第六章
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つい先程まで胸の痛みに苛まれていた土方だが、彼女の可愛らしい悩みがその痛みすら忘れさせてくれた。
気持ちが落ち着いた土方は、自身の左の手の平を、彼女の膝の上の華奢な両拳に覆い被せるように乗せた。軽く力を入れて、きゅっと優しく包み込む。
「そんなに気にするようなことじゃねーだろ、お前が好きなように呼べばいい」
「好きな、ように・・・ですか・・・・・・?」
「ああ」
たどたどしくオウム返しする紗己に、土方は優しく頷いた。
恐らく、土方の当初の希望に沿った呼び方をしたい気持ちは彼女にもあるのだろう。紗己は力のこもった眼差しで、気合いを入れるように一度大きく首を縦に振った。
「私・・・頑張ります、あの、ちゃんとその・・・呼べるように頑張りますから! 私のせいで、土方さんが笑われたりしないように、ちゃんとしっかり・・・呼びますから!!」
「・・・あー・・・・・・」
あまりにも紗己が真剣に決意表明をするので、どう答えれば良いのか土方も迷ってしまう。だが、この彼女の言葉を嬉しく感じてしまう自分もいるのだ。
多少的外れであったとしても、ここまで悩んでくれる紗己が愛しくてたまらない。その気持ちが自分でもこそばゆくて、それを隠すためにわざと呆れたような声を出した。
「お前なあ、なんでそんなに・・・俺がどう思われるかなんて、気にしなくてもいいんだよ。大体笑われたりなんかしねェし、もしそんな奴がいたら俺がぶった斬ってやる」
物騒なことを口にするが、彼女を見つめる瞳は穏やかなものだ。
土方は自身の黒髪にクシャッと右手を差し込み、ゆっくりと息を吐き出した。そして今度はその右手を前方へと伸ばし、紗己の頬を撫でるように優しく触れる。
柔らかな質感、伝わってくる心地良い感触に、それをもっと深く感じたくなる。土方はより密着感を得ようと、手の平を彼女の顔の輪郭に沿わせた。
土方の大きな手が触れてきたことで、紗己は一瞬驚いたように肩を上げ、それから自分の頬に触れているその手にちらり目線をやった。彼女もまた土方の熱を両手と頬に感じ、いやがうえにも緊張が高まってしまう。
その緊張が伝わったのか、それを和らげるように土方は、綿帽子に隠れている紗己の顔を下から見上げてフッと笑った。
「なあ紗己。これからの人生の方が、よっぽどか長ェんだよ俺たち。焦らずに、徐々に慣れてきゃいい。な?」
「土方さん・・・・・・」
「呼び方なんてなんだっていい。いつでも・・・どこにいたって、お前が俺を呼んでくれるんなら、俺はそれだけでいいんだよ、紗己」
必要とされているのなら、それだけでいい。それが幸せなのだと、土方は心の底から思う。
面と向かって愛を囁くことが滅多にない土方が、今こうして甘い言葉をくれることに紗己の感動もひとしおだ。
共に生きていく未来への確約を、形だけでなく、ちゃんと彼自身の口から聞くことができた。それが嬉しくて、幸せで、紗己は瞳を潤ませて微笑む。
綿帽子に覆われ、影になっていた彼女の目元。少し顔を上げたことにより蛍光灯の明かりが控えめにそこを照らし出し、彼女の双眸がうっすらと涙をためていることに土方は気付いた。
頬に触れていた大きな手はそのままに、親指だけを動かして紗己の左の目尻をそっとなぞる。武骨な親指の腹が微かに濡れた。
「何も泣くこたねェだろ」
呆れ混じりの言い方も、その声はどこか笑っているように聞こえる。少し眉を寄せて紗己を見つめる土方の普段は鋭い双眸は、今は慈しみに満ちていた。
土方の仕草や表情――その全てに紗己は鼓動を高鳴らせる。気を抜けば泣き出してしまいそうで、紅が塗られた艷やかな唇をきゅっと引き締めると、喉につかえた熱いものを何とか飲み込み、
「ご、ごめんなさい! で、でも平気です、まだ泣いてないですから!」
必死に震える声を絞り出した。
そんな紗己の様子に、別に謝らなくてもいいのにと土方は思ったのだが、一生懸命な彼女がまた愛おしく、ここはあえて黙っておくことにした。
気持ちが落ち着いた土方は、自身の左の手の平を、彼女の膝の上の華奢な両拳に覆い被せるように乗せた。軽く力を入れて、きゅっと優しく包み込む。
「そんなに気にするようなことじゃねーだろ、お前が好きなように呼べばいい」
「好きな、ように・・・ですか・・・・・・?」
「ああ」
たどたどしくオウム返しする紗己に、土方は優しく頷いた。
恐らく、土方の当初の希望に沿った呼び方をしたい気持ちは彼女にもあるのだろう。紗己は力のこもった眼差しで、気合いを入れるように一度大きく首を縦に振った。
「私・・・頑張ります、あの、ちゃんとその・・・呼べるように頑張りますから! 私のせいで、土方さんが笑われたりしないように、ちゃんとしっかり・・・呼びますから!!」
「・・・あー・・・・・・」
あまりにも紗己が真剣に決意表明をするので、どう答えれば良いのか土方も迷ってしまう。だが、この彼女の言葉を嬉しく感じてしまう自分もいるのだ。
多少的外れであったとしても、ここまで悩んでくれる紗己が愛しくてたまらない。その気持ちが自分でもこそばゆくて、それを隠すためにわざと呆れたような声を出した。
「お前なあ、なんでそんなに・・・俺がどう思われるかなんて、気にしなくてもいいんだよ。大体笑われたりなんかしねェし、もしそんな奴がいたら俺がぶった斬ってやる」
物騒なことを口にするが、彼女を見つめる瞳は穏やかなものだ。
土方は自身の黒髪にクシャッと右手を差し込み、ゆっくりと息を吐き出した。そして今度はその右手を前方へと伸ばし、紗己の頬を撫でるように優しく触れる。
柔らかな質感、伝わってくる心地良い感触に、それをもっと深く感じたくなる。土方はより密着感を得ようと、手の平を彼女の顔の輪郭に沿わせた。
土方の大きな手が触れてきたことで、紗己は一瞬驚いたように肩を上げ、それから自分の頬に触れているその手にちらり目線をやった。彼女もまた土方の熱を両手と頬に感じ、いやがうえにも緊張が高まってしまう。
その緊張が伝わったのか、それを和らげるように土方は、綿帽子に隠れている紗己の顔を下から見上げてフッと笑った。
「なあ紗己。これからの人生の方が、よっぽどか長ェんだよ俺たち。焦らずに、徐々に慣れてきゃいい。な?」
「土方さん・・・・・・」
「呼び方なんてなんだっていい。いつでも・・・どこにいたって、お前が俺を呼んでくれるんなら、俺はそれだけでいいんだよ、紗己」
必要とされているのなら、それだけでいい。それが幸せなのだと、土方は心の底から思う。
面と向かって愛を囁くことが滅多にない土方が、今こうして甘い言葉をくれることに紗己の感動もひとしおだ。
共に生きていく未来への確約を、形だけでなく、ちゃんと彼自身の口から聞くことができた。それが嬉しくて、幸せで、紗己は瞳を潤ませて微笑む。
綿帽子に覆われ、影になっていた彼女の目元。少し顔を上げたことにより蛍光灯の明かりが控えめにそこを照らし出し、彼女の双眸がうっすらと涙をためていることに土方は気付いた。
頬に触れていた大きな手はそのままに、親指だけを動かして紗己の左の目尻をそっとなぞる。武骨な親指の腹が微かに濡れた。
「何も泣くこたねェだろ」
呆れ混じりの言い方も、その声はどこか笑っているように聞こえる。少し眉を寄せて紗己を見つめる土方の普段は鋭い双眸は、今は慈しみに満ちていた。
土方の仕草や表情――その全てに紗己は鼓動を高鳴らせる。気を抜けば泣き出してしまいそうで、紅が塗られた艷やかな唇をきゅっと引き締めると、喉につかえた熱いものを何とか飲み込み、
「ご、ごめんなさい! で、でも平気です、まだ泣いてないですから!」
必死に震える声を絞り出した。
そんな紗己の様子に、別に謝らなくてもいいのにと土方は思ったのだが、一生懸命な彼女がまた愛おしく、ここはあえて黙っておくことにした。