・・わかってるけどよ・・・」
「トシ?」
俯いたまま小さく呟く土方に、どうしたのかと近藤が彼の名を呼んだ。しかし土方は近藤に答えることなく、強い決意を滲ませた双眸で大広間の方を睨み付けると、突如全速力で走り出した。
「お、おいトシ!? どうしたんだ! トシ!!」
突然の行動に驚いた近藤だが、彼もまた袴をバサバサと揺らして土方の後に続いた。
「紗己っ!!」
勢いよく開いた襖の向こうから、大声で紗己を呼びながら土方が飛び込んできた。いきなりのことに紗己は目を丸くして、
「え、あ、はいっ」
土方を見つめてから慌てて返事をする。
只ならぬ雰囲気を漂わせている土方に、室内にいる隊士達は黙り込んでしまった。皆が息を呑んで見守る中、土方はズンズンと大股で花嫁の元へと辿り着くと、驚きの表情で自分を見上げる彼女に、出来るだけ冷静さを心掛けて口を開く。
「・・・紗己、親父さんが帰っちまったぞ!」
「え? 帰ったって・・・え、どこにですか?」
とぼけているわけではないのだろうが、紗己のピント外れな問いに、つい土方も語気を強めてしまう。
「決まってんだろ! 家だよ、家!! お前の実家に決まってんだろうがっ」
「・・・え・・・・・・?」
土方の言っている意味が理解できたのだろう、紗己は表情を固めてしまった。紅の塗られた唇をキュッと噛んで、土方から目を逸らし俯いてしまう。
「紗己・・・・・・」
彼女のその姿に胸を痛めつつ、土方は畳に両膝をついて紗己の細い両肩に手を乗せた。
「紗己」
もう一度、真剣な声で呼び掛ける。それに反応した紗己はゆっくりと顔を上げ、目線の高さが近くなった土方をじっと見つめた。化粧を施された瞳が涙を湛えている。
「どうしよう・・・私、父さんにちゃんと・・・挨拶、お礼も何も・・・言えてなくて・・・・・・。式の前に言えなかったから、明日・・・見送りに行く時に、ちゃんと言おうって・・・土方さん・・・」
「・・・紗己・・・・・・」
涙を滲ませながら不器用に言葉を繋ぐ彼女を、このままにしてはおけない。そう思った土方は、勢いよく後ろを振り返ると、そこに立っている近藤に現状を確認し始めた。
「近藤さん! 車ってのは籠屋か、それともうちの車か!?」
「あ、ああ、うちの車だ。山崎に運転させてる」
ならば話は早い。土方は紗己の肩から手を下ろして立ち上がると、さっきまで自分が座っていた席に堂々と居座っている沖田に詰め寄った。
「おい総悟! 携帯貸せっ」
「なんでェ、いきなり・・・」
「いいから貸せっつってんだよ! 俺のは部屋に置いたままだから、早く貸せって!!」
やや横暴な土方の態度にも、仕方なく沖田は袂から携帯を取り出す。
別に土方が焦ろうが困ろうがそんなことはどうでもいいのだが、紗己が悲しむのはあまりいい気分ではない。せっつく土方を少し待たせてボタン操作をすると、ディスプレイに捜し人の名を出した状態で自身の携帯を差し出した。
「ほら、早く掛けなせェ」
「ああ」
渡された携帯の発信ボタンを少し乱暴に押すと、土方は立ち上がり片手を腰に当てて、ベル音が止まるのを待った。
予期せぬ展開に狼狽する土方は、口角泡を飛ばしてなおも近藤に詰め寄る。
「俺も引き止めはしたんだが、お前達に気を遣わせるのもなんだからと言われてなあ」
「気を・・・って、アイツがここにいねェってことは、何にも言わずに帰ったってことかよ!? アンタこのこと聞いてたのか、近藤さん!」
つい、声を荒らげてしまう。彼を問い詰めたところで、どうにもならないことは分かっている。だが、どうしてこんな重要なことをせめて自分にだけでも話してくれなかったのかと、腹立たしい気持ちを抑えきれない。
「すまなかったな、トシ。だがなあ・・・頼まれてたんだよ、お前たちに気付かれないように途中で帰らせてほしいってな」
「っ・・・なんでだよ! アイツはまだちゃんと親父さんに挨拶してねえんだよ!! それなのに・・・」
奥歯をギリッと鳴らして言葉を切った。紗己が悲しむ姿が頭に浮かび、どうしてその選択をしたのかと、彼女の父親にも腹立たしさが込み上げる。
そんな土方の心情を察したのか、近藤は大広間の方を向くと、腕を組んで嘆息した。
「長居をすると離れがたくなると言っていてな。恐らくは、それが理由なんだろう」
「・・・・・・」
それを聞いた土方は、一歩二歩と近藤から距離をとって顔を伏せた。
自分にとって紗己は愛しい妻だ。だが彼女の父親にしてみれば、紗己はいつまでたっても可愛い可愛い大事な娘なんだ。
まだまだ嫁ぐような年ではないと思っていたのに、ある日突然妊娠を告げられてきっと驚いただろう。ひょっとしたら相手の男に対して、怒りに似たような感情もあったのかもしれない。けど彼女の父親は、自分に何一つそんな態度を示しはしなかった。殴りもしなければ、怒鳴りつけもしなかった。
大切な娘なのに。まだまだ幼い娘だったのに。たった一人の家族だったのに――。
「・・・わかってるけどよ・・・」
「トシ?」
俯いたまま小さく呟く土方に、どうしたのかと近藤が彼の名を呼んだ。しかし土方は近藤に答えることなく、強い決意を滲ませた双眸で大広間の方を睨み付けると、突如全速力で走り出した。
「お、おいトシ!? どうしたんだ! トシ!!」
突然の行動に驚いた近藤だが、彼もまた袴をバサバサと揺らして土方の後に続いた。
「紗己っ!!」
勢いよく開いた襖の向こうから、大声で紗己を呼びながら土方が飛び込んできた。いきなりのことに紗己は目を丸くして、
「え、あ、はいっ」
土方を見つめてから慌てて返事をする。
只ならぬ雰囲気を漂わせている土方に、室内にいる隊士達は黙り込んでしまった。皆が息を呑んで見守る中、土方はズンズンと大股で花嫁の元へと辿り着くと、驚きの表情で自分を見上げる彼女に、出来るだけ冷静さを心掛けて口を開く。
「・・・紗己、親父さんが帰っちまったぞ!」
「え? 帰ったって・・・え、どこにですか?」
とぼけているわけではないのだろうが、紗己のピント外れな問いに、つい土方も語気を強めてしまう。
「決まってんだろ! 家だよ、家!! お前の実家に決まってんだろうがっ」
「・・・え・・・・・・?」
土方の言っている意味が理解できたのだろう、紗己は表情を固めてしまった。紅の塗られた唇をキュッと噛んで、土方から目を逸らし俯いてしまう。
「紗己・・・・・・」
彼女のその姿に胸を痛めつつ、土方は畳に両膝をついて紗己の細い両肩に手を乗せた。
「紗己」
もう一度、真剣な声で呼び掛ける。それに反応した紗己はゆっくりと顔を上げ、目線の高さが近くなった土方をじっと見つめた。化粧を施された瞳が涙を湛えている。
「どうしよう・・・私、父さんにちゃんと・・・挨拶、お礼も何も・・・言えてなくて・・・・・・。式の前に言えなかったから、明日・・・見送りに行く時に、ちゃんと言おうって・・・土方さん・・・」
「・・・紗己・・・・・・」
涙を滲ませながら不器用に言葉を繋ぐ彼女を、このままにしてはおけない。そう思った土方は、勢いよく後ろを振り返ると、そこに立っている近藤に現状を確認し始めた。
「近藤さん! 車ってのは籠屋か、それともうちの車か!?」
「あ、ああ、うちの車だ。山崎に運転させてる」
ならば話は早い。土方は紗己の肩から手を下ろして立ち上がると、さっきまで自分が座っていた席に堂々と居座っている沖田に詰め寄った。
「おい総悟! 携帯貸せっ」
「なんでェ、いきなり・・・」
「いいから貸せっつってんだよ! 俺のは部屋に置いたままだから、早く貸せって!!」
やや横暴な土方の態度にも、仕方なく沖田は袂から携帯を取り出す。
別に土方が焦ろうが困ろうがそんなことはどうでもいいのだが、紗己が悲しむのはあまりいい気分ではない。せっつく土方を少し待たせてボタン操作をすると、ディスプレイに捜し人の名を出した状態で自身の携帯を差し出した。
「ほら、早く掛けなせェ」
「ああ」
渡された携帯の発信ボタンを少し乱暴に押すと、土方は立ち上がり片手を腰に当てて、ベル音が止まるのを待った。